「二人とも、なんで呼ばれたかわかってますか?」
ドン・ボンゴレは笑っていた。
にこにこと、それはそれは怒りに満ちた笑いだ。
普段温厚なドン・ボンゴレには珍しい、珍しすぎる怒りをあらわにしている。
その怒りの先には、二人の男がいた。
男たちは通常ならば圧倒されてしまうドン・ボンゴレに怒りを受けても平然とそこに立っている。
どころか、ドン・ボンゴレよりも偉そうにまるで自分の方こそボスのような態度で堂々としていた。
しかし、ドン・ボンゴレにはわかっている。
二人が心の内側では微かに、ほんの微かに焦っているのを。
「わかってますよね?」
繰り返せば、二人は同時に目をそらした。
そのそらした仕草こそ、二人の気まずさの表れとも言える。
返事を待たずドン・ボンゴレは言葉を続けた。
どうせ二人が返事をしないとわかっていたというのもあったが、その遠慮のなさはドン・ボンゴレの怒りの表れでもある。
「俺、ずっと二人は似てるって思ったんですよ」
ため息。
「思考とか、態度とか、傍若無人なところとか、人の話をまったく聞かないところも、言葉が足りないところも、口より先に手が出るところも、そして特に嫉妬深いとことか好きなものを大事にできないところも……!!」
ばんっとドン・ボンゴレは机を叩く。
怯えることはしないが、二人はその黒と赤の目をドン・ボンゴレに向ける。
「いいですか、貴方たちの性格は変えようと思って変えれるものではないとわかってますよ。
それに、本人たちがいいならと思って今まで俺は特別口出ししませんでしたよ」
ですけどね!
「なんで貴方達は同じ理由でご自身の恋人をぼっこぼっこにして立てないようにするんですか……!!」
叫びの後盛大なため息。
そして、ドン・ボンゴレは笑みから真剣なものへと表情を変える。
最初に口を開いたのは、二人の内片方、黒い髪に黒い瞳、明らかに東洋人だろう青年だった。
「だって、ハヤト、朝帰りしたのに僕に連絡もいれなかったんだよ」
それに対し、もう片方である黒い髪に赤い瞳、彫りの深い男も口を開こうとしたがすぐに閉じる。
ドン・ボンゴレはその態度に頭痛すら感じた。
だから、言葉が足りないのだと。
まだ、青年の方が喋る分マシかもしれない。
「いいですか、ハヤトも、スクアーロも確かに朝帰りしましたよ、でも貴方たちが怒ったのはそこじゃないでしょう」
沈黙。
それを肯定ととったドン・ボンゴレは言葉を続ける。
「武と飲んで、朝帰ってきたことが気に入らなかったんでしょう?
ちゃんとハヤトとスクアーロには話を聞いてます」
いいですかっとドン・ボンゴレは頭を抑えて語る。
「昨日の朝帰りの原因は武じゃなくて主に俺です。貴方たちが最後まで聞けばわかった筈なんですけど、昨日俺が飲みたいと思ったからハヤトとスクアーロ、そして武と何人かの部下を連れて飲みにいったんです。
俺の手前ハヤトは連絡をいれるのをしぶったんでしょうね。スクアーロは部下の手前、自分だけ先に帰るとは言いにくかったんでしょう。
ええ、そこまでは俺が悪いです。ですがね」
“飲んできた、山本と……ぎゃっ”
“おう、酒をな、刀小僧と――ガッ”
「武と俺と部下とって言おうとする前に殴りつけてどうするんですか……!!」
二人は、また同時に目をそらした。
さすがに悪いとは思っているのだろう。
しかし、ドン・ボンゴレは大怪我でベットに寝転んでいた二人の姿を思い出すと憤りは止まらない。
「いい加減にしてくれないかな。嫉妬にかられるたびに殴るって、ハヤトもスクアーロもサンドバックじゃないんだよ!!
本当に愛情表現は不器用なくせに嫉妬だけは一人前って一番質悪い!! 子供ですか!?」
ドン・ボンゴレでなければ確実に二人に殴られる――ヘタすれば殺されるような文句をぶつけながら、ぎろりと睨み付けた。
普段の三人を知っている人物がこの光景を見ていればあまりのことに頭がおかしくなたっと思うだろう。
「こんなことが続くようなら俺だって最終措置をとらせてもらう!!」
最終措置?
よくわからないという顔をした二人にドン・ボンゴレは最高の笑みを見せた。
「ハヤトとスクアーロ没収」
「は?」
「……?」
「没収。最低一ヶ月は会わせません。声も聞かせない、姿も見せない。俺の隣において俺が命令して俺だけの言うことを聞くようにさせる」
「何、言ってるの?」
理解できないという表情に、ドン・ボンゴレは笑顔のまま続けた。
「確かに、ハヤトもスクアーロも貴方たちのものですよ。でもね、同時に俺のものであること忘れてません?」
二人の顔色が曇る。
そう、彼らの相手がこのドン・ボンゴレに忠誠を誓い、そのドン・ボンゴレの才能ともいえる性格から懐いていることもわかっていた。
だからこそ、もしもドン・ボンゴレからそういう命令が出れば彼らは受けるだろう。
もしかしたら、嬉々として願ってもないことだと言うかもしれない。
特に、青年の相手はヘタすれば恋人よりもドン・ボンゴレを優先する人物なのだ。
「貴方達のことだから無理矢理会うかもしれないから、雲雀さんは日本に、XANXUSさんにはカナダにでも行ってもらおうかな。
そうなったら監視もどっさりつけるから。雲雀さんにはお義兄さんと髑髏、XANXUSさんにはマーモンとルッスーリアは絶対」
一瞬だけ、二人の表情が嫌そうなものに変わる。
ドン・ボンゴレの人選は的確だった。
口調をまた元のおとなしいものへと戻し、笑う。
「いいですか。俺は本気ですからね」
だから、大事にしてあげてください。
ドン・ボンゴレはそれだけ言うと下がるように告げる。
何も言えない二人は部屋を出ると、一度だけ初めて目を合わせた。
そこに、自分と同じものを感じるとさっと目をそらす。
そして、またく逆方向の廊下を歩き始めた。
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