「りょ……?」

 素肌に暖かな感触が当る。
 体にだるさや痛みを感じながらも、微かな期待のもと目を開けた。
 そう、瞳を開けるまで、彼は何度でも期待する。全てが夢で、そこにいるのが兄ではないかと。
 もう、何度目の絶望かわからない。
 目を開けた先、そこにいるのはやはり、名前も知らない少年だった。寝ているようだが、彼が身を少し捩ると、逃がさないとでも言うように腕を回される。
 彼は、少年にゆるやかに抱きしめられたまま、声を押し殺し、小さく泣いた。





 どんな状態でも、空腹はやってくる。
 彼は少年からはぎとったシーツを体に巻き、ずりずりと廊下を歩く。まだ、中になにか入っているような感覚が気持ち悪く、体は痛み、だるかったが、よく寝たせいなのか、それとも慣れてしまったのか動けないことはない。
 最初にきた日の記憶を頼りに台所にたどり着き、冷蔵庫を開けた。
 勝手に物を漁る罪悪感などは一切ない。そもそも、彼は監禁されている身なのだ。正当な権利とも言える。
 中にはミネラルウォーターとゼリー飲料、あからさまにコンビニ製品としか言いようのないオニギリしかはいっていなかった。
 もうなんでもいいとミネラルウォーターとオニギリを掴むと食欲もないのに口に詰め込んだ。冷たい感触が喉に詰まったので水で流し込む。
 とにかく、体力が必要だとついでにゼリー飲料も掴んで飲み込んだ。味などもう気にはできない。
 久しぶりの形のあるものを詰め込まれた胃から嘔吐感が込みあがったが必死に口を抑えて耐えると、その場にペタンを座って息を整える。

「あー……今日、何日だ?」

 少年に時間もわからず犯されることと気絶を繰り返していたせいで日にちの感覚がなくなっていた。
 ミネラルウォーターに口をつけながら、日常から切り離されている事実に震える。本当に、ついここに足を踏み入れる前まではわずらわしかった日常が、恋して恋しくてたまらない。
 彼は一度強く目を閉じた。そして、開ける。

「うじうじしててもしかたねえ……」

 少年が寝ているならばこれは好機。
 立ち上がり、何度か屈伸して足の調子を確かめる。包帯の巻かれた足首は痛むものの、走ることには支障はなさそうだった。
 首輪を2,3回引っ張り、壊れないものかと手近な物で殴りつけようと思ったが、音で少年が起きるのではないかとシーツを首もとまでズリ上げる。
 障害は山ほどあった。
 しかし、そんなことを一々考えてはいられない。
 とにかく、外へ。

「了……」

 台所を出て、一人では広すぎるリビングを抜け、短い廊下を小走りに玄関にたどり着いた。
 自分の靴はやはりというかなかったので、少年のものらしき小さいスニーカーを履く。
 いざというとき靴はやはり履いておくものだろう、裸足では外でなにを踏んで走れなくなるかわからない。
 恐らく鍵はかかっているだろうと、鍵を探した。

「?」

 鍵が、ない。
 鍵の変わりというように、変な数字の書かれたボードがなぜか張り付いている。
 よく、テレビのドラマで見るような暗証番号をおいれくださいと言い出しそうなボード。
 数字の書かれたボタンに触れる。
 小さなボードの上に、押した数字が無機質に浮かんだ。
 適当に同じボタンを連続で押してみる。
 それが10桁になった途端、ボードの上の数字が消えた。
 扉のノブに手を伸ばす。
 がちゃん。
 がちゃん。
 がたがたがたがちゃん。
 勿論、開かない。

「なんだこれ……」

 必死に思いで何回か適当に押してみるが、一向に開く気配はない。
 ノブを何度かゆすってみるが無意味だった。
 なにかで破れないかと扉に触れてみたが見かけどおりの重厚な作りは人が一人で殴ったり体当たりしたところで無駄なあがきでしかないと無言で伝える。
 思わず呆然と扉の前で立ち止まってしまった。
 一度、見上げて、そして、俯く。

「なんだよ、これ……」

 がんっ。
 無意味だと知りつつも扉を殴る。
 いや、ほとんど無意識に彼は扉を、殴る、殴る、殴る。
 がんがんっと扉はひどい音をたてて揺れる、しかし、それはただ表面を傷つけるだけでなんの意味もない。
 手に血が滲み、青い双眸からは涙がまたぽろぽろと流れた。
 唇が震え、彼の心を支えるたった一人の名前が紡がれる。

「りょう、りょう、りょう、りょう!!」
 がんがんがんがんがんがんがんがんがんがんっ!
 
 縋るような声に答えるものはいない。
 そのまま続けていれば拳が壊れていただろう。しかし、もう一発とばかりに手を振り上げられた手は止まった。
 滲む血もそのままに涙を拭い、ふらふらと今度はリビングから繋がるベランダへと――ここの鍵は容易に開いた――向かう。
 日当たりのいいベランダは広く広く世界を見渡すことができた。そう、絶望するくらいに広く、高く。
 見下ろせば、まるで街はおもちゃ、いや、それ以下の大きさでしかない。
 飛び降りれば、声を出せば、そんな次元ですらない。
 高所恐怖症でなくとも足が竦む高さに、もう涙も言葉もでなかった。
 打ちのめされ、よろよろとリビングに戻ったとき、そこには笑顔の少年がいる。
 もしも、打ちのめされる前の彼であればそこで殴りかかっただろう。けれど、そんな気さえ起きない。
 むしろ、その顔を見た瞬間、足が震えて座りこむ。
 見上げた少年は彼に近づくと、その手に自分の携帯を持たせた。
 震える手で畳まれた携帯を開く。
 画面は真っ暗だった。どれだけボタンを押しても反応は無い。
 壊れるほど強く携帯を握り締め、少年を見た。

「それは、指紋を認証しないと使えないタイプだぜ」

 そう言われ、よく見るとボタンの下部に見慣れぬ部分がついていることに気が付いた。
 指を置く。
 勿論、反応は無い。
 彼は、震えた。
 もうどれだけ流したかわからない涙が溢れる。

(ここから、出られない)

 その頬に、酷く優しい手が触れた。
 縋らずには居られないぬくもりと柔らかさに、彼は更に震えるしかない。
 震える手から携帯を取り上げた少年はその涙を舐め上げ、まるで慰めるように何度の頬や目尻に口付ける。
 彼はその動きに目を閉じた。
 抵抗の意思はない。
 もう、なにもかもがどうでもよくなってしまったのだ。
 少年は震える手を掴み、血の滲む拳を舐める。丁寧に血を拭うと、ゆっくりと自分の背へと導いた。触れる体温に、彼は思わずその服を握り締める。
 そのまま少年も彼の背へと腕を伸ばし、力のない体をしっかりと抱きしめた。
 何度も目尻や頬に唇を落とし、そして、所有の証である首輪に口付ける。
 もう逃がさないというように、ゆっくりと押し倒し、鎖骨に吸い付き痕をつけた。何度もそれを繰り返し、白い肌に花のような赤を咲かす。
 自分のつけた痣を舐め体を密着させたまま唇を重ねた。
 なすがままに舌を絡められ、吸われ、自分とは違う唾液の味を彼は感じる。それでも、服を掴む手は離せず閉じた目は開けない。
 背に回されていた手が腰へと伸びた。
 散々体に染み付いた恐怖と快楽がせりあがる。
 逃げようとして、やめた。逃げたところでどうにもならないと悟ってしまったのだ。
 むしろ、なにもかも忘れたい。この少年にめちゃくちゃにされているときは、なにも考えずにすむのだから。
 その思考を知ってか知らずか少年は唇を重ねたまま彼の肌を撫で、刺激を与える。小さな反応を返しながら背に回した手にしっかりと力をこめた。少年は動き辛そうだったが、嬉しそうに目を細める。
 少し体を離し、彼の足を広げさせた。
 さすがに自分から足を広げることには抵抗があるのか、躊躇したが、膝を撫でられ力を抜く。
 長い口付けが終わり、唇が離れたとき、彼は目を開いた。涙で滲む視界の中には、少年しかいない。
 背に回された手が離され、今度はその肩をぎゅっと掴む。
 少年は足の間に体を入れ、無防備な中心を見下ろし、手を伸ばした。

「ぁっ」

 素直な反応とともに、手の中でソコは硬度を持ち勃ちあがる。
 ぐりぐりと指で強く刺激を与えながら足を更に撫でた。強い快楽とゆるやかな刺激に息を乱しながら彼は少年を見ている。じっと、その無気力な青い双眸は少年しか写さない。

「ぁ、ぁ、ん、ぁあ……」

 少年の指に声を促され、一切殺されない喘ぎ声が喉を震わせる。時折、唇を思い出したように噛むものの、声を抑えるには至らない。
 ぬるぬると透明な液体を吐き出すそこは滑りよくこすられ、熱を集める。
 汗が滲む肌にまた舌が降り、腹を舐め、ぴくりと反応した場所に赤い痕を残した。

「はぁ、うん、ああぁ……」

 愛しそうにその赤い痕を目を細めて見つめ、同じことを繰り返す。
 ぎゅっと強く肩を掴み震えながら彼は少年に縋る。
 もっととでも言いたげに腰が揺れ、力ない瞳が瞬きの暇も惜しいと少年を見ていた。
 
「ぁっぁ、はぁ……」

 不意に、少年の指が唇に触れた。
 噛んだせいで赤くなった唇をなぞり、微かに開いた隙間から赤い舌に触れる。
 彼は口を少し開いてその指を受け入れた。ぬるりと舌を絡め、爪を小さく噛む。少年も唾液に絡ませるように指を動かし、十分に濡れた頃、指を引き抜いた。
 引き抜かれてから意図に気づいたのだろう、彼は身を強張らせた。

「え、まっ……て!」

 指が入口に触れる。
 彼のへその下、散々いじられた内臓がきゅうっと縮こまった。
 濡れた指がぬるぬると入口を撫で、前を掴む腕が力を抜かせるように激しく動く。
 慌てた彼の肩から腕へと手が伸びる前に、人差し指が突き入れられた。

「いっ……!!」
 
 痛みと異物の侵入に気持ち悪さがこみあげた。体をよじり、内部を締め付けて逃げようとするが、少年は一本でもきついそこを広げながら膝を舐める。
 くすぐったいはずなのだが、前と後ろを同時に責められる感覚にぞくぞくと背筋が震えた。
 少し触れられるだけで、中で動かされるだけで激しい反応を見せ、背筋や喉をそらした。首に当る首輪の感触に更に震える。
 唇から零れる唾液が飲み込めず、頬を伝った。

「ひあああ……」

 内壁を撫でながら、少年はからかうように笑う。

「随分と、いやらしい体になったな」
「ひゃあ」
「最初はいれられただけでこっちは萎えてたのに……」

 ぐちゃぐちゃと今も確かな硬度を持ち、解放を待ちわびる中心を見せ付けるように少年は足を更に開かせた。
 彼は目をそそむけるが、事実は変わらない。

「ち、ちが! あぅ!」

 気絶する前に風呂で見つけられた一点が突かれる。
 びりびりした痺れの似た感覚が脳へと伝達され、思考が飛んだ。

「ああぁぁぁん!!」
「ほら、こっちでも、感じるようになってるぜ?」
「ふぁん! あぅ、あ!!」

 何度も突き上げられ、否定の言葉も掻き消えた。
 痛いのか、違うのかの境界が曖昧になっていく。
 なにも考えられず喘ぐしかない。
 指が増え、更に激しく中をかき混ぜられた。下半身がぐずぐずと溶けていくような感覚に、眩暈を起し、限界を感じる。

「い、くうう! いぐ、!! あう、ぇえ!!」
 
 唇をぱくぱくとからぶらせ、腹だけではなく、勢いよく胸まで汚しガクガク震えた。
 しかし、指も手も止まらず絞り出すように強く扱われる。
 達した後の敏感な体はどんな行為ですら快楽に繋がり彼の感覚を犯した。

「やっや! はぅ! あああふうああ! ぇええあ!!」
 
 ばたばたと手足を動かし抵抗するものの、うまくいかない。
 過ぎた快楽に身を捩りながら今も止まらない涙に顔を汚す。

「ううう……!!」

 いつの間にか3本の指がばらばらに中を動き、達したばかりの体を更に絶頂へと追い上げる。
 閉じた瞼が開かない。
 あまりの感覚を処理できず声を上げ続け、そして、手が止まった。

「っ?」

 あまりにも唐突な停止に目を開くと、足の間に少年のすでにそれなりの大きさになったソレが見えた。
 足の間に挟まれ、ぬるぬると汚れた内太ももと、自分の吐き出した液体に塗れた中心と一緒にこすられる。手とは違った硬さに困惑しながら、自分の足の間を行き来するソレをぼうっと見てしまった。
 いまいち行為同士の繋がりが理解できないだろう、快楽にぼんやりとした疑問が浮いている。
 しかし、その腰の動きも急に止まる。
 どちらもまだ絶頂をきたしていないというのに。 

「……っ!」

 問う前に、答えはわかった。
 自分のものでぬるぬるになった少年のソレが、指ですっかりほぐされた場所にあてがわれたからだ。

「いっ―――!!」

 声にならない悲鳴。
 暴れる足を押さえつけられ、いくら指で広げられたとはいえ狭いソコにめりめりとソレは熱という名の狂気になって押し進む。
 少年も切羽詰っていたのだろう、彼を気にすることなく性急に腰を突き上げた。
 狭すぎて全部入りきらず半分ほどで腰が止まる。
(いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい、熱!!) 
 体を半分に裂かれるような激痛と、火を突き入れられたような熱さに逆に抵抗できず縋るように伸ばした手が少年の肩をくだかんばかりに掴んだ。
 ぎりぎりと肩も、掴んだ手も軋みをあげる。
 拭われたはずの手もまた拳に浮かびあがって、微かに少年の服を汚す。

「息を、吐け」
「で、」

 きない。
 首を振ることもうまくできず彼は呼吸をすることにただただ集中した。

「ほら、吸って……」

 少年は足を撫で、落ち着くように促す。
 しかし、痙攣を繰り返すばかりで彼の体は中々自分の意思を取り戻さない。
 暗くなる視界の中で、彼は誰かを呼びたげに唇を動かした。
 しかし、それは言葉にならない。
 血を吐くような思いで開いていた瞼が、落ちる。



 彼は、気絶した。



 急には無理っすよ!!(ぇー)
 今回は、脱走&出られないと思い知らされるのをテーマにがんばりました。
 そして、王様がやっといただけるかと思えば、大分慣れたとはいえ、やっぱ無理でした。
 あっ大丈夫です、まだ続きます(本当に……?)
 むしろ、気絶した後が本番です(マテ)
 いや、気絶しても犯すとかいう方面ではない……っと思います(ぇー)
 
 閉じ込められるって、大人でも癌になるくらいのストレスらしいです。
 そのストレスから逃げるために、脳は人間を色々騙します。
 おかげで、バクラはやる気取り戻したり、絶望したりすごく忙しいです。
 まあ、いつもバクラの絶望は一時的なもので、無気力になるだけなので、舌噛んだり飛び降りたりはしません。それはまた別の小説で!(おい)


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