※グロやら少女虐待やら、変なことしてます。エロはないです(悲劇)
 あいかわらず、変なパラレルです。















































 純粋な銀のナイフが白い肌を醜く切り裂いていく。
 ナイフは食事に使うような切れ味があまりよくないもので、断面はずたずたとなり、滑らかな肌は見るも無残にあふれ出す赤い血で染まり、じくじくと肉は蠢いた。
 引きつる皮膚をこじ開けて、今度は汚れ一つないスプーンで肉をえぐった。ぶちぶちとびちびちと聞きたくも無い音をたて神経が血管が肉が鈍いスプーンの縁で抉られすくい上げられる。
 スプーンから溢れ、零れ落ちた血や肉は床を汚した。
 それを骨が見えるまで繰り返され、すっかりとスプーンがひしゃげ、汚れた頃になってようやく肉が抉られるのは止まった。だが、ほっとするのもつかの間、次の瞬間、その抉られた場所すら大きく広げられ、透明な液体を注ぎ込まれる。

「―――――――――!!」

 血があふれ出すほど噛み締められた唇が大きく開かれ、この世のものとは思えない悲鳴と、煙が彼の体からあがった。
 涙を流しながらのたうちまわろうとするが、彼の腕には巨大な杭のように釘が刺さっており、暴れるたび掌が裂けて穴が空く。
 言葉にならない単語がその唇から飛び出し響いた。その中に混じるように小さく聞こえるは、美しい賛美歌。
 神を称える歌の中で、その手は止まるとこなく淀みなく動く。 汚れたものなど、一つも触れたことのないような清らかな指で、淡々と彼の体に施していく。
 焦げた肉の匂いが鼻につく。
 しかし、その表情はまったく変わらない。
 ただ、ただ、見ていた。
 何一つ残さず、そらさず、見続けていた。
 自分の残酷な行為を、苦しむ彼の姿を。
 彼は、一度も許しを乞うことはなかった、痛みを拒絶すること無かった。受け入れ、衝動的に抑えられない悲鳴だけを口にする。
 そして、悲鳴を発した後、ひどく、ひどく申し訳ない顔をするのだ。
 まるで、自分こそが悪いことをしているかのように。


「……ごめんなさい……」


 迷い続ける子羊を救うものはいない。





 血まみれのひしゃげたクマらしきぬいぐるみの無機質な目が、過去形となった少女と彼を映す。
 彼はじっと、笑って少女を見下ろしていた。
 直視するには、あまりにも陰惨で残酷な光景だった。
 しかし、男は目をそらさず、先ほどのように十字を切らない。
 ただ、顔をひどく悲しそうに歪めるだけだった

「ちょっと考えればわかると思うけどさ」

 じゃりっと彼は砂を踏む。

「こんなゾンビだらけの村で、1週間も小さい女の子が生きてるわけないよね?
 隠れてるならまだしも、ゾンビがいた痕跡がある場所で普通に泣いてるなんて、ありえるわけがない」

 くす。

 それは、小さな笑い声だった。
 無邪気であどけない子どもの笑い声。

 くすくす。
 
 どこから聞こえてくるかかわからない不確かな響き。
 それはどこか人の心を不安にさせる。

 くすくすくすくすくすくす、ひどいわ、神父様。

 ぐにゃりっと、飛び散った少女の肉片が動き出す。
 歪んだ眼球がぎろりと彼を見た。その色は、ぬいぐるみのように無機質でどこまでも澄んでいた。
 ビデオの巻戻しをゆっくり見たら、こうだろう。少女の一部が蠢き、少女をもう一度形作る。
 吐き気を催すようなその様も、やはり、彼は笑っていた。
 おかしくて、おかしくて堪らないとでも言うように。

「ひどいわ、神父様。いきなり撃つなんて」
「いきなり撃たなきゃ、殺されてたから」
「だって、神父様が悪いのよ? せっかく私が父様のために皆、みーんな食べてお人形さんにしたのに、全部壊しちゃうんだもん」

 無邪気に笑う唇から覗くのは、鋭い二本の獣の牙。
 血まみれのクマらしきぬいぐるみを異形の少女は抱きしめた。
 その頬を愛らしく膨らませクマらしきぬいぐるみを抱く腕とは逆の腕を腰にあて、唇を尖らせた。

「でも、許してあげる。だって、神父様たちの方が皆よりおいしそうだし、きれいなお人形さんになりそうだから」

 嬉しそうに、楽しそうに、なんの罪もなさそうに、おぞましいセリフを口にし続ける。

「私は、あの方のためにたくさん、たくさーん食べなきゃいけないんだもの」

 ぱんっ。
 彼は、なんの動作もなく、少女を再び撃つ。しかし、その弾丸は少女を貫くことはなかった。なぜなら、空気を切り裂く弾丸は少女の目前で壁に阻まれたように止まったのだ。
 少女は、なにもしていない。
 指先一つ動かさずただ空中に停止する弾丸を見ていた。

「お人形さんならともかく、こんなの私には当らないわ」

 ころりと床に転がる弾丸を見て、少女が自慢げに呟く。
 彼は答えなかった。
 ただ、入口まで素早く下がり、少女との距離をとると立て続けに引き金を引く。
 銃声が狭い部屋に響き、しかし、その弾丸の一つとして少女の見えない壁を突き破ることができず床に転がる。

「無駄だよ、神父様」
「そうかな?」

 カートリッジを変え、彼はまた撃ち続ける。
 少女の顔に嘲りが走った瞬間、強張った。

「え?」

 見えざる壁を突き抜けて、少女の腕に銀色の刃が突き刺さる。
 弾丸は全て宙で止まっているというのに、その刃だけは深々と腕に埋もれ、少女に痛みを伝えていた。

「嘘?」

 少女の瞳が見開かれ、彼を見た。
 彼はその手に幾つもの銀の刃をきらめかせ、引き金を引いた。
 混乱した表情の少女は一歩下がり、また空中で弾丸を止める。だが、いつの間にか投げられた銀の刃は少女の方に突き刺さった。

「痛い……」

 大きく見開かれた目尻から、涙がぽろぽろと零れ落ちる。
 銀の刃が刺さった場所から、血が細く流れ続けた。

「なんで、痛いよ。痛いよ!! 治らない!?」

 慌てた少女がナイフを抜こうと握り締めるが、まるでナイフは喰らいついたかのように抜けない。

「嘘!! 嘘!! 嘘!! なんで!? なんで!? わた、私は人間じゃないのに!! 違うのに!!」 
 
 髪を振り乱し、ひしゃげたクマらしきぬいぐるみを放り出す。
 少女は先ほどの愛らしい笑みの面影もなく叫んだ。
 ぎっと涙で潤み濁った瞳が彼を見据える。

「なに、したの!!」
「なにもしてないよ。ただ、このナイフが銀で、聖別されたものなだけ」
「せい……?」
「聖別も知らないってことは……君はまだなりたてなんだね」
「?」
「銀は君たちの弱点なんだよ。そして、聖なる物は、穢れを一切許さない。
 つまり、いくら再生能力が自慢のきみたちでも、簡単に直るものじゃなくなるってこと」

 とすっと、刃が少女の反対の肩を貫いた。
 あまりにも軽い動作だというのに、刃はやすやすと少女の肉を穿ち骨に食い込む。

「さっきの銃弾もそれなりに祝福されてたんだけど……量産品じゃだめだね」
「やめて……!」

 少女が逃げようともんどり打った。
 しかし、彼は許さない。
 ただ、淡々と少女を刃の的のように貫いていく。

「いやああああ!! 痛い!! 痛い!!」

 少女が痛みに泣き叫び、赤い血が床を汚す。砂に足をとられ、少女がだんっと倒れた。
 じゃりりっと、彼は少女に近づいた。
 恐怖に引きつった瞳が、彼を映す。あまりにも無機質で冷たい、刃に似た彼を。

「もっと、泣き叫びなよ」

 淡々と彼は呟いた。
 少女を見下すように傍らに立ち、そして震える少女の腕から刃を引き抜く。

「ぎっ!」
「君の悲鳴が、奴らを連れてくるし、それに」

 少女の手を彼は掴んだ。
 小さな、可憐な手。
 そして、自分の胸の十字架を摘むと、その手に無造作に押し付ける。

「きゃああああああああああ!!」

 じゅうと、煙をあげて少女の手が焼け爛れた。
 なんでもないただの十字架だというのに少女は肌を焼かれ血を焼かれ肉を焼かれ痛みにのた打ち回り、悲鳴をあげた。



「吸血鬼、だいっ嫌いなんだ」



 涙でぐしゃぐしゃに歪んだ顔に、今度は十字架を押し付ける。
 その顔は十字架の形に焼け爛れ、少女は逃げるためにのた打ち回ろうとしたが、肩に刺さったナイフが行動を封じていることに気づいた。
 間髪いれず、膝に彼が引き抜いたナイフが突き刺さる。

「とうさまあああ!! おとうさああああままあああ!! いやああああ!!」
「嫌い、じゃないかな?」

 彼は、悲鳴を聞きながら首をかしげた。

「憎い、かな?」

 法衣の内ポケットからナイフをもう一本取り出し、そうっと、少女の柔らかな頬にあてがう。

「殺したい? いや、そんなもんじゃ気がすまない……」

 ひやりとした銀の冷たさに、少女は悲鳴をあげることすらできず魅入った。
 すっと小さく引かれた赤い線から血が溢れる。
 痛みも感じないほどの傷だったが、少女はただただ怯えることしかできなかった。
 美しく、美しく、ひたすらに美しく、彼は笑う。
 
「苦しんで苦しんで苦しんで苦しんでこの世のありとあらゆる地獄を味わってほしいかな?」
 
 何か違うっとやはり首を傾げるが、その答えはでなかったようで、今度の少女の大きな瞳にナイフを添える。

「まあ、君みたいななりたてには……正直同情するけど……」
 
 呟いた瞬間だけ、その表情は笑みというよりも、泣いているようだった。
 だが、そんなことは錯乱する少女にはわからない。ただ怯え「やめて」と叫び続ける。
 その時、ふっと、彼は振り返った。
 そこには、男しかいない。
 いない、はずだった。
 そう、人は、男しかいない。


「!」


 彼の体が、宙を跳ねた。
 少女と男が同じように目を見開き、壁にたたきつけられた彼を見る。 
 動かない彼に、男は駆けつけようとする体を押さえ、背後を振り向いた。
 そこには、人はいなかった。
 気配もなく、まったく不自然に、その場の空気を歪ますほど、異質な存在。
 まさしく、異形。
 少女など、問題にならぬほどの、禍々しさがそこにあった。

「おや、」

 異形は困ったように笑って、男を見ている。
 その開かれた唇から見えるのは、まごうことなき獣の牙。
 闇を凝縮したような瞳が、男から彼へと視線を移した。

「お二方に衝撃波をあてさせていただいたのに、そちらの神父様には効かないということは……結界ですか?」

 男は静かに異形を睨みつける。
 同時に、異形もどこか穏やかにも見える顔で彼を睨んでいた。
 その瞳には、同じ怒りの色が浮かんでいる。そう、大切なものを傷つけられたときの純粋な怒り。

「それほどの結界をおはりになられるなら、あちらの方もいれてあげればよろしかったのに……」

 まあ、そのおかげで娘の仇をとれましたが。
 異形は微笑んで、少女を手招きする。
 少女は、一度振り返って動かない彼を見た。気絶しているのか、指一つ動かさず、倒れている。
 それをしばらく見て、安心したかのように少女は微笑んだ。

「父様!!」

 そして、少女は立ち上がり、父のもとへと駆けつける。
 涙塗れの笑顔で、愛しい父の胸に飛び込む為に。


 たんっ。


 軽い、音だった。
 何の音か理解できぬほど、軽い音。
 しかし、次の瞬間、誰もが理解する。
 少女の胸を白い弾丸が通り抜け、父の腕を弾けさせた。
 時が止まったかのような沈黙。
 ぼとりと、異形の腕が落ちると同時に、全ては動き出す。
 少女の愛らしい顔が、「え?」とでも言いたげなまま固定され、床に倒れた。悲鳴もなく、少女は絶命した。
 演技でも何でもなく、ただ、死んでいた。
 胸に空いた穴からじわりじわりと血が広がる。
 異形はその少女の死体をしばらく見つめていた。自分の腕が落ちたことも、そこからとめどなく血が溢れていることにもかまわず見つめ続ける。
 そして、少女の小さな小さな体がぴくりとも動かないのを理解すると顔をあげた。
 彼は、壁に体を預けたまま、笑っている。
 その手には、先ほどまでとは違う、白い、巨大で無骨だというのになぜかぴったりと、彼の為に作られたかのようにぴったりとした銃が握られていた。

「聖人が清めし弾丸は」

 笑みにつりあがった唇が言葉を紡ぐ。

「白木の杭でなくとも、吸血鬼を、いや、どんな異形だって、殺せるんだよ?
 まあ、もう聞いてないと思うけど」

 ふらりっと、彼は立ち上がった。
 銃を構え、異形をその青い瞳に捕らえる。
 その瞳には先ほどまでの冷たさは無い。
 ぐらりと、感情を溢れさせ、そのまま煮立ったかのように熱い、熱い狂気が、歓喜がある。
 その瞳に見つめられれば、思わず圧倒され、気圧されてしまいそうになるが、異形は動かなかった。
 異形は、怒りに震えていた。
 目の前で、娘を殺された父は、静かに、ただ、静かに怒りを持って腕を動かした。
 それだけで、空間がはじけ飛ぶ。

 がづん。

 しかし、異形が狙った場所にはすでに彼はいなかった。
 血を蹴り、しなやかに体を曲げると、手近なテーブルの上に着地する。
 白い銃ではなく、別の手に握られた銃を構え、躊躇いなく引き金を引いた。飛び出した弾丸は、寸分違わず異形の体に向かって殺到した。
 だが、少女がしたようにその弾丸が宙に静止し、同時に机を見えない衝撃が穿つ。

「こんな玩具が、私に通用するとでも?」
「ううん、全然」

 机からくるりと降り立った先は、少女の死体。
 そこから刃を掴んで抜き去り、異形に投げつける。
 がぎっと、金属同士がぶつかるような音が響いき、刃は粉々に砕けた。
 それには、さすがに男も彼も驚いたように目を見開く。
 
「どうやら、そのナイフは随分と、高位の聖職者に祝福してもらったようですね。
 しかし……私には、まだ足りません」

 舌打ちとともに、彼はその場を離れる。
 だが、表情はいまだ嬉しそうに笑っていた。

「ふーん……そっか、でも、嬉しいな」
「なにがですか?」
「君が、色々知ってそうだから。強ければ、強いほど、知ってそうだから」

 何を、と問う前に、彼は笑みを強くし、地面を強く蹴った。


「君くらい強ければ、うっかり殺すことも……なさそうだしね」


 少女の死体があるせいか、衝撃はこなかったが、その場に止まる意味がないと思ったのだろう、有利な位置を探るために動き続ける。
 ふっと、衝撃の一つが吹き飛ばした一つが男をかすった。

「くっ」

 彼の動きがあらか様にブレ、動揺したように表情が歪み、瞳に焦燥の色が浮かんだ。
 ほぼ、一瞬でそれは消えたが、異形の目はそれを逃さない。
 異形が笑う。それは、復讐者の目であると同時に、獲物を見つけた狩人の目だった。
 彼が動くより速く、衝撃が男を襲った。
 しかし、男の頬に当るのは風だけで強さは無い。

「無駄だ」

 焦りの見える彼とは逆に、男は無表情に立っていた。
 なんでもないかのように、ただ、立っている。
 反撃も、逃げることもせず。

「ふむ……どうにも、その結界といい、外のゾンビといい、貴方はどうにも高位の……しかもこのような場所にくるような方ではないようですね」
「買いかぶりすぎだ」

 彼が、白い銃を構えた。
 歯を食いしばり、今にも喰らいつきそうな表情に、異形は喜びの笑みを浮かべる。
 異形は彼を制するように衝撃を彼へと穿つ。
 くらえばひとたまりもないゆえに避けざるをえず、彼は転がる。
 崩れた体勢ではうまく狙いがつけられず大きく舌打ちをした。もう片方の銃とは違い、弾を温存したいのだろう、引き金は軽々しく引けず、逃げた先を穿たれ体を崩した。
 追撃に腕を振る異形は、気づく。
 男が、拳を震えるほど握り締めていることを。それなのに、動かない。

「なぜ、貴方は今、彼を手伝わないのですか……?
 私としてはそうしていただくと困るので、喜ばしい限りですが」

 男は、悔しそうに、悔しそうに異形に聞かせるためではなく、自分に言い聞かせるように呟いた。


「……俺は、見ているだけだからな」


 意味は、異形にはわからなかった。
 男は、彼を憎いわけではないだろう、厭うているわけではないだろう。むしろ、その逆。なによりも、恐らく、異形が娘に抱いたような気持ちを持っているだろうに。
 しかし、動かない。

「それに、貴様には聞きたいことがある。俺では消滅させてしまう」

 言い訳のように口にし、やはり彼を見ていた。
 衝撃の影響で飛んできたものを避ける程度で、ただ見ていた。
 そう、彼が少女を痛めつけているときのように、見続ける。

「そうですか」

 すうっと、異形は目を細める。
 
「ですが、そんなことは、私には関係ありません」

 衝撃が、くる。
 だが、それはやはり男を傷つけることはできなかった。
 そう、衝撃だけならば。


「セト!!」


 彼が、声を上げる。
 その声に反応し、男が思わず飛びのいた瞬間、その空間を銃弾が通り抜ける。
 異形が撃ったわけではない。彼が少女と異形に放った弾丸だった。
 ただ、衝撃とともに飛ばしただけ。
 結界は異形の衝撃を防ぎはすれど、衝撃によって飛んだものは防げない。
 それは、必然。
 異形は彼に衝撃を打ちながら、それを見、判断していたのだ。
 持ち上がった銃弾が、火薬もなく銃弾のように、否、銃弾よりも速く読めない軌道を辿り男を襲う。
 彼の右目が絶望と恐怖に開かれ、震えながら、走った。

「セト!!」

 走る。
 間に合うはずはなかった。
 当たり前のように、人間の足が、銃弾よりも速く飛ぶものにおいつくことはできない。
 異形は、嘲笑った。その愚かさを、そして、娘を奪われた復讐に。

「……!?」

 だが、彼は、速かった。 
 その速さは、ありえないことに、銃弾に追いつく。
 異形の肌が、なぜかざわりと粟立った。違う、肌だけではなく、血液がぞわりっと何かを叫ぶ。どこか、感じた覚えのあるような、訳のわからない悪寒。
 先ほどまでは感じなかった感覚。
 一瞬、銃弾を操ることも忘れ、彼を見た。

「バクラ、くるな!!」

 彼は、そのまま、人間離れした動きで銃弾を追い抜き、男の前に立つ。
 庇うために、守るために。
 たった一人を、守るためだけに。
 泣きそうな瞳が、かち合う。
 男が叫ぶ。
 彼をどかせようとそちらへ走り出す。
 だが、彼のように銃弾に追いつくこともない、ただの、間に合わない足掻きにしかすぎない。



 そして、操られていない弾丸は、まっすぐになんの守りもない彼の胸を貫いた。



 肌を破り、肉を抉り、骨を砕き、そのまま、まるで、あの少女の時の再現のように。

「あっ」

 けれど、違ったのは、その表情に確かな安堵があったことと、まだ、彼が微かに生きていたことだ。
 心臓から少しずれた場所だったせいだろうか、ぱくぱくと唇を動かし、笑いかける。
 男が、倒れる体を支えた。
 胸から噴出した血が、男の法衣を汚す。
 それを嫌がるように小さく彼が身をねじったが、男はしっかりと抱きしめて離さない。
 即死ではなかったものの、止まることのない血は彼の死を明確に告げている。
 彼は、抱きしめられ、微笑んだまま、薄く、薄く目を閉じていく。
 異形は、それを見ていた。
 自らの娘の仇をとったはずなのに、心はさっぱり晴れない。
 どころか、なぜか嫌な予感がした。
 今すぐ、彼にトドメをさし、男を殺さなくてはいけないのに、なぜか動けない。
 そこで、異形は気づく。
 自分が、震えていることを。
 錯覚だ、首を振って更なる銃弾を持ち上げた。

「娘の仇、とらせていただきます」

 異形の言葉に、男は答えなかった。

「バクラ……」

 逃げもせず、その髪を撫で、肩に顔を埋めさせる。
 男の顔が、引きつり、次の瞬間、言葉を紡いだ。

「バクラ……」

 力のある、決定的な言葉を。



「バクラ、許可する、喰え」



 彼の閉じられた唇が開いた。
 何の意味もないはずの唇の開き。
 そう、意味の無いはずの。
 それなのに、異形は恐ろしかった。
 どうしようもない震えが、全身を駆け巡る。これは、錯覚でもなんでもない。
 はっきりとした、恐怖。
 見えない、はずだった。
 見えないはずなのに、見えた。
 異形は、見た。
 彼の閉じられた唇から覗く、獣の牙を。



 ぶつり。
 ぶちり。



 世界は、全て反転する。



 はい、ずっと、口調とか宿主様で、もしかしたら「なんでずっと宿主様のターンでバクラでてこないの?」と思われた方も多いと思いますが、はい、実はバクラでした。  たぶん、聡明な皆様&このサイトをよくわかってる皆様が「またこのバクラ宿主様のフリして、ほんと管理人は好きだなwwwwプゲラ」と思ったことでしょう。  好きなんです>< 演技派><
 そして、出だしが訳のわからない拷問から始まるのも管理人のあらかさま趣味です。
 これでも、考えて削ったんですよ!!(無茶だ!)

 簡単な説明。
 聖職者が清めたものは、異形にはめちゃくちゃきくよ!
 アンデット系に聖属性の武器使ったよ!
 っと思ってください。

 というか、なげえええええ!!
 中篇になってしまいました。
 まだ書きたいところに辿りついていません。
 でも、もうすぐです。やっとここまで引っ張ってきました……。
 これで実は削りました☆と言って信じてくれる方はいらっしゃるのだろうか。実は、異形前に少女の姉の異形とのバトルもあったなんて……。
 それやったら、軽く4作品にまで分割するところでした! あぶねえええ!!(あらゆる意味で)
 後、少女も、異形もオリジナルキャラです。少女虐待申し訳ない……。
 次、次が本番で終わりです!! おっしゃあああああ!!  


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