※バクラがひどいです。
社長がかわいそうです。
音もなく、扉が開く。
ふかふかとした絨毯は足音を吸い込み、彼の足音を消した。
薄闇の中、気配も音もなく部屋に侵入した彼は、まっすぐに、目的地である部屋の奥にある大きな机へと近づき、笑う。
視線の先、椅子に体を預け、寝ているというのに眉根を寄せた男がいたからだ。
彼はしばらくその寝顔をじっと見ていたが、息すら潜めて更に近づき、唇を開く。
「せと」
それは、確かに相手の名前だった。
その証拠に、ぴくりと相手は反応し、うっすら瞳を開く。
「……?」
「せと」
白い髪が視界に入ったとき、まだ完全に意識は覚醒していなかったが、相手は彼だと認識する。
俯き、顔やその青い瞳は見えないものの、他に部屋に勝手に入ってくるような白い髪の少年に心当たりはなかった。
また、勝手に部屋に入ってきたのかと半ば呆れながら背もたれから離れる。
どうしたっと呟こうとした瞬間、ぎゅうっと、強く腕が掴れた。彼の華奢な腕のどこから出ているのかわからないほどの力でギリギリと指が食い込む。
「せと」
そこで、ふっと、違和感に気づく。
いつも、彼が相手を呼ぶときは「社長」というような別に認めたわけでもないあだ名だった。それ以外に呼ぶことはほとんどなく、また、他の呼び方で呼ばせたこともない。
痛みに顔を歪めながら、声をかけた。
「おい」
しかし、俯いた顔は上がらない。
腕の力は緩まることなく、腕に食い込んでいく。
不自然さを感じ、振り払おうと腕をあげた瞬間、淡い光が目に入った。
その光を、知っている。
「せ、」
ゆるりっと、顔が持ち上がる。
青い、青い瞳が、じっと、見ていた。
揺れることもそらされることもない瞳は、大きく見開かれ、その色はぞっとするほど澄んでいる。
白い髪も、白い肌も、華奢な体も、何一つ、いつもの彼と変わらないというのに、その瞳だけが異常なまでに澄み、輝いているのだ。
金色の光が少しづつ強さを増し、それに伴うようににいいっと彼は笑った。
「セト様」
やっと、自分が呼ばれていないことを、理解した。
それは、自分の名であっても、決して自分が呼ばれているわけではない。
別に、たった一人を呼んでいるのだ。
甘えるような、ねだるような声で、何度も。
「セト様、セト様、」
彼は、遠い、遠い向こう側を見ている。
その瞳を、知っていた。自分とよく似た誰かを想い、見つめる瞳。
そんな目をするたびに、いつもなぜか心が苛立ち、ひどく落ち着かなくなる。
今も、落ち着かないが、しかし、それは別種の落ち着かなさだった。
肌がざわざわとあわ立つような、嫌な予感。
いつか、心が砕かれた時のように。
「セト様」
青い瞳が、狂気を宿した。
ぎらぎらと煮え立つように熱い、熱い狂熱を持って相手の瞳を捉える。
同時に、金色の輝きが、目もくらむほどの膨れ上がった。
思わず目をつぶった瞬間、彼は、愛しくて愛しくてたまらない顔で呟く。
「やっと、会える、セト様」
うっとりと、青い瞳を細め、金色の光の中、更に強く腕を握り締めた。
意識が消えていく最中聞いた声の響きは、今まで聞いたことがないほど、切なげで、寂しげな声だった。
彼は、愛しげな笑みのまま、男を見下ろしていた。
空っぽの、動かない腕から手を離し、自分の胸元へと指を伸ばす。
金色の輝きはもう収まり、何事もなかったかのようにしゃらんっと揺れた。
その金色をつまみ、白い頬へと当てる。冷たい金属の感触しかしないが、嬉しそうに、何度も何度もほほずりをする。
「セト、様」
そして、小さく口付けると、もう体には用がないとでもいうように、あっさりと背を向け、きたときと同じように、気配も音もなく部屋を去る。
それでも、ただ、一度だけ、悲しげな顔で振り向いた。
「ごめん、社長。でも、俺様、セト様に会いたいんだ」
悲しげな顔をすぐさま笑みに戻すと、彼はただ、家路を急いだ。
はやる心を抑えず、その足取りは速い。
ただ、前へ、前へ、笑い声すら漏らしながら、走っていく。
自分の宿主の住む場所へ。自分の宿主の部屋へ、自分の宿主が作った人形たちの並べられている部屋へ、その部屋にある、とある棚へ。
そこに用意されている、魂にふさわしい器のもとへ。
「セト様、やっと、やっと」
くすくす、くすくす笑いながら、彼は強く強く胸の金色を握る。
もう、その瞳には、遠い遠い過去、愛した男しか写っていない。
笑っているはずなのに、なぜか涙が溢れた。
視界が滲むが、足は止まらない。
胸が痛むが、もう止まれない。
もう、王にも龍にも誰にも私はしない。
「俺様のものだ……」
そうして、やっとあんたは俺様のものだ!!
セトバク前提、ヤンデレバクラ。
この後、バクラは社長の魂をセト様の人形の中にいれて大事に大事にします。
ヤンデレバクラっていいねって私だけが思ったのでかきました。
続きません。続きません。
なにがかわいそうって、社長がかわいそうすぎます。
えっと、説明すると、初登場時人形に魂をいれたとき、動いたり、自分の役割を演じたりしてましたよね?
つまり、セトと同じ魂である社長をセトの人形にいれて、セトを演じさせることにより、擬似死者蘇生をやってのけているわけです。黒魔術だ。
まあ、たぶん、モクバ辺りが「遊戯、兄様を助けて!」とかいう展開になって当然のごとく負けて社長取り戻されるんじゃないでしょうか。
そしたら、王様が今度は「お前をセトなんかにやるわけないだろ?」とかいう展開に……(ならないならない)