※ひどい捏造&バクキサです。
優しい手を振り払うことは、とても、とっても勇気のいることだった。
そのままずっと握っていたかった手を見て、驚いたようなその人の顔を見て、私は申し訳ないという顔をするしかない。
本当に、本当に優しい手だった。握っているだけで幸せになれるだろう。できることならば、本当にずっと握っていたかった。
「キサラ!」
けれど、私はもう手を選んでいたから。
優しくないけれど、大きな手を、何かを掴むためにいつも必死な寂しい手を、私はもう選んでしまっていたから。
「セト様」
振りかえって、頭を下げる。
「助けていただいてありがとうございます」
恩知らずと罵られても仕方ないだろう。
でも、私は
「でも、私は」
「よお、神官様」
私の背後の壁が崩れ、そこに巨大な存在を感じる。
振り返らなくても、そこに誰がいるか、わかっていた。いや、知っていた。
「貴様は……バクラ!!」
そこにいるのは、私と同じ白い髪と青い瞳を持つ人がいる。
なにもかも憎んだ、悲しい人。
振り返り、笑うその人と目を合わせた。私に向かって、寂しい手がいつものように伸ばされる。
「キサラ、迎えにきたぜ」
「はい……バクラ」
伸ばされた手を掴む。
引き寄せられ、慣れた体温に目を閉じる。これ以上、あの人を見たくなかった。
見てしまえば、私が揺らいでしまう。
そう、あの手を握っているときのように「もしも、もっと早く出会っていれば」という思いがせりあがる。
「キサラ!! キサラ!! どういうことだ!!」
「おっと! キサラを裏切り者みたいな目でみんじゃねーよ。最初っからあんたのものですらなかったんだからな……ククク。
まあ、神官様よお、あんたはいつもいつも王様に気味わりぃくらいはりつきやがってうざかったけど……今日は一つだけ礼を言っとくぜ。なんたって俺様のキサラを助けてくれたんだからな」
「待て!!」
「ディアバウンド!! 引き上げるぞ!!」
「さようなら、セト様。どうか私のことは忘れてください。私は、神を殺すための龍なのですから」
砂漠の闇の中、少年は白き龍を見た。目測ではあったが、大きな街一つと同じほど巨大だろう。
闇を切り裂く、あまりにも神々しい龍は舞い上がり咆哮をあげて現れた。その姿を見たものは、思わず畏怖と尊敬に足を折らずにはいられなかっただろう。
しかし、少年は違った。ただ、見ていた。
白き龍の姿を、ただじっと。
白き龍は、翼を一薙ぎしたかと思うと首をくねらせ、少年と目を合わせた。いや、それは青年の錯覚かもしれない。けれど、少年は魂ごと心と体を同時に震わせた。
そのときの少年の感覚は、決して言葉では表せなかった。それでも、無理矢理言語化するならば、感動と名づけるにふさわしい。少年が生きていた中で、いや、生きていく中で、恐らく最初で最大の感動だろう。
呆然とする中で、白き龍はもう一声苦しげに咆哮をあげると、堕ちていく。
あまりにも唐突な落下。
思わず、少年は龍の咆哮に混乱する馬を無理矢理走らせて恐らく龍が堕ちた辺りまで駆け出した。
「死体?」
白き龍が堕ちたと思わしき場所には、一人の少女が落ちていた。ボロボロの、布とも言いがたいキレを体に貼り付け、長すぎる白い髪をばらまいて落ちているとしか言いようのない姿で存在している。
死体かと思い、少年が近づいた瞬間、少年は目を見開いた。
「生きて……んのか?」
生きていることに驚いたわけではい。少年が驚いたのは、その肌のあまりの白さだった。
見たこともないほど、比べるものがないほど白い肌。
砂漠にはありえるはずのない肌の色に少年は魅入り、同時に確信する。この少女こそが、先ほどの白い龍だと。
理屈はわからないが、感覚がそう伝える。
そうとしか思えなかった。そうでなければ、これほど白い肌の人間が存在するわけはないと。
少年は少女を抱き起こしてみた。小さな、痩せすぎた弱弱しく軽い体にはあの白き龍の強さの面影はかけらも見つからない。
けれど、少年の確信は揺るがなかった。
なぜなら、その少女の頬に触れた瞬間、その双眸が重たげに開いたのだ。
青い、空ともオアシスとも違う、青。
その青こそ、少年が目を合わせた白き龍と同じ青い瞳。
「っ」
少年は、笑った。
狂喜の笑みというにふさわしい。
強く、少年は少女をかき抱いた。
痛みに顔を歪める少女にも気にせず、強く、強く、強く。
全身の細胞が沸き立ち、湧き上がる憎悪と復讐が、叫ぶ。
(これだ!!)
(この力だ!!)
(この力があれば復讐が果たせる!!)
(王を! 国を! 神すらも殺せる!!)
(力を手に入れた!!)
「てに、いれた……」
打ち震えながら少年はひどい声で呟いた。
見開かれた目は血走り、頬は費きついっていた。それでも、笑っている。
「ぅ……」
少女の口から掠れた悲鳴が漏れる。
その声に少しだけ力を緩めると少年は少女を抱え、馬にくくりつけていた水をその口に含ませる。
うまく飲めないのか少女は口から水を零し、ただ肌を濡らす。
苛立った少年は一口含むと、少女の乾いた唇と自らの唇を重ねた。
ゆるりと流し込まれる生ぬるい水を、少女はなんとか喉を動かし飲み込んだ。
唇を離した瞬間蒸せたが、それがかえって意識を覚醒させたのだろう、青い瞳に色が宿る。
「あ……たは?」
切れ切れの問いに、少年は笑いながら答えた。
「バクラ、王を、神を殺す盗賊の名だ」
わー。書きたいことを詰め込めませんでした。
えっと、簡単に言うと、バクラがキサラを拾って共犯者にする話です。
もう一話くらい書きたいな。
お姫様だっこ+強奪+口移し萌え(死ね)