すっかり人気のなくなった教室で、教師と生徒がただ二人だけ残っていた。
 教師は、白衣にメガネをかけ、その穏やかな瞳で教科書を見つめ、淡々と説明している。だが、それを聞く生徒の目は教師しか見ておらず、机の上にはただ何も書かれていないプリントとシャーペンが転がっている。
 
「アテムくん、先生の顔ばっかり見てたら終らないよ?」

 あくまで、優しげな声。
 困ったような笑みを浮かべながら、無理矢理させることができないのは教師が少し気弱なのをあらわしていた。
 生徒はそれを知ってか知らずか、ただ笑うだけでシャーペンを握ろうともしない。
 教師が教科書を閉じ、年齢に似合わぬ愛らしい仕草で唇を尖らせた。

「アテムくん、先生だって怒るんだよ?」

 まったく怖くない怒り方に、生徒は苦笑。
 それをバカにされたととったのだろう、教師はまったく迫力なく怒り出す。ぷんぷんという擬音が聞こえてきそうだ。

「アテムくん、わかってる? 僕が君に残ってもらったのはこの前の生物の小テストのせいなんだよ」
「そんなに、悪かったですか?」

 白々しく聞いてくる生徒は、あくまで真剣に頷いた。

「すごく、君とは思えないくらい」

 そこから、ひどく心配そうな表情を浮かべ、そっと、声を潜め、顔を近づけて聞く。

「名目はそう、補習だけど……本当は君に心理的ななにかがあったかもしれないって思って呼んだんだ。
 悩みとかあるなら、僕でよければ聞くよ? お友達とか、担任の先生じゃ言いにくいこともあるよね?」
「獏良先生」

 生徒は近づけられた顔の輪郭を柔らかく包んだ。
 驚きというよりも意味がわからず首を傾げる様子に、生徒はますます笑う。

「最近、夢を見るんです」

 夢?
 更に首を傾げる教師に、生徒は更に顔を近づけ、囁くように告げた。



「先生と、セックスする夢を」



 びくっと、顔が咄嗟に引かれる。
 力なく包まれていただけの手からはたやすく逃げられた。
 慌てながら赤面していく教師を見上げながら、生徒は言葉を続ける。

「最初は、先生とは思わなかったんです。顔とかぼんやりとしていてわからなかったし、なんだか時代がおかしかったし、なにより性格が違いましたから」
「え? え、ちょっと待って、アテムくん」
「でも、段々わかるようになりました。先生、だって、俺が間違えるわけないって」
「いや、待って、おかしいよ」

 逃げようとする腕を生徒が掴む。
 それなりに力がこもっていたものの、痛くはない。
 強く腕を振れば、振り払えるほどに。

「先生はいつも俺のことすごく怨んでる、いや、殺したいって目で見て、俺の下で喘いで」
「やめて、聞きたくないよ」
「泣きながら俺を呼んだ」
「お願いだから……」
「夢なのに、先生の感触も、先生の声も、食い込む指もすごくリアルで」

 必死に耳を塞ごうとする教師に、生徒は立ち上がり机越しに引き寄せる。
 すでにその瞳は涙で濡れ、レンズ越しに光っていた。
 それなのに、生徒はおかしそうに笑う。



「いつまで、演技を続けるつもりだ」



 がらりと、口調が変わった。
 先ほどまでの生徒が教師に対する態度ではない。むしろ、仲のよい友人、あるいは知り合いに声をかけるように。
 それでも、教師は戸惑うだけで首を振る。
 なにもわからないとでも言うように、弱弱しく。

「演技って……」
「お前の本性は知ってるぜ」
「違うよ、知らない」
「昔から、演技派だな、バクラ」

 バクラっと、声が響いただけ。
 それだけで、教師は目を閉じる。
 深い、深い沈黙。
 生徒は、ただ教師を見ていた。まっすぐ、そらすことなく。
 目が、開く。
 そう、ただその仕草だけでなぜだかレンズの奥のなにかが変わったように見えた。
 大きく、溜息が漏れる。
 捕まれていない方の手で頭を抑え、震えるように呟いた。

「鈍い、くせに」

 どこか、声のトーンも違う。
 先ほどまでの少し高い、幼い声ではなく、低い、強い口調。
 手を下ろし、教師はいつしか穏やかだった目元を吊り上げにらみつけた。

「なんで気づきやがる……!!」
「お前のミスだ」

 腕から手を放し、今度はそのネクタイを掴んで引き寄せた。
 抵抗はなく、唇が重なる。
 強く引きすぎたせいか少々痛みを感じたがそんなことに構わず舌が侵入する。やはり、抵抗は無い。
 身長差のせいか下から上へと貪り、水音をたてた。
 うっすら開いた瞳に映るのはお互いのレンズ越しの瞳。それが妙にもどかしいが、外す暇すら惜しいと舌を絡めあう。
 唇から漏れた唾液があごを伝い、首を撫でても拭いもせずただただお互い息すら忘れて確かめ合った。
 酸欠と感覚に教師が足を折る。その瞬間、唇が離れ、お互いの顔に不満の色が浮かんだ。
 うまく足に力が入らない教師は机にもたれかかり、息を整えながら生徒を見上げた。生徒も多少息が乱れていたものの、平気そうにひどく優しげに笑い、汗ばんだ髪を掻き分けてその額に唇を何度も落とす。 

「バクラ……」

 愛しげな声に教師は目を閉じる。が、一瞬でネクタイを解かれたのに気づき目を見開いた。

「ちょっおうさ……じゃねえ、アテム!!」
「王様でいい」

 髪を撫で、少し突けば簡単にしりもちをつく教師のところへゆっくりと近づき、足の間に身を入れた。

「お前にそう呼ばれるのは嫌いじゃない……」

 囁くような言葉に、顔を赤くしながらも教師は生徒の肩を押しやった。
 不機嫌そうな顔に、こちらも不機嫌な顔で答える。

「おっ王様、ここでやる気か!?」
「いやか?」
「嫌以前の問題だろ!! ここ、教室だし、俺様も立場があるし……だからちょっと待てって!!」
「随分モラルを気にするようになったんだな」

 続行しようと上着のボタンを外すその手に焦りながら口早にまくし立てる。

「だから!! 何の用意もしてねえから後片付けとか考えてくれ!! だー!! あんたまったく前世から変わってねえ!!」
「そう簡単に変わるもんじゃないんだぜ」
「そりゃそうだ!!」

 ヤケになって叫びながらも抵抗を続ける。
 だが、生徒の手は器用に素早く教師を脱がし乱していった。

「待てって王様!!」
「待てない」

 晒された白い胸を舐めながら、生徒はすでに固くなった自分のモノを押し付ける。
 どきっと更に顔を赤くする教師の肌に吸い付き赤い痕した。
 そのことにも文句を言いたかったが、見えない場所なので許してしまう。

「わかった、王様、わかったから……」

 なにが、っと言う前に一度引き剥がされた。
 そして、目をそらしたまま、生徒の足の間に手を伸ばす。

「口で、抜いてやるから、ここでは、やめて」

 上目遣いに触れたそこが大きくなるのを生々しく感じた。

「じゃあ、どこだったらいいんだ?」
「〜〜〜〜〜〜〜!! お、俺様の家とか……」
「わかった」

 にやっと笑って肯定する。
 教師は小さく溜息をつくと相手のズボンのベルトを外し前を開く。
 下着越しに膨らんだそこを撫でて大きさを確認しながら、唾を飲む。
(あいかわらず……体ににあわねもんを……)
 心の中でそう呟いて取り出した。
 どくどくと手の中で脈打つ熱の塊をゆるやか掴むと躊躇いながら先端に舌を這わせる。最初は小さく、舐めるごとに大胆に、咥えこむように触れる舌の面積を増やした。
 同時に手を動かし、裏側やくびれ部分を擦り、溢れる唾液とそれ以外の体液を混ぜていく。
 時折、上目遣いに見上げれば余裕のない顔で生徒は教師の髪を撫で回し、もっとと目線で促した。
 だから、教師は必死に口を開きソコを中に導く。喉の奥まで一気に飲み込んでも半分もいかず苦しさに涙が溢れたそれでも、唇と舌でしごき首をかしげて角度を変えて喉で締め付ける。
 咳き込みそうになりながらも今度は頬の内側に押し付け柔らかに刺激すると一度口から取り出し、熱い息を吐きかけると根元から先端へとなめあげる。
 もぞりっと、教師も勃ち上がってしまった自分のモノに身を捩らせながらも口は止めない。
 もう一度咥えこみ、今度は唇で引き絞りながら、激しく首を動かした。手でも攻め上げながら口の中に苦味が広がるのを享受する。
 生徒も限界なのか、顔を歪め、その頭を抑えた。記憶の中の苦味を思い出し、唾液とソレから溢れ出た液体を飲み込む。

「っ、」

 いっそう口の中のモノが熱く、硬くなり、伝わる震えにくるっと身構えた瞬間、強く髪を捕まれ引き離された。
 教師の目の前に白が広がり、びしゃびしゃと顔と髪、そしてメガネや服を汚していく。
 呆然と生徒を見上げれば満足したような、嬉しそうな顔で見下ろしていた。

「てめ……!!」

 慌ててメガネを外して服の袖で拭い睨みつける。
 しかし、その涙と吐き出されたもので汚れた顔では妙な艶っぽさを出すだけで怖くは無い。

「いいだろ、どうせ伊達だし」
「伊達でもたけえんだよ!! ああ、くそっ……レンズが曇ってやがる……」
「そもそも、なんでかけてるんだ。目はいいだろ」
「これかけてた方が顔隠せるし、印象もいいし……あんたも気づきにくいと思ったからだよ!! ああ、服までべったりじゃねえか……」

 口の端についた液体を舐め、汚れた白衣を脱いでしぶしぶそれで顔や髪、床を片付ける。
 これは捨てるかと嘆きながらベタベタに汚れた手もついでに拭いた。

「言っとくけど、王様、二回はぬかねえぞ」

 見下ろすうちにまた下半身を硬くなりそうな生徒を牽制し、手伝えと促す。
 生徒も一度抜いて落ち着いたのか、前をしまうと素直に窓を開け雑巾を濡らして床を拭きだした。
 小さくブツブツ文句を言いながらも手際よく後片付けをすまし、他に飛び散っていないか確認すると、教師は前をとめネクタイを閉めなおしてメガネをかけた。

「けどよ」
「どうした?」
「どうやって見抜いたんだよ。俺様の演技……前はまったく気づかなかった癖に」
「ああ、確かに最初は俺も気づかなかったぜ、でも」
「でも?」

 にっと笑って顔を近づけた。

「そんな目で見られて、気づかない方が無理だ」
「そんな目って……どんな目だよ……」
「俺を欲しがってる目。夢の中と同じ目で、ずっと俺を見てただろ」
「知るか……」

 そのままもう一度、唇を重ねる。
 長いものではなく、軽く舌を絡める程度のもの。

「その雑巾……石鹸で洗っとけよ……」

 照れ隠しなのか、はたまたただ思ったことを言っただけなのか、唇を離した瞬間、そう告げた。
 そうして、やっと一息。
 生徒は、ちらりと教師を見た。
 先ほどまでの乱れの後が微かに残るものの、いつもの演じている表情に戻ってしまったのを見取ると、悔しそうに顔を歪める。

「アテムくん」

 教師は少し歪んだ机を整え、その上にのったプリントを手に取る。
 少しもたれかかったときくしゃくしゃにしてしまったが、真っ白なまだ答えの一問も書かれていないもの。
 それをひらりと突き出して、教師は笑った。

「そろそろ学校は閉じまりの時間だから、帰らないとね」

 不満そうな瞳に一切ゆれることなく教師は生徒が受け取ろうとしたプリントをその寸前で引く。

「でも、これを明日までに君にやってもらえないと、怒られちゃうから……僕のうちでやろうか。僕は今日車だし、親御さんに連絡してくれれば、それこそたっぷりやる時間できる、よね?」

 一人暮らしだから、いっそ泊まっていくかい?
 そんな言葉に、目を見開いた。
 それは、生徒にとってあまりにもあからさま誘い文句。

「どうする? 持って帰って朝一で出してくれるならそれでもいいけど」
「いや」

 生徒がにやりと笑うと、まるでなにもわからないとでもいう様にプリントに唇を当てる。

「ぜひ、先生の個人授業が受けたいぜ」
「勉強熱心だね、アテムくんは」

 教師は、最後まで白々しい言葉を吐き出した。



 下校間際の廊下を生徒と教師が歩く。
 二人は手にその日使ったプリントを持ち、何気ない話を繰り返していた。
 そこで、ふと、そういえばという表情をする。

「アテムくん、この前のテストだけどね」

 教師は、少し困ったような顔で生徒を見て首を傾げた。

「ちょっと悪かったんだ……」
「それは、困りましたね」

 意味深な笑みを浮かべて、生徒は相槌を打つ。
 静かな廊下を渡り、準備室と書かれた教室へ入ったとき、振返って教師は告げた。


 うちで補習しない?



「なあ、王様?」

 誘うような、先ほどまでの穏やかな雰囲気とは間逆の笑み。
 生徒は後ろ手で扉を閉じると同じように笑った。
 そして、返事の変わりに唇が合わさる。



 生徒×教師でメガネで白衣でぶっかけやってしまいましましたああ!!
 本当はネクタイで縛ってGO☆CANだったんですが、それはまたの機会ということで……。
 普通にGO☆CANやっちゃったらただのオリジナルBLくさくなりそうだったので!!
 やっぱり、こいつらは前世からの仲でイチャイチャしてほしいです。
 とりあえず、この二人は学校だからこそできるプレイを色々してほしい……!! むしろ、させたい……!!
 イメクラとか……ああ、女装王様×2○才なのに学ランバクラとか書きたい……!!(落ち着け)
 ちなみに、バクラはわざと宿主のマネをしているだけで、二重人格じゃないです。先生やるにも、王様騙すにもちょうどいい感じだったから。猫かぶり。


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