ぺちん。

 そんな軽い音が、教室に響いた。
 誰もが、思わずその音の方に視線を向けたとき、信じられないものを見た。
 それは、クラスで1,2を争うほど大人しい転校生が、これもまた、クラスで1,2を争うほど大人しい少年を叩いていたのだ。
 きょとんっとした顔で、転校生は、自分の手と自分が叩いた少年を見比べる。
 少年もまた、じっと、叩いた手と、転校生を見ていた。
 ただ、その少年の目が、いつもと違うことを身近な者ならばしっていただろう。
 それは、少年が「もう一人の僕」と呼ぶ存在の目だった。

「あれ?」

 不思議そうに、不思議そうに転校生は手を見ている。
 なぜ、ここに自分の手があるのかすらわかっていない顔だった。

「あれ、今、僕、叩いた?」

 そのあまりにも間の抜けた声に、思わず全員がうなづいた。
 困ったように頬をかく転校生はそれでも、あっさりと告げる。

「あっでも、僕、謝らないよ」
「「「はあ!?」」」
「え、だって、なんとなく、謝らなくてもいい気がして……」
「お前!! ほんとに獏良か!?
 なんか、あの怖いやつじゃねえのか!?」
「んー、もう一人の僕はずっと出てきてないとおもうよ?
 記憶も消えることもないし……被害もないでしょ?」
「じゃあ、なんで謝らねえんだよ!! ほれ、遊戯がびっくりして硬直してるだろ!!」

 痛くない頬を抑え、少年はなにかを考えるように口を開く。

「……獏良くん」
「なに?」
「俺も、謝らなくてもいいと思うぜ」
「「「はあ!?」」」
「なっなんでよ遊戯!!」
「そっそうだぜ!!」
「いや、痛くないだろうっつーのは音でわかるけど、なあ!!」

 にこにこ笑う転校生と、少年は目を合わせ、そして少年が目をそらす。

「なんとなく、でも、相棒には謝ってやってくれ」
「うん、そうだね」

 それにはまたあっさりと納得する。
 一体何が起こっているかわからない周囲はただただ疑問符を連呼するだけだった。
 いったい、なにが転校生をそうさせたのか。
 さっぱりわからない。
 ただ、少年は、現在は心の内側にいる少年は考える。

(城ノ内くんの話題だったよね。うん) 


『なるほど!! 遊戯ありがとよ!! 大好きだぜ!』
『俺も、俺も城ノ内くんが好きだぜ!!』


 高校生同士のかるいジャレ合いにも似た、言葉。
 少々好きというのは行き過ぎなところもあるものの、好きの価値が軽くなったこの頃では特に違和感はない。
 ただ、「もう一人の僕」と呼ばれる存在は、あまりにも、あまりにも嬉しそうに、軽く頬まで染めていた。
 それだけが、違和感。


「獏良くん、城ノ内くんのこと好き?」
「ん? 好きだよ。遊戯君も、好きだよ?」

 あまりにも、軽い、その通りの言葉。
 もしかして、っと思った可能性は、どうも否定されたらしい。

「あのね、遊戯君」
「うん」
「僕はね、たぶんね、むかついてもう一人の遊戯君を叩いた訳じゃないんだ」
「うん?」
「かわいそうだなって、おもっただけなんだ」

 そう、笑顔で告げる。

「あんまりにも、かわいそうだなって、そしたら、ひどいなっと思って、こう、ね?」

 手をふいっと動かす。
 それだけで、全ての説明をしたかのように、転校生は話題を変えてしまった。
 「誰が? どうして?」その言葉をうまく言えず、少年は首を傾げるしかなかった。



 凡骨にラブコールを送りすぎる王様に宿主の自重平手が!!(マテマテ)
 宿主もバクラを大事にしてるんですよっというようなもの。
 このサイトの王様は、相棒と凡骨ダイスキです。愛していると言っても過言ではありません。
 だから、こう、ね? 3000年前を忘れてのうのうとしている王様にね?
 ぺちんっと。
 ありですよね?



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