※またひどいことしてます。
 ちょっとグロいです。
 宿主様も精神的にいじめられてます。


















































「バクラに、なにやってるのさ」

 バクラの首を絞めているそいつを見て、僕は言った。
 そいつは、僕の怒りを含んだ声に驚いたのか、きょとんっとした顔で僕を見る。
 けど、苦しそうなバクラの首からは手を離さない。どころか、さっきよりも強く首を締め上げる。
 バクラは涙を零しながら、真っ青な顔で僕を見ていた。そして、上手く動けないだろうにやめろって言うみたいに手を振る。
 ああ、やめることなんてできるものか。口出しせずにはいられない。
 睨み付けたそいつは、今日は僕が見る中でも一番多い、海馬くんに似た、でも身長も表情も肌の色も雰囲気も全然違う姿をしている。
 いつか、それが「バクラの望む姿」だと聞いたけれど、本当かはわからない。
 
「もしや、それは余に言っているのか? 宿主様」

 わざとらしい、信じられないというような表情。
 けれど、その奥には確かに、嘲笑うような色が見えている。
 ひどく苛立ちながら僕は更に睨みつけた。

「そうだよ。いったい、バクラになにしてるの……」
「見て、わからぬか」
「そういうことを聞いてるんじゃない!! どうして君はバクラの首を絞めてるの!?」 
「珍しくここまで潜ってきたかと思えば、これは異な事を聞く。
 どうして、どうしてか……どのような理由を言えば、宿主様は納得してくれるだろうか、なあ?」

 そいつはバクラに問いかける。
 なんとか口を開くけれど、バクラは喉を抑えられているせいで喋れず、結局諦めたように口を閉じた。
 僕をもう一度見て、自由にならない首をなんとか小さく振る。
 次の瞬間、ごきっと、すごく嫌な音がした。咄嗟に耳が塞げない。
 だらんっと、バクラの体から力が抜けて、虚ろな双眸が、僕を写さない。不自然なほど曲がった首が、生々しく気持ち悪い。

「おや、返事をしないから、つい折ってしまった」

 まあ、すぐに直せるがな。
 バクラの首が不気味に蠢いたかと思うと瞳に色が戻り、引きつった表情がくしゃくしゃと歪んだ。
 苦しそうに、苦しそうに、それでも、諦めたように。 

「意味もなく、バクラを傷つけるな……!」
「では、意味があればいいのか?」
「違う!!」
「では、宿主様は余になにを望んでおられる?」

 怒鳴りかけて、やめる。
 そんなことをしても、こいつを喜ばすだけにしかならない。
 一度落ち着こうと深呼吸。
 この、心の部屋では、心の強さと覚悟、冷静さが武器にも盾にもなるのだから。
 動揺して翻弄されるなんて、弱さをさらけ出すことにしかならない。
 改めて睨みつけ、静かに告げた。

「その手を、離せ」

 見せ付けるような困った顔をして、手を離す。
 バクラの体が重力にしたがって人形のように叩き付けられ、ゴホゴホと首を押さえて咳き込んだ。
 痙攣しながら、バクラの視線は伺うようにそいつに向けられる。びくびくと震える様子にいつものふてぶてしさも、悪さもそこには存在しない。
 なんで、抵抗しないんだと、いつもみたいに、口なりなんなりだせばいいのに。
 無意識に苛立って拳を握る。

「バクラを、傷つけるな」
「なぜ?」
「なぜって……」
「余が、自分の所有物をどうしようと勝手であろう?」
「バクラは、お前の所有物じゃない!!」
「いいや、余の所有物だ」

 転がるバクラの顔を、つっつくように軽く蹴った。
 するとバクラはよろっと起き上がり、その足を恭しく両手で持ち上げる。
 眩暈。
 これ以上見てはいけない。
 そう、思うのに。

「舐めろ」

 ただ、その一言に、なんの迷いも躊躇いもなく、バクラは薄い唇を開いた。
 赤い、蒼白の顔に対して赤すぎる舌が覗き、褐色の足をちろりと舐める。
 倒れそうになりながらも、視線を外せない。
 それが、あの憎らしいやつのせいなのか、自分の意思なのかわからない。
 妙に淫靡にバクラは自分の唇を舐めて湿らせると、首を傾げて、ゆるゆると舌を這わせた。
 一切守るもののない足を、少しづつ、形を確かめるように、丁寧に、爪の形をなぞっていく。
 闇の中、艶やかに光る唾液が、目に痛い。
 少しでも、バクラの顔が嫌がっていれば、苦しげであれば、何か叫べたのに。やめろっと、そいつに殴りかかったってよかったのに。
 でも、バクラ笑っていた。
 嬉しそうに、うっとりと。もう、僕なんか見てない。
 それを、そいつは楽しそうに見下ろしている。当然のように、偉そうに。
 気づけば、僕は震えていた。なぜかはわからないけど、がくがく震えて、視界がどんどん滲んでいく。
 口を挟むことなんて、できなかった。動く事なんて、できなかった。
 何かをするには、あまりにも、歪な完結した空気が、辺りを漂っている。

(やめて)

 もう、やめて。
 見せないで。見せ付けないで。
 こんなの、嫌だ。見たくない。理解したくない。
 狂ってる。

「やめて……」

 気づけば、唇が動いていた。
 意味のない音が吐き出される。
 そいつは、すっとこっちを見て、にぃっといやらしく笑った。
 むかつく。
 どうしようもない怒りが、衝動が湧き上がった。
 それでも目をそらせないでいると、そいつはいきなり足を引く。
 バクラが少し舌を突き出したまま問うように見上げる。

 がちり。
 
「!!」

 その顎を、ゾークは蹴り上げた。
 歯と歯がぶつかりあう音が静かな空間に響く。
 赤い。
 赤い舌が、落ちる。
 口を抑えたバクラは、目を見開いて床の上の赤い舌を見ていた。
 抑え切れなかった血が、バクラの輪郭を伝う。

「ゾークッ!!」

 呪縛が解けたかのような感覚。
 衝動的に叫べば、そいつは僕の反応を嘲笑うように呟いた。

「宿主様の機嫌を損ねた」

 今度は、きちんと理由をつけたぞ。
 そう、言外に告げながら、床の上に落ちた赤い舌を持ち上げる。

「口を開けろ」

 血まみれの唇をバクラは開く。
 そこに赤い舌を戻すのかと思えば、違った。
 指を突きいれ、まだどろどろと血を流すその断面を、爪で抉ったのだ。
 なんの意味もなさそうに、ぐちゃりぐちゃりと。

「―――っ!?」

 バクラは、叫びそうになりながら、口を閉じそうになりながらも、必死に口を開いている。
 そいつの形だけは良い指を噛まないように、必死に。

「やめろ!!」

 僕の声に、なぜか素直に血まみれの指を抜き、今度は想像どおり舌を戻す。
 すると、あれほど溢れていた血は、バクラがちろりと舐めると消えてしまう。
 うまく立っていることすらできず、座り込む。
 いったい、こいつは、この邪神は何がしたいんだ。 
 意味を込めて睨みつけると、そいつは、なぜか納得したような顔をした。

「ああ、そうか」

 笑う。


「宿主様は、コレに欲情しているのだな?」


 何を。
 何を言っているのか、わからない。
 なんでそういう結論になったか、理解できない。
 理解なんか、したくない。

「それなら、怒鳴られても仕方が無いな」
「ち、がう」
「なにがだ?
 自分が欲情している相手を、傷つけられれば、怒ることも当然だと、余は言っている」
「違う……」

 違う違う違う違う、違う、僕は、バクラを。

「ああ、それとも、自分より先に傷つけられたことを怒っているのか?
 意外と独占欲が強いのだな……ふむ、ならば宿主様の前で所有物扱いしたのは、少々いじわるだったか」

 バクラを。

「宿主様、別に恥じる必要は無い。人は、そういう生き物なのだから」
「僕は!!」
「どうした?」
「僕は、バクラを、バクラを大切にしたいんだ!!」
「大切?」

 不思議そうな顔。
 まったく、納得できない。いや、そもそもわからないという表情。
 それは、次の瞬間には嘲笑へと変わる。



「嘘をつくな」



 動こうとしたバクラが跳ね飛ばされる。
 軽く、叩いたような動作だったのに、それだけでバクラの体は簡単に壁に叩きつけらた。
 邪神の赤い瞳に、僕が写っている。
 ゆらっと、邪神が揺れた。
 
「宿主様」

 声音が変わる。

「余は、知っているのだぞ」

 骨格が、変わる。

「以前言ったが、この姿はアレの望みを叶えた姿だ。
 だがな……余の感情は、衝動は、感覚は、アレと、宿主様、お前を基本にしている」

 その顔が、僕になる。
 同じ顔だけど、消してバクラの顔じゃない。
 僕の、顔。

「余のバクラへの感情は、余のバクラへの衝動は、余のバクラへの感覚は、宿主様。
 貴方の望みなのだ」
「嘘だ」
「なぜ?」
「嘘だ。そんなわけ……」
「なぜ、嘘という?」

 僕と同じ顔が笑う。
 僕を責める。

「考えたことがあるのだろ、宿主様。
 バクラを傷つけたいと、バクラを苦しめたいと、バクラを、犯したいと。
 アレは特に人の嗜虐心を煽るからな……それに、宿主様も、散々アレに傷つけられた……復讐を願っても、おかしくはない」

 だから、余は、そうしている。
 宿主様、これは全て、お前の、望み。
 手が、伸びてくる。
 僕の手だ。
 バクラを傷つけた、僕の手。
 この手で、僕が。



「やめろ!!」



 叫んだのは、僕じゃなかった。
 僕は、僕たちは、視線をそっちに向ける。

「宿主様に、手……だすんじゃねえ……」

 壁に叩きつけられたバクラが、僕たちを見ていた。
 泣きそうに、睨みつけて。
 震えながら、怯えながらも、立ち上がる。
 抱きしめて、あげたいと思った。
 傷ついて、ボロボロの体を、そう、僕は、バクラを、大切にしたい。
 傷つけたくなんか、ない。
 傷つけられても、あんな、あんな姿を見て、傷つけたいなんて、思うものか。
 あんなに、震えているのに、僕のために声を荒げてくれるのに。

「バクラ……」

 僕が呼べば、そいつの体がまた揺れた。
 僕ではなく、バクラの望む、少年の姿へと戻っていく。

「興が反れた」

 そう呟いて、少年の姿すら闇へと消える。
 僕は、立ち上がった。
 バクラに向けて走って、倒れそうな体を抱きしめる。

「ごめん……」
「なんで宿主様が謝るんだよ」
「いいから、ごめん」 

 バクラは、もう、ここまで潜ってくるなと言った。
 だけど、たぶん、僕はまたきてしまうだろう。
 だって、僕は、バクラを大切にしたいのだから。

 



「随分と、宿主様に甘いことだ」

 闇が、少年を包むように蠢いた。
 少年は不機嫌そうに顔を歪め、闇を睨みつける。

「うるせえ……宿主様には手を出さない、つったのになにしようとしたんだ」
「していないだろ……? 余はお前の望みどおり、殴りも蹴りも傷つけもしなかった」
「そうじゃねえよ……つーか、嘘つきはあんただろ」
「なんのことだ?」
「あんたは、宿主様のなにもわかってない。
 そりゃ、俺様と宿主様を基本にしたんだからそれなりにわかることもあるだろうけど……俺様の全てがわかっても、宿主様の全てはお前はわからない。
 宿主様は、お前の物じゃない」
「………」
「宿主様だって人間だからよ。俺がやったことやり返したいくらい思うだろうけど、他の感情をあんたに否定される筋合いはない」
「本当に、宿主様に、甘いな」
「俺様は、宿主様が大事なんだよ」
「それは、欲情とどう違うのだ。支配欲や、独占欲とどう違う」
「あんたには、一生わかんねーよ」

 神に、人はわからない。



 宿主様は、バクラが大事で、バクラは宿主様が大事。
 そこを読み取っていただけると嬉しいです。
 最初は、宿主様の姿でバクラにエロいことをするゾークを考えていたのですが、収拾がつかなかったので急遽ただのいじめっこゾークに。
 今回は少し血と、バクラのM要素を混ぜてみました。子セト様の足をうっとり舐めるバクラって、最高じゃないですか。私だけ最高です。
 キャラ固め中なので、多少ゾークは性格とか微妙に違うかもしれません……が、気のせいにしていただけると嬉しいです。

 とりあえず、ゾークは負の感情が大好きなので、正の感情は理解できません。
 そして、人を完全に理解することも、神ゆえにできません。 
 知っているというのは嘘です。後、望みというのも嘘。いじめるのはただの邪神の性で、まあ、趣味です。その証拠に、序盤は全然わかってません。
 でも、バクラと宿主様をベースにしているので、あながち全てが嘘じゃない。そんなややこしさ。
 肉体的な暴力は振るわないとバクラと約束していますが、精神的にはいじめまくり。そんな酷いやつ。
 まあ、純粋な悪ゆえに、精神が子供に近いともいえます。つまるところ、虫の羽を無意味に千切るような。



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