気絶した彼に何度か声をかけ、意識を取り戻さないのを少年は思わず呆然と見下ろしてしまった。
 やはり少々性急すぎたと反省し、とりあえず彼から自身をゆっくりと引き抜く。
 だらんと四肢を投げ出し、乱れた体を見ているとそのまま揺さぶって好き勝手にしてしまい衝動に襲われたが、ソレは段階的にまだだろうと我慢する。
 入れるのと同様に締め付ける内部は抜くのもかなりきつい。できるだけ傷つけないようにと考えるならば強くもできず、後退するごとに気絶していても痛みに顔を引きつらせる彼の頬を撫でた。
 だいぶ慣れたと思ったのだがっと完全に自身を引き抜いて溜息をつく。

「焦る必要はない」

 なぜなら、彼は逃げられないのだから。
 そう、彼を閉じ込めるために、少年はずっと、ずっと前から計画していたのだ。
 状況を整え、道具を揃え、タイミングを見計らった。
 なにもかも、彼を手に入れるために。
 今も、わざと希望を与えて突き落とした。
 絶望が深ければ深いほど、人は無気力となる。逃げるなどという気が、起きなくなるほど。
 首輪に手を伸ばし、銀色の冷たい感触を指で味わう。
 乾いた大地に水がしみこむように支配欲が少しだけ癒されたような気がした。
 けれど、まだだと思う。まだ完全ではない。手に入れたわけではない、ただ閉じ込めただけに過ぎないと。
 満足、できない。
 この体を余すところなく犯してその心を侵して、この皮膚の一枚下まで自分で満たしたい。
 声も瞳も指も感覚も感情も全て自分だけに向けられて、自分のためだけにあればいい。
 湧き上がる欲を抑えず、彼はその体を抱き上げた。
 華奢だが、自分よりも身長の高い彼は重い。
 それでもなんとか抱え上げると寝室へと運ぶ。
(あれだけ泣いたんだ、水がいるな。後、包帯)
 拳に滲む血を舐めて拭う。口に広がる鉄の味は決して美味だとは言いがたかったが、気分が昂揚する。いっそ、このまま指先から噛み付いて咀嚼して飲み込みたいほど。
 想像するだけでぞくりと暗い喜びがこみ上げた。
 離そうと思った手を握りなおし、口に運ぶ。
 中指から順番に、舌で指の腹を撫で少しづつ含んだ。
 少し短い爪の形を確かめ、第一関節を奥歯で弱く噛む。痕も残らないだろう力で、何回か噛み締めた。

「んっ」

 微かに息を荒くするのを見て、少し満足して口を離す。
 手を離し、立ち上がった瞬間、小さく裾が引かれた。
 振り返ると、恐らく無意識なのだろう少年の裾を彼は握っている。その手はすぐに力なく落ちたが、少年は思わず笑みを浮かべていた。
 歪んだものではない、まるで小さな子どものような、無邪気な笑顔を。
 


「王様」

 びしっと、彼は口にした。
 ベットに寝転んだまま水を口に運ぶ彼は、ベットに座り、彼の右手に包帯を巻く少年を睨みつける。

「?」

 意味がわからず少年が首を傾げれば、ごくりと水を飲み込んで、ペットボトルを床に置く。

「あんた、偉そうだから王様。
 名前しらねーし、知りたくもないから、そう呼ぶ」
「ふーん」

 おうさまかっと、口の中で呟いて少年はひどく嬉しそうに何度か頷いた。
 そして、包帯を止めるとその上から唇を落とす。

「こっから、だせよ」

 不機嫌そうに顔を歪める彼に、少年は、王様は尊大な態度で笑う。

「いやだ」
「出せよ」
「だせよ!!」

 相変わらず身に着けるもののない白い肌を指でなぞった。
 びくりっと、彼の体が与えられた痛みを思い出して震える。怯えるような瞳が拒絶を見せた。
 だが、王様は指を止めることはなく、少しづつ緩慢な動きで愛撫していく。
 先ほどの性急さはなく、ただただ優しい。

「やっや、め……」

 引きつった声に、王様はその喉を舐める。
 手が強く抵抗した。初日以来の激しい抵抗に、さすがに恐怖が刻み込まれたのを感じた。

「大丈夫だ。気持ちよくしてやるぜ」
「やめろ……」
「さっきは、ちょっと焦ったが、今度はもっとゆっくりする」
「いやだ……ぁっ」

 耳元で優しく囁きながら、耳の裏の付け根を舐め上げる。
 ぬるぬると丁寧に舐めれば、息が乱れた。抵抗する手も弱まるのに、にやりと笑って耳に息を吹きかける。

「耳、弱いんだな」
「違……」

 唇で柔らかく挟むと、ひくっと反応する。
 執拗に耳を責めながら、指は胸の突起へとかかった。
 まだ快楽と言えない刺激はひどくもどかしく、唇を噛む。それでも熱くなる体は隠せず、反応するしかない。
 いつしか、抵抗する手はしっかりと服を掴んでいた。 
 ただ、いつまでも強い刺激は与えられず、肝心な場所をすべるような感覚しかない。

「ん、ぇ、ぅ……」

 唇を噛んで声を抑えながら、無意識に腰を揺らした。
 今まで強すぎる刺激ばかりを与えられていたので、もっと、感じる部分に触れてほしくてたまらない。
 しかし、それを口に出すことはできず、ただただもどかしく体を王様に摺り寄せた。
 素直な反応に、王様は笑いながら下肢へと指を伸ばす。
 隠し切れない期待の色が、瞳に宿った。
 微かに残る羞恥が拒もうとするものの、散々乱れた様を見せたことがあるという事実が拒みきれない。
 少しだけ勃ちあがったそこをしっかりと中心を握られ、扱われれば、自然に足を広げて喘いだ。

「ひぃぁん!」

 包むようにやわやわと揉み、巧みな指使いで反り返る筋をなぞった。
 先端からはすぐに透明な液体が溢れ、自身と手を汚していく。
 声を抑えようと手を噛むが、腕を掴んで邪魔される。

「ひ! ぁぁ! ゃ! っ!!」
「声、聞かせろ」
「ぃ! いや! うぁ!! ぇぁぁあ!」
「ほら」
「お、ぅ、ぁああ!」

 抑えられなくなった声が部屋に響き耳を打つ。
 しっかりとした意識のまま自分の喘ぎ声を聞くのは初めてだと気づく。
 自分のあまりにも甘く、熱い声に歯を食いしばり涙が溢れた。
 情けなくてたまらないのに、それに抵抗することができない。
 いつしか舌が気絶する前に散らされた鬱血に伸び、舌先でなぞりながら、また強く吸い上げた。
 益々赤く染まる痕にもう一度口付けて、他の痕にも同じ事を繰り返す。
 そして、最後の鬱血の痕を吸い上げた瞬間、彼は腹を白い液体で汚した。
 胸を激しい呼吸に上下させ、ベタつく体の熱さに身を捩る。すっかり慣らされた感覚は快楽に逆らえない。
 腹の上でその液体をぬるぬると広げられ、気持ち悪さに顔をしかめる。
 しかし、同時にどこかが冷えた。
 その、指を絡める仕草が、恐怖を思い出させる。
 表情に気づいたのか、王様は指を遠ざけ、体も離した。あまりのあっさりした動きに、拍子抜けしてしまうほど。
 思わず、服の裾を握る。
 彼が、兄の気を引きたい時、思わずしてしまう行動であり、気絶していたときと同じ行動だった。
 王様が、笑った。
 それは、気絶していたとき見せた笑みと同じ笑み。
 からかうのとも、あざけるのとも違う、あまりにも透明な笑みに、彼は意味のわからない熱さを胸に感じた。感じているときとは違う、目をそらし、顔にまで熱が競りあがり、鼓動が早くなって訳がわからなくなる。
 ばっと誤魔化すように強く手を払うと、優しい手が髪を撫でた。

「どうした?」

 優しい声に、目をみるどころか顔をあげることすらできない。

「なんでもねえよ!!」

 自分がどうしてしまったかわからずぐるぐると考えてしまう。それでも、答えはではしない。
 落ち着けと心の中で何度も叫べば、少しだけ冷静になれた。
 けれど、目に焼きついた王様の笑顔が消えず戸惑いしか生まれない。
(んだよ、なんであんな顔しやがるんだよ。さっきまで王様みてえに偉そうな顔してたのに、なんであんな嬉しそうな、わけわかんねえ!!)
 考えている内に、王様は手に見覚えのあるチューブを持っていた。
 思考が吹っ飛び、体が逃げるように引く。先ほどの恐怖ほどではないが、そのチューブでひどいことをされたからだ。
 先ほどの笑みとはまったく違う、楽しそうな笑みを浮かべながらチューブの包装を破り、蓋を開ける。 

「さっきは俺も性急だったからな……これでじっくり、気持ちよくしてやるぜ」
(やっぱり!! やっぱりこいつ最低だ!!) 

 逃げようと起き上がるものの、体が、というよりも一部が痛くてうまく動けない。
 その間にも素早く足を捕まれ、持ち上げられた。
 王様自身をいれられたせいで痛むそこに、ジェル状のものを垂らされた。冷たい感触にぶるぶると震え、伝う感覚にまた中心が勃ち上がり始める。

「やめろ!!」

 声を無視し、指が入口に触れた。
 ずきっと痛むそこに顔を歪める。しかし、指は止まることなく入口をなぞると痛みを訴える彼を無視して指を進めた。

「いでええ!!」

 色気のない声に苦笑しながら、王様はジェルを内側に塗りつけ、馴染ますように指を動かす。
 その際、軽くある一点をひっかいた。

「ひ、ぐああ!」

 体が激しく跳ね、目が見開かれる。
 受け流されない快楽が腰を貫いて背筋を通り抜けた。
 ばたばたと腕を暴れさせるが何度もそこを突かれると腰がぐずぐずと溶けてしまうような錯覚を覚える。

「はう!! ひぃ!!」

 内臓がしきりに指を締め付け、形を確かめてしまう。
 チューブから更にジェル状のものを垂らされ、塗られ、痛みを忘れるほど熱くなる。
 じんじんとした疼きが奥から湧き上がり、たまらない。
 こんなこと、なかったというのに。

「ああ、言い忘れていたが、」

 王様は、指を二本に増やしながら告げた。

「これは、最初使ったやつとは違うからな」

 ぐにぐにと日本の指が好きに中を荒し、広げ、一点を突き上げる。
 激しいというよりも、どちらかといえばゆるやかな動き。
 しかし、それが逆に指の存在をまざまざと見せつけ苦しい。


「媚薬入り、らしいぞ?」


 できることならば、殴りつけてやりたい。
 そう思ったが、その思考すらかき混ぜられる指に邪魔される。
 散々中をいじられ、ほぐされ訳がわからなくなっていく。

「それにしても、一度入れたせいか……ずいぶんと広げやすくなったな」
「ふあああああ!! ひゃああん!!」

 ぐいっっと、左右の人差し指が入口を広げた。
 内壁が空気に晒されおぞましい感覚がこみ上げる。
 悲鳴をあげればすぐに指は抜かれたが、おぞましい感覚は消えず残っている。同時に、裂けるような痛みを思い出してぐしゃぐしゃと子どものようにみっともなくしゃくりあげた。
 さすがに、少しは悪いと思ったのだろう、王様は彼の髪に口付け、慰めるように何度も頭を撫でた。
 だが、指は止まらずに掲げられた腰の中で内臓を抉る。
 口から懇願と謝罪の言葉が飛び出し止らない。

「やめ、う、ごめ、な、さうわあ、う、やめ、あうやああ!!」

 どれくらいそうされたかはわからない。
 すっかり抵抗する気力も声をあげる意思もなくなった頃、指が引き抜かれ、王様の自身が再びやっとあてがわれた。
 ぐちゃぐちゃにとろけきり、広がったそこはひくひくと蠢き、まるで誘うように見える。
 なにもかもどうでもいいという表情の彼は、そのまま、受け入れた。


「―――――――――っ!!」


 耳が痛くなるような悲鳴。
 どこから出ているのだろうと疑いたくなるような声が断続的に響きそれでも、最初よりは滑りよく、そしてしっかりとソレは飲み込まれた。
 熱くて、痛くてたまらないというのに、抵抗する体力もなく、飲み込んでいく。
 そして、ぎっちりと足と足の付け根が触れ合った。
 王様はなんとか溜息をつけたが、彼は呼吸ができずただ硬直する。
 その表情と蒼白さに危険を覚えたのか、王様は彼の唇を奪い、酸素を送り込む。

「がっ!」

 はっと、息を噴出し、なんとか呼吸を再開した。
 じくじくと下半身が熱い。もう、痛いと感じる感覚もなく、ただただ熱さに泣いた。
 いやだ、ぬけ、と喉を震わせたが、あまりにも弱弱しい。
 あえて王様は動かなかった。じっと、彼を見下ろして動かない。
 
「きつい……」
「し、るかあ!!」

 なんとか振り絞った声に、王様は顔を歪める。

「叫ぶな、よけい、しまる……」

 食いちぎるつもりかと問えば、ふざけるなと彼は言う。

「深呼吸しろ」

 そう言って、胸をなでる。
 呼吸にうまく集中できなかったが、それでも少しでも苦しみが減るのならと大きく息を吸い、吐いた。
 何度も喉がひきつるのを覚えたが、深呼吸を続ける。
 そして、なんとかまともに呼吸ができるようになった頃、自分の中の王に鼓動を感じた。
 熱く、硬く、脈打つ存在は、意識をそこに集中させる。
 
「はぁ……」

 吐いた息が、熱い。

「少し、ゆするぞ」
「ゃ……」

 拒絶する前に、軽く揺さぶられた。
 再び襲う熱さと痛みに気が狂いそうになりながらも必死に耐える。
 揺さぶりが強くなり、浅く抜かれ、浅く突きこまれる。
 それを何度か繰り返され、腰の動きが大きくなっった。
 とてつもない衝撃を、衝動を抑えながら彼は心の中で早く終れと何度も叫んだ。
 内臓を荒らされ、激しくこすられる。
 自分の口から出る声は獣のようだと思った。
 根こそぎ思考を奪われ、ただ突き入れられるだけの道具になった気分を味わいながら、荒い呼吸を聞く。
 王様も、限界が近いのだろう、一気に引き抜かれ、腹の上に熱さを感じた。
 中を埋めていた存在はもういないというのに、まだ中にあるような気がしてキモチワルイ。
 ぼやけた脳が、勝手に腕を動かし、王様の背に伸びる。
 なんでもいいから、縋りたい。そんな衝動に突き動かされ、力ない腕で抱きしめた。
 一拍遅れて、王様も彼を抱きしめる。
 腕の温度を感じながら、意識を手放した。
 もう、気絶することに抵抗も思考も無い。
 ただ、堕ちていく。



 やっと、王様が食えました!!  そして、このバクラ気絶しすぎですね、すみません。
 とりあえず、よっこらここまでこぎつけました。これで、第一部的ななにかが一区切りです。次から第2部みたいな!(まだ続くのかよ……)
 中田氏するか最後まで悩んで、結局しないことにしました。最初っから中田氏もかわいそうですしね>< 次はしますが(最悪だこの女)
 今回は色々濃い目に出来て楽しかったです……(ぇー)

 後、バクラがようやく王様にトキメき始めました。
 ラブ&エロになる日を目指して!!(黙れ)



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