複雑な迷路を、まっすぐ歩く。
いくつもある扉のどれ一つにも手をつけず、ただ、まっすぐ。
少しでも、道を曲がろうとすれば、ブレようとすれば、そこには罠が待っていると知っている。
何度も歩いた道をいつもと同じ速さで歩く。
耳に聞こえるのは、小さな子どもの泣き声か、怨嗟、あるいは獣の咆哮。
その中で、突き当たりの壁に手をついた。
手は、霊体のように壁をつきぬけ、体をその向こうへと連れて行く。
その向こうを知っているから、驚きは無い。
「ねえ」
暗く、狭く、冷たい部屋。
その中で、自分とそっくりな少年が無気力に寝転がっていた。
少年はちろりとも視線をうごかすことなく、迎えの言葉もなくただそこにいる。
「ねえ」
呟く言葉は空しく響くことなく闇に吸い込まれる。
それでも、言葉をかけた。
「また、もう一人の遊戯君とケンカしたの?」
返事は無い。
ただ、瞳だけが動く。
「拗ねるくらいなら、しなきゃいいのに」
表に出ているときは動きすぎるほど動く口は今は動かない。
じっと、目を合わせ、もくもくと喋る。
「いったい、君はなにをしたいの」
「ねえ、君の目的はなんなの」
「千年アイテムってなに」
「どうしてそんなにもう一人の遊戯君にこだわるの」
「教えてよ」
「どうせ、なに言ったって、僕は忘れてるんだから」
「ねえ」
「君は、何を求めているの?」
その唇が、わずかに震えて、擦れた声が漏れた。
「お、さぁ」
切ない声だった。
子どもが縋るような、狂うように求めるような。
それなのに、無味乾燥で、儚い
「おう、さま」
「おうさま」
「おうさまに、あいたい」
「あんなやつ、しらない」
「おれは、ずっと、まってたのに」
「おれはずっとひとりで」
「さがしてたのに」
「おぼえていたのに」
「にくんでいたのに」
「わすれるはずがないのに」
「おうさま」
「おうさま、おうさま」
「おうさまおうさまおうさまおうさまおうさまおうさまおうさまおうさまおうさまおうさまおうさま」
「×××!!」
最後に叫んだ言葉は、うまく聞こえない。ただ、それだけは、なによりも熱がこもった叫び。
少年は自分で自分の体を抱き、震える。
泣いているのかと思えば、違った。ただ、唇をかみ締めて、言葉を抑えるように、飲み込むように。
「俺の目的は……もう一人の遊戯を殺すことだ」
搾り出したような声。
少年は笑っている。
自分とそっくりな、しかし、自分にはできない笑み。
「君は」
思わず、口を開く。
言わなければいけない気がする。
この、言葉を。
「でてけ」
揺れる瞳がそう言った。
次の瞬間、外へと引きずりだされる。
先ほどまで見ていた光景が、聞いた声が、過ぎった疑問が夢のように霞み、指先から溶けて消えた。
少年一人になった部屋で、獣の声がする。
『ゾーク様よお、まだ、宿主はほっとけ。記憶は俺が処理する。
まだ、使わなきゃいけない場面もあるんだしよ……なにより、タイセツナオトモダチ、らしいからな』
少年は、それだけ呟いて、目を閉じる。
見る夢は、王の血に塗れた首の夢。
じりりりりりりりりりりりりりr。
「ん〜……朝ぁ……?」
目をこすり、起き上がる。
なにか夢を見たような気がするが覚えていない。
そんなことはいつものことで、ずるずるとベットから這い出すと時計を止める。
ふと、時計の表面に映った目の下に、涙の痕を見た気がした。
(君は自分の本当の目的に気づいてるの?)
このサイトでは、基本的にゾーク≠バクラです。
遊戯は王様と色々してるんだから、獏良もできるよね。ということで。獏良はバクラにとって都合の悪いことは記憶消されてるんだよっという解釈です。
きっと、バクラは王様が絡まないと3000年ですっかり心が磨り減って無気力だと思います。想像してみて、王様のように寝てるならともかく、人間が3000年も生きてたらとても保たないと思います。
バクラの精神世界は、王様のあの迷宮よりも殺傷能力が高そうで、狭くて冷たくて複雑だと思います。
なにが言いたかったかというと、ちゃんとバクラも王様が好きなんですよっということと、忘れた人と忘れられた人の温度差です。
王様は現状に満足してるので、あんまり「記憶」に対する執着心が弱かったですが、バクラはすごかったですよね。