バク受けCPごった。
パラレルだったり、二心二体だったりも一部してます。
1.手を繋ぐのもどきどきで (王バク)
手を繋ぐというのには、いくつか関門がある。
まずは二人っきりということだ。
いくらなんでも兄弟だとか、友人の前で繋ぐような勇気もなく、恥知らずでもない。
どころか、あるのは見栄と意地と安っぽいプライドだけだとお互い知っている。
だからこそ、二人っきりでなくてはならない。
しかし、しかしだ。
この関門を越えるのが実は難しい。
集団から、抜けることは、それも自然に気づかれないように抜けることは難問である。
もしも気づかれてしまえば、一部勘の鋭いものにからかわれるのはわかりきっていることで、そうすれば、二人っきりどころの話ではない。
それだけに、実際二人っきりになったことは悲しいことに数えられてしまうほどだ。
例えば、うまく誤魔化して二人っきりになったとしても、次の関門が存在する。
それは、横に並ぶということだ。
なんだそんなことか、ということがなぜか出来ない。
歩幅をあわせ、歩調を合わせ、なんとか横に並んだ瞬間、足が鈍る、あるいは速くなってしまうのだ。
手を繋ごうと意識してしまうともうそれだけでどうしようもなく不安定になる。
顔は熱くなるし、手しか視界に入らないし、心臓はうるさい。
お互い俯いて、横に並んだかと思うと追い抜いたり追い抜かれたりする姿は、恐らく旗から見れば滑稽以外の何者でもないだろう。
今度こど、今度こそ、そう考えているうちにタイムリミットがやってきてしまうのだ。
その後の自己嫌悪たるや、筆舌に尽くしがたい。
他にも、手ばかり見てこけただとか、たまたま知人に見られてしまったとか、色々な要素があるのだが、それらはあえてここでは説明しないでおこう。
もしも、仮に、こうして、なんとか全ての関門と要素を満たしたとして。
お互い、まっすぐ前を見て歩いていたとして。
手をつなぐと言うのは、難しいものがある。
ばちっ。
手と手がぶつかる音。
お互いが、同時にお互いの顔を見た。
きまずい、その一言に尽きる表情で自分の手をおさえる。
「なにすんだよ……」
「それは、こっちのセリフだぜ……」
タイミングが、合いすぎてしまった。
お互いが、お互いの手を見ずに、同時に繋ごうとしてしまったのだ。
しかも、照れに任せて勢いをつけすぎたから、正直痛い。
「何も無いぜ」
「何もないなら、速く、かえらないとな」
「おう、兄貴も待ってるしな……」
「俺も、相棒が待ってるからな……」
しばらくの睨み合い。
お互いが同時に前を向くと、そのまま早足で歩き出す。
それは、怒りもあったし、照れもあったし、自己嫌悪もあった。
どう考えても、今日は手をつなげないだろう。
つまるところ、二人とも妙に、妙に気が合いすぎるのだ。
本人たちは全力否定するが、気があう。
だいたい片方が手を繋ぎたいと思えば片方も思っているし、うまくいけきっちりかみ合うのだが。
だが、だからこそ、うまくいかない。
かみ合いすぎて、もうぎちぎちと動かしようがなくなってしまうのだ。
更に不幸なことに、お互いが鈍いということも重なっている。
もしもどちらかが鋭ければ、相手の雰囲気を、気持ちを汲むこともできただろう。
だが、どちらも酷いレベルで鈍く、雰囲気を読むだとか、気持ちを汲むなどということができない。
(なんで手、動かすんだよ!)
(もう少しで掴めたのに……)
同時に、相手に気づかれないように失敗した手を見る。
唇からは、溜息しか漏れなかった。
かみ合ってるけど、かみ合ってない二人。
ツンデレカップルは進展が大変だと思います。
王様はケダモノかツンデレかの二択か……。
2.見つめあったら照れちゃうわ (遊バク)
真っ青な瞳に覗き込まれる。
最初は、ただ覗き込まれただけ。
そして、徐々に近づいてくる。
澄んだ青が視界いっぱいに広がると、まるで湖面を見ているような錯覚に襲われた。
どこまでもどこまでも底まで見えてしまいそうな、しかし決して光が届かない奥へと導かれそうで。
心がざわつくような不安と同時に、どうしようもなく惹かれずにはいられない魅力がある。
そらせない。
瞬きすら許されず、引き込まれる。
不意に、視界が遮られた。
黒。
状況を理解するより速く、感触がきた。
ふにゃっと柔らかな、知っているが、まだ慣れない感触。
その感触を味わいながら、視界を覆っているのが、相手の手だと気づいた。
青が見えなくなったことを残念に思っていると、感触が遠のく。
「ゆうぎ」
視界に、また青が映る。
ただし、今度はいつも白い肌がうっすら赤く染まっていた。
「俺様、遊戯の目、好きだけど、見つめられると照れるかも」
少しだけ目をそらして、誤魔化すように笑う。
その言葉と表情に、急にどきどきしてきた。
いくらキレイだと思っても、直前まで目を開いて凝視してしまえば、それは照れるだろう。
頬が熱い。
同じように笑って誤魔化すと、今度は目の前で青い瞳が伏せられる。
「照れないように目を閉じておくから、遊戯からして」
「え?」
少しだけ迷って、した。
ほのぼの。
これが一番お題にそっている気がします。
3.キスは片手で数える程度(セトバク)
「セト様、ちゅーしようぜ、ちゅー」
まだうまく覚醒してない視線が、自分の腹の上に座る青年をとらえた。
だが、とらえただけで頭にまで回らない。
視覚情報の拒絶。
彼は何も考えず、体の上にかけられた布を強く引っ張った。
「ひゃっ」
当然、布の上に座っていた青年の体勢が崩れ、彼の胸の上に倒れる。
密着する部分の増えた青年は、その表情に期待を滲ませた。
だが、肝心の彼の顔は、布にすっぽり包まれてしまっている。
「セトー……」
うめくように呼びかけるが、反応が無い。
いつもならば寝ぼけている隙にするところだが、今日は布という大きな障害があった。
「セト、セトー、おーい、起きろー、顔だせよ」
密着したまま軽く叩いてみるが、反応が無い。
べちべちと少しづつ、布越しに力をこめてみるが、やはり起きはしない。
「なー、セトー、セトー」
布に手をかけ、めくってみた。
目は開いている、が、覚醒の気配はない。
普段ならば、ここまでしても後数十分は起きないところだろう。
しかし、変化はいきなりだった。
がばっと、いきなり彼が体を起こし、その腕が青年の顎を掴む。
微かな痛みは驚きにかき消され、咄嗟に殴られるかと目を閉じた瞬間、唇が重なった。
理解よりも早く舌が唇を割り、口の中を貪る。
彼の外見とも、普段の行動、性格ともまったく合致しない激しい口付け。
青年は思わず彼の服を掴み、しがみついた。
「ん、ふぅ……ん」
出遅れた青年が追いつけるわけがなく、徐々に体から力が抜けていく。
唇の端から唾液が零れ、青年の目尻に涙が浮かぶ。
服を掴んだ手にも力が入らなくなったとき、やっと、唇が解放された。
荒い吐息とともに、唇を繋ぐ糸を舌で切る。
ずるっと、彼の体をずり落ちる青年に、一言、告げた。
「……あと、ごふん」
「へ?」
ばたんっと、彼は倒れた。
ぼんやりと開かれていた瞳も、閉じられ、小さな寝息すら聞こえる。
(ねぼけ、てた……?)
青年の喉に、数多の言葉がこみ上げる。
だが、そのどれもうまく発することができない。
なぜなら、満足してしまったからだ。
いくら寝ぼけていたとはいえ、あんな激しいキスをしてもらえるのは始めてで、嬉しくて嬉しくてたまらなかったのだ。
もしかしたら、彼からしてもらうというのは初めてかもしれない。
「……あと、五分寝かしてやる……」
そう呟き、胸の上に青年は体を伏せた。
同時に、目を閉じる。
彼が完全に覚醒するのは、5分後ではなかった。
珍しく寝ぼけたセト。
うちのセトは低血圧で朝に弱いです。
ゆえに、起きたらなぜこうなってるかわかりません。
バクラがご機嫌でますますわけがわからない顔をします。
4.名前で呼び合うのも照れるのに(海バク)
「社長」
「なんだ、オカルト」
「俺様、オカルトなんて名前じゃない」
「訳のわからんことを言うような奴は、オカルトで十分だ」
机の上に座った少年は、足をぶらつかせて抗議する。
それを、青年は一切少年に目を向けることなく切り捨てた。
少年よりも机の上の書類の方が大事だというばかりの態度をみせつけている。
「俺様には、ちゃんと、バクラっつー名前、あるんだけど」
「それは名字だろ」
「そりゃ、宿主様の名字でもあるけど、俺様の名前でもあるんだよ」
「それが、オカルトだろう」
「違う! バークーラー!」
仕事の邪魔をするように、画面と青年の間に自分の顔を割り込ませた。
それを眉根を寄せて睨みつけるが、少年は目をそらさない。
どちらかというと愛らしい顔を拗ねたように尖らせている。
「社長はさ、どうせデュエリストとして認めた相手しか名前で呼ばないとか言うんだろ……?」
「ほう、わかってるではないか」
「だって、遊戯以外の奴の名前、ほとんどよばねーじゃん」
「貴様とて、似たようなものだろう」
「そーか?」
「俺のことも社長と呼ぶだろう」
「なに、社長、俺様に名前で呼んでほしいの?」
嬉しそうな声に視線がやっと少年に向いた。
苦虫を噛み潰したような瞳で睨むが、やはりにやにや笑っている。
「もしかして、俺様が遊戯のことは名前で呼ぶこと、気にしてたりする?」
「していない」
「社長に嫉妬してもらえるなんて思わなかったぜ」
「していないと言っているだろ」
べちっと、かなり痛い音をさせ少年の頭を叩く。
「いったー……社長、照れ隠しでももっと優しくしてくれよ。
宿主様の体痛めたらどうしてくれるんだ」
「黙れオカルト、今すぐ帰れ」
視線を再び書類へと戻した。
「社長ー……」
わざとらしく抑えた声。
青年は無視を続ける。
ちょっかいを出すように手をひらひらさせてみるが、邪険に払われた。
「俺様だって、たまには名前、呼ばれたいんだぜ……」
いつもの拗ねたような表情。
けれど、その日の少年の表情に、青年は少しの不安を見つけた。
見逃してしまいそうな怯えがある。
その原因がわからず、青年は戸惑った。
「だからさ」
どこか、笑顔すらぎこちないように見えた。
「ちょっとくらい、バクラって呼んでくれよ」
思えば。
その時、青年は少年の名を呼ぶべきだった。
なにかに不安を抱き、怯える少年を、せめて呼ぶくらいは繋ぎとめておくべきだった。
けれど、口は動かなかった。
ただ、それだけ。
(たまに、誰かに呼ばれないと、自分が自分なのかわからなくなる)
それが今更という照れであったのに、青年はいつまでも気づけない。
自分でも、微妙にずれてると自覚があります。
どうして、大切なことって口にだすのがあんなに照れるんでしょうね。
その一言が、誰かを救えるかもしれないのに。
5.もっと、甘えて欲しい(ばくばく)
「膝枕してみない?」
「はあ?」
「ひざまくら」
「はあ?」
「ひーざーまーくーらー」
「宿主様……?」
「もう、何回言わせる気? 頭についてる耳は何のためについてるの?」
「いや、これ耳じゃねえし。宿主様と同じ場所に耳はあるぜ」
っという相手を無視して、正座した少年は、膝を叩いた。
「膝枕してあげる」
「……遠慮します」
「遠慮はだめ」
「じゃあ、断る」
「そこは、だが、断るって言うべきだよ」
「なんでだよ」
「なんでもだよ。
とにかく、膝枕してやるから、頭おいて」
「宿主様、どんどん強制になってねえか?」
「気のせいじゃない?
だから、僕が口で言ってるうちにいう事聞きなよ」
「いやいやいや、絶対偉そうになってるって」
「愚痴愚痴言わない。他のサイト様なら今頃土下座して喜んでもいいところだよ」
「宿主様、メタなこと言うなよ。残念ながら、俺様はこのサイトの俺様だ」
だらだらと話すばかりで動かない相手に、まるで聞き分けの無い子どもを叱るような口調で言う。
しかし、相手は少年の意図がつかめず警戒を強めるばかり。
もしや、頭を乗せた瞬間、無防備な首を狙われるのではないかと怪しんでいる。
「なにもしないよ」
今度は、優しく、警戒する猫をなだめるような声。
微笑んで、膝を指差す。
「ただ、僕はお前に少し教えてやろうと思ったんだ」
「なにを?」
「甘えること」
甘える?
相手は首を傾げる。
ますます訳がわからないというのを隠しもしない。
「お前、甘えたことないだろ?」
「なんで甘えなきゃいけないんだよ」
「そう聞くことが、もう甘えたことないって証拠だね。
診断結果によると、甘え不足です。今すぐ僕の膝で甘えましょう」
「いや、意味わかんねーし」
「どうしてもいや?」
「いやっつーか……」
戸惑う相手に、少年は思いついたように手を打つ。
「じゃあ、耳かきしてあげる」
「耳かきー?」
「特別に頭の上のもしてあげるよ」
「いや、だからこっちは耳じゃねえって」
いつもならばどちらかというと淡白な少年が粘るせいか、相手は溜息をつく。
「わかった、わかった乗せてやるから、変なことすんなよ……」
「警戒しなくてもしないよ」
さも恐る恐るという様に苦笑しながら、少年は膝の上に重さを感じる。
居心地が悪いのか、頭の角度を変える相手のくせのある柔らかな髪に手を伸ばした。
ふわふわと柔らかく、温かい。
「うーん」
ぐりっと、相手が顔を回る。
目があった。
「あのさ」
「どうした?」
「どうにも、甘えたかったのは、僕みたい」
「はあ? なんだそりゃ?」
意味がわからないと、相手は笑った。
バクラに甘えてほしいと同時に、バクラに甘えたかった宿主様。
宿主様とバクラのだらだらした会話が好きです。
そして、宿主様は二心同体のときはちょっとバクラに対して偉そうです。
やっぱり、寄生されてますから。