どろり。

 闇の中這い上がった彼は周囲を見回すと、すぐにその闇へと身を戻す。
 褐色の裸身が水のような、しかし水より濃い闇の上をたゆたい沈んでいく。
 どろりどろり。
 闇の中響くのは、すでに言葉ではなくなった怨嗟と罵倒。
 それに体をすっかり浸らせ、彼は薄く瞳を開いた。
 光のない、どこも見ていない瞳。 
 声もなく、その唇が開き、誰かを呼ぶように形どる。
 響くことの永遠にない言葉。それは彼を保たせている。
 彼は、静かに焦っていた。
 闇の中に堕ちながら、彼は自分の意識が消えかけていることに気づいている。
 ゆっくりと、ゆっくりと、磨耗した心は闇に侵され、消えていく。
 自分は闇に摩り替わっていく。
 このままでは、僅かに残っている自分はすっかり闇へと代わってしまう。
 協力者であった筈の闇は、すでに牙をむき、自分を征服し、吸収しようとしている。
 だから、その前に決着をつけなければいけなかった。
 消える前に、そう、たった一人の名も無き王と、


「それだけは、譲れねえぜ……ゾーク」


 呟いた言葉は、思ったよりも弱弱しい。
 堕ちていく声に闇は嘲笑った。
 支配される身が何を言うと。
 すでに、お前は限界だと。
 決着をつける前に消えるのだと。
 残酷にも告げられた。
 しかし、彼は揺るがない。
 ただ、ただ、渇望する。

(でも、もしも)

 どろりとした闇が甘い毒のようにしみこんでいく。
 意識が黒で塗りつぶされる。
 すでに、その首から下はどっぷりと闇に奪われ、存在しないも同然と化した。

(もしも、だめだった時は)

 それでも、彼は恐れることなく、悲しむことなく、あり続ける。

(少しだけ、頼めるか)

 足掻くことも、もがくこともすでに無駄な場所まで到達していた。
 なにもかもが消えていく中、やはり、浮かぶのはたった一人。
 否、もう一人、笑みを称えた少年の顔が過ぎる。
   
(宿主、)

 彼と少し似た、しかしまったく違う少年。 

(俺の想いを少しだけ、そう、少しだけ連れてって) 

 むしのよすぎる話だと、彼は笑って、堕ていく。 



「いいよ」

 そして、闇の向こうから聞こえた声を、彼は聞いていただろうか。

「いいよ、ちゃんと、僕が連れて行ってあげる」

 光の中へ完結してしまう、少し前の話。
 ここで、一つの形が、闇に完結した。



 なんだか、何度も言ってる気分ですが、私の脳内では基本的にゾーク≠バクラです。
 でも、最終的には吸収融合する感じで……っと妄想を垂れ流し。
 話的には、エジプト編の少し前だと思ってください。時間軸はめちゃくちゃ!(落ち着け) 
 えっと、「さよなら白昼夢」の前の話だと思ってほしいです。
 それを読めば、宿主はちゃんと連れてってくれたとわかります。
 うーん……支離滅裂……。タイトルはあえて、最終回の逆です。



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