結構最近のとある場所であった話。
新月の日、黒いおめめの化け物はなんとなく散歩に出て、ふっと、真っ白な子どもをさらってきた。
ほとんど物もうまく喋れない孤児だったから、正確には拾ってきたのだが、今も胃の中におさめられた男はさらってきたを選んだ。
さらったというのは、化け物にぴったりの単語。
食べられた訳でもなく、ただ育てられるためだけに、愛されるためだけにさらわれてきた子ども。
男は真っ白な子どもが、恐ろしくも化け物の腕の中で安らかに眠る子どもを見ながら聞いた。
「どうするんだ、ソレ、お前には育てられないだろ?」
「てめえがやるに決まってる」
こうして、食べられた男は、育児を押し付けられた。
それから、数年。
なぜか、さらわれてきた子どもは、赤ん坊を拾ってきた。
化け物の館の前に捨てられていた子ども、まごうなき、拾われた子ども。
「どうするんだ、ソレ、お前には育てられないだろ?」
同じことを口にすれば、さわられてきた子どもは、無言で男に押し付けた。
見上げる瞳は、あの時と同じ言葉を雄弁に語っている。
(てめえがやるに決まってる)
血も繋がってないくせに、どうしてお前は化け物そっくりなのだと、男は泣きたくなったという。
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