※二心二体です。
 バクラが料理とかしてます。
 というか、闇バと闇マが変な関係です。
 なんか、変な話です。










































「勘違いすんなよ」

 ぐつぐつと火にかけられた鍋が煮立ち。音をたてる。
 その前に立ったエプロン姿の少年は鍋を妙に真剣な目つきで見つめながら呟いた。

「まさか宿主様が遊戯んちで飯食うなんて知らなくて多めに作ったからだからな」

 底がこげつかないようにおたまで黄色いとろみのある液体をかきまぜる。
 換気扇を回しても広がる独特の食欲をそそる香りが立ち込めた。
 思わず、彼は台所を覗き込む。
 ずっと少年の話を聞きながら、彼は待っていた。

「カレーはそりゃ3日持つって言うけどよ、宿主様は同じ味が3食以上続くと怒るんだぜ。
 俺様だって手を返品を変えなんとか消費してやろうと思ってるのに」

 贅沢なこってっとふうっと、溜息。
 そして、おたまで黄色い液体を少しお玉ですくうと口をつける。
 熱い中、味を探りながら、少し考えた。

「もう少しだな……」

 ぱらぱらといくつかの粉末をいれ、またかき混ぜる。

「なー」

 彼が口を開く。
 少年は答えない。
 色と、そしてもう一度味を確かめると首を傾げた。

「なー、マクラー」

 無視。
 また今度は液体を加えながら、ジャガイモを一つすくいあげ串をさす。
 柔らかさを確認し、口に放り込んだ。
 咀嚼しながらチラッと見た炊飯器は、後1分を示している。
 なにやら不満げな顔を見せるが、小さく呟いた。

「……まあ、宿主様にはもう少し煮込めるか……」
「なー、マクラー」

 3回目の声に、少年はやっと振り返った。

「誰がマクラだ」
「マクラー、俺、腹減ったじぇ……」
「後5分待て」
「待てないじぇー……」
「飯炊いてサラダ作ってからだ」
「シャラダとかいらないから、とにかく肉食わせてほしいじぇ……」
「うるせえ、腹減ったところ拾ってやって恩、忘れるな」
 
 彼の愛する主人格に怒られて追い出されたのは、1時間前。
 昼も食べる前に何も持たず放り出されたものだから、彼はとても空腹だった。
 頼れるような知り合いの顔も浮かばず、ちらっと浮かんだ顔も、どうせ邪険にされるだろうと振り払う。本当は邪険にされても突撃したいところだが、その顔にそっくりの保護者が怖い。
 何が怖いといわれれば、笑顔が怖い。別に暴力を振るわれたわけでも、何か言われたわけではない。そんなことされれば反撃もできる。だが、あの穏やかな笑顔で見られると、まるで美しい姉上に笑顔で睨まれたような恐怖を覚えるのだ。
 そろそろ許してくれていないだろうか。
 そんな甘い考えが浮かんだが、見かけの割りに恨み深い主人格のことである、その可能性はまだ低い。
 せめてサイフくらい持っていれば何か食べて時間を潰せたのだが。
 色々と考えをめぐらせているとき、彼は少年とであった。
 白い髪に青い瞳、少年の宿主と違う目つきの悪さと雰囲気、ぼさぼさの髪にぴょこんっとたった兎の耳。
 抱きついて空腹を訴えた彼に、少年は散々文句を言ったものの、家に招きいれ食事を用意し始めたのだ。
 ここまで時間がかかるとは思わなかったが、彼は内心喜んでいた。
(しょもしょも、主人格しゃまも心が狭いじぇ……)
 好物のこしゃりを残ってると思って食べてしまっただけでこの扱いはひどい。ひどすぎる。
 姉上か、あの召使がいればまだましだったが、運悪く不在だった。
 恐らく主人格の異常な怒りようでは、その二人でデートの類でもされてのけものにされたからかもしれない。
 シスコンの上に召使コンとは……っと彼は唸る。

「宿主様がくわねえ分食わせてやってんだ。感謝しろ」
「別に、くわねえなら適当に材料焼いてくやあいいだろ?」
「俺様はな、宿主様のためにそりゃもう色々考えて計算してるんだよ!!
 今日はカレーってずっと前から決まってたし、宿主様にも言ってたのに、宿主様は勝手に外で食ってくるって言うじゃねえか……!!」

 だから、意地でもカレーを作る!!
 おたまを握り締め、ちょっと涙目になっているのは、香辛料が目に染みたせいではないだろう。
 背中が小刻みにプルプル震えていた。

「マッマクラ……?」
「俺様と飯よりも遊戯か……遊戯の野郎なのか……!!
 ちくしょう、王様め!!」

 カレーになにやら八つ当たりというか的外れな文句を言い始めた少年を彼は後ろから見ながら呆れた。
 自分の主人格への執着も人のことは言えないが、少年の宿主への執着は異常である。なんといっても、過保護ともいえる体調管理から家事一切までやってのけているのだ。
(主人格しゃまと同類……)
 何か一つ二つ言いたいこともあったが、少年の言ったとおり彼が空腹のところを拾われこれから食べさせてもらえることは事実なのであえて何か言うのはやめた。
 もしも機嫌を損ねてここまでカレーの匂いで助長された空腹のまま追い出されたらたまらない。
 5分、5分と呟きながら時計を見て耐える。
 まだぶつぶつとカレーに呪詛の如く文句を呟いているのも聞こえないフリ。

「だから、勘違いすんなよ!! 余ったら困るから食わせてやるんだからな!!」

 怒りの矛先がこちらに飛んできたと彼が肩を竦めた瞬間、炊飯器が甲高い声をあげる。
 コンロの火を切った少年は皿としゃもじをとるとそれほど大きくない炊飯器の蓋を開けた。
 もわっとした湯気とともに、刺激的な匂いと黄色い米が顔を出す。
 それをしゃもじでかき混ぜ、炊き具合を確かめた。

「よし」

 皿にキレイに黄色い米を盛り付け、カレーをかける。
 だが、まだテーブルには持っていかない。
 恐らくテーブルに持っていけば飢えた彼が静止も聞かず食いつくことを知っていたからだ。
 素早い動きで冷蔵庫を開け、サラダボウルに包丁で切った、あるいは手で千切った野菜をもいつけていく。
 ゆで卵かツナが欲しいと一瞬思ったが、手間がかかるのでやめた。
 そして、カレーとサラダを両手に持つとスプーンを添えて机の上に置く。

「辛いぞ」

 テーブルの上に置いた瞬間、スプーンを握り締め彼はカレーを口に運んだ。
 まず、熱さが口にくる。それでも必死に詰め込めば、甘い、そう思えば、刺激が、辛さがこみ上げた。
 それは、美味に相当する味だったが、それよりも熱さと辛さが彼を襲った。
 慌てて水を探すが、ない。
 少年に訴えようと視線を動かせば少年は自分の分を持ってくるために背中を向けていた。
 今、叫べば、確実に口の中のものが出るだろう。
 口を抑えて、飲み込む。
 辛い。
 ひりひりと舌にこみあげてくる痛み。
 
「ああ、野菜もたべ……なにやってんだ……?」

 振り返った少年が訝しげに眉根を寄せた。
 それもそうだろう、ふと振り返ったら少年が口を抑えて涙目でこちらを睨んでいるのだ。
 だが、なんとなく心当たりがあったのだろう、頭をかく。

「辛いつったのに」

 そう言いながら水をコップに注ぎ前に置く。
 瞬きの間になくなった空のコップがおかわりとでも言うように突き出された。

「……牛乳いれてやる」

 妙に哀れに見えて、少年は冷蔵庫から牛乳を出し、パックごと持ってくる。
 さすがにパックごと渡さず注いだが、あっという間になくなりそうだった。

「な……なんへこんなひ辛ひ!?」
 
 普段からうまく回らない舌がよけい回らず情けない声で彼が聞けば、少年はカレーをとってきながら答える。

「俺様は辛いのが好きなんだよ。
 宿主様は甘いのが好きだからいつも甘いけど、今日はいないし、最初は辛くして後から甘くするんだ」
「俺も、甘いのがよかったじぇ……」
「甘えんな。お子様舌」

 同じ辛さであるはずのカレーを平気で口に運ぶ。
 それを信じられない目で見、カレーに視線を落とす。
 辛いが、美味しかった。美味しかったが、辛い。恐らくもう一口食べればさっきと同じことになるだろう。
 空腹と辛さに挟まれ、スプーンが止まった。
 少年を見れば、サラダをシャキシャキと口にしている。
 ニンジンスティックを口に運んでいるのが本当の兎っぽくて愉快な気分になったが、誤魔化せなかった。
 しばらく黙っていると、少年は立ち上がる。
 水でも取りに行くのかと思えば、子鍋を取り出した。
 訳もわからず見ていると、カレーを少し写しなにかしている。
 おかわりでも作るのかと思えば、なんとも甘い匂いが鼻腔をくすぐった。
 新しい皿にもう一度盛り付け、少しまろやかな色のカレーをかける。
 そして、彼の横に立つと、ひょいっと、目の前の皿を取り上げた。

「あっ!」
「勘違いすんなよ」 

 どんっと、代わりに色の幾分優しいカレーを置く。

「俺様の作ったもんを嫌そうな顔で食われたくないだけだ」

 彼は、カレーを見る。
 柔らかい色と匂い。
 そっとスプーンを握って恐る恐るすくい、口に入れる。
 甘かった。
 夢中でスプーンを動かす。
 ばくばくと必死に食べ続ける彼を、少年は少し笑ってみていた。
 それはあまりにも些細で一瞬だったため、彼は見逃す。

「サラダも食えよ」

 そんな言葉が、今までで一番穏やかな声だという事にもまた、彼は気づかなかった。










「うまかったじぇー」

 食器くらい片付けろと蹴られた彼は、食器を持って台所に立つ。
 空腹が満たされてから改めてみると、エプロン姿の少年はいつもと違って見える。
 家の中にいるせいか、表情も柔らかい。
 ぐっと、別の衝動が湧き上がった。

「まーくーらー」
「だから、誰がマクラだっつーの」

 邪険に近づいてくるのを手で制するが、彼は止まらない。
 体を無理矢理密着させ、その髪にすりよる。

「邪魔」
「なあ、バァクラ」
「なんだよ……」

 距離をとろうとするが、思ったより強い力で抱きしめられる。

「カレーくせえんだよ!」
「マクラだってくしゃいじぇ」
「てめえは全身からするんだよ! このカレー色!!」
「しょれはひどいじぇ!!」

 ぐいぐいとせめて顔を遠ざけようと手で突っぱねるが、うまくいかない。

「なー、バァクラァ……キスしようじぇー」
「てめ……食欲満ちたら性欲かよ……」
「いいだろ? お前の宿主しゃまもいないし」
「………」

 嫌そうな顔をしていた少年だが、何か思いついたように視線を少し向こうに向ける。
 そして、にやっと笑った。

「いいぜ。ただし。目をつぶってちょっと待ってろ」

 以外な素直さに、目を見開きながら彼は目を閉じる。
 待ったのは数秒。
 すぐに柔らかな感触が唇に当った。
 しかも、その後すぐ舌が唇を割って入ってくる。
 いつになく大胆な行為に上機嫌になったのもつかの間、彼はある感覚を感じた。



 辛い。


 カレーを食べた時の比ではない辛さ。
(辛い。辛い。辛い。辛い。辛い。辛い。辛い。辛い。辛い。辛い!!)
 それはすでに痛みで暴力だ。
 抱きしめていた腕を外して倒れる。
 背中が床にぶつかって痛いが、それを気にしている場合ではない。
 抑えた口がびりびり熱くて痛い。たまらない。
 悲鳴すら上げられず転がった上で、少年もまた、口を抑えて笑う。

「ちっ……さすがだぜ……俺様も生じゃきつかった」

 少年の手には、唐辛子が握られていた。

「〜〜〜〜〜〜〜!!」
「俺様とキスしたきゃ、今度からそのお子様舌直しとけ」

 べえっと、舌を突き出し笑う。
 そして、悶え苦しむ彼を下に、少年は水で口を潤して、一言。






「食器洗うまで、待っとけ」






 それは、死刑宣言にも似た残酷で冷たい言葉だった。



 初の闇マバクに色々と迷走した結果こうなりました。
 闇マの口調がまだ全然掴めない……。
 途中まで全然ツンデレでも闇マバクでもなかったので、焦りました。
 というか、かなり書き直して、最初はマリクを拾うところからだったのですが、中々繋がらなくて、ねじ込んだ後だけ残りました。
 しかし、なんとか、最後で闇マバクになったかな……?
 うちの闇マはぴよぴよひよこです。だからしかたない!!
 本当に、闇マバク好き様すみません。二心二体ですみません……。私の才能ではこれが限界でした。
 というか、微ばくばく&リシイシいれてすみません……謝りだしたらきりがない……。

 ABILITYの雷麗様にお捧げさせていただきます!!
 こんなので本当にすみません!!
 でも、私の限界でした……。



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