彼は、その白い顔を蹴りつけて牙をむいた。
 その蹴られた足を掴みどけた相手は、吊りあがった目で彼を見ている。

「はっは……!! どうした遊戯ぃ!! 殴るか? マインドクラッシュしやがりますか?
 そんなことしやがったら宿主がどうなってもいいのか!!」

 彼は、叫ぶ。

「なんたって、俺様はお前の相棒の体を蹴っても殴ってもかまわねえんだぜ!!
 けど、てめえには大事な大事な相棒のお友達の体だからな!! 傷なんざつけられねえだろ!!」

 勝ち誇った言葉とは裏腹に、声はひどく必死な切羽詰まったもので、本人は気づいていないだろうが、目じりには微かに雫が溜まっている。
 それをじっと見ながら、相手はなにか考えるように足を掴んだまま動かない。
 彼がいくら罵倒しようが、暴れようが適当に流しながら、ふっと思いついたかのように足を引いた。急に引かれた体は簡単に倒れ、足を上に天井を見る。
 あまりにも一瞬のことに呆然としてしまったが、上からあまりよい予感を導き出さない相手の笑みと目があった瞬間、正気を取り戻す。
 暴れるより早く、相手はその掴んだままの足の甲を指から付け根へと向けて舐め上げた。
 ぞくっと言うよりもぞぞぞっという気持ちの悪さに体中の鳥肌がぶわっと立ち上がり、声にならない悲鳴が口から飛び出した。

「なっなにしやがるう!!」

 手から逃げるように足をバタつかせ身を捩る。
 先ほどの感触で微かだった目元の雫は少し動けば零れそうな大きさへと変わっている。
 よっぽど気持ち悪かったのか、罵倒する声は支離滅裂なもので、暴れる力に加減はない。
 器用に相手は暴れる足を避けながら渾身の力で足が振り下ろされた瞬間、ぱっと手を離した。
 重力と慣性の法則に従って、勢いづいた足はそのまま、フローリングにたたきつけられる。

「っ!」

 怪我や痣を作るほどではないが、じんっと走る激痛に、彼は口をぱくぱくと開け閉めする。
 その間にも、相手はいきなり腹の上に馬乗りになり、トレードマークとかしたストライプのシャツを一気にまくりあげる。
 あまりの事態に痛みも忘れ慌てて相手の腕を掴むが、それより早く、白く細い、細すぎる体は相手の目の前にさらされていた。
 羞恥心は別にないが、恐怖はある。これからなにをされるのか、まったく読めないのだ。
 相手は笑いながら、腕をつかまれたままで、その胸の上にのっているアクセサリーと呼ぶには大きく、少々オカルティックなリングに手をかける。

「おっおい、とる気か!?
 やっやめろ、千年リングは俺様のもんだ!!」

 焦る彼とは対照的にどんどん愉しそうな笑みを浮かべる相手は、指でリングをなぞった。
 訳がわからないが、その行動に悪寒を覚える。

「この中に、お前がいるんだよな」

 輪の外縁を指で撫でられるとなぜだが、肉体ではなく、その奥が震えた。
(なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ〜〜〜〜〜!!)
 彼は訳もわからずその感覚に翻弄される。
 肉体ならば耐えられたかもしれないが、その奥、無防備な部分をくすぐられる。歯がゆい、気持ち悪い。
 抵抗するが一向に相手はやめるどころか、その飾りのような少し部分を掴むと、赤い舌で舐める。

「うわああああああ!! やめ、やめろおおお!! うあ、やめろ!!
 舐めるな舐めるな舐めるな舐めるな舐めるな舐めるな舐めるな舐めるな舐めるな舐めるな!!
 舐めるなっつっても、口の中いれるな、やめ、ヤッ……」

 わざとらしく水音を立てながら飾りを丁寧に舐めていく。
 滴る唾液が、覗く赤い舌が、その上に乗せられた金色が、彼の目の前でちかちかする。
 知らない感覚。眩暈。ごっそりと、意識を持っていかれそうだった。脳を直接愛撫されているようだった。すでに、気持ち悪いのか、そうでないのかという境界線がわからなくなっていく。
 鼻から抜けるような声が漏れた。
 いくら歯を食いしばっても唇を噛んでも溢れ出る声がわずらわしい。
 もどかしさに手をばたつかせ、見上げた先の相手は、楽しさを通り越して、困惑したように見えた。
 それでも、動きは止まらない。 
 止め時を逸してしまったのだろう。
 決して、インモラルなことをしているわけではないのに、背徳感が湧き上がる。
 目じりに溜まっていた筈の雫はすでに床を小さく濡らし、閉じられていたはずの唇は開かれ、絶え間なく声を漏らしている。


 いやだいやだいやだ、もういやだ、やめろやめろ、いや、やだ、やめて、ぁ、ひぃぃ。


 懇願や悲鳴に近い声は、まるで別物のようだった。
 熱に浮かされたようにぼんやりしていく意識は虚構と現実の境を壊していく。

( 涙のにじむ先にいるのは誰だ。
 ああ、知ってる、知ってるんだ。ああ、ずっと探してた。ずっと求めてた。
 あんただけをああ、何千年待っただろうか。
 ずいぶんと、待たされてしまった。どうかどうかどうかどうか、どう、か、もう、 )
 

「おっ、おさまぁあ……」


 熱に浮かされた瞳が、潤んだまま、喜びの色を宿す。
 さまよう腕が、ぶら下がっていたパズルに触れた。

 その、瞬間。

 ぴたっと、動きが止まった。
 引いていく熱、浮き上がる意識。
 きょとんっとした幼い、穏やかそうな目。
 見下ろしている。
 その目は、知らない。
 困ったような、申し訳なさそうな、気弱そうな、顔。

「えっえーっと……」
「て、」

 酸素を求めて息を吸う。
 その空気を、そのまま、吐き出すように叫んだ。

「てめえええ!! おっせえんだよ!! もっと早く出てきやがれー!!」

 ばきっと。
 今日、その顔に二度目の蹴りが見回れた。 


「獏良くん」
「なに、遊戯君?」
「なんかさ、距離、離れてない?」
「え、そうかな……?」

 近づいて、隣で歩く。

「おかしいなあ?」

 歩く、いつの間にか、その隣が、数歩離れている。
 近づく、歩く、離れている、離れている離れて……。

『もう一人の僕……』
『どうしたんだ、相棒』
『やりすぎ……』
『な、なんのことだかわからないんだぜ☆』


 擬似フェ○やっちゃいました……。
 リングと感覚が繋がってたら、実際色々不便だと思いますが、繋がってたらおもしろそうだなーっと……つい。
 色々すごく楽しかったです。はい!(いきいきした笑顔で言うな)
 王様は自重をしない男☆(マテ)
 しばらく、遊戯は獏良にも、バクラにも近づいてもらえません……。


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