獏良天音と海馬瀬人はなぜか幼馴染である。
 けれど、海馬瀬人はともかく獏良天音はその位置に満足していなかった。


「せと」


 少女は自分よりも明らかに背の高い青年の腰に抱きつき、そのままタックルの要領で突撃する。しかし、青年もなんとなく事前に予想していたのだろう、ぐっと足に力をこめて耐えようとした。
 が、次の瞬間少女はその軸足を払って体重の任せるままに青年を押し倒す。
 青年が背中を強く打ちつけ、うめき声をあげるのにも構わず、少女はその腹に馬乗りになって青い瞳で見下ろした。

「な、んのつもりだ」

 痛みに顔をしかめ睨みつける青年に、少女は笑う。
 手を伸ばしてこずいてやろうとすれば、ずいっとその青い瞳と白い髪が視界を覆った。
 唇に柔らかな感触を感じて、青年は怒りも忘れて目を見開いた。

「せと」

 もう一度、名を呼んで頬に口付ける。
 いつも唐突な行動をする少女であったが、今日の行動は突然に拍車をかけ、意味がわからない。
 混乱に呆然としていれば、少女は好き勝手に青年の顔に唇を落とし、小さく細い手が鍛えられた胸板をあからさまな手つきで挑発するようになでる。
 どう反応すればいいのか、青年の優秀な頭脳をもってしてもうまくはじき出せない。これは、もしかして襲われているのだろうかとお互いの性別を忘れて考える。もしも性別が逆であれば青年もなにも考えず殴りつけるのだが不幸なことに青年は男であったし、少女は当たり前ながら女である。
 青年がなにも反応しないのに困っているのだろう、少女はぺたんっと自分の薄い胸と青年の胸をくっつけると、もう一度唇を重ねた。
 今度も、触れるだけのものだったが、顔が離れていく時、子猫のように青年の下唇を舐め、うかがうような瞳で見上げた。

「せと?」

 じわりと胸の上に伝わる体温、少女の体は少々華奢だったが女性らしく柔らかで、いつも透けるのではないかというほど白い肌が今日はほんのり赤い。
 
「……」

 大きく、息を吸う。
 そして、とりあえずとでも言うように軽く拳を握り、その頭を軽くこずいた。
 ぺたりと胸の上にアゴまでつけて少女は頭を抑える。

「いた」
「なんのつもりだ」

 こずかれて痛かったが、反応が返ってきて嬉しいのだろう、少女は顔を明るくし、力強く言った。
 


「せと、しようぜ!」
「……寝言は寝て言え」


 あっさりと切り捨てる。
 少女の顔がなぜっと問い詰めるように不機嫌そうに歪む。
 だが、そんなことを気にしない青年はとりあえずとばかりに少女の体を引き剥がそうと腕を伸ばした。が、すぐに意図に気づいたのだろう、少女は青年の首に手を回していやいやと首を振る。

「天音、はなせ」
「いや!」
「いやではないだろうが」

 脇に手をいれ、持ち上げようとするが青年の長い足にまで少女は足を絡めて抵抗する。
 かなりの密着度で危うい体勢。
 もしもこの場に誰かやってくれば「ごめんなさい」と言って全力ダッシュで逃げることだろう。けれど、不幸中の幸いか、はたまた不幸かその場に介入するものはいなかった。  

「なあ、せとー、幼馴染の一線越えようぜ?」

 少女が甘い声でねだる。
 ちろりと自らの薄い唇を赤い舌で舐め、瞳を細めて扇情的に体をこすりつけた。
 ここで普通の青年であればまず間違いなく、性格はともかく見目のいい少女の誘いにのっていただろう。
 しかし、青年はあまり普通でもなく、同時に少女の幼馴染だった。

「そんな一線越える気など俺にはない!!」
「なんでだよ! ケチ!」
「ケチという問題ではないだろう、とにかくどけ」
「いいじゃねえか、減るもんじゃないんだぜ!!」
「残念ながら減る」
「なにがだよ!」

 子どもがダダをこねるような声に青年は溜息をつき、弟にするように頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
 あらかさまな子ども扱いに、少女はもういいとばかりに体を離した。
 やっと諦めたかと思えば、制服の首もとのリボンを外し、ブレザーのボタンを外す。ずるりとブレザーを脱ぐと、今度はシャツのボタンを素早く外し、黒いブラを晒した。
 どうにも、青年は頭の回転は速いものの、予測不可能な行動に弱いのだろう、咄嗟に動けず見ていることしかできなかった。その間にもスカートのホックを外し、くびれた白い腹部を露にする。
 そして、無理矢理青年の腕をとると、おもむろに自分の胸へと導いた。小さいものの、柔らかなそこにさすがの青年も動揺して咄嗟に手を引くいたが、少女はにやりと口角をあげて笑った。


「今、俺様が悲鳴あげたら、どうする?」


 激しい頭痛が青年を襲った。
 少女が悲鳴をあげれば、今でこそ人気のない場所ではあるが、どこかで聞きつけた人間が駆け寄ってくることは十分ありえることだった。いや、誰かではなく、少女を溺愛する兄が、例え1キロだろうが2キロだろうが離れていても全力でやってくる可能性がある。
 もしも、人がきて、少女が泣きながら「襲われた」と訴えればどうなるだろうか。そこで、少女が悪いと思う人間が何人いようか。青年の言葉を信じる人間が、いるだろうか。
 いや、もしも少女の性格を知るものであればなんとなく検討をつけてくれるかもしれないが、それがまったく知らないものであれば、あるいは少女の兄であれば意味は無い。
 今、青年はひしひしと自分が脅されていることを感じる。
 少女は、やるだろう。ただの脅しではなく、恥も外聞もなく確実に。青年がここで無理矢理少女を引き剥がし逃げたとしても、少女が悲鳴をあげて泣き出せば青年はそこで終わりである。
 そう、こういう性格だったと今更ながら思い出し、今更ながら少女に好き勝手を許したことを後悔した。
 さっさと力ずくでも無様でもいいから逃げておけばよかったというのに。

「なあ、せと?」

 ひどく、扇情的な姿で見下ろす。
 その手が最初と同じように青年の胸を撫で、きっちりと閉じられた制服の前を開けていく。
 青年は抵抗しないものの、まだ迷い、目をそらした。
 それが気に入らなかったのだろう、少女は青年の輪郭に口付けて、目を彷徨わせた。
 さっきまでの雰囲気とは違う、年相応の少女の表情で顔を赤くすると、一呼吸。



「せと、好きだ。
 ずっと、ずっと好きだった。その……俺様とお付き合いしてください」
  


 遅すぎる愛の告白。
 押し倒すよりもそちらを先に口にするべきだろうと青年は呆れた。
 呆れたが、腹を決めた。
 手をスカートから伸びる細い足に伸ばし、撫でる。
 少女が小さな声をもらして反応した。 
 
「せ、せと?」
「貴様の兄に、」

 太ももを撫で、前を全開にしているシャツの隙間にも手を差し込む。形よく長い指が白い肌を滑らかに撫で、少女の体温をあげた。
 
「なんと言い訳すればいいか、貴様も考えておけ」
「うん」

 背筋をなぞられ、少女は震えながら体を反らす。
 青年は上半身をあげると、少女を抱き寄せてその薄い唇に触れる。少女はすかさず指を咥えると舌を絡めた。爪を軽く噛み、その指の堅い間接を順番に奥へ奥へと導き、楽しそうにうっとりと表情を緩ませる。少女の手が青年の腕を掴み、その指の間や掌を舐めていく。

「天音」

 真剣な声だった。
 少女はこの声を聞くのがたまらなく心地よく、また背筋を振るわせる。
 髪に口付けられ、ブラのホックに指がかかった。

「好きだ」
 
 少女の興奮が、喜びが、メーターを振り切って突き抜けた。
 たまらないとばかりにしがみつき、唇を奪う。今度はふれるものではなく、舌が侵入し、絡めあう。最初はおずおずとした躊躇う物だったが、途中で我慢ができなくなったのか、激しく息すら忘れるものへと変化していく。
 その間にも青年の指はホックを外し、青年の大きな手にすっぽりおさまるどころか余りあるが、形よい胸に触れた。
 ぴくりと少女は跳ねたが、それでも唇は離れない。息苦しさを感じながらも、それでも必死に縋るように舌を絡め、頬の内側を舐め、吸い付き、相手の唾液の味を飲み込んだ。

「……ぉ……」

 呼吸のために離された合間すら惜しいと、寂しいとでも言うように少女の瞳が揺れる。

「せ、とぉ……」

 乱れた息で青年を呼ぶ。 
 今度は青年から唇が重ねられ、舌を絡めた。
 何度もそうして貪りあい、確かめるように相手の体に触れる。
 青年は少女の胸を片手でゆるやかに刺激し、片手で腰を撫で、少女の体に自分の手を慣れさせていく。
 くすぐったいといよりは、なにか微妙なものを感じかけている少女の反応を見ながら、唇を離し、息苦しさのせいか少女の目尻に浮かんだ涙を拭う。

「せっと、せと、せと、名前、呼んで……」

 少女は青年の首に舌を這わせて呟いた。
 頭の上で、青年の声が少女を呼ぶ。

「天音」
「もっと」
「天音」
「もっと、呼んで」

 何度も、何度も青年は少女の名を呼んだ。
 呼ばれるたび、少女は熱に浮かされたように笑う。
 そして、少し腰を上げると、スカートを膝まで落とすと、青年の手を下肢へと導いた。

「せと、もういいから、もっと、深いところ、触って」

 青年は答えるように足をあげるように促し、下着を脱がした。
 恐らく、他人に見せたことのない場所が晒され、さすがの少女も少し怖いのか不安そうに眉を下げる。

「やめるか?」
「絶対、やだ」

 無理矢理余裕げに笑い、首に甘く噛み付いた。
 それを合図とするように青年もそこに指を伸ばす。
 いきなりの刺激に少女の体が驚かないようにゆっくり、そして慎重に指を動かし、そこを慣らして行く。

「ぁ、ん、ぁ」

 甘い声。
 小刻みに震えながら、少女は青年に小さく繰り返し口付けた。

「せ、ん、と、ぁ……ふっ……ぃ」

 ついに、指が中に侵入する。

「ぃんん!」

 痛みと、苦しさ、微かな恥ずかしさがこみあげた。
 自分も触れたことのない奥に、青年が触れている。それだけで、少女はどうしようもなく恥ずかしいが、嬉しい。
 あくまで丁寧に優しく中で動く指が、疼きを与えた。
 もと、ひどくしてもいい、激しくしてほしいと、少女は思う。青年になら、そうされてもかまわないと。
 膝立ちが辛いと思われたのだろう、膝の上に座らされ、足を広げられる。

「せと、せと、も、いれ……せと、の、ほしい……」
「バカを言うな」

 肩を掴んでねだれば、ばっさりと切り捨てられた。

「な、んで……」
「この狭さで俺のが入るわけがなかろう」

 指で中をかき混ぜながら青年はきっぱり告げる。
 不満そうな少女の表情に、それにっと、青年は付け加えた。

「今日はいれるつもりは、ない」
「え?」
「避妊具も後始末もきちんとできんここでするわけがないだろう……」
「ある」

 少女はきっぱりと言った。
 思わず、青年の手が止まる。

「持ってる」
「なぜ持っている……」

 なんとなく答えを予測しながら、青年は問う。

「兄貴が、必要だろうからって。
 別に、俺様はいいんだけど」

 少女はいつもの笑みを持って答えた。

「後、プールのシャワー室の鍵、壊れてるし、俺様ちゃんと、ジャージ持ってるから」

 準備は万端とばかりに告げられ、青年は眩暈がした。
 なにか叱り付けてやりたい気分にもなったが、ここまでやっておいてそう言うのもなぜか気分がのらない。
 青年は溜息をついて動きを再開した。
 少女のそこに二本目の指をいれ、少し強くかき回す。

「ひゃあ! ああん、ぁん!」

 急な刺激に驚きながらも少女は抵抗しない。
 むしろ、協力するかのように足に力をこめて閉じないように耐えた。そんなことをしなくても、青年が一応手で抑えているのだが、それでも、受け入れるように自分でも足を抑える。

「せええとお、せとぉ!!」

 強い刺激に涙を流しながら、少女は内臓がきゅうっと締め付けるのを覚えた。
 あの指が、今自分を乱している。自分の好きな、きれいな指が。
 熱いものが下半身からこみあげ、少女の思考を麻痺させる。
 少女はまた笑った。
 そして、体を寄せると青年に口付ける。

「せと、すき」

 呟いて、もっと早く言っておけばよかったなっと、少しだけ後悔した。 



「と、いうわけで」

 今すぐ逃げたいという表情をした青年を腕を組んで引き止めて、少女は兄の前でガッツポーズをとった。

「今日から、俺様、付き合います!!」
「ふーーーーん……」

 イタイ。
 とにかく、イタイ。
 兄の視線が、イタイ。
 少女はまったく気にしていないが、青年には少女の兄の視線が痛くてたまらない。
 それは、罪悪感もあったが、なによりも少女の兄に対する恐怖心が多かった。
 少女の幼馴染であるとうことは、等しくこの兄とも幼馴染であるということ。
 そして、少女の兄の性格も、そして恐ろしさも青年は熟知している。

「そうか、そうか、ふーん……」

 ふーんっと何度も繰り返し、兄は、とてもとても優しい笑顔で聞いた。



「キモチヨカッタ?」



 少女は即答し、青年は逃げた。
 今度こそ、逃げた。



 天音ちゃんが自重しねえええええええ!!
 王様に引き続いて社長まで……。
 いったいどこへ行こうというんだ管理人。
 だって、エチャで!! エチャで皆様がせとバク言うから!!(人のせいにしない)
 というか、普通にイチャラブで恥ずかしいです。バクラがデレるだけでこれだけ恥ずかしいことになるとは……。
 まあ、恥ずかしかったのと時間がなかった(※しまった、アップできない時間に加筆しとけばよかった)ので、王様もいれなかったし、社長もあえて描写を切りました。
 王様の方は性急ですが、社長はゆっくりです。できるだけ相手を傷つけないようにしてます。
 天音ちゃんの呼び方がひらがななのは、その、ほら、あれです。混ぜてるから(マテ)
 いや、しかし、天音ちゃんはたくましいなあ……。王様に会わなければハッピーエンドなんですがねえ。
 基本、せとバクだと、天音ちゃんも社長も記憶ない方式です。あんまし過去にとらわれない二人。


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