※闇バクラ=終で獏良の弟です。
 子盗賊王=嵐で獏良兄弟の従兄弟です。
 遊バク前提です。
 なんだか、ごちゃごちゃかき混ぜられてます。




































「よう、終、おかえり」

 そう言って玄関で少年たちを迎えたのは、褐色の肌の子どもだった。
 日本人離れした顔の造作に、目を引く白い髪と生意気に見える青い瞳。幼い表情は、どこか保護欲と愛らしいという感情を掻き立てる。
 だが、この家の主人である少年、終は、そんな子どもの存在に嫌そうに顔を歪めた。
 そして、一歩後ずさって逃げようとするのを子どもは軽くフローリングを蹴って追いかける。
 驚きにもう片方の少年が見つめる中、子どもが終の首に抱きついた。
 扉にぶつかって終は逃げられない。そこに、子どもは飛びついた勢いもそのままに笑いながら口づける。
 どんっと、扉を揺らす音とともに終の唇が奪われた。
 嫌そうな顔が、かなり不機嫌へと変貌する。
 そして、終が子どもを引き剥がそうとするのと、子どもがぱっと手を離して回避したのは同時だった。
 そのまま今度はコンクリートを蹴ってバックステップする子どもの頭の会った場所を終の拳が通過する。
 わずかの間の攻防。
 
「なにしやがる!!」
「おかえりのキスに決まってるだろ。終」

 後頭部を痛そうに押さえた終の怒鳴り声が響いた。
 はっと、やっとその声でもう片方の少年は状況を認識する。
 あまりにも驚くことがいっぺんにおきて、瞬きしてそれを見つめることしかできなかったのだ。

「しかも、ガキのくせに終って呼び捨てにするんじゃねえ!!
 兄貴のことはお兄ちゃんのくせに!!」
「だって、お兄ちゃんが二人だったらまぎらわしいだろ?」
「そういう問題じゃねえ!! しかも、キスももう何度もすんなっつってんだろ!!」
「だって、終の唇柔らかくて気持ちいいし」

 けろりと、とんでもないことを口にした。
 あまりにも悪気のない顔に一瞬聞き逃しかけたが、かなりの問題発言である。
 思わず、その言葉に隣にいた少年は唇を抑えてほんのり頬を染めた。終の感触を想像した、というよりは思い出したのだ。

「このキス魔!! 俺様の唇は遊戯専用だっつーの!!」 

 ごっしごしと袖で自分の唇を赤くなるほどこすった。
 その言葉に、もう片方の少年はますます顔を一気に耳まで赤く染めた。
 まさしく、終のさす遊戯とは、もう片方の少年であったからだ。
 飛びついた子どものように堂々としたものではないが、実を言うと終と遊戯は、唇を重ねる関係にある。
 慌てて終の口を抑えようとするが、言ってしまった後では遅い。
 むしろ、ぐりっと、そちらを向いた終に肩を抑えられた。

「遊戯!! 口直ししようぜ!!」
「ええ!?」 

 明らかに冗談に見えない瞳で、顔を近づけてくる。
 少年は慌てて止めようとするが、力勝負では敵わない。

「え、終、そいつが遊戯なの?」

 子どもの目が、驚きに見開く。

「決まってんだろ」

 答えるために動きを止めた少年に遊戯は安堵の息を漏らす。
 いくらなんでも、子どもの前でキスシーンは避けなかったからだ。
 そんな遊戯を、少年は観察するように見つめる。
 標準よりも低い方である遊戯の背でも、子どもの背は低く思えた。
 その青い瞳が、じっと見上げてくるのに、遊戯は既視感を覚える。
(あれ、この子、誰かに似てる……?)

「まじで……?」

 子どもの声に、喜びが滲んだ。

「まじであの、決闘王遊戯!?」
「そうだ!」

 なぜか、遊戯ではなく少年の方が誇らしげに答える。
 子どもはまさに顔を輝かせ、尊敬の二文字が見えそうなばかりに目を見開いた。
 あまりの勢いと変わり身に、遊戯は思わず照れるより先に押されてしまう。

「本物なんだよな!! お兄ちゃんの言ってたこと本当だったんだ!!」

 感動に震える子どもを見て、はっと、隣で少年が息を呑んだ。
 俊敏な動きで遊戯の襟首を握り、引く。

「ぐぇ!?」 

 首が絞まり後ろに引きずられるが、子どもの行動は速かった。
 素早く遊戯の襟を掴むと体重をかけて屈ませ、唇を押し付けたのだ。
 前と後ろから同時に引かれた少年の首は当然軋む。
 しかし、その苦痛よりも、頬に当る柔らかな唇の感触に驚かされた。
 少年が、この世の終わりのような悲痛な悲鳴をあげる。 
 それに反して、子どもはうっとりとした笑顔で告げた。

「俺様、デュエルの強い奴が好きだ。俺様と付き合おうぜ」 

 間近で見る子どもの顔に、遊戯はやっと気づいた。
(あっ、この子、終くんに似てる……)
 髪の色と瞳の色は勿論、個々のパーツや、笑みの雰囲気が特に似ているのだ。
 
「クソガキ……」

 後ろから引っ張られていた力が抜け、首が解放される。 
 ズキズキと首が痛かった。
 かなり痛かった。
 けれど、それよりも恐ろしいことが隣で起こっていると理解する。
 見なくともわかるほど、濃厚な怒気。

「クソガキ、ブチコロス」

 怒りのメーターを振りちぎった少年は、なぜか片言の上に、笑っていた。
 引きつった笑いのまま、少年に殴りかかる。
 さすがに危機を感じた子どもはさっと素早く逃げるが、リーチは少年の方が長い。
 子どものまだ華奢な首をがしっと掴むと引き寄せる。
 その握力に、子どもは本気の殺意を感じた。

「ぎゃあああああ!! お兄ちゃん!! お兄ちゃん!! 終に殺されるー!!」

 首が痛いのを放り出し、遊戯が終を止め、子どもはその手から逃げ出した。

「遊戯、離せ!! あいつの唇の皮を剥ぐまで俺様はとまれねえ!!」
「怖いよ!! 待って、本当に!!」

 涙まで滲ませ暴れる終に、遊戯も必死でその腕を掴む。
 靴を履いたまま玄関に上がろうとするので、「靴を脱いで」や、「カバン拾おうよ」っと、せめて気をそらそうとするが、うまくいかない。

「終くん!! 後で!! 後でキスするから落ち着いてー!!」
「うわ、遊戯君大胆」
  
 やけになって叫んだ言葉に、終ではない声が響いた。

「へ……?」
「兄貴!! 」 
 
 終の動きが止まる。
 不機嫌そうな顔は変わらないが、暴れる気はなくなったようだ。
 視線を向けた先、そこには終によく似た少年が子どもを背に笑っている。
 同時に、遊戯は先ほどの自分の言葉を思い出す。
(僕、なに叫んでるんだ……!?)
 顔に血が集まり、舌が回らなくなっていく。

「遊戯君がそんな大胆なことを言うなんて、驚いたよ」
「まっ待って、獏良くん、さっきのは……」
「二人がどこまで言ってるか気になってたんだけど、そっか、キスはもうしてるんだ……」
「ばっ獏良くん……いた……いたたたたた」
「遊戯!?」

 気が抜けた瞬間、首の痛みを思い出した遊戯は蹲る。
 痛かったが、終が落ち着いたことに心の中で安堵した。





「あの子はね、嵐くん」
「嵐くん……?」

 シップを貼りながら少年が言う。

「僕らの従兄弟でね、ちょっと今叔母さんの用事で預かってるんだ。
 連休だし、ちょうどいいかなって」
「そっそうなんだ」

 遊戯は、やっと子ども、嵐が終に似ている理由にたどり着く。
 叔母さんという限り、血縁的にもかなり近い。
 そう考えると、終の兄である少年にも似ている気がした。
 こちらは、比較的温和な雰囲気をまとっているため、そう見えないが。
 
「かわいいでしょ?
 少し前まで外国で暮らしてたらしいからキスが挨拶代わりなんだ」
「ふーん」
「まあ、普通はいくら外国でも親しい人以外にはしないんだけど」

 気に入られたね。
 少しだけ少年は人の悪い顔で微笑む。
 その言葉に、今日何度目かわからない赤面をしてしまう。

「嵐くんは、DMがすごく好きみたいでね、強い人も好きなんだって。
 特に日本には、えっと、キール? だっけな、米国チャンピオンに勝った人もいるから注目してて、それで君のことも知ってたみたい」
「たぶん、キースかな……?」
「実際、嵐くん自身も強いよ。終といい勝負だから」
「ええ、終くんと!? 小学生くらいなのにすごいね……」
「だから、遊戯くんと友達って言ったら嵐くん興奮しちゃってすごかったよ。
 ……あーあー……終に続いて嵐くんまで遊戯くんにとられちゃった、寂しいなあ……」
「獏良くん……」

 遊戯は少しだけ少年を睨む。
 だが、それはどこか困ったもので、怖さは無い。

「ふふ、ごめん、ちょっと意地悪だったね」

 くすくす笑いながら少年は救急箱を片付ける。
 そして、台所を覗き込むと声をかけた。
 台所では、不満そうに終と嵐が皿を洗っていた。

「終、嵐くん、お皿洗い終わったら次は夕飯の準備ねー」
「へいへい、くそっ! てめえのせいで遊戯に怪我させちまうし、兄貴に怒られただろ!」
「俺様のせいじゃねえよ。終が暴れるから悪いんだろ」 
「なんでだよ。つーか、遊戯の頬も額も唇も俺様専用なんだよ。今度変なことしてみやがれ、窓から放り出してやる」
「あんま縛ると逃げられるぜ?」
「冷蔵庫にぶち込むぞ」

 かなり剣呑な雰囲気が台所に流れる。

「あれ、終、嵐くん、またケンカするの?」

 にっこりと、少年が微笑む。
 優しいが、なぜか底冷えするものを感じさせずにはいられない。
 慌てて二人は抱き合うと、引きつった笑みを浮かべた。

「まっまさかー!!」
「俺様たち仲良しー!!」

 ついでに嵐がその頬に口付ける。
 終の拳が白い髪にまともに激突した。

「〜〜〜〜〜!!」
「よしっ」
「殴ることねえだろ!!」
「だから、俺様にキスしていいのは遊戯だけだっつてんだろ。いい加減理解しやがれ」

 ぎゃーぎゃーと口喧嘩が始まる。
 どちらも口が悪く、人よりも口が回るためあっという間に白熱して止まらない。
 少年はそんな二人を見ながら、小さく、あくまで静かに呼びかけた。

「……二人とも……?」

 その後起こったことについて、遊戯は目をそらしていたので見なかった。







 爽やかな朝。 
 天気もよく、風も心地よく、温度も申し分のない気持ちのいい日だった。
 だが、一人だけ気分の晴れない少年、遊戯がとぼとぼと歩いていく。
 その背中に、遊戯によく似た少年が走りより、声をかけた。

「相棒……?」
「おはよう……アテム……」

 がくりと落ちた肩も、青白い顔も、ぎこちない笑みも、全て少年の知る遊戯から遠い。 
 連休前まではこうではなかった。明らかにおかしい。
 困惑した少年は、その体を支えながら問うた。

「どっどうしたんだ。なんだかやつれてるぜ……!
 バクラの家でなにがあったんだ……!! やっぱり、止められても獏良くんに蹴りだされても俺も行くべきだったぜ!!」
「そうだね……アテムがいてくれれば……もう少し楽だったかも……」

 虚ろな笑い声を零しながら、遊戯は少年、アテムに連休中にあったことを話し始めた。
 始まりは、連休中に終の家に泊まるために入った玄関で嵐と会い、首を捻ったことから始まり、嵐に始終べったりくっつかれ終が怒り狂ったこと、それを止める為に、あるいは止めるのを見るのに疲れたこと、嵐がDMの話をすると止まらず徹夜を強いられたこと、ことあるごとにキスを仕掛けられそれをまた終が怒り狂ったこと、一緒に寝ようとベッドにもぐりこんできて……っと、延々と続いていく。
 全てを語り終わった遊戯は目を細め、どっと老け込んでまるで老人のように震える。

「そうこうしてたら、連休は終わってたよ……」
「あっ相棒!! しっかり!!」
「首が痛いよ、アテム……」
「あいぼおおおおお!! 目が虚ろだぜ!!」

 必死に励ますアテムに、遊戯も少しだけ背を伸ばす。
 そして頬をかきながら苦笑。

「まあ、嵐くんは連休だけらしいから……ははは、そう考えるとちょっと寂しいかな」

 安堵もあるが、言葉通り寂しそうな様子に、アテムは笑ってしまう。
(相棒らしいぜ……)
 どれだけ迷惑をかけられても優しさや気遣いを忘れない優しさ、その優しさをアテムは尊敬していた。

「バクラくんには色々と謝らないと……」
「むしろ、謝らせるべきだぜ!!」
「いや、せっかくのお泊りだったのに嵐くんばっかりと遊んじゃったし」
「どうせバクラが勝手に怒ってただけだろ? 自業自得だぜ!」
「いや、僕が……」

 そう談笑しながら学校への道を辿る。
 やっと元気の出てきた遊戯は、終のことを考えながら。
 そしてアテムは、少しだけ複雑な心境で。

「相棒、すまない」
「へ、なにが?」
「え、いや、その、相棒を助けにいけなくてすまない!!」
「だからいいってー」
(相棒の口から惚気が飛び出さなくて、安心したから、なんて言えないぜ)









 だが、悪夢はまだ終わっていなかった。










「遊戯! 見て見て!!」
「んー、どうしたの杏子ー」
「見て見て、あの校門のところ。すごくかわいい子がいるの!」
「かわいい子……?」
「うん、ほら、あそこ、褐色の肌の」
「かっかっしょく……?」
「そう、ほら、白い髪でわかりやすいでしょ?」

 遊戯の顔が強張った。
 嫌な予感が背筋を駆け回る。
 隣を見れば、終の顔も引きつっていた。
 同じ予感を覚えたのだろう。同時に、首を終の兄へと向ける。
 終の兄は、携帯を見ていた。
 そして、にっこりと笑う。

「終、叔母さんがもう少し嵐くん預かってだってー」

 嫌だー!!
 終は涙目でそう叫ぶ。
 それを必死に宥めるのは、まだ首の痛い遊戯の役目だった。
 




「遊戯、今日こそデュエルしようぜ!!」





 校門で待っていた嵐がデッキを差し出す。
 終は右手を遊戯に、左手を兄に抑えられているので飛び掛りはしなかったが、ひどい目つきで睨んでいた。
 だが、そんなものはどこ吹く風、嵐は子どもらしい無邪気な笑みを浮かべてデュエルをねだってくる。

「こっちにきてやっとカードも揃ったんだぜ!」
「あっ嵐くん……」

 その笑顔と勢い、そして遊戯も嫌いではない、どころか大好きであるデュエル、しかもそれが終のレベルに追いつく相手ならば頷きたいところだった。
 しかし、ここで頷けば確実に終が切れるだろう。
 そろそろ止める気力も体力も尽きてきた遊戯にそれは辛い。

「えっとね、こっこんどじゃだめかな?」
「俺様、いつ母さんが迎えにくるかわかんねえからできるときにやりてえんだ!!」

 そういわれると、遊戯も悩んでしまう。
 ちらっと終をうかがえば、「とっとと帰れ」っと、口にせずとも顔に出ていた。

「なー、遊戯、しようぜ。してくれたらキスしてやるから!」
「このっ!!」

 遊戯は右手に力を込める。
 学校の前で暴れたり、いくら身内であっても子どもを殴ればただではすまない。
 終と嵐がにらみ合う。



「ちょっと待った!
 それ以上相棒を困らせるのは俺が許さないぜ!!」



 背後からの声に、全員が振り向いた。
 そこには、アテムがデッキを持って立っている。

「相棒の変わりに、そのデュエル俺が受けた!!」
「アテム!?」
「……遊戯……? っと、似てる?」

 アテムは嵐に近づくと、デッキを突きつける。
 遊戯は感動した。
 今でこそアテムの方が遊戯に依存していると思われているが、昔はそれこそいじめられっこだった遊戯はいつもアテムに庇ってもらっていたのだ。
 だからこその絆がそこにある。

「あんた、強いのか?」

 その言葉に、アテムではなく遊戯が答えた。

「アテムは強いよ」

 はっきりと、誇らしげに語る。
 その胸に宿るのは、いつかの決勝戦。
 向かい合い、全力を尽くした戦いだ。
 アテムを倒したからこそ、遊戯は決闘王の名を持ちえている。

「あの時は僕が勝ったけど、もしも、一つでも要素が欠けてたら、決闘王は僕じゃなくてアテムだった」

 遊戯の瞳の強さに、嵐も納得した。

「なるほど、つまり、遊戯とやるにはあんたとやんなきゃなんねえってことか」
「そうだぜ。俺に勝てずに相棒に勝負を挑むなんて、言語道断だ」

 目が合う。
 そこに、二人はデュエリストの間に通じる何かを見た。
 嵐は、不敵な笑みを浮かべる。

「いいぜ、まずあんたにデュエルを申し込む!」
「受けて立つぜ!」







 結果から言えば、アテムの圧勝だった。
 神がかった引き、高度なデュエルタクティクス、完成されたデッキ構成、その全てが嵐を上回り、圧倒した。
 かと言って、嵐が弱かったわけではない。
 嵐もまた、年齢に反してすばらしいデュエリストであった。
 だが、それをアテムが上回っていたのだ。
 負けた嵐は悔しそうだったが、同時に楽しそうでもあった。
 いっそ清清しいまでの敗北、強敵の出現、それらは嵐にとって喜ばしいこと。
 嵐は立ち上がる。
 そして、向かい側に座るアテムの隣に並ぶとを見上げた。
 青い瞳には、尊敬と、興奮、一抹の悔しさと、見とれない何かがある。
 アテムは、思わずその瞳に魅入った。
 それは、あまりにも終に似ていて、違う瞳だったからこそ、アテムは魅入られずにはいられない。
 
 ちゅっ。

 音は、一瞬だった。
 瞳に魅入っていたアテムの反応は、遅い。
 ゆっくりと、褐色の腕が自分に伸ばされ、なんだか青い瞳が近づいた気がしたところから認識し、周囲の声が聞こえても、まだ理解できない。ゆっくりと、ゆっくりと自分の唇になにかがあたったことに気づいた。
 目の前には、まだ青い瞳がある。
 満面の笑みだ。
 満面の笑みを浮かべたまま、唇が動く。

「惚れた。俺様と付き合おうぜ」

 空気は、ずっと凍り付いていた。
 かちんかちんに、冷たい風すら吹き抜ける。
 ただ、嵐の笑みだけが温かい。

「遊戯、ごめんなー。最初に言った付き合ってって言葉、今撤回する。
 俺様、アテムに惚れた」

 話をふられた遊戯は訳がわからない。
 そういえば、初めて会ったときそんなことを言われた気もしたが、まさか本気だったとは。

「こんなにすっげえぞくぞくしたデュエル初めてだ。
 負けたのに悔しいのに楽しいのも嬉しいのも気持ちいいのも全部たまんねえ」

 その時の嵐の笑みは、ひどく年齢に不似合いな艶っぽいものだった。
 もしも状況が状況でなければ、魅了されても仕方が無いほど。
 だが、アテムには理解不能だった。
 嵐の言葉が頭を突き抜けていく。
 後ろで、誰かが笑っている気配がした。
 くすくすくすと、抑えきれない笑い声。
 その笑い声には聞き覚えがある。

「おっ王さまが、あっけにとられてる……ぷっくすくすくす」 
「しゅ、終くん、笑っちゃだめだよ……」
「だっだって、いつもえらそうな王様がキスされたくらいでぽかーんって……」

 胸に刺さる笑い声だった。
 終の笑い声は、止まるどころかどんどん大きくなっていく。

「ひゃはは……いっいいんじゃね、王様、嵐と付き合っちまえよ……ひゃははは!!」

 とうとうはっきりと笑い出し止らない。
 どうやら、ツボにはまったようだ。
 ざくざくとアテムの胸が刻まれる。

「お似合いだぜ!!」

 泣きそうだったが、堪えた。
 しかし、胸を刻まれるのは、それだけではなかった。
 冷たい、冷たい視線が背中に突き刺さる。
 その視線を、アテムは何度も受け止めたことがあった。
 痛い、痛すぎる視線だ。

「あてむくん……」

 遊戯は、見た。
 はっきりと、彼の顔を。
 冷たい視線を送る、いつも穏やかな彼の顔を。

「ちょっと、顔、貸してくれるかな……」

 だからこそ、似ていると思った。 
 いつも、顔は似ているのに似ていないといわれる彼と終。
 しかし、今ははっきりと似ている。
 にこりと笑いながら怒り狂う姿が、そっくりなのだ。

「ばっばくらくん!!」
「大丈夫、遊戯君」

 口調は、あくまで穏やかだ。



「唇の皮を剥ぐ、だけだから」



 ああ、そっくりだ。
 遊戯はそう思うことしかできなかった。









「俺様はさあ」
「うん」
「アテムに惚れたのもあるけど、終泣かすのも嫌だったから。
 アテムも遊戯も好きだけど、やっぱ、俺様の一番はおにいちゃんと終だしよ」
「そっか、嬉しいな」
「……お兄ちゃんは、アテムのこと嫌い?」
「んー、好きじゃないかな」
「なんで?」
「意気地なしで、卑怯者だから。
 嵐くんは見てこなかったから知らないけど、アテムくんがもう少し強欲で、勇気があれば、終の隣はアテムくんだったかもしれないから」
「そうなのか?」
「うん、だから、正直、遊戯くんで安心してる。
 アテムくんがどうがんばったって、終を泣かすだけで、泣かせてあげることができないから」
「ふーん……」
「だから、遊戯くんは許せても、僕はアテムくんは許せない。
 後は、なんとなくかなー。アテムくんにとられると思うと、つい殺意が沸く」

 唇の皮、剥ぎ損ねたな。
 彼は寂しそうに呟いた。

「僕も、DMやろうかなー……」



 さて、皆様の投票もありまして、嵐くんのご登場とあいなりました。
 子盗で、キス魔で惚れっぽい。
 皆様のご希望に添えられたでしょうか?
 はたまた、まったく期待はずれだったでしょうか。 
 ただ、一言言えるのは、名前の通りかき回せてくくれたということだけでしょう。
 もっと短くする予定が、なんだか一話にまとめたらだらだらに……。
 とりあえず、今回は遊戯が酷い目にあってます。今までそれほどでもなかったのに……。
 そして、宿主様が王様嫌いです。なんでうちの宿主様は王様嫌いなんだろう。不思議(ぇ)
 こんなでも、楽しんでいただければ光栄です。
 ちなみに、この遊戯はとある大会の決勝でアテムに勝利し、決闘王です。
 次の大会ではどうなるかという感じです。
 
 では、次なる遊バクと嵐くんのご活躍にご期待ください。

問題:今回一番かわいそうなのは誰か?


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