※なんというか、微妙な小説です。パラレルというか、オリジナルの域です。
あるところに退屈な王様がおりました。
王様はいつもいつも退屈しては、脱走したり神官団をからかったり、ツボにはまったりしています。
そんなほとんど同じことの繰り返しに飽き飽きして頃、王様は変なものを拾いました。
それは、王様の国では見ることのできない白い肌と白い髪を持つ、小人です。
なんとなく、臣下の奥さんに配色が似てますが、あっちはおしとやかでかわいいにもかかわらず、こちらは目つきも悪いし口も悪い上に王様と同じくらい偉そうでした。
しかし、王様はとても退屈でしたし、この国に並ぶこと無き偉大な王にそんな口をきいたり態度をとったりするような人間は初めてでとても新鮮だったので、持って帰ることにしました。
小人が言うには、自分は悪いことをしすぎたので宿主様に罰を受けてしまい、こんな姿になったといいます。許してもらうには、困らせた人と同じだけの人を幸せにするために願いを叶えることでした。根っからの悪人である小人は拒絶反応を起すくらい嫌でしたが、この姿はとても不便で不便でしかたないため、しょうがなく願いを叶えてているそうなのです。
そういうわけで、願いをなんでも叶えてやると告げる小人に、王様はとても怪しみました。
罰を受けて小人になったことですらいまいち理解できないのに、幸せにするためになんでも願いをかなえるなどと、想像の埒外です。
でも、退屈な王様はこのおもしろそうなものを逃がしたくなくて悩むフリをしました。
「願いと言われても、俺は王だ。欲しいものは手に入るし、どんな願いだって叶う。
だから、そんなすぐに願いだと言われても思いつかない」
考える時間をくれと嘯きました。
本当は、欲しいものも手に入らないものもあるのです。
小人は少し考えましたが、しかたないと王様に考える時間をあげました。なんでも、小人は短気ですがとても長生きで、人間が考えるくらいの時間ならそれほどでもないのです。
それから、王様はとてもご機嫌になりました。
毎日「願いはまだ思いつかねえのかよ」っとせっつかれ、王様よりも偉そうでしたが、想像通り小人はおもしろく、妙に滑稽でどこか抜けているのです。
王様がそんな小人のことを笑うたび、小人は怒り狂いましたが、その小さな体ではまったく怖くありません。
小人を見ていれば、小人で遊んでいれば王様は飢えるような退屈にいつの間にか襲われなくなっていました。よく笑い、臣下を困らせなくなった王様に、臣下たちもよかったよかったと喜びました。
そして、どれだけの月日が流れたでしょうか。
王様は、あれっと気づきました。
いつしか、小人は「願いはまだ思いつかねえのかよ」と口にすることがなくなっていたのです。
気づいて、そして口にださず飲み込みました。
なんだか、それを小人に聞けば恐ろしいことが起きる気がしたのです。
そう、それはそれは恐ろしいことが。
小人は変わりに「食わせてもらってるから」っと恩を返すようになりました。小人は見かけによらず意外と律儀で世話焼きだったのです。
王様が退屈だと、呟けば、今まで見聞きした話を語り、王様が眠れないときは小さな体のどこから出てるのかわからない美しい歌を紡ぎました。どこに行くのにもついて行き、悩んでいれば賢者のように助言を与えます。
本当に、王様にとって楽しい日々でした。もしかすれば、王様の肩に座る小人にとっても。
だから、王様はある日願いを決めました。
そのことを告げると、小人は困ったような顔をします。
「お前にずっと傍にいてほしい。それが俺の願いだ」
そして、王様の言葉を聞いた瞬間には、泣きそうなほど苦しげな顔をしました。
なぜそんな顔をするのか、王様にはわかりません。
戸惑う王様に、小人はなにも言いませんでした。
ただ、朝起きたら小人がいなくなっているだけ。
王様は狂ったように小人を探しました。小人のお気に入りの場所を、小人が好きだと言った場所を、小人がよく隠れる場所を、王宮をひっくり返したかのようにさがしました。
けれど、小人はいません。王宮の、どこにも。
思わず王様は王宮を飛び出そうとしましたが、臣下に抑えつけられ連れ戻されました。
それから、王様はまた退屈になりました。いいえ、退屈どころの騒ぎではありませんでした。
小人の不在を嘆き、その欠落を埋められず、苦しみ、小人を憎むようにまでなりました。
なぜ、いなくなってしまったのか。願いを叶えるためにいたのではないのか。どうせ、人よりも長き時を生きるのならば、王様の、人の短い人生に付き合ってくれなかったのかと。
けれど、そんなことをしても虚しいだけ。
そんな王様に、ある日、臣下のあの小人と同じ配色の妻が言いました。
「あの小人は、幸せになるための願いを叶える小人でした。
その人が幸せになれないと思う願いは叶えられないのです」
王様は、どういう意味かわかりませんでした。
小人がいるだけで、王様はあれほど幸せだったのに。
「私めなどに、他人の心はわかりません。しかし、小人が消えたということは、そういうことなのでしょう」
王様は、小人を忘れようと思いました。
けれど、忘れられませんでした。
毎日小人のことを思い続け、探しました。
もしかしたら、ある日突然ひょこりと帰ってくるかもしれない。そう思ったのです。
ですが、やはり小人は帰ってきませんでした。
やがて、人が老いるのに十分な時が経ちます。
老いた王様でなくなった男のもとに、一人の青年が現れました。
白い髪に白い肌。つりあがった青い瞳の、美しい青年でした。
青年は寝台から起き上がれない男の手をとると、そっと頬を寄せます。
「待たせたな」
青年は言いました。
もう、罰は終ったから、幸せになれる願いなんて叶えなくてもいい、と。幸せになるだけの願い以外も、叶えられるのだと。
そして、王の耳元で、長い長い話を紡ぎます。
その響きは、あの日、退屈だと口にした王様が聞いた響きと同じでした。
だから、男は青年の手を握り返し、笑います。
「ずっと、傍にいてやる」
青年は、男が死んでも手を離しはしませんでした。
とある王の墓には、墓守がいました。
白い肌に白い髪、青い瞳の美しい墓守でした。
墓守は、長い、人にとっては信じられないほど長い時、王の墓を守っていました。
しかし、ある日、「傍にいく」と言い出して、いなくなってしまったのです。
その言葉の意味を知るものは誰もいません。
いえ、一人だけいました。
最後に、願いを叶えてもらったものだけが、知っていました。
この後の話は、今紡がれている途中でありますので、語ることはできません。
どこかで見たことあるような話です。なんというか、アラジン系の。
色々な私が見てきた話をまとめてこねてアレンジしたようなものなので、もしかしたら、ほとんど同じ話が存在するかもしれません……うう、ガクブル。
その場合、パクリじゃなくてオマージュでお願いします。ええ、お願いします。
というか、ここまで突き抜けて書くと、もうパラレルじゃなくてオリジナルですね。すみません。
えっと、幸せになれない願いを叶えられないのは、「不老不死になりたい」「世界を征服したい」とかいうアレな願いに対する戒めです。
その願いを叶えて、本当に幸せになれるかと言われれば、なれないと言えますから。
宿主様を出しそこねました。
蛇足はつけない方が、キレイですよね?
実は、セトに持って帰ってこられるとか、キサラの願いを叶えるために戻ってくるとかパターンがありました……。
そっちの方がおもしろかったかもしれません。
なんで、盗賊王じゃなくて闇バクラだったかというと……黒と白のコントラストが好きだからです(それだけ!?)