そっとお互いのまだ未成熟な指を絡ませる。
 細く長く、形良い手と、白く細く、微かに柔らかい手。
 片方の手は熱くて、片方の手は冷たかった。
 無言で、手だけ触れ合わせながら、お互いの感触を確かめる。
 それは、遠く赤い太陽が教室を夕日色に染めるのと合わさって、まるでなにかの儀式のようだった。

「冷たいな」

 その一言で、沈黙は壊れ、片方が顔をあげる。
 赤く染まった髪と白い肌、ただ、瞳だけが夕日に当っても青さを失わない。
 その瞳と瞳をあわせ、少年は握る手に少しだけ力をいれた。
 すると、もう片方の手が、少しびくりと硬くなる。

「冷え性、だからな」

 ぼそっとした小さい声だった。
 その強気な顔に似合わない弱弱しさに、少年は笑う。
 じんわりと、片方の温かさがもう片方に伝わり、もう片方の冷たさが、片方に伝わって、温度が交じりあっていく。

「なら、熱くしてやろうか?」

 少年のセリフに、少女が一瞬動きを止めて、すぐに身を引く。
 だが、逃がさない。繋いだ手をぎゅっと握って捕まえる。

「いっいい」
「いいのか」
「ちっちがう……っ」

 首を横に振って否定するが、少年は逃げ腰の体を、強く引き寄せ、腰に手を回した。
 握り締めた手以外の場所も、密着する。
 目をそらしてそれでも逃げようと体をよじる少女をしっかり抱きしめ、繋いだままの手を引き寄せた。
 少女の少し伸びた爪に口付ける。唇の柔らかさは、爪越しでもわかった。
 夕日に染まる頬が、更に色づく。

「お、王様」

 ぶんぶんっと首を振る相手にかまわず、爪から付け根まで人差し指をなぞる。
 ふるりと、体が震えた。
 濡れた部分が線のように光っている。
 ぎゅっと、片方が手を更に握り締め、今度は手の甲に唇を落とした。

「ぁ」

 何度も、小さく短い口付けに、小さく声を漏らす。
 恐怖でも寒さでもない震えがこみあげ、止まらない。
 口付けから、愛撫のように手の甲に舌を這わす。
 ぬるい柔らかさと湿った感触が体を強張らせた。 

「待って、やめ、やめろ……」

 掠れた静止の声もきかず、舌は手の甲を、お互いの手の境界線をねっとりと舐めあげ、唾液でよごしていく。
 くすぐったい中にも、微弱な別の感覚に翻弄されそうになりながらも、もう一度首を横に振った。
 しかし、舌は手首を舐め、その白い肌に浮いた血管を伝う。

「うっうう……」

 ひとしきり、味わったかと思うと、今度は逃げる顔を引き寄せ、薄い唇を奪った。
 力をいれて閉じている唇を緩めるように、舐める。
 飼い主に懐く子犬のように、それでいて、明らかに相手の戸惑いを楽しむ表情は始末におけない。しかも、その表情を嫌いではないというのが更に追い討ちをかける。

「天音」

 まだ微かに高い声が少女の名を呼ぶ。

「口、開けろ」

 首を横に振る。
 すると、濡れた唇に指があてられた。

「開けろ」

 有無を言わさぬ、命令するような声。
 背筋が、ぞくっとあわ立つ。
 困ったように、迷うように視線を彷徨わせるが、視線から逃れられない。

「天音」

 再度の呼びかけに、小さく唇が開いた。
 それを待っていたと言うように、下からさらう。
 お互いの距離がほとんど0になり、目を開ければ互いの瞳がそこにあった。
 片方はが目を閉じると、もう片方も目を閉じる。
 決まったように舌がするっと入り、互いの味を感じあう。
 緩やかな舌の動き、眠たくなるほど心地よい時間。少女がそれに浸る中で、少年は急に荒々しく舌を動かした。
 貪るような激しさに思わず顔が逃げるが、逃がさないとばかりに腰を抱き寄せられる。
 舌を痺れるほど吸われ、足が崩れそうになった。
 すると、そのまま足が折れるままに導かれ、少年の膝の上に乗せられる。
 気恥ずかしさに立とうとするが、今度は後頭部を抑えられ、更に激しく口内を蹂躙されていく。
 とうとう腰からかくんっと力が抜け、体重を少年に預けてしまった。
 最後に軽く唇を噛まれ、やっと顔同士に距離が戻る。
 息を荒げながらも無意識に寂しそうな顔をする相手の頬に、小さく口付けた。

「熱くなっただろ?」

 先ほど口付けた頬は赤く、握る手は熱を持っている。
 眉根をよせ、不満そうに相手は唇を尖らせる。

「頼んでないぜ……」
「俺がしたかった」

 もう一度顔を近づけた瞬間、もういやだとばかりに顔をそらして逃げられる。
 けれど、顔ではなく、その華奢な首に痕が残らない程度に、吸い付いた。
 慌てて手で顔を遠ざけようとするが、離そうとすると強く吸い付き、痕をつけようとするので引き離せない。
 唇から少し舌をだし、ちろっと舐める。
 そして、手を繋いでいない方の手で首のリボンをほどいた。

「おっおい!!」

 さすがに動揺した表情で叫ぶが、マイペースにそのまま片手で器用にボタンを外していく。

「やっやめろ!! もう俺様学校でするのは嫌なんだよ!!」
「最後までしない」
「そういう問題じゃねえ! やめろ!! ボタン開けるなー!!」

 暴れるが、手を繋いで、腰が抜けて膝に乗っているせいかうまくいかない。
 その間にも淡々とボタンは外れ、白く滑らかな肌を晒していく。
 あっという間に腹部までボタンを外され、羞恥にさっと顔の赤みが増す。

「寒い……」

 急に晒された肌は激しい口付けのせいか少し汗をかいており、しっとりとしている。
 それが空気に冷やされ、ぶるっと、震えた。

「熱くしてやる」
「お断りだ!!」

 片手で髪を掴みひっぱりながら暴れる相手の手を押さえ、喉元に舌を這わす。
 喉から鎖骨へと動き、軽く噛む。ぞくぞくと背筋に甘い痺れが走り、思わず手から力が抜ける。

「ぁ、ひゃあ……」

 背筋が弓なりにそれ、甘い声が思わず口をつく。
 こうなるともう負けたも同然だということを、経験から知っていた。

「最後まで、すんなよ……」
「ああ」
「スカートの中触るのも、だめな」
「……答えろ、ふぁ!?」
「……努力する」

 まったくあてにならない言葉に何か言い返そうと口を開くが、その口から出た言葉は全て別の声へと摩り替わる。

「あっ、ん……」

 舌の動きに合わせて体が跳ね、小さく押し殺された声が響く。
 静かな教室の中でその声は妙に耳に響き羞恥をかき立てた。
 それを押し殺したくて指を噛むが抑えきれない。
 
「指、噛むな」
「声が漏れるだろうが……ん」
「漏れても、いい」
「いいわけあるか……」

 舌でなぞられた場所が濡れ、冷たい。
 それでも、体は更に熱くなり、その温度差に震える。
 思わず伸ばした手は片方の首に巻きついた。

「はぁ……ん……んぁ……」

 首に手が巻きついたことをいいことに、腹部からスカートまでのボタンも外し、一気に大気に触れる面積を増やす。
 少女の小さいが柔らな起伏と、薄く色づいた突起があらわになった。
 その起伏の下をなぞるように舐めあげる。

「ぁ、あ、ぁ……」

 そこから、ゆっくりと胸の間を通り、もう片方の起伏の下にも舌を這わす。
 びくっと、激しく反応を示した場所に、ちゅっと強く吸い付いた。

「ん、ゃ!」

 慌てて体を離すが、もうすでに胸の下に赤い痕が残っていた。
 その痕を少年は指で撫でる。

「ぅぁ……てってめえ!! 痕残すんじゃねえ!!
 明日の体育どうしてくれるんだ」
「それは悪いことしたぜ」

 まったく悪びれていない声に、少女は少年を睨みつける。

「ちくしょう……ただでさえめんどくせえから出てないのに……」
「自業自得だな」

 一つつけたならば、っとばかりに少年はまたその肌に舌を這わせ、反応した場所に印を刻んでいく。

「そっそんなぁ、つけん、なあ……」

 胸やへその周りに赤い痕が散って増えていく。
 清純さすら見えるその細い体に不似合いなはずの赤い痕は少女に不思議な色気を持たせた。
 満足するまでつけたのか、顔を離した少年は、今度はその痕一つ一つを指でなぞる。

「ふぁ……ん、ん……」
「これが、お前の感じる場所だぜ?」
「い、いうな……」

 うっすらと少女は目尻に浮いた涙を袖で拭い、もう一度少年を睨みつける。
 少年はやはりそれを笑ってかわした。

「体育どころか、これじゃあ風呂から出た後も兄貴に気をつけなきゃいけないだろ……」

 少年は少女の頬にもう一度口付けた。
 文句を言う少女は、もうやめろっと、ばかりに少年の頭を叩く。
 少年も、それ以上やると我慢がきかなくなると思ったのか、続きをしようとはしない。
 ただ、少女を見上げていた。
 それに気づいているのか、少女もあえて膝から降りようとせず、目をそらしている。

「そろそろ、帰らないと」

 時計が目に入った少女が、呟く。
 その言葉に急に真剣な目になって少女の胸に耳をつけた。
 あまりにも突然の行動に、少女は驚くよりも先に首をかしげた。
 少女の鼓動が少年の耳に響く。

「天音」

 少年が少女を呼ぶ。

「な、なんだよ……」

 鼓動は、少し早いが一定で、止まる様子はない。 
 じわりと耳から伝わる熱が心地よい。

「ここに、いるよな」

 握る手に、もう一度力が入った。
 まるで、確かめるかのように、逃がさないかのように。

「いるに決まってるだろ」

 少女も、手を握り返した。
 ここいると、伝えるように。
 あるいは、不安な子どもを、慰めるように。

「ここじゃなきゃ、どこにいるって言うんだ」

 少女が、薄く微笑む。

「あんたの傍以外、俺様がどこにいたって言うんだ」

 そして、最初に少年がしたように握った手を引き寄せ、少年の手に口付ける。
 少年は、少女の体を抱きしめる。
 少女も、少年の頭を抱える。
 お互いの不安を、埋めるように。



「帰ろう、王様。大丈夫、寝て起きたら、明日も会えるから」



 ちゃんと、会えるから。



 お互いの存在を確かめるために手を繋ぐ。
 しかし、ぶっちゃけ、王様に手を舐めさせたかっただけです(黙れ)
 ただのいちゃいちゃ話ですね。
 こういう幸せもスキですから。



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