※浮気が前提の話です。
 最低な王様やら、かわいそうな子もいます。
 駄目な人は逃げてください!!
天音=女闇バクラ。















































 1.隣に寝るのは(王天)


 ああ、今日こそ殺してやろうと思ったのです。

 すやすやと眠る彼の顔を見て、その隣で眠る顔を見て、彼女はもう、怒りも悲しみも通り越した。
 これでまだ、二人が服を着ていてくれれば彼女にとって、あるいは誰かにとって救いがあったというのに、辺りに散乱する衣服がそんなことはないと主張する。
 ああ、せめて足元の下着が目につかなければ!
 頭のてっぺんから、つま先にすうっと血の気が引いていく。
 次の瞬間どうしようもなく湧き上がった殺意が零れかけて くらりと世界が揺れた。
 見たくないと眼球が拒否したので、全力で首を回して、後から体が付いて回る。
 開いた口からは溜息しか出ない。
 昔は、罵り言葉やら泣き声が飛び出たものだが。
 けれど、今は搾り出そうとしても出なくなってしまったのだ。
 とても、とても嫌なことであるが、彼女は、感覚が麻痺してしまっていた。
 彼が眠っていることではなく、彼の隣に見知らぬ女が寝ている状況にだ。
 これがまだ、知っている女ならっと、思ってしまう。そんなこと、何一つ慰めにもなりはしないというのに。
 それもこれも、一つの人間として当たり前の病のせいだ。

 
 慣れ。


 それこそが、彼女を壊して狂わせる病だ。
 慣れたくなんか、なかった。
 なのに、慣れてしまったのだからしかたない。
 慣れるほど頻繁に、よくあってしまうこと。
 なんという最悪にして最低。
 崩れそうになる足で地面を踏みしめ、一歩踏み出す。
 すると、この場にいたくなかった足が歓喜の悲鳴をあげて動き出した。二人を起さないようにゆっくりと、しかしできるだけ速く廊下を通り、玄関へと辿りつく。
 細心の注意で音をたてず靴を履き、玄関の扉を開けた。
 せっかく静かにしていたというのに勢いよく閉めてしまい、ばんっと、背後で音がする。
 だが、もうそんなことどうでもよかった。
 とにかく、走る。
 一分一秒一刹那でも速く遠ざかりたかった。
 スカートが足に絡んでうまく走れない。こんな日に限って走りにくい靴を履いてきてしまったんだろう。手の中でぶんぶん暴れまわるカバンと袋が邪魔臭くて捨てたくなった。
 まるで走るための機械のように走る。走り続ける。立ち止まりたくない。
 しかし、いつかは止まる。
 がつっと、ちょっとした段差で足が上がらずつまずいた。
 勢いのままに受身がうまくとれず転げて地面に突っ込んだ。
 生身の足がこすれて皮膚を引き裂き肉を浅く削ぐ。
 手から飛び出して散らばった袋の中身は、どれもこれもこれから加工するはずだったもの。
 無事なものや、洗えばどうにかなるもの。
 立ち上がって拾おうとすれば、だらっと、醜く地面に傷つけられた白い肌は赤へと染まる。
 そこが限界。
 座ったまま、深呼吸する。息を吸うのを忘れていた。
 ひぃひぃとみっともない音が喉から落ちる。
 心臓を押さえて目を閉じた。
 痛くて痛くてたまらない。
 心臓がじくじくと痛む。
 今も血を流し続け、どくどくと熱を持った足よりも、痛い。
 塞がりかけた傷口を抉られた。
 どうしようもなく慣れない痛み。
 頭を巡るのは「どうして」っという言葉。
 それは最初は彼を責める言葉であった。
 けれど、途中で「どうして、隣にいるのが自分ではない?」っという言葉に摩り替わる。 



「俺様、あんたの、なんだよ……」



 問いかけたはずの言葉は虚空で誰にも伝わることもなく消えていく。
 今日、彼女はここにこなかったことにした。
 何も見てないことにした。
 瞼の裏に克明に思い出せる光景を必死に消し去る。
  
(ああ、誰か、誰か安心させてください。誰か、誰か言ってください。でなければ殺してください。
 恋人なんです。恋人なんです。好きなんです。ああ、あいつを愛しているのです) 

 憎らしい。
 彼女はその感情にそう名前をつけて処理をした。
 整理がついてしまえば、思ったよりも冷静になれる。
 息を吸う。
 足の痛みがやっと追いついた。
 やっと、涙が零れる。

「いたい……」

 ひどいことになった足を見下ろして、彼女は数秒考える。

「……かえろ」

 驚くほど冷静な声で彼女は呟いた。
 立ち上がって、散らばったものを拾い、運よく破れなかった袋につめていく。
 
「あ、きょう、いけないってメールしないと」

 今日、彼女は、彼の家など行ってない。 
 そう自分に言い聞かせ、この怪我をどう理由付けするか、そんなことばかり考えていた。

 最低な王様と健気天音ちゃん。
 最初は、これをずっと最後まで書き続けようと思ったんですが、これはひどいので中断。
 実を言うと、サイト初期の王様はこういう傾向だったんですが。
 色々あって今は、一途路線中です。
 しかし、まだお(まるで駄目な王様)だな……








2.バット・タイミングで鉢合わせ (セトバク)


「王、入ります」

 そう告げて躊躇なく部屋に足を踏み入れた神官は、はっきりとその光景を見た。
 部屋の中には、当然ながら王がいる。
 王の部屋なのだから当たり前で、ここにいなければ仕事をサボっていることであり、神官にとって大変困ることだ。
 だから、王が部屋にいることは問題どころか、とても好ましいことで、なんら困ったことではない。
 しかしだ。
 しかし、その光景は神官にとって困ったことになっている。
 なぜなら、王の立つ机の上、そこにはもう一人部外者がいたからだ。
 あからさまな部外者である。
 もしも、王と神官以外が見たら、つまみ出されるほどの部外者だ。
 それだけなら、だが、まだ神官は困ったりしない。
 なにをやっているのだと呆れるくらいだ。
 問題なのは、部外者が、机の上に寝転がり、足を広げ、王によって服を乱されている部分だ。
 部屋の中の空気が凍りつく。
 神官は、その凍りついた数秒で優秀な頭脳を全力で回転させ、様々なことを思考した。
 思考されたものは即座に整理され、神官を冷静にさせる。
 そして、整理された思考は優先順位をつけられ、今一番重要なものを選択した。



「王、そう時間のかからぬ報告なのでそのままお聞き下さい」



 神官にとって最も優先される事項、仕事を選択。
 そのまま、手に持っていた小さな粘土板へと目を落とす。
 内容を理解し、短くかいつまんで説明するために無駄な部分を頭の中で消していく
 一通りめどをつけると、口を開いた。
 
「先日の「セトおおおおおおおおお!!」

 だが、その言葉は、部外者の叫びによって遮られた。
 神官はやれやれといった風に視線をあげる。

「なんだ?」

 鬱陶しそうに溜息をつく神官に、部外者は必死だ。

「この状況見て言うことそれだけかよ!! もっと他にいう事あるだろ」
「確かに、机の上に上るのは無作法だと思うが、王がやられていることにそこまで口出しはせん」
「いや!! そうじゃなくてよ!!」

 足をぶんっと、振るうと、まだ硬直していた王の顔を足蹴にする。
 王は、油断していたため、素直にそれを顔面に受け、地に沈んだ。
 神官はそれをあくまで冷静に見届け、社交辞令のように淡々と批判する。

「貴様、王に何をする」
「うるせえ!! 誤解なんだって言い訳する準備してたんだぞ!!」
「なにが誤解かは知らんが、今はお前に用はない」
「怒るとか、悲しむとか、罵るとか、問い詰めるとか、妬くとか、俺のモンに手を出しやがって!! とかあるだろ!!」
「訳がわからん。そういう趣向が好きなら他でやれ」
「あんたにやってほしいんだよ!!」
「そもそも、俺は王に仕える者だ。王が望むなら自分のものくらい差し出す」
「逆ジャイアニズム主義!! 王権の犬ー!!」
「否定はせん」

 部外者は怒りのあまり涙目で怒鳴る。
 しかし、神官はそれらをするっと流した。

「別段、以前に女官をたらしこんだ時よりは問題ない」
「なんでだよ!!」
「お前にトチ狂った女官が仕事をせんなったり問題を起したり孕んだら困るが、王はお前といると機嫌もよく一箇所にいてくださるおかげで仕事も円滑に進むし、お前は孕まんからこれといった問題はない」
「それが恋人に吐く言葉かよ!!」
「それを言うならば、浮気を恋人に見られた人間の言う言葉か」

 正論を突かれると部外者は言葉に詰まる。
 いっそ、冷たさで切れてしまうのかというほど、無感情な瞳と声が、部外者にぶつけられた。

「以前にも言ったとおり、俺はお前を縛らない。変わりに俺もお前には縛られない」

 好きにすればいい。
 突き放されるような喪失感。
 部外者はうーっと唸りながら獣のように牙をむく。
 だが、神官は一切揺れることなく見返した。
 言葉のない攻防。
 敗北したのは、多少なりとも後ろめたい部外者の方。

「バーカ!! セト様のバーカ!!」

 だんっと、机から飛び降りると、窓から飛び出す。
 きちんと扉を使えと神官は呟いたが、それは部外者には届かなかった。
 ふと、思い出して机に近づく。
 そこには、やっと立ち上がろうとしている王が残念そうな顔をしていた。

「報告、続けても構いませんか?」
「……少し、冷たかったんじゃないか?」
「なんのことでしょうか?」

 しれっと、神官は言ってのける。

「まあ、それがお前なりの躾か、バクラにはああいう態度こそが一番きついだろうし」

 神官は、わからないとでも言うように軽く肩を竦めた。
 表情からは、なにも読み取れない。
 王は、少しだけ楽しそうに笑う。

「バクラだけは、くれなかったくせに」

 それとも、今くれと言えば、くれるか?
 じっと、笑いながら神官を見る。その表情は笑ってこそいたが、瞳は真剣だ。
 ここでもしも神官が頷けば、どうなるかはなんとなく予想がついた。
 神官はしばらく沈黙し、すっと、手の中の粘土板を差し出す。

「今は、公務中です」

 誤魔化されたかっと、王は声を漏らして笑った。
 神官は、やはり表情を変えない。
 ただ、軽く会釈すると背を向ける、途中で一度だけ、窓の方へと振り返った。
 ほんの、刹那の仕草。
 粘土板に目を落としていた王が見逃すほどの一瞬。

「バカはお前だ」

 小さな呟きは、風に消えた。

 セト様の気を引きたい盗賊王と、そのダシにされる王様と、躾けるセト様。
 仕事優先しつつ、さりげなくバクラに怒ってます。
 まあ、らぶらぶってことですよ(違)








3.これで通算何回目? (ばくばく)


「浮気はあれだけだめだって言ったのに」
「宿主様…………」
「僕はあれだけだめだって言ったのに」
「あの、宿主様、ちょっと俺様の話し聞きませんか?」
「なんでいつもいつもお前は浮気するのさ」
「宿主様ー」
「浮気なんて、最低の行為なんだよ」
「いや、だから……」
「世の中には浮気を認めちゃう人とかいるらしいけど、僕は違うよ」
「宿主様、まじ話聞いてください」
「浮気なんて絶対許さない。
 そりゃ、人間一度くらい過ちを犯すっていうけど、君の場合何回も何回も……」
「うう……」

(パラサイトマインド=浮気になる宿主様の思考がわからねえ!!)







4.平謝りに白けた目 (王バク)


「ゴメンナサイ」
「その程度の土下座で、許されると思ってるの?」

 廊下で土下座する少年に、彼は白けた目で見下ろしていた。
 まとう空気はどこまでも冷たく、鋭い怒りに満ちている。
 その雰囲気はあまりにも重く、苦しい。これならば烈火の如く怒り狂い罵ったり殴られたる方が精神的に楽だろう。

「そっそれは……」
「頭の下げ方がなってないよ、もっと地面にこすりつけて」

 淡々とした口調。
 そんなっと、顔をあげると、すっと目が細くなる。
 たったそれだけの仕草が、なぜかひどく恐ろしかった。
 思わず頭を下げなおして怯える少年に、彼は言葉を放り投げる。

「ところで、もっと後ろに下がらないの?」

 少年は、少しだけ顔をあげ、目を合わさないように後ろを振り向いた。
 自分のすぐ後ろは、靴を脱ぐための玄関がある。
 つまり、そこに降りて土下座をしろと、彼は言外に言っているのだ。
 土や埃で汚れた場所で、額を地面にこすりつけろと。

「………」

 背筋が恐怖に震えた。
 彼は、本気だ。
 だが、まだかろうじで残っている少年の誇りがそれを拒む。
 迷っていると、彼は更に追い詰めるような言葉を口にした。

「というかさ、なに勝手に家にあがってるの? 不法侵入?」

 警察呼ぶよ?
 さらりと言ってのける。
 まるで冗談のような軽い口調だが、冗談ではない。
 ぷるぷると少年の目頭が熱くなっていく。
 その時、背後で廊下が軋む音がした。
 彼が、振り返る。

「やっ宿主様?」

 びくびくと、少年のように怯えた声の主は、彼をうかがう。
 彼が、初めて笑った。
 けれど、その笑顔も、どこか怖い。

「どうしたの?」
「あっあのな……」
「うん」
「そっそろそろ……」
「そろそろ?」
「おっ王様のこと、ゆる、ゆるしてやんね……?」
「なんで?」

 凍りつくような、声だった。
 しどろもどろに少年の弁護をした相手に向かって、極寒の笑顔と声を向ける。
 笑顔に圧倒され、思わず相手は柱の影に少しだけ体を戻した。

「なんで?」
「え、だって……」
「なんで?」
「そっその……」
「なんで?」

 繰り返される言葉。
(バクラ、がんばれ!!)
 少年が、顔をあげて目で応援する。
 だが、相手はもう、サレンダー寸前という顔で首を横に小さく振った。

(そこをなんとか!!)
(無理だぜ王様!! 俺様には荷が重い!!)
(お前以外、誰が獏良くんを宥めるんだ!!)
(なんで遊戯つれてこなかったんだよ!!)
(相棒にも怒られたんだ!!)
(役立たず!!)

 数回の瞬きの間のアイコンタクト。
 二人は、今や、彼に圧倒されている。

「ねえ、バクラ、なんでって聞いてるんだよ……?」
「お、俺様気にしてないし!!」
「気にしてない?」

 笑顔が、びしっと固まったような気がした。
 相手は、今すぐ逃亡したい衝動に駆られる。
 足が震えて、逃げ腰とはこのことかと確信した。

「なんで、気にしてないの」

 質問ではなかった。

「お前がそうやって浮気を容認するからアテムくんが調子にのるんだよ!!
 いい、浮気は最低な行為で許しちゃいけないの!!」
「別に、俺様と王様つきあってn」
「まったく!! 二人ともモラルが低すぎる!!」

 そこに座りって!!
 彼の命令に近い言葉に、相手は従うしかなかった。
 土下座して顔をあげれない少年の隣に座り、うつむく。

「王様が宿主様に女といちゃついてるの見られるから悪いんだぜ」
「……だって、見られてると思わなかったんだ……」

 ぶつぶつと小声でそう言い合っていると、冷たい視線で貫かれる。
 口を閉じた二人は、これから何時間かに渡るだろう説教を、ただ受け入れることしかできなかった。 

 お互いのことは好きだけど、お互いのことをあんまり頓着してない王バク。
 目の前でされたら嫌だけど、知らないところならOKな思考です。
 モラル低!!
 宿主様は、モラルは高かったり低かったりまちまち。
 でも、浮気は駄目思考。








5.調子だけはいつでも良くて (王盗バク)


「しかたないだろ、盗賊王もバクラも好きなんだから」

 そう、あまりにもあっさり言われてしまえば、怒りも飛んでいった。
 なんだか、その一言だけで、自分にとってなんだか、すっきりしてしまったのだ。
 どこまでも、自分本位な最低な言葉だと言うのに。
 今までずっと、二股をかけられていたというのに。
 ここは、怒って怒鳴って殴りつけるところだというのに。

 まあ、いいか。

 そう、自己完結し、受け入れてしまったのだ。 
 自分の片割れはそれでもまだ怒っているようだったが、しばらくすると言う事がなくなってしまったのか、黙ってしまった。
 にこにこと笑う悪びれないそいつと、ぼんやりとしている自分、そして、まだ怒っている片割れ。
 傍目から見れば、どう見えるのか少し考えておかしくなった。
 なんとも歪つで、崩れた三角関係だろう。
 妙に、自分にお似合いな気がしてきた。
 さっきまで、もしも片割れの方が好きだと言われれば、身を引こうかとか、何を言ってやろうかと考えていたのに。
 なにも、かも、どうでもよくなってしまったのだ。
 くすくすと、声が漏れる。
 二人が、不思議そうにこっちを見ている。
 だが、止まらない。
 そして、ひとしきり笑った後、吹っ切れて口を開いた。

「で、どうすんだ?」

 目の前のそいつは、そうだなっと、自分と片割れを交互に見た。
 片割れはまだ、俺様を気にして戸惑っている。
 だが、自分の心は決まってしまった。

「どっちと、付き合う?」

 そいつが、どっちを選ぼうと、どちらも選ばなくても、いいと。
 ずっと昔から知っていた、こういうやつなのだ。
 怒っても、悲しんでもしかたない。
 ならば、受け入れてみよう。
 今まで、抗い続けたのだから。
 
「それなんだがな」

 そいつが、ふと、思いついたような顔をする。
 俺様も、片割れも嫌な予感がした。 
 確実に当ってしまう、嫌な予感。
 なんとなく、俺様はそいつの口を塞ぎたくなってきた。


「三人で付き合うか」


 ……調子にのるなこの野郎。

 最低王様再び。
 盗賊王とバクラ二股とか、死ね!! って気分になりますよね。
 いつかきっと、刺される。








6.ゆびきりげんまん (遊王バク)


 ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのます

 三人で、色々な指の絡め方を考えた。
 一人づつじゃなくて、三人同時にやることがとても大切だと思ったから。
 これは、三人の約束。
 大事な、大切な約束。
 だから、一人づつじゃなくて、三人同時にやらなければいけない。

「アテム、離すなよ」
「バクラこそ、ちょっと緩んでるぞ」
「ほらほら、二人とも喧嘩したら離れちゃう」

 しっかり、絡めた小指。
 お互いの微弱な体温が伝わってきた。
 それがなんだか、嬉しくて、くすぐったくて、微笑んでしまう。
 繋いだままで、口を開いた。 

「ゆびきりげんまん」
「うそついたら」
「はりせんぼんのます」

『ゆびきった』

 そう同時に言い終わったのに、指が離せない。
 三人が同じように、自分以外の二人の顔を見て、困ったように笑った。
 ソレが嬉しくて、少し照れる。
 だから、呟いた。

「僕、二人ともダイスキだよ」

 すると、二人はきょとんとしてこっちを見た。
 何を、当たり前のことをって顔で僕を見て、くっついてくる。

「俺様も、遊戯好き」
「俺も相棒がダイスキだぜ!!」

 指は離れたけれど、体がくっついて離れない。
 それがまたおかしくて、顔の緩みがとまらなかった。
 頭の上で喧嘩が始まりそうだけど、今日は許してしまいそうだ。

 

「ずっと、三人で一緒」


 
 そのキレイな三角形のゆびきりの約束は、今も続いている。

 遊バクのパラレル正三角形より。
 ほのぼの。
 正確には浮気じゃないですね。








7.図に乗るなよ、この尻軽 (せとバク)


「セト様、俺様好きな人ができました」

 にこっと、笑った青年は、彼に向かってそう言う。
 彼は、一切揺らぐことなく、その笑みを受け入れ、頷いた。

「セト様より好きな人ができました」
「そうか」

 無感情な頷き。
 そこに、怒りも悲しみも喜びもない。
 ただ、淡々と事実を聞いている。

「今まで、誰を好きになっても、あんたが一番だったのに」

 青年は笑う。
 宝物を自慢する子どものように無邪気に。
 何度も、一番だったと、好きだったと言う。
 そっと、青年の頭に手が伸びた。
 褐色の手が、白い髪を優しく撫でる。 
 青年は、彼の手を、抵抗せず受け入れ、気持ちよさそうに目を閉じた。
 うっとりと、飼い主に撫でられる猫のように。
 彼はそんな青年をただ見つめ、微かに、溜息をつく。

「セト様、好きだったぜ」

 過去形の、言葉。
 瞼を開ければ、青い瞳が見える。
 その目が、まっすぐに彼を見つめた。
 彼も、まっすぐに見返す。
 いつだって、この視線は揺らいだことがない。

「ずっと、あんたを引きずってた」

 少しだけ、青年は悲しそうな顔をした。
 これから口にする言葉は、別れの言葉。
 決別の、言葉だ。
 けれど、それは紡がなければいけない。
 彼との決別は。

「でも、今は」

 過去との決別。
 未来を、行くための儀式だ。
 身を切るような、痛みが胸に走る。
 本当は、ずっと、彼だけを好きでいたかった。そのためなら、永遠に過去に囚われていてもよかった。
 けれども。
 けれども、今は。
 今は、変わってしまったのだ。
 もう、彼だけではない。
 拳を握り締めて、笑いながら呟いた。



「海馬瀬人が好き」 



 それだけ、言ってしまえば、震えた。
 短い、しかし、重い言葉。

「そうか」

 彼は全てを受け入れた。
 まるで、気のない相槌のようでありながら、決して否定しない声。
 少しだけ、遠い瞳。それでも、ひどく優しい。

「うん」
「海馬瀬人となら、」
「うん」
「未来を、生きれるだろう」
「うん」

 青年は、笑っていた。
 笑っていたのに、ぽろぽろと涙を流す。
 頭を撫でていた手をとって、頬をこすりつけた。
 熱い涙が、手を伝う。
 彼は、そんな青年を見ていた。

「今まで、ありがとな」

 短い白い髪が長くなり、身長が少しだけ低くなる。
 変わらない瞳が、彼を見上げた。

「なあ、セト様」

 青年だった存在は、問う。
 
「少しは、妬いてくれた?」

 悪戯な子どものような表情で。
 それはどこか年相応で、どこか違和感がある。
 彼は、その問いに、微かに、微かに笑った。
 口角をつりあげ、目を細めただけ、それでも、笑っているとわかるほど表情を変えることは滅多にない。

「図に乗るなよ、この尻軽」
「ひでえ、俺様こんなに一途なのに」

 軽く、こづかれる。
 それが、まるで合図のようだった。
 青年だった存在は、涙を拭いて、手を振る。



「さようなら、セト様」



 俺様は、未来を生きるよ。
 一番大事な過去とお別れ。
 社長とセト様を微妙に別物と扱っています。
 二人の違いは、過去で終わった人と、未来を歩き続ける人。
 その違いはどうにも些細で、とても大きい。



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