※にょたでネコで幼女です。
 社長とか呼ばれてますが、妙にセトっぽい感じです。
 俺様はネコであるに通じるような、通じないような。











































1.我が家の小さな女王様



 ちりんちりんと鈴の音。
 白いシッポに白い耳。 
 涼やかな青い瞳でガラス越しにネコが部屋の主を見つめた。
 部屋の主はしばらくネコと目を合わせていたが、無視しようと背を向ける。
 じっと。
 じっと、視線が背に突き刺さる。
 澄んだネコの青い瞳。
 鳴き声はない。 
 だから、部屋から出て行きさえすれば問題はなにもない。
 けれど、いつまでも、ネコは諦めはしなかった。
 行儀よくベランダに座って待っている。
 溜息。

 鍵を開ける。

 そうすれば、ネコは白い手でいとも簡単にベランダの戸を開け、音もなく部屋の中に着地した。
 冷たい夜の空気が部屋に入りこみ、温かい空気を奪う前に、部屋の主はベランダの戸を閉める。

「こんばんわ」

 愛らしい唇でネコは言う。
 その、10歳ほどの少女にネコミミとシッポがついたようにしか見えない少女は嬉しそうに。

「不法侵入者め」
「社長が入れてくれたんじゃん」
「いれていない、俺は鍵を開けただけだ」
「一緒だろ?」

 ネコはそのまま当然のように部屋の主のベッドにダイブすると、何が楽しいのかシーツにジャレはじめる。

「………仕事の邪魔だけはするなよ」
「おうよー」

 シーツを体に巻きつけて一声。
 しかし、その悪戯の好きそうな瞳は信用できなかった。
 それでも、部屋の主は仕事をしなければいけない。
 やれやれと椅子に腰掛け、キーボードを叩きながら、息抜きにいれてきたコーヒーを一口。
 持ち前の集中力で一気に作業に入り込めば、いつの間にか時計の針は進んでいる。
 そういえばネコはどうしたと視線を向ければ、ベッドにいない。
 帰ったかと思えば、足元に違和感。
 シーツを体に巻きつけて引っ付いたまま丸くなるネコを見つけた。気づかなかったのが不思議なほど、足をぐるりと抱えている。
 少しでも足を動かせば、蹴っ飛ばしてしまうだろう、部屋の主はそう判断した。

「………」

 ネコは、すやすやと寝息をたてている。
 時折、頬ずりをしたり、足に絡めた手にきゅうっと力をこめ、気持ち良さそうに寝ていた。

「………………動けん」

 その時の部屋の主の頭には、何故か「起す」という選択肢はなかった。


 猫が寝ちゃうと、動けませんよね。猫の寝顔のかわいさは犯罪です。
 あまネコちゃん(友人命名)と社長。
 社長にも少し愛の手を……っということで。







2.ふらりと現れふらりと消える



 そのネコがやってきたのは、たまたまだった。
 ベランダで寒さに震えているとき、たまたま見かねた部屋の主が中にいれたのは最初。
 気まぐれに餌を与えたことか、はたまた一晩だけの布団の温かさに味をしめたか、ネコはやってくる。
 部屋の主は、飼う気がなかったため、その日以外はいれる気がなかったが、ネコは諦めなかった。
 冬のとびっきり寒い日に、ベランダからじっと部屋の中を見つめる。
 部屋の主の好む色彩である白を震わせ、青い目で、じっとじっと。部屋の主が意識を向けるまで待っていた。
 声をあげることもせず、爪でガラスをひっかくことなく、自分を主張することなく待ち続けている。
 寒さに震えても、吐く息が白くても、手にしもやけを作っても、かちかちと牙を鳴らしても。
 鍵の開く音がする。
 部屋の主は全てを諦めた声で告げた。

「………入れ」
「やった!」

 顔を輝かせて部屋に入るネコに、上に、ふわりと布が降りかかる。
 ネコの顔を隠すほど大きく、温かい布だった。
 一瞬何かわからず驚いたが、すぐにネコはがしっと布を握って喉を鳴らす。

「それでも、着ておけ」

 布――先ほどまで部屋の主が着ていた上着に擦りつき、喉を鳴らす。

「後で返せよ」

 温もりに包まれて喜ぶネコは、答えなかった。
 ただ、いきなり床に倒れこみ、ふぅふぅと荒い息を繰り返しながら上着と一緒に転げまわっている。
 部屋の主は、上着にマタタビでもいれていたかと本気で考えてしまう。

「おい、聞いてるか?」

 ネコはうっとりと上着から顔を出し、体をこすりつけている。
 何も聞いていないと確信したので、仕方なくコーヒーとついでに牛乳を台所へとりにいった。
 帰ってきてもまだ恍惚としているネコに若干引きつつ、上着を取り上げるべきか本気で考え始めたが、手を伸ばした瞬間威嚇されたので方っておくことにした。
 その内飽きるだろう。
 威嚇されたことを少しショックを受けたことに気づかず温めた牛乳を傍に置く。


 そして、しばらく後。


 仕事に逃避していた部屋の主がふと気づくと、ネコはいなくなっていた。
 一声かけていけと思いながら少しだけ不思議に思う。
 いつもならば、引き止めてほしそうに声をかけていくのだが、今日はやけに静かだったと。
 そこで、ふと気づいた。

「しまった、上着をとられた」

 ぶるっと、やっと寒さを感じる。
 別の上着を取り出しながら、溜息。

「次きたときにでも取り返すか」

 いつの間にか次にくるのが当たり前になっていることに気づかず、そう、呟いた。


 あまネコちゃんの勝ち。
 社長は、ついつい冷たくしつつも情けをかけてしまうタイプだと思います。
 そして、天音ちゃんは目的のためならば手段に体をはるタイプ。
 ちなみに、上着は二度と戻ってきません。勿論。






3.風呂嫌いの水嫌い



「にゃあああああん!! しゃちょおおおおおおお!!」

 半裸のネコが、ずぶぬれで泣きながら部屋につっこんできた。
 その後、止める間もなく暴れるものだから、
 たまたま鍵をかけるのを忘れていたせいで、部屋はひどいことになっている。
 なんとか捕まえ、無理矢理シーツを体に巻かせる。
 
「いったい、どうした」
「しゃちょう!! しゃちょう!! ひどいんだぜ!!」
「ほう、俺の部屋よりもひどいのか」
「ひどいんだぜ!! 俺様嫌って言うのに無理矢理風呂にいれようとしたんだぜ!!」
「ほう、それだけか」
「それだけ!」

 シーツを巻いたまま、放り出した。


 猫の風呂嫌いも凄いですが、うちの犬もすごいです。
 まるで虐待されてるみたいな声出して……ご近所さんに誤解される……。
 実は、あまネコちゃんの飼い主は本当にお隣さんなのではという説が。







4.にゃあん



 白いシッポに白い耳、その華奢な白い首には赤い首輪が巻かれ、金色の鈴がゆれている。

「しゃちょー、しゃちょー」

 遊んで、かまって、こっちみろよ。なーなーなーなーなー。
 ばたばたと手足やシッポを振り回し、ちりんちりんっと金の鈴が揺れて耳につく。
 いつも通りに仕事をしていた部屋の主は、それを見て

「貴様は、飼い主がいるんだろ」

 だが、その首輪も、鈴も、部屋の主が与えたものではない。
 見たとおり、ネコは飼い猫だ。
 ただし、部屋の主は部屋の、主であって、ネコの主ではない。
 なのに、なぜこうしてこのネコはここにくるのか。そして、自分はそんなネコの世話を焼かなければいけないのか。

「いるけど?」
「なぜ、ここにくる」
「えー……んー」

 ぱたっと、しなやかなシッポが床を叩いた。
 ニヤリっと、意味ありげな牙の見える笑み。
 ネコは起き上がると、部屋の主の膝に飛びこむ。

「秘密」
「なんだそれは」
「秘密」

 ぎゅうっと、抱きしめるように顔を乗せ、すりすりと体をこすりつける。
 まるで、自分のものに匂いをつけるように。
 部屋の主はなんなんだと訝しげな目で見るが、ネコは上機嫌に喉を鳴らしている。

「おい、質問に答えろ」

 白い耳を指でつっつくと、耳がぱしぱしと逃げる。

「ひみつー」
「こら、登るな」
「しゃちょー」
「人の話を聞け」
 
 そう言っているいつ間にもネコは膝の上にちょこんっと座ってその胸のもたれかかる。
 ぴんっとたったシッポがするりと腕に巻きつき、服に爪をたてて握りしめた。
 引き剥がそうとしていた部屋の主はその手際に辟易する。
 力ずくで引き剥がそうとするならば、服を引き裂くぞという脅しだった。

 にゃあん

 諦めた部屋の主に、ネコはご機嫌で鳴く。
 自分に興味を向けられたことが。
 自分のことを知りたがっているということに。
 自分を見てくれたということに。
 ご機嫌でネコが鳴く。


 社長に構ってもらえると嬉しいんです。
 仕事から自分に興味が移る隙を見逃しません。
 そして、この話では飼い主様は秘密。
 もしも俺様はネコであるにつなげるとき固定してるとアレなので(おい)








5.一人の部屋に鈴が鳴る


 
 ちりん。
「社長?」

 誰もいない部屋。
 明かりも暖房もついていない部屋は肌寒かった。
 鍵が開いていたので入ってきたが、どうやら留守らしい。
 
 ちりん。
「社長」

 それでも、ネコは部屋の主を探して歩く。
 ちりんっと鈴が澄んだ音を響かせる。
 部屋の真ん中で、ネコは座り込んだ。 
 しばらくぼんやりと俯いて床を見つめ、立ち上がる。
 部屋の中、数少ない家具の一つであるベットへと近づいた。
 こてんっと、そこに頭をおく。
 けれど、違うというように顔をあげた。
 そして、もぞもぞと布団にもぐりこむ。
 目を閉じて必死に残り香を探すように顔を埋めた。

 ちりんっと、鈴が鳴る。

 部屋の主はいない。
 だから、ネコは丸まって待つ。
 自分の首についた鈴の音を聞き、早く部屋の主の声が聞こえることを望みながら。


 鍵をかけないなんて無用心ですね
 実はあまネコちゃんをいれるために開けてたというのもありですが……。
 誰もいない部屋って、寂しいですよね。







6.抜き足差し足忍び足



 音もない夜の中、ネコはむくりと起き上がった。
 ふと、視線を動かした傍らには、いつの間にか部屋の主が寝ている。
 寝ているせいか、いつも眉間によっているしわがなく、部屋の主は幼く見えた。

「社長……?」
 ちりん。

 シンっとした部屋にネコの小さな声と鈴の音が響いた。
 ネコが、手を伸ばし、そうっと、頬に触れる。
 部屋の主が起きないことを確認すると少し考えて、その頬に唇を落とした。
 小さな、瞬きほどの時間。
 ネコはそれだけでひどく嬉しそうに、白い肌をうっすらと紅潮させる。

「おやすみ、社長」

 鈴を抑え、ベッドから降りる。
 ネコ特有の音の無い足取りでベランダの戸を開けた。
 一度だけ、振り返るが、すぐに闇へと身を踊らせる。
 静かな部屋で部屋の主の眉根にシワが寄った。
 

 実はおきてたよってことで。







7.甘えたなのはご飯の時だけ



「うまいか?」

 随分と冷めているが、ネコにとっては適温の魚を食べていると部屋の主はそう声をかける。

「おう! きょう、のさかなも……モグ、うまいぜ!」
「喋るときは口の中のものを飲み込め」
「ほふ!」
「こぼすな、飛ばすな」

 口の周りについた食べかすを拭う。

「ゆっくり食え、誰もとらん」

 くしゃくしゃとネコの白い毛並みを撫でる。
 その大きくて優しい手にネコは照れたように俯いた。

「どうした?」
「なんでも、」
(社長って、餌くれるときは、なんか優しい)


 あまネコちゃんではなく、まさかの社長の優しさ。
 お題にそってるの……? っという質問は野暮ってものです……。
 うう……。







8.ざらついた舌



 ざりっ。
 足にジャレついていたネコが、興奮しすぎたのか、足首を舐め上げた。
 その、滅多に感じない感触に部屋の主は鳥肌をたててネコを思わず蹴飛ばす。
 ぽんっと思ったよりも軽く飛んでいったネコは、「え? なになに!?」っと驚いたような、警戒したような顔で部屋の主を見ていた。
 あまりにもネコが混乱していたので、怒鳴る為に開いた口を思わず部屋の主は閉じる。
 そして、さすがに蹴り飛ばすのはやりすぎたと溜息。

「どこか痛いか?」
「へ? 平気……?」
「そうか、蹴飛ばしてすまんかった」
「うん……」

 おずおずとネコが再び近づいてくる。
 そこで、すっと、部屋の主は手を動かした。
 びくりっと、ネコの体が跳ねる。

「こい」

 初めての言葉に、ネコはきょとんっと不思議そうな顔をした。
 部屋の主が何を言ったかわからないという表情。
 しかし、部屋の主が溜息を一つつくとはっと正気に戻ったような顔で走りよる。
 部屋の主は、傍らに走ってきたネコを持ち上げ、膝に置く。
 いつもならば膝に上ろうとすれば怒る部屋の主が自主的に膝にあげたものだから、ネコの混乱は最高潮だった。
 しかも、頭を優しく撫でられたものだから、ネコは混乱を一気に興奮に変え、その胸に顔を押し付ける。
 それを部屋の主は怒らず、頭を撫で続けた。

「そういえば」
「に?」
「お前に、名前を聞き忘れていた」

 お前の、名前は?
 部屋の主は何気なく聞く。
 ネコは、目をこぼれんばかりに開いた。
 そして、笑った。
 たまらないとでも言うような、笑みで、部屋の主に強く抱きつく。

「天音!」



 やっと、聞いてくれた!



 名前を実は聞いてなかった社長。
 いや、名前を聞くと情が移るから〜とかだったんですが、もう色々無意味だと気づいたんでしょう。
 猫の舌って、結構痛かったり、気持ち悪かったり……いや、嬉しいんですが!!
 後書きというよりも、私のネコへの気持ちみたいになりました。
 何を考えていたのか。



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