※バクラがあらかさまな幼女です。  そして、王様が犯罪者チック(いつものこと)









































 未だ生々しい殺戮と惨劇の爪痕を残す廃墟に王は立っていた。
 そのまだ幼い眼差しは廃墟を厳しく睨みつけ、風に混じる血の匂いに悲しみを滲ませる。
 服の上から押さえた胸がかきむしられるように痛い。
 今、目に入るものは全て自分が止められなかった結果。
 視線を自分の胸にやれば、そこに光る金色が、まるで自分を責めているようで、目を伏せる。
 喉元までせりあがった謝罪の言葉を飲み込んだ。今、王にその言葉を口にする権利は無い。何も出来ず、ただ結果を聞くことしか出来なかった無力な王には。
 その時、不意に耳に小さな声が飛び込んだ。
 生き残りはいないと聞いたはずだった。しかも、その声は本当に、気のせいのようにもう聞こえてこない。
 だが、王は、思わず声の聞こえる方へと向かう。
 後ろで家臣たちが呼び止める声がするが、振り切り乾いた血のしみこんだ地面を踏み越え、壊れた扉に手をかけた。声はその奥から聞こえる。
 はっきりと聞こえるようになった声は微かな、今にも消えそうな弱々しいものだった。

「誰か、いるのか」

 王の言葉に、声が止まる。
 それでも、王は踏み込んだ。
 まだ片付けられていない死体と、血の匂いにむせ返りそうになりながらも、奥へと。


 そして、見つけた。


 小さく隠れるように縮こまって震える子どもの姿を。
 母らしき女のなきがらの傍らで、もう涙も喉も涸れ果て腫れた頬も痛々しく存在している。 
 この砂漠の国では珍しい白い髪に青い瞳、ただ、その黒ずんだ血が手や腕にこびりついた褐色の肌をみればこの国の生まれだとすぐわかった。
 年の頃ならばまだ5つにも満たぬだろう、あまりにも小さく華奢というにはあまりにも痩せすぎている。どうやら目に見える怪我はないようだが、かなり衰弱しているのが見てとれた。

「っ……!」

 王を見て、驚愕に目を見開いた。怯え、逃げようと立ち上がるが、足に力が入らないのか、すぐに座り込んでしまう。
 かける言葉が見つからず、王は一歩、子どもに近づいた。
 びくっと子どもはあからさまに体を跳ねさせた。首を左右に振り、くるなとでもいうように拒絶する。
 怖くて怖くてたまらない。そんな感情が言葉がなくとも伝わった。
 王は、足を止める。 
 どうすればこの子どもは落ち着くだろう。そう考えて、口を開いた。

「大丈夫だ」

 子どもがまた体を震わせる。
 見開かれた目が、零れそうに、引きつった小さな体は、今にも壊れてしまいそうだった。

「大丈夫だ」

 ひどく、優しい声で王は繰り返す。
 何度も、子どもが落ち着くまで、決して近づかず、声だけをかけ続けた。
 子どもの瞳が、恐怖ではなく疑問の色に、震えが少しだけ収まったとき、王はその場に座り、子どもと視線をあわせた。
 しっかりと、その瞳を見た。青い瞳と王の瞳がかち合う。
 ゆっくりと伸ばされた手は、ただただ純粋に。

「大丈夫だ。俺はお前を傷つけない」

 小さな手が、躊躇いながらも伸ばされた。
 何度も、この手に触れるべきかと迷いながら、距離が縮まる。
 指先が触れた瞬間、子どもの中で何かが崩れた。
 温かい、人の感触。冷たい骸でも血でも硬い床でもなく、人の感触。

「は、ぅっ……」

 大きく、息を吸う。
 まるで、何年も息をしていなかったのかのように。

「っぁ、く……っぁ」

 大きく開かれた目は、王を見ている。
 伸ばされた手は、しっかりと王の指を握り、力の入らない足を引きずって、縋りついた。
 王はその子どもの体を引き寄せて抱きしめた。強く震えながらも、必死に服にしがみつく。ぐりぐりと存在を確かめるように、顔を埋め、言葉にならない声を張り上げる。

「こぁ、かっぁ!!」

 その背を何度も撫でながら、王は子どもの体をしっかりと抱き上げた。
 怯えるように子どもの体が震えたが、握った手は決して離すものかと力がこもる。

「大丈夫だ」

 もう一度、耳元で囁けば肩に顔を埋めてしゃくりあげた。
 遠くで、家臣たちが王を探す声がした。
 その声にすら怯える子どもの背を軽く叩いて宥めると、歩き出す。
 家臣の声に答えながら、壊れた扉をもう一度開けた。
 眩しい太陽の下、子どもが顔を上げ、目を細める。
 そして、明るい下で初めて王の顔をしっかりと見た。
 王は、笑う。
 安心させるような、力強い笑みだった。
 子どもは、その笑顔をじっと見、そして王の首に再びしがみつく。
 そこにはやっと、やっと安心しきった子どもの表情があった。





 こうして、加害者たる王と、被害者たる子どもはであった。
 それがどんな運命で、どんな物語を作るのか、誰も知らずに。





「………」

 王は、ひたすら文字の書かれた粘土板に目を通す。
 机の上のカゴに山となった粘土板はいくら目を通しても減る様子はなく、王の顔には疲労と笑みが浮かぶ。
 別に、楽しい話が彫ってあったわけではない。疲れすぎて頭のねじが少し緩んでいるのだ。
 そして、唇が小さく開き、そこからどう考えても壊れた笑い声が漏れる。

「…………ふふふふふふふふふ」
「王」

 その声をとめたのは、傍らで同じように粘土板に目を通す青年だった。
 王の少年然とした容姿とは間逆、成熟した怜悧な美貌に見合った冷たい声は王の笑い声を打ち消す。

「おもしろい話でも書かれていましたか?」
「……書いてあったなら、いいんだがな……書いてないから笑ってるぜ……」

 今度はははははっとあからさまに笑い声を振りまき始める王に、青年は一枚の粘土板を差し出す。
 覗きこんだ王に、青年はさらりと言った。

「ああ、ここに誤字が、おもしろいですよ」
「セト……」
「なんでしょう?」

 王は、真剣な瞳を向ける。
 そうすれば、青年も家臣としてしっかりと向き合った。
 ただし、その表情は妙にうんざりしている。
 構わず、王は真剣な表情そのままで口を開いた。


「バクラに会いたいです……あわせてください……」


 青年は、それをしっかりと聞いた。
 しっかりと聞いて、首を即座に横に振る。

「だめです」
「そっそこをなんとか!!」

 王であることを投げ出して青年に縋りつく。
 恥も外聞も無く涙目の王が見上げるが、青年は素早く手を払って山となった粘土板を指差す。

「こんなに仕事が溜まったのは、どうしてですか……」
「うっ……!!」
「王が毎日きちんとお役目を果たしてくだされば、これほどたまりません」
「ぐっ……!!」
「王が毎日きちんとお役目を果たしてくだされば、私は何も文句は言いません」
「うぐ……」
「それなのに、どうしてこうも仕事を溜め、私めに文句を言わせるのですか……?」
「…………そっそれはそのだな……」

 青年がジロリと王を睨む。
 王は目を泳がせてあーっやうーっと虚空を見つめた。
 大きく、溜息。
 そして、息を吸う。


「貴方が拾い子にうつつを抜かして遊び呆けていたからでしょう!!」


 怒声に、思わず王が耳を塞いだ。
 しかし、青年の言葉は続く。

「拾い子がかわいいのはわかります!!
 貴方の責任や義務や贖罪もわかります、ですが、それだけが貴方の仕事ではないでしょう!!
 たった一人の拾い子のことだけではなく、この国中の民の為にも働いてください!!」
「うぐぐぐぐ……」
「本当に、この調子だと……拾い子と隔離させていただきますよ」
「そっそれだけは!!」

 勘弁してくれっと王は椅子を跳ね飛ばす勢いで立ち上がる。
 王の威厳はどこにもなく、今にも青年のその足にすがりつきそうだった。
 そんな王を冷たく見ながら、やれやれと首を左右に振る。

「なら、どうか貴方のお役目を全うしてください。そうすれば私は貴方様に申し上げることはございません」

 王はぐずぐずと椅子を立てると、粘土板と再び向き合う。
 なんとか一つ一つ目を通しながら、ふと、顔をあげた。
 それは、予感。
 同じ予感を青年も感じたのだろう、顔をあげる。

「ぁ……」

 ぱちっと、低い目線で目があった。
 入口の壁に隠れるように、白い髪と青い瞳が半分だけ見えている。
 気まずそうに、少し俯くが、それでももう一度目線をあげた。

「お、とぅ、しゃま……いそがし?」

 そう呟いたのは、少女、否まだ少女にも満たない子どもだった。
 柔らかな白い髪に大きめの青い瞳、子ども特有の思わずつつきたくなるほど柔らかそうな頬を持つ大きな頭に、細い首、まだころころと転がった方が早そうなくびれのない未発達な手足は抱きしめたいほど愛らしい。
 それだけならばまだ少女というよりも少年のようだが、少しだけ伸ばされた髪が肩にかかっているため、少女だと示していた。
 そんな子どもが、舌ったらずに聞くものだから、青年の表情も思わず緩み、次の瞬間はっと強張る。 
 青年が、王をいさめようと振り向いたときには遅かった。
 そこには、主なき椅子と机と散らばる粘土板しかない。
 視線を少女に戻せば、息も荒く少女を抱き上げる王がいた。

「忙しくないぞ!!」
「ほんと?」
「王!!」

 青年の大声に少女はひくっと顔をひきつらせた。
 ぎゅうっと王の服にしがみつき、怯えた瞳で青年を見る。

「セト……」

 王が、責めるような目で青年を見た。
 その視線の強さと少女の怯えに、思わず青年は自分が悪いことをした気分に陥る。 
 だが、自分は悪いことをしていない。王の職務放棄を叱っているだけなのだと気を持ち直す。

「王……困ります」

 静かな声に、王もさすがにすまなそうな顔をする。けれど、見逃してくれとでも言うように軽く頭を下げた。
 けれど、青年は冷徹な目でそれを拒否する。まだ、王にやってもらいたいことの半分も終わっていないのだ。せめて、半分でもこなしてもらわないと。
 そんな二人を見て、少女が不安そうな瞳で王を見た。そして、同じ瞳で青年を見る。

「ば、ばくらじゃま……?」

 今にも、泣きそうな声。
 王の視線にはいくらでも冷たくなれるものの、そんな子どもの声と視線には勝てない。

「…………」
「セト……」
「せとしゃま……」

 真摯な瞳が、突き刺さる。
 青年はぎりぎりと歯噛みした。
 短い、けれど長く感じる沈黙。

「今日は徹夜していただきますからね……」

 ぱあっと王の顔が明るくなったのを見て、少女の顔も明るく輝いた。
 嬉しそうに笑って王にしがみつきなおすのに、やれやれと青年はまた溜息をつく。
 けれど、ここにきたばかりのときは泣いてばかりいた少女が笑うようになったことに、少しだけ笑みを漏らした。
  
「バクラ、遊ぶか」
「はい、おとうしゃま」

 おとうしゃま。
 その言葉に改めてじーんっと王は体を震わせる。
 あの日、王が少女を拾ってから色々なことがあった。
 少女を適当な家に預けようとした家臣たちの意見を跳ね除け、王は自分の責任と罪のために、少女を自分の手元においたのだ。
 だが、心を許したように見えた少女は、惨劇のショックが大きかったのだろ始終泣き叫び、暴れ、怯え狂った。それこそ本当に王にしか近づかず、世話係の女官や、特に、兵士たちへの怯えは凄まじく、王宮という兵士が絶対に必要な場所では無理だとすら思われた。
 それでも、王は必死に少女を宥め、癒した。少しづつ、少しづつ強張りをとり、光へと導き続けた。
 殺された親代わりに、父になるとまで宣言して。

「おとうしゃま」
 
 だが、ふと、笑うようになった少女を見て王は思うことがある。
 あるいは、そのふっくらした頬に触れた時、またあるいは小さな手でしがみついてきたとき。


「だいすき」


 あるいは、そう言ってぷにっとした唇で頬に口付けたとき。
 思わず、頭を過ぎる。





(お嫁さんにしたい……!!)





「王、何をお考えですか」

 青年の、突き刺さるほど鋭い視線が、王に向けられた。
 明らかに、不穏な考えを読み取っているようにしか見えない。

「ななななななにも!!」
「…………」
「とうしゃまぁ?」
「うわー!! そんな目で見るな!!」



 ついにやりました盗賊幼女。この犯罪者め。
 やりすぎなくらいバクラを幼くしてみました★
 クル・エルナの惨劇で一人取り残されたバクラを、王様が拾って父親代わりに育てる、そんな話です。
 でも、なんだかまだ続きそうな感じに……なにかあれば続きも書くかもしれませんが、今の所、王様ロリコン説で。
 しかし、最近エロいことばっかりしていたので、幼女にいやらしいことをさせたかっt(撲殺)
 王様にデレデレな子バクもかわいいですよね。
 とりあえず、セト様、がんばれ……。



inserted by FC2 system