彼は、少しだけ演技が得意だった。
 しかし、彼はあまり得意ではなかった。
 けれど、いつの間にか、そう、いつの間にかうまくなった。
 そのせいで、混ざって、わからなくなってしまった。



 父が死んだからしばらく、私は叔父に引き取られた。
 叔父はどうにも不治の病らしく、私を引き取ったとしても後5,6年もすれば死ぬらしい。
 しかし、叔父の最期のわがままと、親戚筋の事情、そして金銭面の問題で私は叔父の家にやってきた。
 叔父の家は田舎で今住んでいるところからは遠く、私は転校するはめに陥ったがまったく困らなかった。なぜなら、私はどうにも学校に馴染めない子どもだったからだ。
 出迎えた叔父は、父に当たり前ながら似ていたがどちらかというと私に似ていると思ってしまった。否、私が叔父に似ているのだろうが。
 最初はそのことからとっつきにくさを感じていたが叔父は私を引き取るほど執着したというのに無関心だった。
 別に、放置されていたわけではない。一応話もするし、学校のことなども聞かれるが踏み込んできたり、私の体を触るなどということも、父の話を聞きたがることも一切ない。一度さり気なく聞いたのだが「罪滅ぼし」と答えられた。そういえば叔父はこなかったが父の葬式で叔父は散々父に迷惑をかけたと聞いたことがある。納得した。叔父の無関心さとさり気なさは寂しいというより心地よく、隣にいても一人でいるような感覚が好きだった。 
 意外なことに叔父は料理もできるし、掃除も洗濯も私より上手だったのだ。ずっと一人暮らしをしていたから当たり前ではあるが叔父の若さと外見を考えれば驚くべきことだ。
 しかも、これで叔父は文才があるらしく、物書きをやっている。私は読んだことはないが、それなりに売れていて資産もそこそこあるらしい。そんな話をして叔父は苦笑して自分が死んだら私が成人するくらいまでは不自由しない金は残してくれると言った。
 何かのきっかけで、なぜ物書きをやっているか聞いたところ本を読まない人に見つからないようにだと言った。意味はわからない。
 叔父はたまにこういった意味のわからないことを言うのだ。
 それは私をからかっているときもあるし、また、深い深い深遠のような意味を持っているときもあった。
 ふと、思考する叔父は、本当に死ぬのだろうか。
 この叔父は、父のように不意に死ぬのだろうか。

「天音?」

 叔父に声をかけられはっとする。
 少し思考に没頭しすぎていたようだ。
 声をかけてきたものの、叔父はただ確認しただけなのか用件を言ってこいない。
 だから、私はテレビに少し目をやっている叔父を見る。私とよく似た叔父はじっと見てみると肌が私より白い。外に出ていないからと病人であるから当たり前なのだが、その白さが時折、透けてしまいそうでぞっとする。見すぎているとわかるが、あまりにも叔父は存在が希薄で儚いのだ。
 ああ、これは叔父は死ぬのだと私は確信した。5,6年と言っているがもっと短い期間で叔父は死ぬのだろう。
 この儚さのまま、消えるように死ぬ。そう思考が飛んだ。
 叔父はその考えに気づいたのか、私に目を向けていたずらっ子のように笑う。そして、死んだら私に自分が書いた文章を読んで欲しいと言った。
 遺言に似た言葉に私はうなずいた。
 叔父は、少し遠い目をして私を見た。いや、私の向こう側を見た。それは、どこか遠く、誰かを待っているようだった。
 そして、予想に反して叔父は5,6年ではなく、8年生きて死んだ。
 私が16歳になったばかりの頃だった。
 暑い日、誰かを探しに行くと言った叔父は私が止めるのを聞かずどこかへ行ってしまい、そのまま死体で返ってきた。
 これで、人生3回目になる葬式で、私は叔父の書いた文章を読んだ。

 それは、本にされたものではない、大量の原稿用紙。
 出てくるのは、二人の少年。

 少年たちはお互いを探し、たくさんの時を、時代を重ねていく。
 短く、途中が消えているものや、最後のないものも存在していて、どうにも読みにくかった。
 その中で、私は最後の話で手を止める。
 今まで出てきた片方の少年が出てこない話だった。
 「私」という少年と、その兄弟らしい少年の、何気ない人生をつづったもの。
 その「私」が、叔父なのだろうと私は思った。
 いつか父に聞いた叔父の話と重なるところがいくつかあったからだ。そうすると、こちらの少年は父なのだろう。
 私の知らない父を見てなんとなく不思議な気分になりながら読み進めていくうちに、「私」は不治の病にかかり兄弟らしい少年と離れることになる。
 しかし、なぜかわからないが、妙な違和感が私の中で生まれた。それがなにかはわからない。
 それでも、ただ読み進めるしかなく、私は文章を目で追っていく。
 どうにも日記のようだと思う。
 なぜなら、そこからは克明でなく大雑把だが、「私」の日常しか書かれていなかったからだ。いや、日常だけではなく、誰かを待っているような描写がある。誰を待っているかは、なんとなくわかった。この話の前に出てきた少年だ。「私」は、叔父はその人を待っているのだ。何のために、なぜか、それは書かれていない。いや、最初から、二人の少年が探しあう理由など書かれていないのだ。

 そして、「私」は死んだ。
 
 ぞくりっと、震える。
 「私」が死んでも、話は続くのだ。
 場面は変わって、成長した兄弟らしい少年が、娘を連れて墓参りに行くところだった。
 これは私だろうか?
 そこで、一人の少年が出てくる。
 花を墓前に供える少年だ。
 描写はほとんどなかったが、私は咄嗟に気づいた。この話の前まで出てきた少年だと。
 同時に、やっと私は違和感に気づいた、この兄弟らしき男の描写が「弟」なのだ。
 父は叔父の兄だというのに、ここでは弟と表記されている。
 なぜかはわからない。それを知る叔父はいない。
 なんだか気持ち悪さを覚えながら次の原稿用紙をめくる。
 そこで、私は目を見開いた。



[ 弟は、驚く少年に向かってこう言った。

「貴方が探しているのは、兄ですか私ですか、」 ]
 


 その先は、一行しか書かれていなかった。
 私は原稿用紙を放り出し、なにもかもどうでもよくなったかのように寝転ぶと丸まって目を閉じる。
 
 
 
 それから、1年後私は叔父と父の眠る墓に行くことになった。
 秋にさしかかっているというのに暑い日差しの中、私は歩く。
 そして、予定調和のように、少年に出会った。
 墓前に花を供える少年を見て、私は近づく。
 私は、驚く少年に向かってこう言った。

「貴方が探しているのは、父ですか叔父ですか、」



[ 「それとも、この娘でしょうか。私たちはもうわからなくなってしまったのです」 ]



「それとも、私でしょうか?」

 少年は、呆然と、呆然と私を見ていた。
 さて、私は誰なのでしょう。



 出た!! 命黙お得意のふいんき(なぜか変換できない/ネタです)小説!!
 さて、誰が誰で彼女はなんなのでしょう。
 それは私もまったく考えていません(おいおい)
 ちなみに、これは王様の愛の試練でもあります。外したら最低じゃすみません。しかも、全員違うという選択肢もあるのです。
 あやふやで有耶無耶のままが、一番キレイだったらどうしよう。



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