短めですが、色々とひどい話です。
魂の壊れる音を聞いたことがあるだろうか。
あの音は、今も耳に響いて離れない。
なにかの偶然で、出会い、恋をし、そして殺した。
もう、何人目の器だったか覚えていない。
あまりにも遠すぎたゆえか、はたまたあの音に全てを注いでしまったせいだろうか。
あの、いつまでも器が熟すのをまどろみながら待つ名も無き王とは違い今に至るまで、無数の器を持ってきた。それでも、その中でも、あまり覚えていないがあの器のことは特別だった。
恐らく、身の内に宿る邪神は、あの段階でゲームを始めようと思っていたかもしれない。
そう、思い出してみればあの頃こそ、あの戦いから千年目だった。
邪神と、王、そして己が封印された宝物の名にふさわしいミレニアム。
自らの肉体の転生した器を手に入れた。器はやはり優秀で、着々とゲームは段階を経て準備を整えていたはずだった。
しかし、それを壊した。
邪神も器もそれこそ、ゲームが始まるとも知らぬ王の意思すら介在させず、自分は壊した。
王の納まる器を、壊した。
否、殺した。
理由は簡単だ。
王に似ていたから、殺した。
その王に似た瞳を見て、その王に似た体を押し倒し、その王に似た首を絞め、王に似た体温を手に感じながら、王に似た声を聞き殺した。
憎悪と、凄まじい快楽。もがく力も息も全てが自分の手の中で弱弱しくなり、今だ王の宿らぬ器を王と重ね、歪んだ笑みを浮かべる。抵抗されたが、構わず絞め続けた。
そして、できたのは王に似た死体だけ。
ぐったりと動かなくなった王に似た器を見下ろして、笑みを浮かべた瞬間、魂の壊れる音を聞いた。
それは、ぐしゃだったかもしれないし、ばきりだったかもしれない。
ただ、その後は溢れる涙も狂える心も止めることができなかった。
叫び、暴れ、王に似た器に縋りついた覚えがある。何度も名を呼び、死ぬなと懇願した。
しかし、それは本当に自分の行動だったかと問われれば自信が無い。
なぜなら、その器もまた、王の器となる男を憎み、厭い、そして、微かに愛していたのだから。
自らの器が、王の器に言葉をぶつける。
それは罵倒であり、愛の言葉だ。
(この光景を知っている)
考えてみれば、冷めてしまった。
なんだ。
なんだ、ただの繰り返しか。
魂の壊れる音も、縋る手も涙も声も、全て、繰り返し。
そう、自分がこうして殺すことすら、繰り返しに過ぎない。
自分の目の前で自分以外のものが殺すという事実の繰り返しにすぎなのだ。
闇が、虚ろな部分に忍び込む。
邪神が、怒り狂っている。
勝手なことをし、ゲームを先延ばしにしたのだ。当然だろう。
するりと、記憶が抜けていく。
ああ、そうか、だから覚えていないのか。
時の長さや魂の音などではなく、自分は邪神によって記憶を奪われたのだ。
今度は、邪魔をしないように、きたるべき瞬間まで、勝手をしないように。
抵抗はしなかった。
抵抗したところでどうにかなるものではなく、同時に、また繰り返す自信があったからだ。
何度でも、何度でも、何度でも、自分は王を殺す。
例え、それがいまだ王になっていなくとも。
今度こそ、自分が殺してやるのだと。
「俺様が、今度こそ、王様を殺す」
呟いて、記憶は奪われた。
なんとなく、3000年も待たされるのはどうだろうと思ったので、実は前にも器がいたんじゃないかという妄想。
アイテムの名前も、1000年ですし、区切りもいいので、本来は1000年後に予定されていたのではっと、捏造。
そして、盗賊王は1000年くらいじゃ枯れないぜっと、偽造。
王を宿す前に殺しちゃって、ゲームが先延ばしになっていたら……そして、初期のバクラはあんまり記憶がなかったみたいなので、こういう風に書いてみました。
相棒も宿主様もあれだけ似ているのですから、前の器もそっくりだろうなっと……。
よけいなことをしないように記憶は封印され、徐々に思い出させられるような……!
しかし、結局、繰り返し。
嗚呼、なんだか、久しぶりにアレを書きました。