※社長が双子に振り回されるギャグな感じの小説です。
 双子=宿主様&バクラ。
 バクラがにょた=天音ちゃんです。
 色々アレですが、いつものことです。











































1.ベランダ越しのご挨拶


 彼の隣の部屋には、幼馴染の双子が住んでいる。
 男女の双子で、年は彼と同じ。
 美少年と美少女と言ってもまったく遜色ない、ふさわしすぎる容姿を持っているが、彼はあえて少年と少女をこう評した。





「奴らは悪魔だ」





「おはよう、社長」

 空気の入れ替えにベランダの戸を開けると、少女が笑う。
 青い空を背景に、真っ白な洗濯物を干している姿が眩しくて、思わず挨拶を返すのを忘れて見入ってしまった。
 いつも幼い表情が、なぜか大人びて眩しく見える。
 白い華奢な手が、ぱんっと、シャツを広げた。
 洗濯ハサミを取る為に少し背伸びすれば、エプロンの裾がひらりと翻る。
 目が離せずにいると、急に少女が頬を染めてうつむいた。
 訳もわからず首をかしげると、ちらっとうかがってくる。
 まるで、見てほしくないというような仕草。
 その少女がそんな表情や仕草を見せるのは珍しいことだった。

「しゃっしゃちょう……」
「なんだ?」
「あっあのさ」
「だから、なんだ」
「あんま、見ないでほしんだけどよ……」
「?」

 少女はますます俯いて、もじもじと恥じらいながら口を開いた。

「えっち……」



 そういわれて、思わず視線を動かす。
 少女の少し横、そこには、少女の下着が揺らいでいた。



「きっきさま!! 違うぞ!! 勘違いするな!!」
「わっわかってる、兄貴には黙っとくから……」
「違うといっているだろ!! それよりもなぜそんな目立つ場所に干しているんだ!!」
「こっこれから兄貴のとか、シャツで隠そうかなっと思ったら社長が凝視して……」
「してないと言っているだろ!!」


 双子と社長はじまりはじまる。
 こんな感じで社長が振り回されます。






2.空腹なんです助けて下さい


『空腹なんです助けてください』

 そう、受話器越しに聞こえたのは幼馴染の少年の声だった。
 疲れているのか、掠れて低く聞こえる声に、彼は思いっきり顔をしかめる。

「なぜだ」
『おなか、すいたぁ……』
「貴様には妹がいるだろ、妹に作ってもらえ」
『天音は今、杏子ちゃんたちとお買い物で、夕方まで帰ってこないんだ……。結構遠く行ったからすぐに帰ってこれないし……。
 というか、今すぐ食べないと死ぬ……』
「知るか、自分で作れ」 
『……実はさ、僕、ここ三日くらい立ってなかったんだ』
「……?」
『そしたらさ……なんか、足に力の入れ方忘れたみたいで立てなくて、こけて……』
「…………」
『棚が落ちてきて動けないんだけど……』
「………………」





「いやー、助かったよ、海馬くん!」

 机に置かれたチキンライスを口にいれ、少年はにっこりと笑う。
 顔には小さな絆創膏が張られているが、特に体に異常はないらしい。

「……なぜ俺がこんなこと……」

 彼は、机に肘をつき、そんな少年を半目で見ていた。

「でも、海馬くんが料理できるって結構意外だよね。
 料理ができないならサプリメント飲めばいいだろみたいな顔してるのに」
「………」
「今度お礼に、天音の料理を食べさせてあげるよ」
「いらん」
「最近食べてないからわからないと思うけど、天音また料理の腕あげたんだよ」
「いらんと言っているだろ」
「おいしいよー」
「………」
「そっか」

 ぽんっと、少年は手を叩く。



「天音が食べたいの?」



 ごんっ。
 彼は、机に勢いよく頭をつっこんだ。
 あまりのことに口を開いても声が出ない。

「確かに、天音は僕から見てもかわいく成長したから、そう思ってもしかたないけど、だめだめ、ちゃんと段階を経たお付き合いしないと僕は許さないから」
「きっきさまぁ!!」
「まあ、海馬くんなら大丈夫だと思うけど」
「なにがだ!!」
「ほんとにね、天音はかわいくなっちゃって、しかもモテるんだよ。
 一応、僕が悪い虫を叩き潰してるけど、海馬くんもうかうかしてるとトンビに油揚げとられちゃうからね」
「貴様ら双子は!! 人の話を聞け!!」

 本気で頭痛を感じながら怒鳴っていると、玄関から声が響いた。

「兄貴ただいまー、なんかいい匂いするな、あっ社長、久しぶりー、いつ帰ってきたんだ?」
「あっ天音おかえり、あのね、海馬くんが」
「もう貴様ら黙れ!!」


 この宿主様は、比較的社長に好意的です。
 でも、一線越えたら許しません。
 うちの社長は料理できます。
 そして、宿主様は色々なものに熱中してると色々忘れます。






3.三度目の遭遇


「貴様ら……!!」

 久しぶりに足を踏み入れた寝室に、双子が揃ってすやすや寝ているのを見て彼のあまり丈夫ではない堪忍袋の緒が切れた。
 布団ごと引きずって床に転がすと、双子は驚いてあわあわ起き上がり、彼を同時に目に入れる。

「あっ社長」
「あっ海馬くん」

 そして、目の前に仁王立ちになっているのが彼だと理解すると、そう呑気に名前を呼ぶ。
 ぱちぱちと瞬きを繰り返し、目をこすった。
 完全に覚醒したと思えば、そっくりの顔を同時に笑ませる。

「「おはよー」」

 色々なことを誤魔化せそうな、愛らしい笑顔だった。
 しかし、それは長い付き合いの彼には通用しない。

「おはようではない!!」
「寝起きに大声は響くよぉ……」

 耳をおさえる双子に、彼は更に怒鳴る。

「貴様ら!! また人の部屋に侵入しおって、何度目だ!!」
「……何回?」
「2回目?」
「三度目だ!!」
「三回くらいで海馬くん、心狭いよ」
「そうだそうだー」
「そういう問題ではない!! そもそも、どうやって入った!! ベランダも扉も閉めたはずだ!!
 以前は閉め忘れたから留守番していたと言ったが、今回は違うだろ……」

 少年と少女は、同時に自分のポケットをあさる。
 その唐突な動きに疑問を覚えた瞬間、銀色の光る物を取り出した。

「「合鍵」」

 彼の顔が、盛大に引きつった。

「よこせ……」

 双子は、黙って鍵をポケットにしまった。
 視線を、時計へと動かす。

「大変、天音、もうこんな時間」
「ほんとだ。早く学校に行く準備しないとな」
「朝ごはんどうしようか」
「適当に途中で買おうぜ」
「そうだね」
「つーか、兄貴が変な箱いっぱい買うから部屋で寝れなくなったんだからな」
「それは謝るよ」
「アレ、中、何は言ってるんだ?」
「ひ・み・つ☆」
「っというわけで」
「っというわけで」

「「じゃ、(僕・俺様)はこれで」」

 一切の隙のない会話だった。
 思わず、彼が口を挟めないほど、見事な。
 ぴったりと息のあった動きで、彼の横を早足で通り過ぎる。

「こっこら、貴様ら!!」
「逃げるよ、天音!!」
「了解!!」
「合鍵よこせ!!」
「え、社長、俺様の部屋の鍵欲しいの、しゃーねーなー」
「海馬くん、夜這いはだめだよ!!」
「違う!! こら、貴様らー!!」


 次は双子共演。
 社長は小さい頃から、こんな感じで二人に振り回されてます。
 不法侵入は犯罪ですよ!






4.痣と理由


「犯人は、この中にいる」

 少年は、部屋に座っている三人それぞれの顔を見た。
 どうして呼ばれたかわかっていない三人の顔には、一様に不安の色がある。
 それをじっと見つめると、目を伏せた。

「っと、思うから、事情聴取するよ」
「なぜ!?」
「おっ俺はは無実だぜ!! 獏良くん!!」
「そっそうだよ!! こいつじゃあるまいし!」
「俺はなにもしてないじぇ!! 主人格しゃま!!」
「そもそも、なんの犯人なのかわからないよ!!」

 びしっと、少年は三人の言葉を手で制す。 
 その真剣な眼差しに押され、三人は思わず黙った。
 広げられた指が、折れる。
 一本だけ残った指に、三人の視線が集まった時、少年は口を開いた。

「一昨日から、干してたはずの天音のお気に入りのパンツが一枚足りない……」
「へ?」
「は?」
「え?」

 あまりの唐突な話題に、三人はきょとんっと目を見開いた。
 ぱんつという文字が頭の中でうまく変換できない。
 ただ、少年の次の言葉に一斉に正気に戻った。


「犯人はこの中にいる……」


 疑われている。
 その、少年の冷たい疑惑の目が、三人に現実をはっきり見せた。

「無実だー!!」
「冤罪だよ!!」
「濡れ衣だじぇ!!」

 激しく首を左右に振り、口々に否定の言葉を口にする。

「そもそも、なんの証拠があって!!」
「そうだじぇ!!」
「相棒、相棒を呼んでくれ!!」

 しかし、あくまで少年の目は冷たい。

「前科?」

 ぴたりっと、口を閉じた。

「なんというか、君たちの天音への数々の蛮行とかね……」

 全員が、一斉に目をそらした。
 顔には、しっかりと「心当たりがあります」と書かれている。
 冷や汗を噴出している三人の顔をそれぞれ見て、一人に視線を定めた。

「じゃあ、まず、アテムくんから取調べを始めます」
「まっ!! 待ってくれ!! 今回は違う、心当たりはないぜ!!」
「へぇ……今回“は”」
「……っ!」
「まあ、犯罪者はいつも最初にそう口にするよね。自白は早い方が痛くないよ?」
「ちっちがうんだ!! 本当に!! だっだいたい!!」
「だいたい?」
「そんな洗濯したものよりもどうせなら俺は天音から直接ぬg」

 ごづっ。
 ひどく鈍い音が部屋に響いた。
 少年のすぐ傍に置いて合ったはずの湯飲みが、いつの間にか床に転がっている。
 そして、その隣には、取調べを受けていた一人が白眼をむいて転がっていた。

「アテムくんの余罪は後で追及するとして、次は……ナムくん」
「ひぃ!! 獏良くん!! 話し合いで解決しよう!!」
「それ、自白?」
「違うよ!? 待って、いくら前科って言っても、僕は直接天音ちゃんになにかしたことはない!!」
「直接以外は……?」
「そっそれは、その、ぼっ僕はいつだって、見てるだけで精一杯なんだから!!」
「……それは最近、うちのマンションの前で怪しい男が僕たちの部屋を見上げてるっていう噂があるけど、それは君でいいってこと?」
「!? ちっちがうって!! 僕は天音ちゃんのシマパンなんて……!」
「僕、別に天音のお気に入りのパンツって言ったけど、シマパンなんて言ってないよ?」

 勝手に沈没した。

「ナムくんの余罪もまた追求するとして、次、マリクくん」
「俺は違うじぇ!」
「何が?」
「俺は王しゃまや主人格しゃまと違って、しょんな布きれ興味ない!」
「ふーん……」
「どうしぇなら、中身の方がいいじぇ!!」
「……ふーん……」

 少年の目が、冷たく、鋭く細まった。

「たとえば、やわらかくてあったかいしりとか……」
「……まるで、触ったことのある口ぶりと手つきだね?」

 返事より早く、机がひっくり返った。
 自分に飛んでくる机を、見ていることしかできない。



「まあ、余罪は置いといて……どうしよう、犯人がよりどりみどりなんて予想外だよ」

 死屍累々という言葉がふさわしい光景を見て、少年は首をかしげた。
 もう、どれにしようかなで決めようかと人差し指を振っていると、いきなり玄関から激しい扉の開閉音が聞こえた。

「獏良!! 貴様あああああ!! 妹にどんな躾をしている!!」

 ばんっと、いきなり部屋に飛び込んできたのは、隣に住んでいる彼。
 怒りに激しく顔を歪め、漫画のように青筋をたてている。
 あまりの怒りに周りが見えていないのか、撃沈している三人には目を向けない。

「どうしたの?」
「どうしたもこうしたもない!! 貴様は妹にどんな躾をしている!!」
「わんぱくでもいい、逞しく育ってくれれば」
「逞しくの前にしとやかさをつけさせろ!!」
「したたかさなら」
「……っ!! とっとにかくだ!! 今すぐ俺の部屋にこい!!」
「なんで?」

 首をかしげる少年に、彼は叫んだ。

「あれほど俺の部屋に下着類を置いていくなと言っているのに忘れていきおった!!
 引き取りにこい!!」
「……それって、もしかしてシマシマ?」
「知らん!! とにかく、早く俺の部屋から撤去しろ!!」
「なるほど……」

 少年は、三人に視線を落とす。

「ごめん、僕の勘違いだったみたいだ☆」


 でもね。


「まだ、君たちには拷も……じゃなくて、尋も……聞きたいことがあるから、待っててね」





「なあ、なんで王様もマリクたちも顔が大変なことになってるんだ」
「ちょっと、余罪が多すぎたみたいだぜ……」
「正直者は、一瞬で終わらせてくれるって……」
「素で顔芸できるようにしゅるって……」
「ふーん……?」

 少女は、訳もわからず首をかしげる。
 

 ちょっと長めに。
 私の中で王様&マリク’Sはどうなっているのか……。
 天音ちゃんはセクハラされやすい体質ですが、ぶっちゃけ、本人にも責任があります。
 





5.私物持ち込み禁止令


 さすがの彼も、寝室で1/1フィギュアと目が合ったとき、限界を感じた。

「貴様らあぁぁぁぁぁ!!」

 バンっと、彼は自分の家の扉を開いた。
 そこには、愛らしい少女の描かれた箱が、天上付近まで積み上げられている。
 出鼻を折られるとは、このことか、なぜか彼は逆に冷静にそう考えてしまった。
 その部屋の真ん中には、箱に描いてある少女と同じ少女が描かれている本を読んでいる少年が寝転んでいる。 

「あっ海馬くん、久しぶりー」
「………山ほど、言いたいことがあったのだが」
「んー?」
「忘れた……」
「そう?」

 仕事疲れもあってか、ぐったりと肩を落とした。
 思わず座り込んでしまいそうになりながらなんとか足に力をいれる。
 でかけた溜息をぐっと、飲み込んだ。
 だが、その意気消沈も、長く続かない。

「あっ社長、帰ってたんだ」

 後ろから、ワイシャツ(彼の物)一枚の少女が現れたからだ。
 少女は、彼の姿に嬉しそうにぱたぱたと近づいて、腕に抱きついた。
 ふわりっと、シャンプーの匂いと、少し濡れた髪が少女の魅力をかきたてる。
 しかし、それは彼に通じはしない。
 ぎっと、眉根がよった。

「天音………」
「風呂借りたー、シャンプー切れててよ」
「………その服は?」
「ああ、楽だから借りてるぜ」
「貴様ら………」

 彼は、びしっと、床を指さした。

「そこになおれええええ!!」
「「えー」」
「えーじゃない!! 俺がどれほど勝手に部屋に入るなと言った!!」
「30から先は数えてない!!」
「ならばやめろ!!」
「だって、社長の部屋落ち着くし……」
「そして、私物を置くな!!」
「えー、だって、部屋に置ききれないし……。
 あっあのフィギュア高かったから傷つけないでね?」
「黙れ!! 持ち帰れ!!」
「えー」
「天音!! 俺の物を私物化するな!!
 シャンプーくらいコンビニで買え!!」
「だって……社長と同じ匂い……」
「たまにしか帰ってこないからいいじゃん」
「たまにしか帰ってこないからこそだ!!」

 そのまま、彼は踵を返すと、台所、洗面所、他の部屋を順繰りに回っていく。

「俺様の調味料!!」
「僕のシュークリーム!」
「俺様のハブラシとコップ!」
「僕の作りかけで乾燥させてたフィギュア!」
「俺様の(以下略)」
「僕の(以下略)」
 
 彼は、それらをかき集め、玄関から外に放り出した。
 そして、少女と少年を掴むと、一緒に放り出す。

「しゃっしゃちょう!!」
「かいばくぅん!!」

 バタン。
 さすがに、大物は無理だったが、なんとか彼は心の平穏を保つ。
 背でドンドンっと扉を叩く音がするが、しばらく静かになるまで放置。
 そして、呼吸が整い始めたところで、扉を開いた。
 見上げてくる、四つの青い瞳が、潤んでいる。

「いう事は?」
「「ごめんなさい……」」
「それだけか?」
「もっもうしません……」
「約束します……」
「合鍵を、だせ」

 しぶしぶと、少女がポケットから鍵を出し、彼の手の上に乗せる。
 沈黙。

「…………」
「…………」

 そして、ついに、少年もポケットから鍵を出し、手に乗せる。
 少年と少女は、一度うつむき、また顔をあげ、今にも泣きそうな表情で、息ぴったりに頭をさげた。

「「反省してます」」


 その三日後には、合鍵が作られているだろう。
 その一週間後には私物で溢れ帰っているだろう。
 だが、この表情を見て、許さないわけにはいかない。


「……入れ、ただし、私物は持ち帰れ」
「「はーい」」

 一瞬で、笑顔に戻った。
 少年と少女のその様子に、彼は、とうとう溜息が押し殺せなかった。



 キレた社長と双子。
 怒ってはほだされ、怒ってはほだされの繰り返しで、それでも許してしまう社長。
 双子は、息があってると萌えますよね。



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