「ひっ!」
そんな悲鳴をあげて彼は起きた。
ひどい違和感と嫌悪感を感じて目を開けたものの、身体は動かない。
目の前にあるのは白いシーツで、微かに動く首を横に向ければ、意識を失っている中でも流れていた涙が視界を滲ませているがそこはまったく知らない部屋だった。
ここはどこかと考える前に、内臓をかき回される感触に悲鳴をあげる。体中の痛みよりも、気持ち悪さが上回った。
混乱と戸惑いばかりで思考も記憶もまとまらない。どうして、なんで。
「起きたか」
後ろから聞こえてきた声に、彼はやっと冷静になった。冷静になったというよりも、顔から血の気が引いていく。
嘔吐感がこみ上げてくるのを抑えながらなにかされていることに気づき抗おうとするが、手も足も動かない。いや、動くものの、痛い。
どうやら、縛られているらしい。足も動かしてみたが、それと同時に手も動いた。
意識が覚醒して、自分の体勢に驚愕する。
なぜなら右手を右足に、左手を左足に密着するように縛られ、腰を高くあげさせられているからだ。
うまく見えないが、恐ろしいことに相手はそんな彼の絶対に触れない内部へと指を侵入させ、かき回している。内臓がぎゅうっと、身を縮める。
「思ったよりも早かったな」
声の主は楽しそうに笑った。
そこで、やっと思いだす。
彼は、この相手によって買われ、殴られ、嬲られた。いや、嬲られたのではない、嬲られている。
「て、めえ……!!」
身体の熱さも疼きも無い。
ただ、ぐずぐずとぐちゃぐちゃとキモチワルイ。こみ上げてきた胃の内容物を抑えながら身体を揺らすものの、ただその体勢では間抜け以外のなにものでもない。どころか、与えられた体中の痛みと、縛られた手足に縄が擦れる痛み、そして中の気持ち悪さが増すだけだった。
内股を、彼が分泌した以外の液体が伝った。
ソレが何かは彼には理解できない。
「うっあっが……」
受け入れるようにできていないソコは中を荒らす指を追い出そうと締め付ける。
指の動きが悪くなったのが気にいらないのか、一度相手は指を抜いた。
あいかわらずぬるぬると気持ち悪いが、中に異物がないだけマシである。ほっと息をついたのもつかの間、次の瞬間、また指が入口に触れた。
「ひっ!」
恐怖に怯える中で同時に冷たくジェル状のものに似た何かが塗り付けられ、再び指が入ってくる。
「ぃ……ぁぅ……」
「苦しいか?」
こじ開けられる苦痛、異物感、ぬるぬると冷たいジェルを内部で溶かされ内股を滴った。
止まらない涙はシーツを濡らし、無駄な抵抗を生み出す。
いっそ、殺してくれとでも叫びたかった。
一本でもきついというのに、指は二本に増え、更に彼を蹂躙する。ぐにぐにと好き勝手に動く指は、まるで体内をはいずる虫のようだった。
いっそ、壊れてしまいたかった。けれど、壊れることはできない。嫌な水音と、囁かれる言葉に身体が強張った。
「気絶してる間にもう少しほぐしておけばよかったな……指を食いちぎられそうだ」
「ぃ……ゃ」
「だけど、随分しおらしくなったな……」
「ぁ! うああああ!!」
くるりっと、指がそれぞれバラバラの方向に開く。
それに内部もまた抵抗するが、指を押し出すことも完全に動きを止めることもできない。
そのまま指を一気に深く突き入れたかと思えば、ゆっくりと引き抜かれ、今度はゆるやかに何かを探るようになぞっていく。
「もっ……やめ……ろ……」
息も絶え絶えな声に、相手は一度手を止めた。
けれど、指は抜かれない。
「お前は、人にものを頼むときは、いつもそうなのか?」
「……っ……?」
「人にものを頼むときは、誠意が必要だろ?」
内側で指を曲げられ、締め付ける壁を押し返す。
「ぅっ……」
「お願いします、だろ?」
「ふざ、」
「まずは、お願いしますと言ってみろ。そうすれば少しは聞いてやる」
「な、んで……俺が……」
屈する物かと首を微かに横に振る。
けれど、気絶する前に砕かれた誇りは、今にも相手に懇願し、抜いてほしいと叫びたいと訴えていた。今の行為から解放されるためならば、いっそ屈してしまいたいと。
もう、今更抵抗してどうなる。殴られ、嬲られ、縛られて。とっくになにもかも地に堕ちたたきつけられたのだから。
「お願いします、やめてくださいませといえば、今日はここで終わりにしてやる」
そう言って、背に口付けた。
汗まみれの身体が冷える。
あまりに、それは甘美な言葉。今すぐ手を伸ばしひれ伏してしまいそうな魅力。
たった、それだけ言えばいい。そうすれば、解放される。
「う、」
それでも、彼は理性を人生で最も引き出し、頷かなかった。
「うるせえ、×××野郎……!」
どころか、目を見開き、叫んだ。恐らく、彼が知る限り最も汚い言葉だっただろう。掠れた声だったが、それははっきり憎悪と反抗に塗れていた。
相手は笑う。嬉しそうに、予想していたとばかりに。
そうして一度指を抜くと、入口付近を強く開く。なにをするのかと戸惑えば、指が入っていたせいで少し開いたそこにジェルのチューブの口を直接突き入れた。
「ひぐっ!!」
それだけですら苦しいというのに、更にそこにぎゅうっと内部に搾り出す。
「はああああああああ!? っ!? うおあああああ!!」
指よりは硬くもないが、量とその体温との差に喚いた。
ぎりぎりと手に縄が食い込み、背骨が軋むほど背を逸らす。口から漏れる悲鳴が喉を痛めつけ、呼吸すら忘れらさせた。
溢れるほど搾り出したチューブを引き抜き、未だ喘ぐ彼の背をなでた。びくりびくりと敏感に跳ねる身体を愛しげに見下ろし、ベットを離れる。
もしかしたら終わりかもしれない。
そんなあまりにも淡く儚い希望を胸に彼が宿した。
けれど、やはりそれは希望に過ぎない。
すぐに戻ってきた相手はその手に卓球のボールより少し小さいだろう楕円形の何かを持っていた。
「?」
涙のせいでブレている視界では本当になにかわからず、見ていると相手は笑った。
「なんだと思う?」
背中の上に置かれた。
知らない質感に不安がこみ上げる。ただ一つわかることは、ろくでもないものであろうというだけ。
背後で、かちっと音がした。
その瞬間、ソレはヴウゥンっと低い音とともに震えだし、背をくすぐる。
「!、やっ!!」
ひどく嫌な物に思い当たった彼は縛られた腕と足から血の滲むのにも構わず暴れた。
固定されてなかったせいか、横に倒れるだけだったが視界が広くなり、相手を睨みつける。
「なんだと思う?」
「いい、ご趣味ですね……っ!」
内心冷や汗を垂らしながら皮肉を呟けば背中から落ちたソレを拾い上げた。
無意識に身を縮める彼の足をするりっと撫でる。汗にまみれ、緊張に縮んだ細い足をまるで労わるように何度かさすり、次の瞬間手を縛られた足首を同時に掴まれ、がばっと開かされた。
閉じようとした瞬間身体を割り込まされ、ジェルに塗れた内股と萎えたソレがはっきりと晒される。
「やめやがれ!!」
「お願いします、だろ?」
くすっと笑うと、前へと手を伸ばした。
「うわ、やめろ!!」
その言葉に、なにを今更という顔で指が触れた。
少し強く握られ、軽く揉まれる。先ほどの嫌悪感を催す好意とは間逆のゆるやかな快楽に身体が意思より先に反応する。
「もう、俺の手で何回もイっただろ」
「無理矢理イかせたんだろ!!」
「それもそうだな」
人差し指で先端をぐりぐると刺激され手の中で熱を増す。
嫌だと、感じたくないのに、まるで反射のようにそこは勃ちあがり存在を主張する。
「さて、質問の続きだ」
前をいじりながら、指で摘んだ楕円形を目の前に突き出された。
思わず目をそらすと、ひどくいやらしい笑みで問いかける。
「これは、なんだ? なにをすると思う?」
「……っ」
歯を食いしばり答えない彼に、相手は近くに落ちていた板を広い、器用にボタンを動かした。
また、ヴウゥンっと音をたてて震えだす。
それをそのまま勃起する前へと触れさせた。
「うぁ!」
びりびりと背に快楽が走った。しかし、その快楽はきつすぎて痛い。
ゆるりと震えるソレを触れたまま先端から根元へなぞらせる。
「ぁぁぁぁぁあああ!! んん!! ひぁん!!」
それだけで、背を丸めて彼は震えた。せっかく止まっていた涙がまた溢れ出し、開きっぱなしの口から飲み込み損ねた唾液が漏れアゴをぬらす。
何度も往復させ、同時に裏側を指で攻め立て、追い詰める。
快楽に翻弄され抵抗できないまま、彼は白い液体を吐き出した。
手とソレ、そして自らの下半身を白い液体に塗れさせ、荒い息を何度も吐き出す。
「ちょうどよく、濡れたな」
手からたれる液体を舐め上げながら、震えるソレを更に下へと動かした。
「ぎゃっ……!」
「もっと、色気のある声を出した方がいいぜ」
「いろ、色気もくそもあるか!!」
足で脇を蹴りつけ、なんとか抵抗するが、入口に振動がきた瞬間、反射的に動きを止めてしまった。
指が未だ濡れるそこを広げ、振動を内部へと無理矢理押しやる。彼も抵抗し、締め付け追い出そうとするがやはり指の方が強く、同時に内部に伝わる振動に力が入らない。
「ぎゃああああああぁぁぁぁ!!」
ダイレクトな振動が内壁を震わせ、小さいがしっかりとした存在にぞそぞぞっと怖気が走る。
首を左右に激しく振り、悲鳴を上げ続けた。
すでに叫びすぎたせいか声はざらついて、喉に激痛が走る。しかし、そんなことを構っていられるほどの余裕は存在しなかった。
しっかりと奥へと押しやられ身を捩る。
「ひぃぐうう!! じ、しぬう!!」
涙でぐちゃぐちゃになった顔は見るも無残で哀れだった。
けれど、相手はそれを益々嬉しそうに見るだけ。何度か優しい手つきで涙を拭い、口付ける。
「いや!! ぎいいぃぃぃ!!」
「じゃあ、どうして欲しい」
「とっとれぇぇ!!」
「違うだろ」
にっこりと、にっこりと、追い詰めるように笑、言い聞かせるように一文字一文字囁いた。
「お、ね、が、い、し、ま、す」
「て、で、てめえええ!!」
「お願いしますはどうした?」
こみ上げる嘔吐感を我慢できない。
指のときのように、理性も集まらない。
全てが散り散りにバラけて広がり、心のなにかが折れる音を聞いた。
もう、なにもかもが、コレ比べれば全てマシに思える。
目に、虚ろな影が宿った。
「お、」
世界の反転。
「おねぇ、がいします……」
「なにを?」
「ぬい、て……く、ください……」
がらがらがらがら。
今までの自分が壊れていく音がする。
内部で、振動が止まった。安堵の息を吐き出すのと同時、唇を奪われた。
噛み付く気力もなく受け入れ、好き勝手に貪られる。
それでも、まだ中にある感覚に吐き気がこみ上げた。このまま吐けば、どんな顔をするだろう。ぼんやりした頭で考える。
「バイブはとめといてやる。舐めろ」
どこを、などと聞くまでもない。なぜなら、その行為だけはもう、何度も繰り返してきたのだから。
縄を解かれ、手足が自由になっても、彼は抵抗しなかった。
ふらりっと、身を起し、相手の足の間に顔を埋める。
「俺をイかせたら、今日は終わりにしてやる」
その声を聞きながら、彼は考えることを放棄した。
この連載では、連作気味のエロとはまた別の、ゆっくりとした調教、開発を考えています(黙れ)
道具とか、たくさん使える幸せ(それ幸せじゃない、なにかもっと別になにかだよ!!)
王様がとにかく、鬼畜突っ走っています。ご主人様と呼ばせるべきか迷いましたが、やっぱり、王様は王様だなーっと思い、王様にしました。
今回、だいぶバクラが壊れてしまいましたが、丈夫なので大丈夫です(えぇ!?)
すぐ回復すると思われます。
なお、×××野郎の×××にはお好きな汚い言葉をいれてやってくださいませ。最初はただの変態でしたが、しつこいかなっと……。
まだまだやりたいことがあるので、がんばります。