結構昔と人間であれば思う頃の、黒いおめめの化け物の巣の近くで。
一つの機械が落ちていた。
機械は壊れてからずっと、ずっと、そこに捨てられたまま、朽ちていく。
機械自身も、それがわかっていた。
もう、自分の役割を果たせなくなった機械はいらないから。それこそ、すぐさま廃棄処分にされなかった方がおかしいくらいで。
だから、まさか、真っ白な少年が現れるなんて、思っても見なかった。
少年は、機械をみつけると、機械で遊び始めた。
機械が機械だとすらよくわかってないような少年は、巨大な機械をただアスレチックのようにしていたが、それでも、楽しそうに、楽しそうに。それが、幾日も幾日も続いた。
最初はなにも考えていなかった機械も、少しづつ少年を待つようになった。
機械は壊れていて動けなかったが、それでも毎日くる少年を待った。
しかし、ある雨の日、傘もささずやってきた少年は、次の日からこなくなった。
待っても、待っても、少年はこない。
それでも、機械は待ち続けた。
雨が降っても、風が吹いても、日が照りつけても。
そこで、じっと、朽ちかけながら。
どれだけ、時間が経ったのか、ある日、黒いおめめの化け物が現れた。
近くに捨てられてていることは知っていたが、化け物を見るのは初めてだった。
化け物は、にっこり笑うと機械を持ち上げる。
抵抗できない機械は、なにもできず、ただ持ち上げられ、そのまま運ばれていく。
おそらく、化け物の巣だろうと機械は考える。でなければ、化け物が自分を持って森の奥に行くことなどないのだから。
けれど、機械は思う。自分を持ち帰って欲しくないと。機械は、あそこで少年を待ちたかった。
もしかしたら、自分があそこに居なければ、少年がやってきたときさびしいのではないかと。
そう、さびしい、さびしい。機械は自分の持ち得ぬはずの感情を思考する。
伝える手段はなかったけれど、そこは化け物、なんとなく伝わっていたけれど、化け物はお構いなし。まさしく人でなし。
さっさと家に持って帰ると、適当に機械を直してしまった。
動けるようになった機械は、やはり喋ることはできなかったが、簡潔に自分はあそこで人を待っていると伝えた。
化け物は、それもきちんと理解したが、無視した。
ただただ笑って、機械を大きな扉の前に連れて行く。
根が素直な機械は、ついていくしかない。
扉を開ける前に、化け物は笑って呟いた。
「君は私の息子へのプレゼントなんだよ」
扉の向こう側、白い白い少年が、機械を見て笑った。
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