(ここ、どこだろう?)
夢にしてはおかしい。
そう思いながらも、獏良了は、街を歩いていた。
寝た時に、着ていたパジャマではなく、いつものボーダーのTシャツとジーパンだった。
疑問に思いながらも、改めて、貘良は当たりを見回す。
何処の街と言うわけではない。
少なくとも、彼の知識の中にはない。
それでも、何処か、問われれば、何故かは解らないが、エジプトだと、思う、貘良。
場所の特定は、出来ないのだけれど、「エジプト」というイメージを集めて、この街の形にしたような感じなのだ。
しかも、現代的なイメージではない。
貘良の亡き妹・天音が、読んでいた少女漫画のような・・・古代とか、そんな枕詞が付きそうな雰囲気なのだ。
どこか、埃っぽく、でも、生気にあふれていなければいけない様相なのに、なのに、不思議と生気はなく。
空も、筆で墨を塗りたくったような黒色で。
少なくとも、闇色という色は、連想できない色だった。
(でも、止まっちゃいけない気がする。)
そう思って、街を何処へもなく、彷徨うように、歩く。
右に曲がり、左に曲がり、真っ直ぐ進み、迷路のような街を彷徨うように。
とある、建物の前に来ると、なんとなく、そうなんとなく、その建物に入った。
入るなり、お香の匂いが鼻についた。
乳香や、伽羅など、の癖のある香りだった。
その香りが強くなる方に、その薄暗い建物を進む。
そして、奥の部屋に、「それ」はいた。
寝台のような、場所に、薄やみでもわかる極彩色のクッションに半ば、埋もれるようにいた。
近くに、煙を上げる香炉があった。
さまざまな色が混ざり、澱んで、「黒」になったようなそんな「闇」色とでも言うような長く艶(あで)やか髪を緩く銀製で
赤い石の玉簪で緩く纏め、伏せた瞳は、簪の玉よりも深い赤瞳だった。
褐色に色づいている肌を包むのは、生成り色の貫頭長衣と青色の腰布だった。
身体に起伏から、女性だと言う事が解る。
唇は、紅を差したように、珊瑚のように、艶やかに紅かった。
二十歳半ばほどの年上の女性、そんな外見だった。
そして、貘良は、何故か、何故だかは本当に解らないのだけれど、色も印象も違うのに、友人の海馬瀬人を思い出した。
本当に、何故かは解らない。
「君は誰?」
貘良は、自分とそっくりな、友人の遊戯風に言えば「もう一人の僕」が、寝こけているのを半ば視界に入れながら、そうその女性に訊ねた。
なんで、バクラが、あんなに安らかそうにというか、小さい子どものように身体を丸めて、すやすや寝ているんだろう。
そう、宿主である貘良は思う。
いつも、厚顔不遜で、自信家で、少なくとも、あんな風に寝こけているところは、想像できばかったのに、何故、あの女性には、甘えているように見えるのだろうかとも思う。
女性の膝の上で、薄い織物を掛布にしながら、すやすやと、バクラはそれでも眠り続ける。
「・・・・・・・・」
「どうして、ここにいるの?」
「・・・・・・・・」
「どうして、海馬くんに似た顔をしているの?」
「・・・・・・・・」
「どうして、君はバクラといるの?」
「・・・・・・・・」
「どうして、バクラは、そんなに穏やかそうなの?」
「・・・・・・・・」
「君は、いったいバクラのなんなの!?」
貘良が、問いを重ねても、女性は、黙っている。
黙って、曖昧だけれど、不思議な艶の微笑みを浮かべるだけだ。
そして、バクラの白い髪をゆるりゆるりと撫でるだけだ。
貘良は、少々混乱していた。
彼には珍しく、最後には、少しだけ声を荒上げてしまった。
それでも、女性は、曖昧に笑うだけだ。
貘良の最後の言葉が、完全に空気に解け消え、余韻も無くなったころ。
それまで、その部屋を支配していた沈黙を破ったのは、女性だ
った。
「私?」
迷うように、口を開いた。
少し、表情に「驚き」の色が出ていた。
「私に、聞いたの、宿主ちゃん」
驚き過ぎて、言葉が出来なかったと言うように。
照れて、「ごめんなさい」とでも、言うように。
「そういえば、こうして会うのは、初めてね、宿主ちゃん。
 ・・・・・では、初めましてってことね。」
女性は、淡く笑みを深くした。
それは、貘良には、「闇」が笑ったように思えた。
同時に、女性が、「闇」で構成されているのだと言う事も、確信した。
「私は、ゾークというの。
 バクラちゃんのご主人様ってことになるわね。」
ちょっと、困ったように微笑む女性-ゾークは、見た目だけならば、見目麗しい年上の優しそうなお姉様と言った風情なのだが、しかし、一度「闇」で構成されていると思ったせいもあるのか、どうにも、背筋が寒い。
氷でできた手で、心臓を掴まれても、こうは思わないだろうとおもうのに、それくらいに、或いはそれ以上に、貘良は、「怖い」と、そう思った。
「やりたい事があって、千年リングに宿ってるの。」
口調も、雰囲気も、やや婀っぽいと言っても、いるところには、いそうなのに、なのに、怖い。
一度、そう思ってしまうと、貘良は、ゾークを怖いと思う事を止めれなかった。
貘良の様子を不信に思ったのか、小首を傾げる。
答えない貘良を不思議に思ったのか、バクラの頭の下から、膝を抜き、クッションを代わりにあてがう。
そして、寝台から、降りた。
素足が、貫頭長衣と腰布の裾から、覗き、ひたりひたりと貘良に近づいてくる。
目の前にたった、彼女は、海馬瀬人よりも、やや高い位置の視線で、貘良は少々見上げなければいけなかった。
近くで、顔を見ると、「闇」とか「破滅」とか、そんな単語は連想も出来ないし、似合わないのだけれど、それでも、それでも、「闇」だと実感できた。
ゾークは、貘良の頬に、触れる。
ひやりとした、手が、それでも少しだけ暖かくて、貘良に彼女が存在している事を教えた。
「怖い、のかな、私のことが。」
「・・・・いえ、そんなことないわけでもないわけなんだけど。
 ゾークって、イメージと違ったから。」
「そりゃね。
 今、と、昔は、別神と言って良いかもしれないわね。」
「・・・・・・」
「ごめんなさいね、宿主ちゃん。」
なにも、貘良が言えないでいると、ゾークはきゅっと貘良を抱き締める。
もう一度言うが、彼女は、貘良より頭一個分少々大きいのだ。
ということは、必然的に、彼女の胸当たりに、貘良の顔があるわけで。
しかし、彼が慌てるよりも、先に耳朶をうった言葉に、出来なくなってしまった。
本当に、申し訳なさそうで。
器として、巻き込んでしまった貘良に、本当に彼女は謝っていた。
「あ、れ・・・・・」
「・・・・・もうすぐ、身体の方が、が起きるみたいね。」
しばらくすると、強烈な眠気が、貘良を支配しだした。
まだ、聞きたい事があるのに、それでも、眠気に抵抗できず、そのまま、ゾークに貘良は、身体を預けてしまった。
そして、抱き上げられた感触がした。
「会いたかったら、また、思い浮かべて、夢に入れば、会えるわ。」
それが、貘良が聞いた最後の言葉だった。
何故か、彼女が、愉しそうに微笑んだのが解った。
これが、貘良と邪神のよく解らない邂逅だった。

「私は、三千年待ったよ。
 王よ、そろそろ、終焉の鎌を振り振り降ろそう。」








-------「闇はたゆたい 宿主に微笑む」







+おまけ+
貘良了が、すぴよすぴよと眠っている部屋。
時刻は、当然真夜中だった。
そこに、このマンションの住人ですらない女性と言うか、少女がいた。
亜麻色の髪を、足首近くまで伸ばし、高い位置でポニテにして、青灰色の瞳と白めの日によく焼けた肌で、白いブラウスと黒いタイトなスカートにジャケットと言う外見だ。
手に、つり下げるタイプの円球の香炉を持って、無表情に、ベッドを見ている。
正確に言えば、ベッドの上にいる半透明の女性にだ。
それは、海馬瀬人によく似た印象の背の高い女性の外見をとった邪神・ゾークだった。
「で、これで良いのか?」
「ええ、ありがとう。
 ネフェルトちゃん。」
「別に、構わない。
 ・・・・・・・まさか、邪神・ゾークに協力する事になろうとね。」
「神官様だったものね。
 ・・・良かったの?」
「うん?それ、協力を願ってきた人の科白じゃないよ。
 ・・・・べつにね、僕はもう、ファラオに使えているわけじゃないし。
 セトやアテム、もちろん、バクラにも幸せなって欲しい、それだけ。」
「それが、「破滅」だとしても?」
「うん、・・・・・・あ、繋がった。
 会えれば、会えるだろうと思う、会えなかったら、また連絡よこせ。
 ・・・・・・・・会えると良いな、ゾーク。」
どうやら、ゾークと貘良を会う算段と言うか、術を組んで、夢とゾークのいる空間、「心の小部屋」をつなげたらしい。
ネフェルトと呼ばれた少女は、そういうと素っ気なく、出ていく。
ゾークと呼ばれた女性は、それを確認せずに、掻き消えた。

どうでもいいが、ネフェルト、不法侵入だと思う。



+コメント+
遊戯王二次創作一本目です。
別の話を書き進めていたんですが、某様のチャットで、パッションを頂いた形になりました。
ありがとうございます、命黙様、いろは様。
最後のネフェルトと呼ばれた少女は、オリキャラです。

+今のところのゾーク様
主に、セトに近い女性の外見をしている。
公式的には、(セト×女性化)+十歳加齢+柔和+優しさ?=ゾークです。
バクラのことを某ノベルの空賊のお母さん的に、こき使いはします。
しかし、やはり、息子的な意味で愛してるのやもな人。
相方曰く、「悪女」。作者的に「オカン」。
基本が、「闇」なので、男性体だろうと、アイシスだろうと、王様だろうと、なれる。
外見は安定していない。
今の外見も、便宜的なもの。
本質的に、負の感情を好むが、最近は昔程美味しく感じてないらしい。
宿主様も、バクラも、猫可愛がりをする。
今回は大人しくしていたが、普段は、↓のような感じ。
「きゃあぁぁぁっん、バクラちゃんも、宿主ちゃんもカワイイカワイイ、カワイイ〜。
 んもう、絶対に、お婿になんかさせないわ、特にあの王様には!!」
一人称「私」 結構普通の女性言葉。

+オリキャラ/ネフェルト
フルネーム:ネフェルト=サーチェス。
三千年前と同一人物。
ゾークの事は、過去に敵視していた。
今は、三千年前のあの時の知り合いが、幸せになる事を願っている。
攻撃系の魔術は不得手だが、それ以外を駆使する人物。
今回は、ゾークに依頼されて、貘良を引き合わせた。
ただし、術的に、会える可能性は、40%以下だったらしい。


と言うようなお話。
きゃぴきゃぴ(死語)なゾーク様も書きたいですね。
ともあれ、ありがとうございました。



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