ふと、夜に目が冴えた。
起き上がってみると、相棒は寝ているらしく、反応が無い。
目を擦り、視線を動かせば、窓辺に影を見た。
「?」
闇に目が慣れる中で、影は次第に輪郭を明確にしていく。
どうやら、誰かが背を向けて窓に座っているようだった。
そこから夜風が舞い込み、影の髪を揺らす。
「ばく……ら……くん?」
声をかければ、ふり返る。
一瞬だけ、驚いた。あまりにも、その顔に表情がなかったからだ。
まるで、マインドクラッシュされた人間のように、ごっそりと大事な何かが削げ落ちたような、顔。
目が、合う。
その瞬間、にぃっと、表情が刻まれる。
同じ顔でありながら、違う、異質なもの。
一拍置いて、言い直す。
「バクラか」
「おうよ、遊戯、いい月だぜ」
先ほどまでの欠落はどこかに消え、悪意をちりばめたような瞳で笑う。
「なにをしている」
「見てわかんねえか? 月見だよ」
「なんで相棒の部屋でしてるんだ」
責めるように聞けば、くっくっと肩を揺らす。
「そうカリカリすんな。別にあんたの大事な相棒になにかしにきたわけじゃねえよ」
「目的を言え」
「だから、月見だって言ってるだろ」
視線が、窓の外へと向かう。
そこには、ぽっかりと丸い月が浮かんでいた。
「覚えてるか?」
「なにを?」
「なんでも」
はぐらかすような言葉。
するりと、いつの間にか窓辺から部屋の中へに入っていた。
ゆっくりと、近づいてくる姿。
何かが、ブレる。
強烈な懐かしさと違和感。
白い手が持ち上がり、頬に触れる。
「思い出せよ」
震える声だった。
あまりにも、相手らしくない声。
泣いているのかと、錯覚してしまうほど。
「なあ、」
ぐいっと、近づく瞳、その色を間近で見たのは初めてのはずなのにひどく馴染んで見えた。
そのまま、顔は胸元に埋められ、肩を掴まれる。
少しだけ低い体温が、じんわりと侵食していく。
「俺が、俺である内に、思い出せよ」
掴まれた肩が軋むほどの力が込められる。
けれど、あまりにも、弱い。今にも倒れてしまいそうなほど震える体は縋っているようにすら見える。
「お前は、俺のなにを、知ってるんだ?」
問いながら、思わず震える体を抱きしめた。
鼓動と体温がよりいっそう近くなり、強烈な懐かしさが湧き上がる。
それでも、思い出せはしない。
彼が、何を求めているか理解できない。
一体、自分の欠落と彼はどう関係しているのか。
自分ではなく、なぜ、彼がここまで執着するのか。
「バクラ」
それなのに、愛しいと思う。
この体は借り物で、相手の体も借り物で。
記憶の無い心は、この想いさえ、本当かどうか曖昧だというのに。
「あんたと、」
搾り出すような声。
腕を振り払われ、突き飛ばされる。
「あんたと決着をつけるのは、俺だ。覚えときな」
ふらりっと、窓へと後ずさり、飛び降りた。
夢のような体温と感触がまだ体に残っている。それがなければ、夢だと寝てしまいそうなほど現実離れした、数分だった。
開いた窓から、夜風が入る。
「俺は、お前の何を知っているんだ」
消えていく温もりと共に、自分の体を抱く。
答える声は、どこにも響かなかった。
3000年後に王様が出なさ過ぎるので、自重めに王様を出してみました。
3000年後はとにかく王←バクだと確信しています。覚えてない王様に健気過ぎる!!
もしかしたら、さよなら白昼夢関係かもしれません。