※闇セトと、社長。
あいかわらずのひどい捏造。
夢は、甘く、儚く、遠かった。
『セト様』
青い瞳が細まった。
『セト様』
白い髪が揺れる。
『セト』
褐色の肌の上、薄い唇が弧を描き、嬉しそうに自分を見る。
薄汚れた布を翻し、駆けてきた。
まっすぐに、自分だけを見て、自分だけを求め、腕を伸ばす。
少し見上げがちに目を合わせ、腕が首に絡められる。
青い瞳を見据えたまま、まるで猫のように首元にすりつかれた。
戸惑っているというのに、腕は勝手に動いてその髪を撫でる。
躊躇いもなく優しく、当たり前のように、なんでもないことのように手を与えた。
その手にわざわざ頭を擦りつけ、子どものように笑う。
『セト、そんなに怒るなよ』
自分の表情は、自分では見れない。
自分は、怒っているのだろうか。
これほど、優しい手を与えながら。
『わかったから』
撫でる手をとり、口付けられる。
唇の感触は柔らかく、けれど、薄い膜一枚を隔てたように現実感がなかった。
そこで、やっと話しかけられているのが自分でないと気づく。
『セト?』
笑みが、場面を移り変わるように泣き顔へと変わっていく。
その顔が幼くなり、背も低く、体も華奢になっていた。
狂ったような色のある瞳をギラギラと輝かせ、泣いている。
一切拭われることのない涙は、弱弱しさの一つもなく、強い。
また、手が髪に伸びる。
しかし、これは振り払われた。
かなり激しい拒絶。
けれど、手を引くと、必死にその腕にすがってくる。
『セト、セト、嘘だから、嘘だから!!』
絶対に離すものかという掴む力は強く、痛みを覚えた。
だが、これもまた、薄い膜一枚隔てたような感覚。
涙を拭い、頬を撫でれば体を預けてくる。
しかし、実感がない。
(これは、夢か)
理解してしまえば簡単だった。
全ての不都合に説明がつく。
ふと、横に誰かが座っていることに気づいた。
視線を向ければ、それは男だった。しかも、ただの男ではなく、自分によく似た、否。似たなどという次元ではない。まるで鏡に映したようにそっくりだったのだ。
「貴様は、何者だ」
思わず、夢の中だというのに話しかけてしまった。
よく似た男は気だるそうに、視線を自分に向けてくる。
睨み付けても、怯む様子もなく、どこか覇気のない顔が、妙に苛立った。
「俺は、亡霊だ」
「非科学的だ」
自分とは、少し違う声が耳を打つ。
即答で否定してやれば、なにか納得したように頷いた。
「なるほど、こういう反応をとればよかったのか」
訳がわからず、どういう意味だと聞いてみたが、答えない。
ただ、見覚えのある遠い目をして、もう一度「亡霊だ」っと答える。
なんの感情もない、乾いた声だった。それが更に苛立ちを加速させる。
「お前には何一つ関係ない、お前が一番嫌いな、妄執や未練の類だ」
同じ顔でこんな、こんな なにもかも諦めたような声を出されては、堪らない。
しかも、最も気に入らないのは、その瞳。
遠い、遠すぎる青い瞳が、自分とはあまりにも対照的で、同じ瞳をしている奴を知っているだけに、思わず殴りつけてやりたいほど腹立たしい。
「黙れ」
「聞いたのはお前だろう」
ふうっと、これまた疲れたような溜息が気に入らなかった。
「そう、怒るな。
ずかずか心の中に居座られて不愉快なのは、わかる。俺もされたしな」
「訳のわからんことを言うな。いくら貴様が俺の中の夢の産物であろうと許さんぞ」
「気にするな。どうせ、俺はすぐ消える。そう、お前の言うとおり、夢だ」
男は視線を、ついっと別方向に向けた。
そこには、映写機があり、カタカタと音をたてて映像を映し出している。
褐色の肌の少年が、泣いていた。幼子のように、いや、幼子なのだろう、声をあげ、わんわんと泣いている。
記憶のどこかにひっかかるような、少年だった。
「アレは、バクラだ」
聞き覚えのある名前に反応する。
そんなわけは、ない。
「夢だ。聞け」
男は、口を開く前に制す。
「アレは、3000年前のバクラだ」
3000年前。
よく耳にする言葉だった。
しかし、非科学的だと何度も否定してきた言葉でもある。
だが、言われれば、少年は肌の色や微かな顔立ちの違いはあるが、知った顔によく似ていた。
自分の前では、こんな顔を、一つとして見せたことはなかったが。
影を一切含まない笑みも、荒れ狂うような泣き顔も、何一つ、引き出したことはない。
「海馬瀬人」
男は、言う。
静かに、淡々と。
「バクラを、頼みたい」
ふざけるな。
「ふざけるな!!」
「ふざけてなどいない」
「貴様、考えてものを言っているのか?
もしも言っていないなら、その俺に似た顔を即刻潰すぞ」
「考える時間は、3000年ほどあった」
考えた結果だと、男は言う。
「初めは、王が救ってくれるかもしれないと思った。
しかし、王ではだめだった。王では、バクラを復讐と過去に縛ることしかできない。
だが、お前なら」
俺とは違う、お前なら。
「海馬瀬人、お前ならできるかもしれない。
なんのしがらみもなく、何も知らないお前ならば、常に未来を見据え、諦めることを知らないお前ならば、バクラを力ずくでも過去から引きずり出せるかもしれない」
「気に入らん」
「………」
「なぜ、俺に頼む」
「さっき言っただろ」
「なぜ、それを自分でなそうとしない。
そこまで言うのならば、貴様がしてやればいいだろう。アレの腕を掴んで、殴りつけてでも」
「俺では、無理だ。いや、無理だったと言うべきか……。
海馬瀬人、忘れるな。俺はここにはいないのだ。貴様の夢のようなものだ。そんな俺に、なにができるという」
そこで、夢などに本気になっている自分に気づく。
だが、口を止めることはできなかった。
「アレは、俺にあんな表情を向けたことは一切ない。
いつだって、アレが笑うとき、俺の向こうに何かを見る。俺ではなく俺に似た誰かだ」
思わず、男の服を掴む。
にらみ合った瞳は、自分と同じ色をしていた。
「アレは、俺の前で泣くことはない。涙を零したことすらない」
それなのに、あまりにも遠い。
「貴様は、アレにそれを向けられていながら、なぜ、自分で何もしようとしない!!
俺に貴様の身代わりという屈辱を味合わせる気か!?」
「そもそも、俺には資格がない」
「資格?」
「俺は、バクラを選ばなかった」
乾いた声。
自嘲するように、初めて表情が動いた。
「俺はバクラを捨てたのだから」
捨てたのだと。
自分の道のために、切り捨てた。
何も与えず、縋る手をとりもせず。
全ての期待を裏切って、向けられるものを無視をして。
何度も、手を差し伸べる機会はあったというのに。
「そして、結局、この手でトドメをさしてやることも、最期を見届けることもしなかった」
あえて、なにもしなかった。
「海馬瀬人、俺も千年タウクの近くにいた存在。少し予言をしてやろう。
過去はお前を始めに変わり、歪んでいく。その中心はバクラだが、起点は、お前だ」
お前は、自力で運命を変えられる。
ならば、バクラの宿業すらも、救えるかもしれない。
「そんな、身勝手な言葉を、俺が聞くとでも?」
「さあ……所詮は、お前にとっては亡霊の戯言だ」
男の視線が、また、映し出された映像に写る。
それは、別れだった。
恐らく、このときが、男が捨てた瞬間なのだろう。
男は、ひどくおぼろげに、揺れた。
本当に、亡霊のように。
「夢だ。海馬瀬人。
だが、頼んだ」
するりと手から落ちていく男は、過去を見ていた。
遠い、遠すぎる過去を。
「一つ、聞こう」
「なんだ?」
「お前は、何に執着し、なにに未練を残し、ここにとどまる」
意味のない問いだった。
なんの、意味もない。
誰にとっても、何一つ、意味がない不毛な問い。
男は、驚いたように目を見開いて、目を伏せる。
「もう一度、会いたかったのかもしれない」
「誰に」とは、聞かなかった。
ネ申へ、こんなものにしかなりませんでした。
闇セトと社長の会話はシュールすぎるので散々悩んで、心の部屋でバクラを託しちゃうセト様。
社長なら、色々変えられると思ったんです。ほら、アニメの古代編で、歴史を変えるきっかけ(バーストストリーム・ブルーアイズ)は社長だったじゃないですか。
ゆえに、変革者たる社長ならば、バクラを。
ちなみに、うちのバクラは、セト様にのみ、感情を素直に見せます。というか、素直に出ます。
バクラを普通の人間に、年相応にしてあげるのは、セト様だけなんです。
映写機は、ノア編から、意味もなく。
亡霊の子守唄の後あたりです。
説明!
セト様が捨てたについて。
バクラは別にそうとは思っていないものの、セト様がそう思ってるだけです。
本当は、バクラにとって、一筋の光だったような。
はたまた、無意識に、色々与えていたような。
千年タウクの近くにいた。
っというのは、千年杖はたぶん、千年タウクと一緒に、墓守に伝わってたんですよね?(曖昧)
つまり、その力の余波を受けて、予言めいたことをしているというかなりの捏造です。
ぼんやりとしかわからないので、アドバイスを与えることも、自分で変えることすらできません。
結局、なにもできないのはせとクォリティ(おい)
一番の戯言は私という。