昔、いや、それほど昔でもない黒いおめめの化け物の巣の近くの話。
お城も家族も捨てた王子様が歩いていた。
王子様は子どもだったが、腕にかなり自信があり、化け物を倒そうとやってきた。 なにもかも捨てた王子様に怖いものはなし。
誰が止めるのも聞かず森の奥へと歩いていく。
ただし、森はかなり深く、行けども行けども同じ景色。道に迷ったかと思った王子様は、ふと不思議なものに気づいた。
目の前に白い糸がぶら下がっている。
上を見上げてもよくわからないけれど、それは木から垂れ下がっているようで、風でさらさら揺れている。
もちろん、好奇心旺盛で怖いものなしの王子様は糸を引っ張った。そりゃもう、思いっきり引っ張った。
するとどうだろう、悲鳴と共に美しい、それは美しい少年が落ちてきた。
今まで、王子様の見たどんな宝石よりも美しい銀の瞳に、月が毀れたような銀の髪、肌はシルクより白く、思わず見入ってしまう。
なんて、白いのだろう、感動すらこみ上げた
「いでえええええ!!」
のも、つかの間。
美しさ台無しの声をあげた少年に、王子様は聞く。
「お前、化け物?」
「あいつと一緒のすんなあ!!」
少年は怒って地団太を踏んだ。
王子様は、こんなに無礼に怒鳴られたことがなかったので、ちょっとむっとしたけれど、少年が化け物の話をしだしたのでおとなしく聞いた。
どうも、少年は化け物ではないけれど、化け物を知っているようだった。
むしろ、息子だという。
「じゃあ、やっぱお前も化け物じゃん」
「違うってんだろうがあ!! ついてこい!!」
というわけで、王子様は少年に案内されるままに化け物の屋敷にやってきました。
屋敷は、森の中より変で、広いのに自称・食われたままの男と、少年と、赤ん坊と、変な機械しかいないという。
けれど、自称・化け物に食われたままの男が言うには化け物は留守らしく王子様は化け物の帰りを待つことにした。
その間、王子様は少年と遊んだり、赤ん坊と遊んだり、男が作った料理を食べたり。
「ただいま、スペルビ、その子はなんだい」
「ベル」
「王子はベルじゃなくて、ベルフェゴールって言ってるだろ、バカ鮫」
「バカじゃねえ!!」
「うしし、ばーか、ばーか」
「ちょっと、僕をお手玉するのやめてよ!」
するとどうだろうか、化け物が帰ってくる頃には、すっかり家族になっていましたとさ。
結構めでたし、めでたし。
「……シャマル、なんだアレ」
「さあ?」
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