鮫を愛する人々よ

 ベルが風邪を引いた日は皆がベルの部屋に集まる。
 ルッスーリアが心配そうにおかゆ作って、レヴィが文句を言われながらリンゴ持ってきて、そのリンゴをスクアーロが文句言いながら剥いて、モスカはどういう原理なのか加湿器になってて、ボスもなんだかんだで何度も部屋にやってくる。
 僕? 
 僕はなぜかベルの枕になってる。
 スクアーロは、風邪がうつるって僕をとりあげようとしたけど、ベルが放さないからしかたない。
 それにしても、ベルの体は、赤ん坊の僕より熱くて呼吸もひゅーひゅー言ってて苦しそうだ。汗もすごい。

「たー……た……」

 ふと、ベルがなにか呟く。
 僕がどうしたのっと声をかける前に、スクアーロが立ち上がって、汗まみれのベルの髪をかき上げた。
 そのまま、軽く額に口付ける。

「大丈夫だぁ」

 髪を何度も撫でて、手をぎゅうっと握れば、急に、ベルはすごく落ち着いたみたいで、息の荒さがなくなった。
 僕は驚いてスクアーロを見るけど、スクアーロはベルが落ち着いたのを見て、やっぱりリンゴを剥いてる。しかも、うさぎに。

「昔から、ベルちゃんはスクちゃんがこうすると落ち着くのよ」

 ルッスーリアがフォローの言葉をくれる。
 なんとなく、ベルとスクアーロの間に、僕の知らない月日があるのだと悔しくなったけど、口にはしないでおいた。
 しかたない、病人と子どもには誰も勝てないのだから。

(ベルスク。
 tata[タータ]=「ばあや」とか「お兄ちゃん」)


 銀髪のあの子にアタックし続けて屈折●年!!
 学生時代の初恋を貫いて、なんとかここまでやってきた。
 今日は家族を紹介してくれるらしい。
 なんだかでかい森に連れ込まれてかなりごと不安だけど、おっ俺は信じてる!

「ディーノ?」
「あ、えっと、その、家、いつつくの」
「ああ、ここは敷地内だあ、もう少し歩いたら車があるからよお、それにのりゃあすぐだ」
(あれ……ここ敷地って……車って……あれ……スクアーロってそんなにお金持ち……?)
「ディーノ」
「なっなに」
「……死ぬなよ?」


 その時のスクアーロの言葉は、扉を開けてすぐわかった。
 

「うしし、羊がきたよ」
「ベル、羊じゃなくて馬だよ」
「それも馬の骨だ」
「駄馬」
「あらん、でも意外といい男」

 突き刺さる品定めするような視線と殺意。
 どこかで見たことあるような顔。
 ひどく嫌な予感がひしひし俺を襲った。

「え、なっなんでXUNXASが……」
「紹介するぜえ、俺の義弟のベルとマーモン、義兄のXUNXASとルッスーリア、モスカ………後レヴィ」
「え、義理って……」
「ちょっと、なんで王子だけ短縮してるんだよ!」
「なぜ俺をのける」
「あら? なんで義姉さんで紹介してくれないの?」

 混乱する頭がついていかない。

「えっとよ……黙ってたけど、実は俺ヴァリアーの一員なんだあ……ヴァリアーには変な慣習があって……幹部は全員家族でよお……あっあいつが起きてきやがった」

 ぞくっと、本能的な恐怖がわきあがる。
 指先一つぴくりとも動かせないほどの濃い殺意。
 俺の視界に、白が写る。同時に、黒も。濁った、濁りきった美しい黒い瞳とから、目が離せない。
 白は、笑う。
 黒い瞳を歪ませて。


「で、こいつが最後、俺たちの義父、テュールだあ」


 よ う こ そ 大 罪 の 家 に

(ディノスク、皆家族パラレル)


 俺だっててめえのことは好きだあ。
 でも、この世には好きってだけじゃだめってことなんざいっぱいあるだろお。
 だから、俺はなにも言わねえ。
 何も答えねえ。
 むしろ、聞かなかったことにしてやるぜえ。
 だから、てめえも何も言わなかったことにするんだなあ。
 んな、泣きそうな顔するんじゃねえよお。
 てめえは何もいわなかったんだから。

(お相手は誰でも)

遠い過去を創造する

 いつか見た夢を、もう一度見たかったように。
 いつか、その幼い銀色から両腕いっぱいに与えられたものを返したかった。
 たったそれだけの欲だった。
 たったそれだけでよかった。
 呪いを受けるには、それだけでよかったんだ。

「マーモン」
 (バイパー!)

 ああ、ずいぶん時間をとってしまった。
 幼い銀色はもういない。
 いるのは、主を得た銀色の鮫だけだった。

(過去のマーモン捏造)


 バイパーは、今の所、ヴァリアーに雇われている術師だ。
 黒いローブで全身を多い、黒いフードで顔を口元以外隠したまさしくな姿ではあるものの、その能力は折り紙つきで、何度もヴァリアーにスカウトされているが、縛られることと、儲けの範囲を狭められることを嫌がったバイパーはその全てを断っている。
 ただし、金払いのよさと、ボンゴレというネームヴァリューに雇われることは多かった。

「アヴァーロ」

 背に、美しい旋律にも似た声がかけられる。
 [アヴァーロ]、あまりよくない意味の守銭奴を意味するその単語でバイパーを呼ぶのは、世界広しと言えども一人しかいない。
 バイパーはあまり振り返りたくないと思ったが、振り返らないわけにはいかなかった。なぜなら、その一人は、現在の雇い主なのだから。
 振り返ると、そこにはバイパーと同い年か、少し上だろう、美しい声につりあわせたかのように麗しい真っ白な容姿の男が、男女問わず見惚れてしまう微笑を浮かべて立っていた。だが、この男の大体の年齢が、それこそバイパーよりかなり離れていることを知っている。
 ぞくっと、本能的な警鐘が鳴り響く。
 男が当たり前のように、放つ肌を刺すような殺気生きてきた上で片手で数えられるほどしか感じたことのない恐怖が競りあがった。

「なに?」
 
 髪も肌も、まとう空気すら白い男は、服を除けば持ちえるものの中で唯一黒い双眸になにも写さずバイパーを見ている。
 しかし、ふと、違和感を感じた。
 その正体を探るために視線を動かせば、男の完璧な造詣の中で、否、欠けていてすら完成されている左腕の反対の手に、剣が握られていないのだ。しかし、剣がない程度でこの男が安全とは言えない。恐らく、素手ですら本気のバイパーを殺すとまではいかなくとも重傷を負わせることは可能な実力の持ち主なのだから。
 剣の変わりに、大きめのカバンが握られている。
 旅行に行くような、妙に生活じみていて、男に似合わない印象のカバン。
 それをじっと見ていると、男はおもむろにカバンを開いた。

「え?」

 銀色と、目があった。
 カバンが開いた先、銀色が、銀色の少年がちょこんっとカバンの中で身を丸めていた。一瞬、人形かと思えば、外の光に眩しそうに目を細めたので、それが人形ではないとやっと理解する。
 しかし、なんで、カバンの中に少年が。
 そう問う前に、男は、驚くほど愛しげに少年を見つめた。あまりにも、優しく、慈愛に満ちて、溢れて、ありえないことに、人間味に溢れている。
 思わずバイパーは絶句する。
 男のそんな表情を、雰囲気を見たことがなかったらだ。
 その間にカバンから少年を抱き上げ、2,3度嫌がるのにも構わず頬ずりするとバイパーに嫌そうに差し出した。本当に嫌そうな顔だ。笑っているのに嫌そうな顔ができるとは器用すぎる。

「なにこれ……?」
「私の息子だよ」

 かわいいだろ?
 それはもう、神々しい笑顔と親バカという文字が似合う雰囲気で男は答える。
 バイパーの脳裏に男が養子をとったという情報が浮かび上がった。詳しくはさすがに白名j買ったが、これがっとまじまじ見つめると、きょとんっとした顔で銀が2,3度瞬きしている。

「仕事してるところが見たいって言うから連れてきたんだがね、物凄い勢いでルッス他幹部たちに怒られて逃げ回ってる最中だから、しばらく預かっててもらえるかな?
 ほんとに、たまたま君がいてくれて助かったよ。幹部をだませるほどの幻術を使えるのは君だけだからね。じゃあ、私はしばらく撒いてくるから。本当は誰にも預けたくなんか、というか、誰かに預けると考えるだけで掻っ捌いて吊るしてやりたいところだけど、今は我慢して君に預けるよ」

 差し出され、思わず受けとったが最後だった。

「ちょっと……剣帝!!」

 っと、一声出す間に、男は優雅に、しかし風よりも早く走っていく。
 見えなくなった先で、喧騒。怒声に混じって銃声までしている。そして、腕の中には、銀色。

「………」
「……初めまして、俺はスペルビだあ」
「…………」
「今日はよろしくなあ!」
 
 笑う銀色を見下ろして、バイパーは果てしなく困り果てた。

「おーい、おーい、あんた、名前はぁ?」
「……バイパー……」


 王子様も憤怒の主もいなかった頃の、お話。
 守銭奴と銀色の話。

(ゲストはいりました)

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