※かざいろは様のお宅のゾーク様を長男、深夕様のお宅のゾーク様を次男、うちのゾークを末っ子とした小説です。
 お二人のすばらしいゾーク様をひどいことにしています。
 それでも、許せると言う方だけどうぞ……。












































 暗い、暗い闇の中。
 小さな素足が冷たい床をぺたりぺたりと濃い影を残しながら歩いていく。
 ぺたりぺたり、単調に、まるで機械的に右足が出されれば左足、左足が出れば右足が。
 まるで、足だけの存在のように、いや、闇の中、足だけの存在は長い長い闇の中を迷わず歩いていく。
 そして、闇の先、微かな、あまりにもおぼろげな、光ともいえぬ灯を見た。
 灯に向かってするりと抜けた先、揺れる蝋燭に、輪郭が照らされ、はっきりと闇が形を作った。
 まず、作られたのは幼い顔だった。
 後10年も経てば恐ろしいほどの美形になるだろう整った目鼻立ち、真っ黒な髪が、なぜか赤い雫をたらしていく。
 そこからは、あっという間だった。
 年相応の体が、腕が、足から上が、服が、闇から浮かび上がりそして、その服が、じわりっと、赤く染まった。

 子どもだった。

 幼い、小さな子ども。
 なぜか、血まみれで、その手になにか手紙のようなものを持った、恐ろしいほど空虚で、美しい少年。
 ふと、少年は、やっと気づいたかのように赤の滴る髪を摘む。
 褐色の指が、赤く濡れた。
 しばらくそれを無感情に見つめていたが、まあいいかとでもいうようにぱっと離すとその場で軽く頭を下げる。

「この姿では、初めまして、上の兄上、下の兄上」

 姿に似合わぬ、丁寧な口調だった。
 静かで、不思議な暗さを伴っている。

「余こそが、現在のところの、貴方たちの、末弟でございます」

 頭を上げる。
 その瞬間、蝋燭が震えた。
 赤い瞳の視線の先、いつの間にか闇の中、二つの影が存在していた。
 それは、少年とは違い、初めから確固とした形を持つ、二人の男。
 その二人の顔は、驚くほど、少年に似ていた。
 髪の色も、瞳の色も、顔のパーツも、まるで型をはめたかのように。
 ただし、同じではない。
 なぜならば、二人の男は、圧倒的に少年とは年齢も、雰囲気も異なっているのだ。
 片方は、少年が5,6年ほど年をとったかのような、青年だった。
 どこか無機質で暗い少年とは違い、少年を見ながら、なぜだか嬉しそうな表情をしているせいか、不思議な温かみと同時に、底知れないなにかを渦巻かせている。
 もう片方は、完全な男だった。
 少年が後10年ほど年をとったらこうなるだろう、美しい男だった。
 だが、なぜだかどこか未完成で、しかし、少年とも、青年とも違う、はっきりとした何かが見てとれる。
 
「ほう、」
「お前が、末か」

 二人が、口を開く。
 似ているのに、年のせいか、はたまたまとう雰囲気のせいか違う声。
 少年は、そんな二人に向かって、ゆるやかに歩く。

「……なぜ、血まみれなのだ?」
「……でかけに、バクラを虐げました」
「しい……?」
「つれてこようかと思えば、抵抗したので」

 なんでもない、っというような無感情な声。
 お見苦しいならば消しますとすっと、手を払えば、少年の小さな体のどこにも赤い液体はなくなっていた。

「結局、宿主様に言われ、つれてこれませんでした」

 目を見開く二人を気にせず、とりあえず手に持っていた紙を渡した。
 あまりにもマイペースな少年に引き摺られながらも、手紙を開く。



[甘い物を、与えてください]

 

 二人が、同時に首をかしげる。
 「食べ物を与えないでください」などなら、見たことがあるが、与えてくださいとは、どういうことなのか。
 とりあえず、青年はどこから出したのか、芸術の域ともいえる精巧な飴細工を渡した。
 少年は、それを無表情に受け取り、口につっこむ。
 しばらくあぐあぐと舐めていたが、すぐにがりんがりんと砕く音が聞こえた。
 その姿は、顔は一緒であるが、幼いだけに愛らしい。

「……かわいいな」
「ああ、かわいいな……」

 空気が、一変して和む。
 青年と男は、思わず微笑んだ。
 闇に似合わない雰囲気だが、二人はなぜかひどく満足げに見える。
 すっかり飴細工がなくなったとき、不意に、少年は思い出したよう 男を見上げて、微笑んだ。

 とても、とても、闇のように乾いた笑みだった。

 なぜだか、男はひどく嫌な予感がして、一歩後ずさる。
 同時に、青年もばっと飛びのく。
 けれど、遅い、いつの間にか、少年の何倍にも膨らんだ影が男の足を掴み、引き摺り倒した。 
 抵抗しようと影を伸ばすが、その影を少年は素早く踏み潰し、にじる。

「捕まえました、上の兄上」
「なっなにを!?」
「いえ……余がここに来る前に、本体が兄上たちに会うなら、上の兄上を捕まえておけと」
「本体!?」

 男の顔が恐怖に歪む。
 青年も、その言葉には少し離れた安全地帯で驚く。

「余は、まだ派生して浅うございます。ゆえに、音信不通、逃げ回る上の兄上とは違い、本体とはごく稀に対話しております」

 ばたばたと男は、美形の顔を歪めて手足をバタつかませる。
 だが、すぐに少年の影が腕を絡め、足を縛っていく。

「兄上、人に近づきすぎた貴方より、本体に近しい余の方が強い、諦めてくださいませ」
「諦めきれるか!!」
「大丈夫、痛くないですから」
「なにがだ!!」
「いえ、こういうときはこういうものかと、宿主様の知識より引用しました」

 あくまで、マイペースにズレまくっている少年は、ちょいちょいと小さな手で影を更に頑強に結んでいく。
 
「……こういうときは、亀甲縛りがよいのでしたっけ?」
「やめろ!! やめろ!!」
「……そうですか、では、別の縛り方を索引します」
「違うー!!」

 涙目の男に、青年もさすがに哀れに思ったのだろう、すっと、近づいた。
 少年が、青年を見上げる。

「末」
「はい」
「飴あげるから、兄貴はなさないか?」
「……お断りします」
「飴二つ」
「…………」

 少年は、真剣に、真剣に考えた。
 その表情は、それはもう、意味のわからないほど真剣に。
 ちらちらと闇で縛っている男と、青年の差し出した飴を見、黙り込む。
 
「3つ」
「……………」
「5つ」
「放します」

 男=飴5つ。
 ここに不思議な方程式が誕生した。



 仕切りなおし。
 


 そう呟いて、青年はやはり、どこから出したのか立派なテーブルと椅子を用意した。
 まだ怯えている男と飴を噛み砕く少年の間に座り、ティーカップを並べると、ティーポッドから紅茶を注ぐ。
 更に、砂糖壷やミルクを並べ、手作りらしいクッキーを置けば、ゆったりと座った。

「まあ、兄貴、末、飲んで落ち着け」

 会心の紅茶とクッキーだと誇らしげに笑う。
 男は、とりあえずそんな笑みに落ち着いたのか紅茶を手にとり、一口含む。
 ふわりと口の中に広がる香気に少し驚いたように目を開いた。

「美味いな」

 素直な言葉に、ますます青年は得意げに笑った。
 そして、ちらりと少年を見る。

 がじがじがじがじがじがじがじ。

「末……?」
「はい?」
 がじがじがじがじがじがじ。
「お前」
「なんですか?」
 がじがじがじがじがじがじ。
「なんで、さっきから、角砂糖齧ってるんだ」

 せめて、クッキーを食べているならば、まだかわいい。
 しかし、なぜか少年は砂糖壷を膝に抱え、無心に角砂糖を齧っているのだ。
 かわいいと言えばかわいいが、せっかくの紅茶もクッキーも無視され、砂糖に夢中だというのに、少しプライドが傷ついたのだろう、クッキーを進める。
 少年は素直にクッキーに手をつけ、かじる。
 がじがじと、角砂糖を食べるときのように、無感情に。
 クッキーがなくなると、角砂糖をまた口にする

「末……」
「なんですか?」
 がじがじがじがじがじがじ。
「クッキー、おいしかったか?」
「甘かったです」
 がじがじがじがじがじがじ。
「…………」

 がじがじがじがじがじがじ。

「弟よ……美味いぞ」

 気をつかったような男の声に、青年はなんとなく訳のわからない敗北感に震えた。
 自分の会心の出来のクッキーが、角砂糖と同列。
 いや、少年の食いつきを見れば、それ以下としか思えないのだ。
 男が更に気を使って紅茶やクッキーを口にするが、少年はまったく空気を読まない。

「下の兄上」

 やっと、手が止まった。
 見上げる幼い視線。



「おかわりください」


 砂糖壷を青年に向け、あっさりと。
 ごく、あっさりと。

 がじがじがじがじがじがじ。



「ああ、下の兄上は、味に対する感想を欲していたのですか、申し訳ございません。
 余は甘味しか感じることができませんゆえ、味はわかりません。より強い甘味に、反応するのです」



 砂糖のおかわりを平らげ、すっかり満足したのだろう砂糖壷を机の上に戻した少年は言う。
 椅子が高いのだろう、足をぶらぶらさせる様で、なんとか癒された男と青年はもう一度仕切りなおす。

「こうして、集まったのもなんだ。何か話そう」
 
 男の仕切りに、青年は頷き、少年は異論のなさそうな顔をした。
 とりあえず、共通の話題を探るために、男は自分の慈しむ下僕の名を口にする。

「そちらのバクラは、どうだ?」

 青年の顔が明らかに輝いた。
 この話題ならば何時間でも語れるとでも言いたげな嬉しそうな顔に、あえて男は少年に振る。
 少々饒舌すぎる青年に口を開かせては、積極性に欠ける少年が一つも喋れないであろうと予測したからだ。
 話の矛先を向けられた少年は少し考え、男と少年によって少々意外な答えを口にした。


「かわいい、ですよ」


 実際見たことはなかったが、男と青年は識っていた。
 この少年の行為を、性質を、何を好み、何を成すのか。 
 だからこそ、「かわいい」という言葉は意外であった。

「かわいい、か」
「ええ、とても」

 すっと、いつまでも冷めない紅茶に手を伸ばす。
 一口、無感動に口にした。
 男のように、その香気に、味に驚く様子もない。

「愚かで、哀れで、とても、愛らしいと思います。
 この顔で命じれば家畜のように働き、殴れば良い声で鳴きますし、踏みにじっても壊れにくい」

 呟く声も、表情も少しも変わらない。

「骨の折れる感触も、
 潰れ歪んだ表情も、
 内臓を零し喘ぐ息も、
 欲に抗えず溺れる様も、
 血飛沫の海で悶える姿も、
 捨てられる恐怖に怯え惑う時も、
 悲鳴も涙も嫉妬も殺意も憎悪も苦痛も、気に入りです」 

 淡々と、残酷なことを口にした。
 少年の姿に少しも似合わない、けれど、なぜかぴったりと合う。
 歪な、無感情さ。手を出しようもない禍々しさ。愛らしい姿に詰め込まれた混沌の一部が、その透き通る瞳に見えた気がした。
 そこにあるのは、ふと覗き込めば、飲み込まれてしまいそうなほどの深淵。

 闇を、まとめた少年だった。

 しかし、男と青年は、それに少しも怯むことはなかった。いや、一瞬怯んでしまったが、すぐに気を取り直し、納得した。
 そして、どこか懐かしむような目で少年を見ている。
 こういう頃が、自分たちにもあったのだと。
 そして、自分たちの本体が、これに近いものであったと。
 ただし、こういう頃については、お互いが少々イレギュラーな存在であったし、少年も少年で「成長」とも呼べるものを遂げているため、少し……いや、かなり違うが。

「そうか……」

 男が相槌を打つと、頷いて言葉を続けた。

「そう、この前少々頭をXXXXした後、○○○○したときも……」
「弟よ!! お茶のおかわりを頼めるか!!」
「ああ、兄貴、そうだ!! 末にもっと甘いものを!!」

 だが、さすがに少々ではなく、R-18(残酷描写的な意味で)の単語が飛び出しそうになるのを遮り、新しい紅茶と甘いもので場を誤魔化す。
 自分の話題に興味がないのか、少年はあっさりと甘いものに誤魔化され、口を閉じた。
 会話は続く。
 不意の少年の言葉に、空気が凍りつくことはあったが、それでも、どこか楽しげに。





「それで?」

 お土産と言って渡されたシュークリームをほうばる少年を見ながら、下僕は言う。

「……それで、とは?」
「いや、もっと、感想は?」
「感想……?」
「楽しかったとか」
「楽しかった……?」

 少年は、少し遠い目をする。
 そして、しばらくの沈黙の後、無表情に口を開いた。

「索引してみれば、楽しいという状況に照合するものがある。
 つまり……楽しかった」
「……それにしても、他に邪神がいるなんて……似てるのか?」
「姿を言っているならば、是。本質を問いたいなら、否だ」
「本質……?」
「余と兄上たちは、一応、兄弟とされているが、その中身は違う」

 首を傾げれば、少年は言葉を続けた。

「同じものを、量産しても、しかたあるまい」

 そんなことは、無意味だと言う。

「いや、すでに人に近づきすぎ、完全を捨てた兄上たちは、本質すら違うかもしれんな。
 いまだ末端は根源と繋がっているが……すでに別物に近いだろう」

 よくわからないと言う顔を見て、わからなくてもいいとでも言うように手を振る。

「人というものは、不完全だ。そして神は完全だ。人は個であるが、神は全だ。
 余はこれで完全である。すなわち、全だ……だが、兄上たちは、」

 そこで言葉を切る。
 自分が語るべきではないと、あるいは、自分にはそれ以上語る言葉を持たないとでも言うように。
 変わりに、虚空を掴んだ。

「見るか」

 どこからともなく、ふわりとそのシュークリームの握られていない手に額縁入りの写真が現れた。

「?」
「兄上たちだ」

 そこには、少年によく似た青年と男が並んで写っている。

「覚えて、きた」
「うわ……セト様そっくり……」

 下僕の表情が喜びに染まる。
 しかし、それもすぐ消え、変わりに不思議そうに首をかしげる。

「あのさ……」
「なんだ?」
「なんで、この表情何だ……普通は、笑顔とか……」
「上の兄上も、下の兄上も、確かに、ご自分の笑みを持っておられたが、」

 少年は笑う。
 その笑みは、どこか借り物で、偽物のように空虚だった。
 自分の笑みを持たぬ少年は、しかし、それを妬んだ様子もなく、楽しそうに言う。
 その楽しそうな少しだけの変化は、少年のものだった。



「しかし、絶望や失望に染まる顔の方が、愛らしい」



 写真の中、顔面蒼白で恐怖に怯え惑う男と、がっくりと肩を落とした涙目の青年がいる。
 それは、少年に見せた、少年の好む顔。
 下僕はしばらく写真と少年を見比べたが、同情したような目で見て、そうっと写真を返す。
 写真を受け取った少年は、それをいつの間にか部屋にある、モノトーン調の家具の上に置いた。
 そのモノトーン調の家具は、見覚えが無い。
 そもそも、ここに物など、なに一つ存在しなかったというのに。

「置いとくのか?」
「ああ」

 やはり無表情に少年は写真を見つめる。
 意味などなさそうに、しかし、じっと。



 というわけで、なんとかかんとかしました!!
 うちの鬼畜様に望まれているのはこの方向かなっと思い暴走……。  でも、これでも控えめだったり……ウフフフフアハハハハ(落ち着け) 

 うちのゾーク様の裏設定
・甘味しか感じられない
 味とかあんまり興味なし。シュークリームが好物だが、実際は甘ければいい。
・本体がおり、そこから発生したばっかりなので無個性かつ、本体に近いので、兄弟内での純粋な強さでは強い。
・ほぼ万知万能の存在であり、完全である。
 ただし、大雑把で不器用なので小器用なことはできない。いつも大まか。



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