千の夜よりまだ遠く、万の夜でも足りはしない、百万のその先でも待ってました。
たった一人の貴方を。
時々、僕は膝を抱えて待ち続ける子どもの夢を見る。
僕は砂漠の中に立ち尽くし、乾いた風の中、子どもを見ていた。
褐色の肌に、感情の全てをそぎ落としたような子どもは夜の中にいる。星も月も見えない夜の中、孤独と時間に翻弄されながら待っていた。
いったい、どれだけの間そうしているのだろう。子どもの服も体もぼろぼろで、砂塗れだった。
思わず、抱きしめてあげたくなるほど小さな背中を僕はいつも眺めている。
それ以上でも、それ以下でもない。
ただ、見ているだけ。
声をかけることも、動くこともできなかった。
なぜかは、わかっている。
僕は子どもの待ち人ではないからだ。
この世でただ一人、巡ってくる待ち人のみが、子どもに声をかけることができる。
声をかけてしまえば、動いてしまえば、子どもにぬか喜びをさせてしまう。そうではないのに、期待させてしまう。
だから、乾いた風の中、子どもを見ていた。
待っているのは、君だけじゃないと伝えるために。
僕も一緒に待ってあげるよっと、伝えるために。
せめて、最後まで、なにが起きても最後まで、いてあげると伝えるために。
でも、君は知っているのだろうか。
待ち望んだ夜の先に、なにがあるのか。
知っていて、なお望んでいるのだろうか。
もしかしたら、待っている今この瞬間こそ、幸せなのかもしれないことを。
きっと、待ち人が現れれば不幸になる。運命の輪は今まで止まっていた時間を取り戻すために激しく回転し、あっという間に子どもを向こうへ、その先へ連れて行くだろう。
なんたって、子どもはこんなにちっぽけで、弱弱しい。
こんな乾いた風にも、吹き飛ばさそうなくらい。
未だ子どもはたった一人を待っている。
待ち人が、くるのを。
待ち人に、出会うのを。
待ち人と、全てを再開する日を。
そして、待ち人が全て思い出すのを、ただ静かに。
「おうさま」
子どもは、夜の中に吸い込まれるように呟いた。
その二つの双眸に写ることのない待ち人を呼ぶ。
ああ、まるで花のようだ。
千の夜よりまだ遠く、万の夜でも足りはしない、百万のその先で、たった一晩咲く花だ。
「ゲッカビジンだよ、それ」
いきなり写真を突きつけた獏良くんは言った。
なんのことかわからず首をかしげても、やっぱり獏良くんは笑っている。
「この花、好きなの?」
「ううん、別に」
「じゃあ、どうして?」
「うーん……そうだね」
獏良くんはちょっと困ったように首を傾げた。
あんまりよくわかってない顔だ。
こういう顔を最近よく見る。僕はその顔の意味を気づきながら黙ってた。
「たぶん、ラブレターかな?」
思わず、裏返してみる。
何も書いてない。
首をかしげるしかない僕に、獏良くんは歌うように呟いた。
「ゲッカビジンは、一年に一度、夜に咲き始め朝に一夜限りでしぼむ花なんだよ。
新月だけに咲くとかも言われててね、すごく、キレイらしいんだ」
しかし、ラブレター。
いったい、誰から誰への。
まさか、獏良くんから僕のだとは思えない。
じゃあ、まさか?
いや、それこそありえない。けど、他にいはしないだろう。
けど、なんでこの写真がラブレターなのかわからない。だって、ただの花の写真じゃないか。
「あいつに、すごく似てる花だと思ったんだ。僕は」
特に、花言葉が。
「ただ一度だけ会いたくて」
たぶん、きっと、その一言に全てがつまってる。
なんだかよくわからないけど、確信した。
そう聞けば、これは紛れもなく、ラブレターなのだろう。
「できるだけ、早く答えてあげてね」
僕の向こう側に向けて、獏良くんは曖昧に微笑んだ。
あいかわらずのふいんき(なぜか変換できない)小説っぷりにヘコみます。
エロかふいんき(なぜか変換できない)しか書けないというのは……。
まあ、それはおいといて、ゲッカビジンの花言葉はバクラにぴったりすぎます。一度調べてみてください!!
しかもゲッカビジンはサボテンです、サボテン、砂漠といえばサボテンですよ!! そして、サボテンにも似てますよね、バクラって(お前の中のバクラが知りたい)
王様、はやくはやくはやく、でも、できるだけ遅く思い出して。