セトという青年の朝は早い。
 ただし、目覚めは限りなく遅い。
 なぜなら、彼が自力で起き上がったからと言って、その瞳はまだ開いてすらいないからだ。
 ぼんやりと夢と現の狭間を彷徨いながら、覚醒を待つ。
 それが低血圧なセトのいつもの朝。
 静かな、時間の流れを忘れるようなまどろみがセトは好きだった。
 例え、それがすぐ打ち破られるものであっても。 


「セトー!!」


 バンっと近所迷惑なほど強く扉が開き、そこから飛び込んできたのはセトの幼馴染であるエルナだった。
 エルナは、いつもながら過剰なまでに短いスカートと露出の多すぎる服に顔の右半分を包帯とガーゼで覆っている姿で、ベットの、正確にはセトの膝の上に寝転ぶ。
 いつもならばここでセトがエルナを叩くなり叱るなりするのだが、うっすらと瞼が開き、印象的な青い瞳を見せるだけに止まった。 
 幼馴染たるエルナは知っているが、セトのこの朝の弱さというのは筋金いりで、起き上がっただけでは、目が開いた程度では完全にセトの思考は動いていない。ゆえに、いつもならば、はこの時間には適用されないのだ。
 だからこそ、エルナはいつもならば決して味わえない膝の上を堪能し、猫のように身を丸める。
 このまま布団にもぐりこみ寝てしまいたい衝動に駆られたが、それをぐっと押さえ、体を起した。
 そして、膝の上に座りなおすと少し俯きがちのセトの瞳を覗き込む。
 焦点があっていないものの、それはセトの怜悧なまでに端正な顔立ちを妨げはしない。
 ぐっと、エルナはセトに顔を近づける。
 鼻と鼻がぶつかりそうな、吐息すら肌に感じられる距離。
 エルナはうっとりと目を細めるとすくうようにセトと唇を重ねる。
 触れるだけのものだったが、腕を首に絡め、何度も繰り返す。
 時折、誘うように唇を舐めたり、頬に変えたりと変化をつけながら、嬉しそうに笑った。
 だが、まだいまいち覚醒していないセトは、瞬きをしたり、少しだけ体に力をいれるだけで叱ることも拒むこともない。
 満足したのか、首に腕を絡めたままエルナはその肩に顔を埋める。体を押し付けるようにぎゅうっと抱きしめ、男としては長い方であるセトの髪にジャレるように頬ずりをする。
 まだ成長の余地のある体は柔らかく、その仕草は愛らしいものだった。けれど、叱ることも拒むこともない代わりに、それに反応することも受けいれることもない。
 それに構わず、せっかく起き上がった体を押し倒し、服が乱れ、スカートがまくりあがるのも気にせず、エルナはセトにすりよった。
 その途中で、ふと、エルナは顔をあげる。
 いくらセトが朝に弱いからといって、そろそろ覚醒してもおかしくない時間だった。
 それなのに、まだぼんやりと虚空を見つめるセトに、ベットを見回す。そして、床に分厚そうな本が落ちていることで納得した。
 恐らく、それを読みふけり遅くまでおきていたのだろう。規則正しい体は時間通りに起き上がったものの、意識はまだ眠りを欲している。
 ぺたりと顎をセトの胸にくっつけ、エルナは考える。まだ、セトが起きないならば、何をするか。
 しばらく考えて、ニヤリと笑った。
 もしもセトがきちんと覚醒していれば、嫌な予感に背筋を震わせていただろう。
 するっと、エルナはセトの上にかけられたフトンをはぎ、体を下にはいずらせる。
 鍛えられた腹筋をなぞり、更にその下に手を伸ばす。
 ズボン越しに、朝だからこそ硬い感触に触れた。
 ワクワクと、好奇心に満ち溢れた瞳でそこを見つめ、ズボンのチャックを下ろす。
 下着越しに持ち上がったそこを指先で形を確かめるように握る。
 硬く太い感触。
 エルナの褐色の肌が淡く色づいた。

「セト」

 声をかける。
 けれど、応える声は無い。
 だからこそ、エルナはいっそ大胆に下着をはぎ、ソレを大気に晒す。

「相変わらず……」

 手の中の脈動、熱さ、感触に背筋を震わせた。
 両手で握っても余るサイズに、どこか嬉しそうに呟くとその指でこすりあげる。
 セトが、微かに呻き、顔を歪めた。
 手の動きを続ける内に透明なぬるりとした液体が滲み、手を滑りよく汚す。
 とろりとした瞳のまま、エルナはその先端に口を近づけた。
 口の中に唾液を溜め、まずは口付ける。
 柔らかい唇がゆるゆると口内にソレを咥えこみ、舌がちろちろとくびれや竿の部分をくすぐった。

「ん、」

 はふっと、苦しそうに息を吸い、吐く。
 口の中が熱い。
 少女としては大き目の口をエルナは持っていたが、それでも半分ほどしか入らない。
 それでも喉奥まで咥えこみ、音をたてて吸い上げる。
 激しい刺激に、さすがに瞳に覚醒の色が宿った。
 それを知ってか知らずか、エルナは夢中でミルクを飲む子猫のように舐め、吸い、あるいは口を一度離して唇や舌、手で愛撫する。
 すっかり唾液で塗れたソレは、絶頂が近いのか、熱く脈打っていた。
 ちゅうっと音をたてて吸い付きながら、エルナはもじっと足を動かす。
 舐めているだけで、下半身が疼く。

「んぐ、は、ぁ……んん……はむ……」
(セト……おきねえかな……。触って欲しいな……)

 そんなことを考えながらも、舌で先端をぐりぐりといじりまわす。


「……っ」


 ぼんやりと、あくまでぼんやりと、セトは周囲を見た。
 白い天井、動く手、しかし、足が重く、そして下半身に違和感。
 夢の中ではないと何度か拳を握り確認すると、耳になんとも複雑な水音が響く。
 それらをすぐさま優秀な頭脳は噛み砕き、理解する。

「!?」

 勢いよく起き上がり、見下ろした先、そこにはエルナがいる。
 しかも、自分のモノを嬉々として舐めあげ、握っている。
 そして、起き上がったセト「あ」っと言うような顔をしたかと思うと打席とそれ以外の液体に塗れた顔で笑う。

「おはよ、セト」

 あまりにも、普通の挨拶。
 一瞬、セトは開いた口を閉じる。
 そして、頭を抱えてありとあらゆる罵声と怒りをコントロールした。
 挨拶を返さないセトに、エルナは手の動きを再開する。

「……なにを、している」
「ふぇら」
「黙れ」
「セトが聞いたんじゃん」
「聞いたとか、そういう以前の問題だ……」

 頭痛にこめかみをおさえ、歯を食いしばる。
 相変わらず自分のモノを握ったまま離さないエルナをどうしていいかわからない。
 エルナの突拍子のない行動には慣れたつもりだったが、さすがにこれは意外過ぎた。
 ただでさえ起きぬけは働きにくい頭が思考停止しそうになる。

「とりあえず、ソレを離せ」
「それって?」

 わざと言っているとしか思えない笑みで言う。
 頬をよせ、愛しそうにすりよりながら、きゅうっと握った。

「っ……とりあえず、起き上がれ、俺のモノから手を離せ、それから、顔を拭け」
「なんで?」

 もうすぐ、イクだろ?
 握った手を絞るように上下させる。
 セトは顔を歪め、その白い頭を叩いた。痛くはないがエルナは唇を尖らせる。
 とりあえず、手を残念そうに離すと、一つだけの瞳で見上げた。

「セトーしようぜー」
「せん」
「なんでだよ」
「なぜすると思っているか俺が聞きたい」
「だって、セトも俺様ももうばっちり準備完了だろ? しようぜー」

 にゅるりと指を絡める。
 それを抑えるために腕を掴むが、すると唇を下ろし、口に含む。
 その後ろ頭を殴りつければ、ごぼっと喉奥を突き、お互いにとって苦しいことになった。

「げほっ……がっ……せ、と……ちょっと積極的す、ぎ」
「なぜそうなるのかお前の思考回路を一度見てみたい」
「え、俺様の全部見たいの? しかたねえな……」

 まったく話がかみ合っておらず、エルナは楽しそうに上着のボタンを外していく。
 よく見ると、その上着の下はすぐ黒い下着が覗き、それなりに成長した柔らかな膨らみが詰まっている。

「脱ぐな!!」
「なんでだよ!!」
「……たまに、貴様と同一の言語で話しているのかわからなくなる……!」

 とにかく、体を離さそうとするが、エルナは抵抗する。

「ここまでやったんだからいいだろ!!」
「貴様が勝手にやったんだろ!!」
「じゃあ、最後までやらせろ!! 後、ついでに俺様もやろうぜ!!」
「黙れ!!」

 しばらくもめにもめたが、最終的にセトが折れた。
 かなり不服そうだが、諦めきった目で、エルナを見下ろす。
 エルナは許可が出たせいか、ご機嫌で咥え直した。
 元々、限界が近かったのだろう、セトは顔を歪め、荒い息とともに声を漏らす。
 その声が、表情がエルナの体を火照らせ、舌の動きを激しくする。
 
「はぁ……ん、んむぅ……」

 荒々しい舌づかいに、追い詰められ、セトはエルナの体を揺する。
 それは、出すというサインであったが、エルナは更に激しく吸い付くだけで一向にのく気配はない。
 慌てて肩を抑えるが、はぐりっと、エルナが軽く噛み付いた。
 ぞくりっと、背筋に快楽が走り、セトは思わずエルナの口内に白濁を吐き出した。

「ん、ぐう……!」

 苦しそうにうめくものの、エルナは口を離さず、ごくりっと飲み込む。

「エルナ!!」

 叱るような声に、エルナは残ったものまで飲み干すと唇を舐める。
 それは、長い付き合いであるセトすらぞくりとするような艶やかな仕草。

「セト、のあじぃ……」

 甘い、甘い声だった。
 嬉しそうに吐息を漏らし、汚れた手を舐める。
 ちろりと赤い唇から覗く赤い舌が恐ろしく妖しい色気を放ち、セトの目をくらませた。
 セトは、一瞬だけ、エルナを見失う。本当に、今、目の前の相手が幼馴染か疑ってしまった。

「セト?」
「……エルナ」
「なんだよ?」

 セトは、確かめるようにエルナに触れる。
 エルナは不思議そうな顔をしながらも、抵抗はしない。

「……エルナ」
「?」
「とりあえず、顔を拭け」

 顎を伝う白い液体を拭う。
 べとりと手が汚れて不快だったが、エルナをそのままにしておくわけにもいかず、手近なタオルを掴むとおしつけた。
 顔を拭きながらも、エルナは物欲しげな瞳でセトを見つめる。
 乱れた服の狭間から柔らかな体が覗いていた。

「な、セト……」
「エルナ」

 言葉を制するようにセトが先に口を開く。

「シャワーを、浴びる」

 エルナの顔があからさまに不機嫌そうに歪んだ。
 足にぐりっと、体をこすりつけ、不満を訴えるが、セトは肩を掴んで足からどけた。
 そして、少し躊躇うように、目をそらして、呟く。



「一緒に、入るか……?」



 途端にエルナの顔が輝いた。
 ベットから素早く降りると、何度も首を縦に振る。
 そのあまりにも嬉しそうな様に、セトは頭を抱えながらも、自分もベットから降りた。

「あっそうだセト」
「?」
「おはよ」

 言われて、返さなかった言葉。
 セトは、小さく溜息をつく。

「おはよう、エルナ」





「あら、セト、エルナちゃん、お風呂はいったの?
 汚れちゃったの?」
「ああ、おば様、汚れちゃったんじゃなくて汚れるから風呂d」

 セトは、しっかりとエルナの口を塞ぎ、部屋に叩き込んだ。



 やっと、起き抜けを襲うエルナたんが書けました!!
 セトは超低血圧で朝に弱すぎると思います。
 おきたくてもおきれないみたいな。
 ほっといたら昼まで寝てそうです。おきますが。
 ずっと、バクラにするか、エルナたんにするか迷っていたのですが、セトエルの声に応えてセトエルに。
 セト様も、男の子ですから、朝は元気になっちゃいますしね、エルナたんの色香に血迷ってもしかたないわけで。
 ああ、ぱいずrし忘れた……残念だ……残念だ……。

 ちなみに、ファム・ファタルは運命の女とか、男を破滅させる女をさします。
 カルメンとか、サロメとか、その辺りが有名ですね!



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