※盗賊王は犬耳的な生き物です。
 セトが飼い主的な感じです。
 捏造セトママが出てきます。
 OKな方だけどうぞ。










































1.しっぽフリフリおめめキラキラ

 ソレを、犬と形容していいのか、彼はまだ迷っている。



 彼が始めてソレを見つけたのは、砂漠だった。
 隣町までの使いの途中、暑さに少し休める岩陰を探していたちょうどその時。

「犬……?」

 視界に写ったのは、白いふさふさした尾だった。
 トカゲや他の獣などとは少し違う、その尾は、涼しげな岩陰から伸びている。
 何度か犬を見たことのある彼は、思わず、近づいた。
 岩陰が涼しそうなこともあったが、妙にその尾が弱弱しく見えたからだ。
 砂を踏む音に、尾が動く。
 生きてはいることを確認したが、近づいても逃げない。
 人になれているのか、怪我をしているのだろう、そう判断した彼は回り込み、引っ込められた尾を視線で追った瞬間、思わず同じ言葉を繰りかえしていた。 

「犬……なのか?」

 ただ、ニュアンスが違う。
 先ほどのは、犬かもしれないというものだったが、これは、見ても犬かどうか判別のできないものであった。

 ガグルルル。

 牙をむき、ソレは低い唸り声をあげた。先ほどまで弱弱しかった尾に力が入り、ぴんっと同じ色の耳が警戒のためにたっている。
 まさしく、臨戦状態の獣であった。
 けれど、その顔は、獣のものではない。
 人。だった。 

「なんだこれは……?」

 疑問がこみ上げる。
 どう見ても、彼と同い年の少年に耳とシッポが生えたようにしか見えない。申し訳程度にボロ布を体に巻いてはいるが、服を着ているというよりも、寒さや日差しを避ける術のように見える。
 雰囲気や、唸り声にはどうにも言葉が通じる気配がない。
 あえて近づいて刺激しない方がいいだろうか。
 そう考えている途中、ふと、気づいてしまった。

「怪我、か」

 ソレが、庇うように下げている足から、赤い血が溢れているのに、気づいてしまった。
 逃げることも、飛び掛ってくることもせず、ただ唸り続けるのは、見ただけで深いとわかる傷のせいらしい。
 悪いクセが、頭をもたげた。
 それは、他人にとってはよいことだが、彼にとっては貧乏くじを引き続ける原因である。
 しかし、そんな自分が嫌いではない、むしろ、貧乏くじを嫌がって避けるよりも、誇れた。

「動くな」

 彼はそう呟くと馬の方に戻っていく。
 足音が遠ざかるのに、ソレは警戒を少し緩めた。
 けれど、すぐに戻ってくる足音に警戒というよりも、疑問を見せる。
 戻ってきた彼の手には、薄汚れた袋が握られていた。
 ゆっくりと、近づく。
 大きくなる唸り声も、近づけば絶対に襲い掛かってくるだろうということも全て承知で、足を踏み出す。

「動くなよ」

 じりっと、後ずさりするが、ソレは逃げられない。
 彼は、不意に目の前に手を突き出した。
 ぎゃんっと、ソレは一際大きく鳴き、噛み付く。加減なしの、相手を傷つける、むしろ殺す気さえ含まれたもの。
 牙はたやすく彼の皮膚を突き破り、肉を抉り、血を溢れさせてもなおソレは首を振り傷を大きくする。
 だが、彼は顔を歪め、小さく声を漏らしただけだった。
 逃げようとも、抵抗しようともしない。
 まっすぐにソレの目を見て、告げる。

「噛んでいろ、代わりに暴れるな」

 言葉が伝わったかはわからない。
 ただ、彼の瞳は驚くほど真剣だった。
 袋から包帯や薬の瓶、布を取り出すと、片手でソレの足の血をまず拭う。やはり、かなり深い。一歩間違えば千切れていただろう。
 ソレが、血を拭われる痛みにますます顎に力をこめる。
 だが、彼は手を止めない。
 止血する為に包帯で傷口の上を拙いものの片手でしっかり縛ると、もう一度傷を拭い、薬の蓋を口で開ける。

「痛いぞ」 
「っっ!!」

 牙が、彼の手から抜ける。
 ソレは、痛みに震え、叫びそうになりながら喉を痙攣させた。
 青い瞳に涙を浮かべるソレに気を使う様子なく、砂を払うと彼は薬を塗りこむと、布を当て、包帯を巻いてく。 
 ついでに、ズキズキと痛みを訴えながら血を流す自分の手も応急処置を施した。
 ソレは、じっと彼を見ていた。
 自分が治療してもらったことを理解しているかはわからない。
 だが、見ている。
 一定の距離を開けて何かを判断するように見続けていた。
 彼は、それをちらっとうかがうとさすがに血を失ったせいか、影に座り込んだ。
 出来れば離れたかったが、すぐに立てそうにない。
 ぼうっと、空を見上げて、袋に目を落とす。

「腹は、減っているか?」

 袋から干し肉を取り出し、差し出してみる。
 ソレは、身を乗り出して干し肉に顔を近づけた。匂いをかぎながら、じっと、彼を見つめる。
 吸い込まれそうな、澄んだ瞳だった。
 空にも、オアシスの水にも似ていない、青。
 小さく、口を開けて噛む。味わうというよりは、毒がないか確認するようだった。
 飲み込み、数秒、今度は、もう少し大きな口を開け、かじりつく。  
 それを見た彼は、干し肉から手を離した。
 びくっと、ソレが身を引く。

「やる、お前のものだ」

 変わりに新しい干し肉を取り出し、噛み付いた。咀嚼し、水で流しこむのを見届けたソレも、干し肉に再びかじりつく。
 無言だった。
 ソレは、言葉を紡ぐことができなかったし、彼も元々そう喋るほうではない。
 白い雲がいくつか流れ、鳥が飛んでいく。涼しい風が吹き抜け、太陽が傾いたとき、彼は立ちあがった。
 視線を動かせば、ソレが彼を見ていた。
 彼は少し迷うと、蓋を開けたままの水袋を投げる。

「俺が飲んでいるのを見て、わかるだろう」

 くんくんっと、匂いをかぎ、手で掴む。
 ふるふる震えながら、飲んだ。唇の端から零しながらも、こくりっと、飲み込む。
 彼はそれを背に、馬へと戻っていく。
 馬に、もう一つ持っていた水袋から水と、塩を与えると、乗った。
 ソレは、水袋を持ったまま、彼を見ていた。

(これ以上の干渉は、よくないだろう)

 そう思って、馬を動かそうとした瞬間、ソレは立ち上がった。
 ひょこりっと、痛そうに、でも、じっと彼を見つめて近づいてくる。
 嫌な予感がした。
 馬を、ゆっくりと走らせてみる。
 ひょこっと、ついてきた。
 少し道を変えると、ソレも道を変える。
 やはり、ついてくる。
 あの足ならば、馬を速くは知らせればついてこないだろう、彼は馬の腹を蹴った。
 忠実な馬は主の命令に自慢の足を見せる。
 思ったとおり、ソレはついてこれなかった。
 どころか、こてっと、こけて、動けない。
 砂を引っかいて、顔をあげた。
 ソレの視界には、遠ざかる彼と、馬。

「あ、」

 ―――――っ!!
 吠えた。
 狼の遠吠えに似た、けれど寂しい響き。
 子どもが、がむしゃらに泣いているようにも聞こえる。
 何度も、何度もソレは吠える。
 彼に向かって、哀しげに、寂しげに。





「………」

 ちらっと、彼は後ろを振り返る。
 そこには、目をきらきらと輝かせ、尾を振るソレが、いた。
 馬は、二人分になった重みを気にすることなく進んでいく。

「………これは、懐かれたのか」

 すりすりと、背にすりつくソレに、大きく大きく溜息をつく。
 つい、何かに優しくしてしまうのは、彼の悪いクセだった。そのせいで貧乏くじを引いたのは、もう両手の数でも足りない。だが、そんな自分を厭う事はない。しない自分よりも、ずっと行為が持てる。
 しかし、しかしだ。後悔しないかといわれると、それは別問題である。




 拾ってしまいました。
 そして、管理人は書いてしまいました。
 怪我して噛まれて懐かれるというのはナ〇鹿からの恒例ですよね!(おい)
 セトは、弱いものと怪我したものを放っておけないって信じきってます。
 頑張って色々楽しくやろうと思います(おい)






2.あなたが好きよ、大好きなの

 犬の瞳はいつも必死だ。
 ただ一瞬に全てを注いで、それが伝わらなければ死んでしまうようにさえ見える。
 だからこそ、彼はその瞳が苦手だった。
 特に、今膝の上に頭を置いて見上げるソレ相手では、より苦手だった。
 一見は、ただの少年。
 ただし、その白い柔らかな髪のある頭からは一対の白い犬のような耳と、真新しい服の腰布からは白い思わずさわりたくなるようなふわふわのシッポが伸びている。
 少し視線を動かせば、ぺたんっと床に座った流れるように細い足の先、足首に白い包帯が巻いてあった。
 しっぽが、ぶんぶんと振られ、床の掃除をしていく。
 視線が突き刺さる。
 もしも、視線に実体があれば、今頃彼は貫かれて死んでいるところだ。

「…………」

 きゅーんっと、寂しそうな声。
 だが、彼は無視する。
 彼は、決めていた。
 ソレに、必要以上に触らない、かまわない、声をかけない、優しくしない、と。
 なぜならソレは、なんの種類かは知らないが、野生の生き物でありこの怪我が治れば砂漠へ帰る存在なのだ。もしも、人間に懐いて狩ができなくなったり、人間を恐れず近づいてきて害を与えられてしまっては、彼が殺すようなものなのだから。
 だから、わざと冷たく接する。
 例え、ソレを気に入った母が物凄い勢いでソレをかまい倒しても、甘えさせても、彼だけは拒絶した。
 実際に手酷く突き飛ばしたこともある。
 けれど、ソレは懐いてくるのだ。訴えてくるのだ。
 全身全霊を持って、伝えてくる。
 触ってほしいと、かまってほしいと、声をかけてほしいと。
 澄んだ青い瞳で語りかけてくる。

「どけ」

 それが、やっと彼が紡げた言葉だった。
 無理矢理膝から頭をどけさせると、立ち上がる。
 足を怪我しているそれは、ひゃんっと、泣くとうまく立ち上がれずふらふらとこけそうになった。
 思わず、彼が振り返る。
 その瞬間に、どたっとこけた。
 慌ててかけよると、ソレは、彼の服に噛み付いた。

「おい……」

 きゅーん。
 はぐはぐと服を噛みながら、見上げてくる。
 この手法に、みょーに彼は覚えがあった。

「母上!! 母上!!」

 その怒声にも似た声に現れたのは、美しい女性だった。
 おっとりとした、優しげな美貌を幼く笑まている。

「あら、なーにぃ?
 あっバクラちゃんv」
「母上、勝手に名をつけないでくださいと言っているでしょう、それよりも、お聞きしたいのですが……」
「いいじゃないのー、うちで飼うんでしょ?」
「飼いません!! それより」
「なあに?」
「コレに、何か吹き込みましたか」

 目を、そらした。

「ちょっと、ね、ほら、セトにかまってもらえなくてバクラちゃんがさみしそうだなーって。かわいそうだなーって」
「貴方という人は……」
「だって!! だってバクラちゃんかわいいんだもん!!
 ね、飼いましょう!!」
「だめです!!」
「ケチ!! セトのケチ!! なのにバクラちゃんはセトに一番懐いててずるいわ!!」
「話を変えないでください!!」

 うーっと、唸る女性に、ぎゃんっと、ソレが吠えた。
 驚く二人の視線が集まると、無理矢理彼の足にすりよる。
 自分が無視されていたのが、よっぽど嫌だったのだろう、必死に見えた。

「ずるい……」

 女性の本気の恨めしそうな目に、彼は溜息しかでなかった。




 わんこの目はいつも必死に見えます。
 耳とかぺたーってしてしっぽぶんぶんしておかえりーとかされるとたまりません。
 服はぐはぐとか、もう、萌え死にます。
 しかし、セト様は野生動物は野生が一番と考えているので、傷が治るまでという思考です。
 けれど、周りはもう飼う気まんまん。 
 名づけは、一応セトママです。

 セト様も速く愛犬家に目覚めるといいですね。






3.無条件で全幅の信頼

 立つことが上手くなった時、砂漠に一度連れて行ってみた。
 もしも、砂漠に帰ろうとするならば、そのまま帰してもいいと思っていた。
 だが、馬から下りて砂漠の土の上に久々に立ったソレは、動かなかった。
 足が痛いというのもあるだろう、けれど、彼の横に立ったまま、空を見上げたり、辺りを見回すだけで、一歩も動こうとしない。
 そのうち、座り込んで、彼の足に頭をこすりつける。

(……このまま、このまま置いていけば、こいつはまだ追いかけられない)

 本当は、砂漠に帰すなら、今かもしれないと思っていた。
 これ以上、彼にも母にも懐き、人に慣れてしまえば、野生に帰れなくなる。
 別に、ここで置いていっても自分に罪はない。
 むしろ、野生の生き物を飼い殺す方が罪だろう。
 彼は、ソレを見つめた。
 砂漠で生まれて、砂漠で育ったソレは、砂漠がひどく似合う。
 こここそが、ソレの生きる場所だと、しっくりくる。
 彼は、馬へと歩く。
 座っていたソレも立ち上がり、ついてきた。
 馬に跨ると、ソレは彼を見あげて待っている。
 怪我をした足では、自力で馬に乗れないからだ。
 だから、手を伸ばして、彼が乗せてくれるのを待っている。
 自分が置いていかれることなど、ちっとも知らないかのように、純粋な瞳。
 手綱を握って、彼は迷う。
 置いていくべきだと誰かが言う。その反対側で、おいていくのかと誰かが責める。


 
 それを、ただ静かにソレは待っていた。



「こい」

 彼は、一言呟くと、その意外と軽いソレの体を持ち上げる。
 二人分の重みに、馬は動き出した。
 もう、すっかり二人分の重みになれてしまったらしい。
 だめだとは、わかっていた。
 それでも、彼はまだ。


(足が治るまで)


 そう言い訳してつれて帰るのだ。




 かなり揺らいでしまっているセト様。
 愛犬家までもう一押しですね。
 がんばれバクラ。 
 ちなみに、犬は一度信用すると、下半身潰れてても主人に尾を振るらしいです。






4.表情ひとつでまるわかり

「せ……と、ぉっ!」

 呼ばれた瞬間、ぎょっとした。
 満面の笑みを浮かべたソレがとてとてとへたくそな歩き方で近づいてくる。
 その得意そうな顔で、彼のもとまでやってくると、再び口を開く。

「せぇと!」
「…………」

 腕にしがみつき、ぐりぐりと頬を寄せる。
 舌ったらずな高い声で、何度も彼の名前を繰り返す。
 そのきらきらと輝く瞳には、ありありとこう書いてあった。
(褒めて!)

「せ、と、せとぉ!!」

 ここにきた頃は、獣のような鳴き声以外出せなかった。
 暫く過ごすうちに、母音のような声を出すようになるまでは知っていた。
 思えば、耳としっぽ以外はほとんど人間と同じ構造をしているように見えるし、バカのようだが、頭は悪くない。言葉を聞くうちにそれなりに意味を理解するかは別として、音を口にすることもあると思っていた。
 だが、ここまではっきりと喋り、そして意味もわかっているように言葉を一つとはいえ、繰り返すとは、想像もしていなかった。
 それも、自分の名前を、だなんて、まったく。 

「せとぉ?」

 いつまで経っても反応がない彼に、ソレは腕を軽く甘噛みして反応をうかがう。
 汚れるので振り払えば、にっと笑った。

「せと!」
「………」

 恐らく、誰かが言葉と意味を教えたのだろう。
 その誰かは、すぐにわかった。わかって、しまった。

「セトー!! セト、聞いて、聞いて、バクラちゃんすごいのよ!!」
「母上……」
「あのね、貴方の名前だって教えたらすぐ言えるようになったの!!
 やっぱり、バクラちゃんまだよくわかってないけど私の話とかわかるみたい。賢いのよー!!」

 はしゃぐ女性に、彼は頭を抱えた。
 やっぱり、としか言いようがない。

「最初は私の名前を教えてたけど、やっぱり貴方の名前の方が短いから……」
「母上!」

 声を荒げても、なにっと柔らかく微笑む。
 怒鳴っても無駄だ、それを一瞬で理解すると溜息をついて冷静を保った。

「前に私が言ったことを覚えていますか……?」
「なっなんだっけ……?」

 目をあさってにそらしてとぼける女性に、頭痛を禁じえない。
 いつもいつも幼い仕草を見せる女性に、彼は毎回「いくつだ!!」っとツッコミたくなる。
 だが、その言葉はいつも飲み込んでいた。
 恐らく、この女性は言うだろう、なんの恥じらいも躊躇いもなく「18v」と……。
 想像するだけで疲れる。
 彼は頭を2,3回頭を振って口を開く。


「………バクラに言葉を教えるなとあれほ……ぐっ!?」


 どすっと、彼の背中にソレは飛びついた。
 また無視されたのを怒ったのかと思えば、違う。
 ひどく嬉しそうに背中に張り付き、ちぎれんばかりにシッポを振っていた。

「なっなにをする……」
「せっと!」

 半分タックルにも似た飛びつきの痛みに顔を歪めながら問うが、言葉で返ってくるはずもない。
 ただ、それをじっと見ていた女性だけが、納得したように手を叩いた。

「バクラちゃん、よかったわね!」
「なにがいいのですか……」
「さっき、セトバクラちゃんのこと、初めてバクラって呼んだから」

(バクラに言葉を教えるなと)
(バクラに言葉を)
(バクラに)

 しまったっと、彼は顔を歪めた。
 ついつい女性や、他の手伝いの女官などが「バクラ」と呼ぶため無意識にすりこまれてしまっていたのだ。
 今までは絶対にソレに名前を定着させるものかと「あれ」やら「それ」などという呼び方を使っていたというのに。
 とうとうバクラになってしまったソレは、嬉しそうにしがみつく。
 嬉しそうに、嬉しそうに、あまりにも嬉しそうに。









 彼は、少しだけ(かなり)野生に帰せるか不安になった。



 もうかなりやばいセト様。
 飼っちゃえよ!!(おい) 
 今まで、セト様はバクラを呼んだことがないです。








 前半終了。
 ちょっと長くなったので、前後に分けました。
 後半もすぐにアップする予定です。



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