熱い。
 彼はそう思い身を震わせた。相手に殴られ痛いはずの体が熱を帯びていく。それなのに、寒いかのように小刻みに震えて止まらない。
 相変わらず相手は彼を見下ろし、抵抗すれば抑えるように軽い暴力を振るう。ただし、言われたとおりなにもしなければ本当にそれこそただ見ているだけだった。
 時折、楽しそうに笑うのが彼は理解できず困惑するだけ。
 その上、体の抑えられない熱が彼を更に戸惑わせる。
 ふと、そこで薬の効果ではないかと考えついた。中毒性はないと言っていたものの、どんな効果かは一言も言っていない。だからこそ、不安になった。・

「な、に……飲ませやがった……」

 荒く息を吐きながら問うと、笑みが強くなる。

「効いてきたようだな」
「な、にがだ……」

 ふわりと、相手が彼の頬に触れた。
 その瞬間、痛みではない違う感覚が走った。
 なにかわからず怯えると、その手がそのままやわやわと耳を撫で、首を撫でる。

「ぁ、」

 自分でも信じられないような声が出た。どこから出せばさっきのような声ができるのか。
 いや、彼とて子どもでない。今のが喘ぎ声などという類の声だとは知っている。しかし、ただなでられただけであんな声が出る理由がわからない。
 考えている間にも、手がシャツ越しに体のラインを探っていく。
 その手つきが酷く不快だったが、体の痛みと熱に腕を上げることすらうまくできない。どころか、なぜか触れられた場所に痺れが走った。

「ん」

 指がゆるりと胸の突起を掠る。それだけだというのに背筋が引きつった。
 腹を円を描くようにたどられ、下半身が勃ちあがるのがわかる。
 シャツ一枚では隠し様のないソレに、更に羞恥に顔が熱くなり、屈辱に涙が滲んだ。
(俺様、なんでこんなになってんだ……)
 考えれば考えるほど理解できなくなっていく。
 手が、シャツをまくりあげるその衣擦れすらもどかしい感覚を覚えた。
 下半身だけではなく、胸元まで露にされる。女ではないのでそこに羞恥はないが、相手が見ているというだけで不快感が湧き上がった。
 しかし、まくりあげられるだけでは終らない。

「やっぱり、白いな」

 今は汗に濡れしっとりした肌に指を伝わせる。布越しとは違う感触に息が乱れた。同時に、大きく痣になった場所を相手は楽しげに見、唇を落とした。痛くはない。ただ、疼いた。
 そう、それははっきりとした疼き。彼は目を見開いてその疼きを否定するが、舌を這わされた瞬間、それは否定できないものへと変わった。

「ひぁ!」

 ぐんっと、背筋が強く反れる殴られた場所が、無理に動かした部分が痛い。けれどあまりにも咄嗟の反射に背は勝手に動いた。
 あろうことか、相手はそのまま舌を這わせ、胸の突起を口に含んだのだ。

「ふぅああ!!」

 嫌悪感と、それに勝る疼き。
 なにがなんだかわからず睨みつけるが自分でもわかるほど瞳に力がない。
 そのまま突起を口の中で転がされ、そんな声を出す玩具だとでも言うかのように遊ばれた。
 滲んだ涙が筋となり、零れて伝う。
 嫌だと叫びたいのに、口を開けば飛び出るのは喘ぎ声だけ。
 片方を唾液でべっとりとさせたかと思えば、次は反対の突起を指と舌で弄ばれる。
 何度も背を逸らし、声をあげながら、止まらない涙で滲む視界で、自分の様を見ていた。
 ただ、見ることしかできなかった。
 女のように胸をいじられ感じる自分の姿を。

「ぁぁあん!」
「少し薬が、強すぎたようだな……」

 ぽつりっと、相手が口を離し、笑いながら言う。
 すっかり相手の唾液に塗れた胸はぬらぬらと光って気持ち悪い。
 気持ち悪いのに、下腹部は相変わらず勃ちあがっているだけではなく透明な液体を滴らせている。
 今すぐ舌を噛み千切って死にたくなったが、過ぎった笑顔が邪魔をする。
(あに、き……)
 家出して3日、会っていない顔。
 近くにいるときは自分と同じ顔を毎日なんて見ていたくないと思ったものだが、今は違う。
(会いたい、会いたい、兄貴に会いたい。会いたい。兄貴――了)
 その笑顔を見たい。そして、抱きしめて、抱きしめられたい。生まれる前から一緒にいた温もりに触れて、名前を呼んで欲しい。
 こんな目の前の相手ではなく。
 そんな思考も、相手がいきなりソコを握り締めたとき拡散した。

「――――っ!」

 苛烈というほどの、刺激。
 激痛にすら似たその感覚はすぐさま背筋を通って脊髄を貫通、脳に到達した。
 それだけで、彼は果てた。
 みっともなく声をあげ、泣きながら絶頂を迎えたのだ。
 それも、一度ではない。
 握られているという感触だけで3回は吐き出しただろうか、最中に痛みも忘れて暴れてしまったため、相手の手と彼の腹と足、そして床をびしゃびしゃと大げさに汚していく。
 叫びすぎたせいか喉が痛くてたまらない。さすがに相手もこの敏感すぎる反応に驚いたのだろう、一切萎えていないソコを掴んだまま固まっていた。
 しかし、そうやって握られているだけでもまた彼はまたイってしまいそうに声を漏らした。これほど急激に一気に快楽を与えられたことはないため、ソコは今すぐこの苦痛から解放してほしいと叫んでいる。
 口をぱくぱくと酸素を求めて魚のように動かしながら、今までの価値観や誇りが砕かれ、崩されるのを覚えていた。なにもかも、どうでもよくなっていく。
 頭の奥が熱で沸き立ち、考えられない。

「ふぅ……っ」

 四肢を痙攣させ涙でぐしゃぐしゃになった顔が相手を見ている。その瞳とあった瞬間、手の中でびくびくと跳ねるソレをゆるやかにこすりあげた。 

「ぁぁぁぁぁ!!」

 それがゆるやかであってもひどい快感に彼はまた達し、大量に噴出した汗と混ざり肌にその面積を広げ、たった一枚身に着けたシャツにまで飛んだ。
 ぐらぐらと頼りなくなる視界に、彼は意味もなく虚空へ小さく手を伸ばした。口からは形にならない言葉が漏れる。
 もう、痛みも思考も無い。
 ただ、触れられた場所だけが熱く熱く疼きはっきりと自分と他の協会を作る。
 怖いと、彼は思った。
 あまりにも自分が頼りなくて怖い。ここに自分が本当にいるかわからず怖い。喘ぎ声と嗚咽が混じり、飲み込めず器官に入る唾液にむせる。



「りょ」



 そして、やっと言葉が一つ作られた。
 たった一つ、縋るべき言葉。

「りょ、う」

 暗くなっていく視界。
 強すぎる快楽に溺れながらも、たった一つ揺らがないもの。

「りょう、」
「りょう、りょう」
「りょう!!」
「りょう!! たすけ」
「たすけてえ!! りょう!!」

 相手が、強くそこを握り激しく擦りあげた。
 そのたびに達し悶え、苦しげに彼は叫ぶ。
 もしも彼が正常な状態であれば、相手のひどく泣きそうな、怒ったような顔に気づけただろう。
 しかし、すでに正常な判断もなにもできなくなっている彼はただ叫び続ける。

「うるさい、黙れ」

 握りつぶさんばかりに手に力を込め、ぐりぐりと親指で先端を刺激する。

「いぎぃああああああああ!!」

 ひときわ大きく体を震わせ、反らし、腕と足がびんっと伸びきった瞬間だった。彼は、ぐだっと動かなくなった。
 相手が慌てて確認すればどうやら気絶しただけらしく、安堵の息を漏らす。
 荒い息を漏らし、いまだ反応しているソコもそのままで意識を失っているというのは妙に滑稽だった。しかし、彼は笑うのではなく、不機嫌に顔を歪め、顔を覆う涙を舐める。
 反応する体を落ち着けるように何度も撫で目を伏せた。

「俺は」

 それは、ただの独白。
 誰に聞かせるでもない言葉。

「ずっと、お前を見ていた」

 優しく頭をなでながら噛み締めるように。

「お前は知らないだろうが、ずっとな」

 欲しかった。
 一目見たときから、欲しくて欲しくて欲しくて、どうしようもなく欲しくて。
 子どものように、狂ってしまいそうな衝動を抱えた。
 手に入れて、やろうと思った。

「お前が、俺だけを見たら俺だけしか見られなくなったら、どうなるかいつも考えていた」
「お前が笑うたび、お前が誰かを見るたび、お前が誰かをくわえ込むたび。何回も殺してやろうかと思った」
「俺だけを見て、俺だけを呼んで、俺だけを知って、俺だけと一緒にいろ。
 その声も、瞳も、唇も、体も、全部」

 笑って痣を撫で、その手をとって口付ける。

「お前は、俺のモノだ」  

 俺が、買ったのだから。
 俺が、飼うのだから。
 これから、ここで、ずっと。



「そのために、俺から離れられないように、躾けてやる」



 相手は、狂うにしてはあまりにも優しく、愛しそうに笑った。



 あんまりエロくならなかった!!(悲劇/おい)
 そして、王様の狂い具合が文才がないせいで浅いですすみません。
 とりあえず、実はこの話には微妙に元ネタがありまして、それの要素をモロに受けまくっています……。
 でも、微妙に違う話にここからなっていくので、全然気にしないでくださいませ!!
 薬が強すぎると大変ですね。でも、強い薬でラリる描写、ちょっと好きです。
 今回、実はただバクラが宿主様に縋ってほしくてやっただけだったりも><



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