※暴力表現および、宿主様のキャラ大規模破壊が起きております。
 宿主様は優しくないとだめ、穏やかじゃないとだめ、乱暴なことはしないの!!
 っという、物凄く正論を持ったお客様はどうか、お願いですからお帰りを。
 貴方様の宿主様を汚したくないです!! 本当に!!
 今回もぶっちぎりでオリジナル設定パラレルがひどいです。
 時間軸的には、1のすぐ後です。















































「キリエ・エレイソン」

 彼の人は最も神を信じるものである。
 そうでなければ、これほどの不幸が起こるなどと、夢にも思わないからだ。
 だからこそ、今日も彼の人は狂うように、狂いながら神に祈り、神を憎み、神を呼び、神に問い、神を罵り、神に懇願する。
 その喉から搾り出した声が血となり、溢れる涙は枯れ、座っていることすら苦痛に変わるまで、神の前に跪き叫んでいた。
 もしも彼の人が彼の人でなければ、今頃その場から引きずり出され打ち倒されていただろう。
 だが、彼の人が彼の人ゆえに、止めるものはいない。
 そして、ただ少ない止められるものも、そこにいなかった。
 だからこそ、彼の人は狂気でありながらも神聖で、荘厳な空気を壊されることなく、その場に倒れ伏す。
 空ろな、しかし煮えたぎった青い瞳は神の偶像である十字架を見つめ、吐き捨てるように呟いた。


「なんで、僕の弟なのさ」


 他の誰だってよかったじゃないか。
 あの子は十分苦しんだのに。
 ああ、神様。
 そこにいやがるのはわかってるんだから、かけらくらい僕の弟に祝福を。
 乾ききった口内はべとついて言葉を発することはできない。
 ただ、神は聞いてか聞かずか、ただ、彼の人の頬を、清き風で撫でるだけだった。









 悲鳴が、森にこだました。
 異形は、赤い涙を流しながら、震え、叫び続ける。
 王の腕の中、幼子のようにわめき、自らの肩をかきむしった。
 爪は容易に皮膚を裂き、血を流す。だが、その引き裂かれたはずの皮膚は、血が溢れ出し腕に伝う間に直っていく。

「み、みるなぁ……!!」

 見ないでくれっと、ぎゅっと目を閉じる。
 しかし、男はただ立ち尽くし、見ていることしかできなかった。
 駆け寄ることも、怒鳴ることもできない。

「みるな、みるな、みないで……」

 そんな男を嘲笑うように、王は異形の血の涙を舐め拭う。
 叫びが、嗚咽に変わり、異形が肩ではなく、顔を、自らの首をかきむしった。
 だが、その傷もすぐに治っていく。治ることがないのは、ただ一対、牙によって穿たれた吸血痕のみ。
 自らを傷つけ続ける手を、王は掴んで止めた。指についた血肉を舐めとり、もう一度強く抱きしめる。
 ぐらりと、強い眩暈にもう、体を支えることすらできない。
 男は、目を見開いた。
 何かを言いたげに口を開くが、声がでない。
 王は、笑いながら告げた。

「もう、俺のものだ」

 ひどく、愉悦に満ちた、嬉しげな笑み。

「もらっていくぜ」










「なにをさ」 










 場違いな、声。
 その声と同時に王の頭に鈍痛が走った。
 それは、擬音にすると、げしだとか、どかっだとか、そんなもの。
 異形と王が、驚きに顔を歪める。
 風が吹く。
 不思議と、清浄な風。
 それは、異形と王のすぐ背後、否、王の後頭部の後ろから、吹いていた。

「なにを、もらっていくの?」

 声は、ひどく優しかった。
 まるで母が子に問いかけるように、場違いに優しい。

「あっ……」

 異形が、振り替えり、呻く。
 だが、言葉が出ない。
 そこには、彼がいた。
 白い髪に、青い瞳、すらりと華奢な体を、神父服に似ているが、どこか違うデザインの白いコートをまとい一切の穢れなんてないのではないかのような笑みを浮かべている。
 その姿は、異形に、驚くほど似ていた。
 鏡に写したかのように差異を見つける方が難しい。

「ねえ、聞いてるでしょ。君はなにをもらっていくつもりなの?」

 がすっと、鈍い音。
 彼は、笑っていた。
 ひどく、穏やかで優しい笑顔だ。だが、あまりにも、場違いすぎる。
 場違いすぎるのが、恐ろしい。  

 がすがすがすがすがすがすがす。

 音が連続して響く。
 それは、異形のすぐ横で、王の後頭部で奏でられる。

「答えてよ」

 奏者たる彼は、蹴っていた。
 かなり頑丈そうなブーツの底をもって、王の後頭部を、蹴り続けている。
 頭蓋骨が砕けんばかりに勢いで、笑いながら、優しい声で問いながら。
 見ている誰もが、恐怖を覚えた。
 震えが止まらない。空気が、一変している。
 今や、この場は声の主の独壇場だった。
 闇を、払拭するような覆すような絶対的ななにかが、ある。

「答えてよ、ねえ」

 がづっっと、踵で追うの後頭部を踏み抜く。
 そこでやっと、王は動いた。
 とどめのような大振りの蹴りをなんとか避け、地面を転がって距離をとる。
 しばらく頭を抑えて俯いていたが、すぐに立ち上がった。

「きていたのか」

 王が、彼を見据えた。
 彼は、静かな瞳で王を睨み返す。

「きてないとでも?」
「いや、よく考えれば、バクラとあいつがいるなら、いてもおかしくなかったな」

 口の端から垂れた血を拭い、王は彼と対峙する。

「言っとくけど、僕、怒ってるんだ」

 ざりっと、土を踏む。





「君を、蹴り潰して、ミンチにしたいくらい」





 静かな声。
 笑顔のまま、彼は告げる。
 背筋がぞっとするような本気がそこにあった。
 空気が歪んだのかと錯覚するほどの怒りと殺気を、抑える様子すらない。
 王の顔が、焦りに歪む。先ほどまでの余裕はもうなかった。
 ちらっと、異形の様子をうかがいながら、後退する。
 その視線から隠すように、彼は異形を背に庇った。 

「許さないから」

 絶対に、許さない。
 許すものか。 
 絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に。
 貫くような鋭さで、言葉が飛ぶ。

「君を、許さない」

 一歩、王へと足を動かす。
 王は、じりっと、また下がった。
 舌打ち一つ。
 仕方ないとで言いたげな、諦めの表情。
 一度だけ、異形を見つめたが、異形はただ震えるだけ。

「俺は、君とぶつかるのは避けたい」

 そう、呟いて、もう一歩下がる。
 木の影から、闇へと溶けるように気配を薄めた。

「言っとくけど、逃げられると思わないでね」

 彼は一切目をそらさず、言い放つ。

「まさか、僕が彼より後に現れたのが、君の後ろをとりたかったとか、彼に遅れたわけじゃないんだよ」
「……」
「でも、いっていいよ……バクラの目の前では、潰すつもりがないから」

 王の表情が、苦笑に変わる。
 彼の本気に、微かに怯えているようにも見えた。
 ふっと、王の気配が消える。
 それと同時に、彼は振り返った。

「バクラ」

 びくりっと、声の主の心配そうな声に異形が跳ねる。
 恐る恐る見上げた先には、悲しい笑顔。
 胸を締め付けるような声で、そっと囁いた。

「ごめんね」
「ぁっ……」

 違うと、首を振る。
 なにも悪くないと、悪いのは自分だと、泣きながら訴える。
 それでも、彼の表情が、声が晴れることはない。

「ごめんね」

 触れようと伸ばされた手。
 優しい手だった。
 その手が、優しいということを異形は知っている。
 何度も何度も、心地よく、自分を傷つけることなく触れてくれる手だと知っていた。
 その手に異形は触れたいと思った。
 思ったけれど、触れることはできない。
 どれだけ、その手を求めても、優しいと知っていても、触れることはできないのだ。
 本能が、忌避する。細胞の、一つ一つが、ざわりと泡だって止まらない。

「ひっ……」

 恐れをこめた悲鳴。
 触れる寸前で、手が止まる。
 悲しげな笑顔のまま、手が引かれ、視線が今度は男に向く。
 初めて、男が動いた。
 ゆっくりと、王の様子をうかがいながら、異形と彼に近づく。

「バクラを、よろしく」
「承りました」

 契約の言葉のような重々しさで、言葉を交わす。
 そして、彼は歩き出す。

「まっまって、あっ!」
「あっ」

 じゅうっと、彼の服を握った異形の手が煙をあげた。
 白い肌が醜く焼け爛れ、赤い肉を晒す。そして、一拍置いて、指が、崩れた。
 かきむしった傷のようにすぐに治りはしない。いつまでも赤く赤く傷を残し、じゅくじゅくと痛み続ける。
 呆然と、自分の手を見る。
 境界が、できてしまった。
 服を握っただけで、異形はその身を焦がす。
 彼とは、異形にとってそういう存在だった。
 異形とは、彼にとってそういう存在だった。
 確固とした決別の証。
 絶望に、異形はもう涙を流すことすらできない。
  
「ごめんね」

 ただ、そんなか細い悲しい声が響く。

「まって……」

 何か言いたかった。
 けれど、言葉がでない。
 声に、彼は振り向かなかった。
 上手く立てないのか、四つんばいになりその背を追おうとするのを、男が止める。

「まって……」

 彼が歩くごとに、神聖な風が吹く。
 その吐息すら清い彼は、似合わない闇へと進む。
 振り返ることはできなかった。
 振り返ってしまえば、泣いてしまいそうで、異形の体を抱きしめてしまいそうで恐ろしかったのだ。

「待って、待って、待って、兄貴ぃ……」

 繰り返す言葉は彼を止めることはできない。
 虚空に手が伸ばされる。
 届かない手。
 触れることのできない手。

「兄貴……!」

 彼の背は、小さく、華奢でありながら戦場へと向かう英雄のごとく雄雄しかった。
 男が、その背に向かって十字を切る。 
 夜が、闘争の気配にざわめく。
 それは、期待と不安が、冷たさと熱さが、狂気と憎しみがない交ぜになったかのような混沌。

「大丈夫、バクラ、すぐ帰ってくるから、すぐ。
 だから、ちょっとだけ」





「征ってくる」





 そうして、最も闇に近き王と、最も清き者は、ぶつかり合った。



 まさか、色々な連載の続編の中で、これが初めだとは私もびっくりです。
 さあ、始まりましたついに宿主様による王様フルヴォッコ。
 1の後、どうなったのか、それがついに明らかに。
 とか言いつつ、別にまったくたいしたものではございません。
 宿主様のキャラを破壊しすぎて、原型がなくなっていきます。
 もう、管理人もどうしていいやら。
 こうなったら、逆に開き直ります。

 ちなみに、キリエ・エレイソンとは、「主よ、哀れみたまえ」です。



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