「遊戯君、一緒にお弁当食べよう」

 そう、声をかけてきた友人に、少年は笑顔で答える。
 そして、いつも通りに他の友人たちにも声をかけようとした時、肩をつかまれた。

「二人だけで、食べよう?」

 いつもの笑顔。
 それでも、どこか困ったような色を見つけてしまい、少年は頷く。
 こっそりとカバンから弁当を取り出すと他の友人たちに見つからないよう教室を抜け出した。
 目の前の友人は、楽しそうに、嬉しそうに少年の手を握ると何所に行こうかと聞いてくる。
 屋上や食堂なら、なんとなく探しにきた友人たちに見つかってしまうだろう。
 思案しながら歩いているといつの間にか体育館裏へと導かれていた。

「ちょっと景色は悪いけど、滅多に人がこないよね」

 どことなくはしゃいでいるように見える少年はなんだか珍しい。
 確かに、いつも楽しそうに見えてはいるが、こんな風に子どものように他愛も無く笑っているのはあまりない。
 きっと、他愛もない笑みを浮かべられない境遇が、あったのだろう。
 そう、友人は、この世でたった一人、少年と同じモノを内に秘めているのだから。

「じゃあ、食べようか」

 適当に見つけてきたブロックを椅子に、膝を机に弁当を広げた。
 そこで、やっと気づく。

「今日、お弁当なんだ……」

 一人暮らしである友人は、あまりお弁当を持ってくることが少ない。
 たいがい食堂かパンで済ませてしまうのだ。

「うん」
「美味しそうだね。獏良くん、料理上手だったんだ」

 そう言って覗き込んだお弁当には、それなりに色鮮やかな、どことなく肉類の多いオカズが詰まっていた。

「ううん」

 否定。
 首を傾げる少年を前に、友人は一つ卵焼きをつまむ。

「僕、料理は苦手だよ」
「え、でも」
「家でも、ほとんど作らないかな? めんどうだし」

 一口齧り、甘いと笑う。

「でも、お弁当……もらったの?」
「ううん」

 また、否定。

「僕、知らない人が作ったお弁当なんて、気持ち悪くて食べられないよ」

 今度は、なにかのフライを齧り、トンカツだっと笑う。

「家族の人が、きてたの?」
「ううん。両親には、しばらく会ってもないかな? 電話はしてるけど」
「じゃあ、どうしたの?」

 そんなの、決まってると友人は笑った。

「朝起きたら、できてたんだ」

 ごくごく、当たり前のように。
 何の不思議もないかのように告げる。
 それが、常人であれば必ず、違和感を、あるいは恐怖を覚えることと知らないかのように。

「あっだめだめ、こうやって僕だけが食べちゃ」

 ぱくぱくと離しながらそれなりのスピードで食べていた友人はしまったと箸を止める。

「遊戯君も、どうぞ」

 そう言って、焼き魚を広げた弁当の上におく。

「え、いいの」 
「いいんだよ」
「あっじゃあ、僕も」

 冷凍食品だろうキレイな形のしゅうまいを渡すとありがとうと微笑む。
 少年は、お弁当のことについてどう言っていいかわからず、自分の弁当に箸をつけた。
 考え事のせいか味がうまくわからないお弁当を食べ進みながら、無邪気な話題を振ってくる友人に答える。
 そして、見かけよりも大食漢な友人はそれなりの大きさのお弁当を少年が半分食べる間にほとんどたいらげた。
 ただ、最後に、隅にぽつんっと残った、ぱっと見て何かわからない食べ物を箸でつまむと、焼き魚のように遊戯の弁当に置いた。

「あげる」
「いいの?」
「うん、これだけは、遊戯君のだから」

 そう、あっさりと告げた。
 当然のように、弁当を片付けながら何度も頷く。

「『遊戯君』のために作られたんだよ。それだけは」

 意味がわからなかった。
 ただ、じっと、じっと、友人は見つめる。
 食べるのを急かすように待っている。
 視線に耐えられず、少年は恐る恐るつまむと、口の中へと持っていく。
 一言で言えば、食べたことのない味だった。
 美味しいのだろうとは、なんとなく思う。
 あまりにも未知の味のせいで、美味しいかまずいかさえ区別がつかないのだ。
 何度か噛んで飲み込む。
 それをただ、友人はひどく優しい目で見ていた。
 満足そうな、安心したような笑み。

「遊戯君、今日は付き合ってくれてありがとう。
 ごめんね、わがまま言って、でも、どうしても、今日は二人だけで食べたかったんだ」
「ううん、別にいいよ」

 不思議な後味を残した食べ物は、なぜだか、少しだけ、心の奥の方に積もった気がした。
 些細な、不思議な感覚。

「明日は、皆で食べようね」
「うん」


 その後、不思議でその食べ物の正体を探ってみたら、エジプトで昔食べられていた料理らしいと知った。
 なぜ、エジプトの料理だったのか、その時はわからなかった。本当に、わからなかった。
 なんとなく、少年の中にいる誰かが懐かしい気がすると呟いただけで、それ以上気にすることもなかったのに。


「ああ、そうか。アレは、もう一人の僕のために作ったんだね。
 僕じゃなかったんだね。ごめんね。バクラくん。ごめんね」

 もう思い出せない不思議な後味を思って、少年はそう、謝罪の言葉を繰り返した。



 バクラは料理が作れて、その上、上手いよと主張し隊。逆に宿主は器用だけど、料理は苦手だしめんどくさいと思ってると主張したいです。
 パン食とかコンビニばかりで偏った宿主の栄養を考えつつ、うっかり王様に作ってしまったという設定で。
 バクラとしては、宿主が何も気にせず全部食べてくれればと思っていました。
 でも、宿主は無意識に見抜いてたみたいです。別に、バクラが演技して遊戯に食べさせた訳じゃありません。
 なお、なんとなくこのサイトの宿主は、都合の悪いことは忘れさせられたり、辻褄の合わないことはうまく認識させられないみたいになっているようです。別に、バクラの存在にきちんと気づけてはいません。気づいてるverも書きたいですが……。



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