愛の言葉



「くふふ、同じ物でもやはり、種類が違うのも味わってみたくなるのが人間でしょう」
「何言ってるの? 好きな物はずっと同じ方がいいよ」

 好きなお菓子の話をしているような二人を遠目に見ながら若きドン・ボンゴレはため息をついた。
 頬杖をつきながらそっと視線をそらせば、うららかな日差しがそこにある。
 二人はテーブルを挟んで傍目からは穏やかに会話をしていた。
 しかし、ドン・ボンゴレは内心ひやひやしている。
 なぜなら、話し合う二人は一見そうは見えなくとも霧の守護者(片方は元だが)であり、凶悪なマフィア潰しとアルコバレーノなのだ。
 いつ何時二人が気まぐれにケンカをすればその能力の異質さから二人だけの大戦争が起こることだろう。
 昔のドン・ボンゴレならいざ知らず、今のドン・ボンゴレには二人の特質的な攻撃はほとんど効かないが、屋敷と働く部下達が巻き込まれたると思うと胃が痛くなる。

「まだまだお子様ですね」
「浮気性なんじゃないの?」
「何を言うんですか、僕ほど一途な男はいませんよ」

 ね?
 とこちらを見る片方に、ドン・ボンゴレは話を振られてたまるかと目をそらす。
 そのあらか様過ぎる態度に片方は少し寂しそうだった。

「体をコロコロ変える癖に」
「体が変わっても僕は僕です。僕という魂は何一つ変わりません」
「ふん、魂なんて非現実的だね」
「貴方程ではないですよ」
「君よりは現実的なつもりだよ」
「……………」
「そもそも、君の言う輪廻転生とか僕は信じられない」
「一度も転生したことのない人間にはわかりませんよ」
「人間は同じ人生を何度も繰り返すんだから」

 だからっと片方は繰り返す。
 そして、フード越しの瞳に力をこめて呟いた。

「だから、僕はずっとスクアーロの傍にいるんだ。何度も何度も同じように出会って同じように過ごして、同じスクアーロの傍にいる」
「クフフ、甘い、甘すぎる考えですよ。人は死ねば巡る。巡り巡って何度でも魂は同じでも違う彼に出会うのです。そう、僕も何度か違う彼に出会いましたよ」
「スクアーロはスクアーロだよ」
「ええ、彼は彼です。姿形は変われど何一つ本質は変わらない。そう、例え僕より年下だった時も、女性だった時も何一つ」
「電波もいい加減にしてほしいね」
「電波ではありません!!」

 ね、ドン・ボンゴレっともう一度振り向かれ、またドン・ボンゴレは目をそらした。
 しかし、その表情が言外に「お前は電波」と語っているのを見てとると悲しそうに会話を戻す。

「確かに、今の彼も僕は好きですよ。しかし、僕は前の彼も愛しいのです」
「スクアーロは今のスクアーロだけだよ。僕はスクアーロだけを愛してる」
「つまらない思考ですね」
「浮気性よりマシ」

 そうやって、ぐるぐる回る会話を見つめながらドン・ボンゴレは遠くを見る。
 その遠くでは、銀の髪がきらきらとうららかな日差しを浴びて歩いていた。
 もうすぐここにやってくるだろう。
 そう、超直感ならぬ経験がそう思わせる。
 そして、この会話をドアの前で聞いて顔を真っ赤にして怒鳴り散らすだろう。

「僕は彼に会った回数分彼を愛しています」
「愛をバラ撒いて勝った気にならないでほしいよ」

 ドン・ボンゴレの視線を見て、二人が同時に笑った。
 ドン・ボンゴレも、その笑みを見て人の悪い笑みを浮かべる。
 足音と超直感が距離を測り、後はいつものタイミングだとばかりにドン・ボンゴレも口を開いた。
 そこから漏れる愛の言葉は二人程堂々としたものではなく、少しテレが入っていたがそれがまた言葉の重量を増す。
 扉の足音が止まったのを聞きつければ、二人は早口に愛を囁いた。
 名前を連呼し、持てるだけの愛を交代で口にし、そして

「う゛お゛ぉい!! 何恥ずかしい話してやがるう!!」

 扉は開かれる。


 このサイトの骸とスクアーロは前世で何度か会っています。
 そして、スクアーロ大好き。
 体クローム、精神骸か、体も骸でもどっちでも可。
 マーモンにはまだまだ夢を見続けます。




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