妹は、たまに泣き出します。
 その時理由を聞いてもまったく答えてくれなくて、ただただ悲しいと首を左右に振るばかり。
 僕はそんなときなんにもできずただ見ていることしかできなくて。
 それが悔しくて悔しくてたまならなかったのを覚えています。
 僕の世界で一番かわいい妹の、悲しみを共有することができず、かといって慰めることもできない。
 でも、それよりなにより悔しいと思ったのは、いつか、いつか、この世界で一番愛しい妹の悲しみを共有し、慰める相手がこの世界のどこかにいるとわかっていたことでした。
 妹は、半分その相手を求めて泣くのです。
 そういう時、僕ははらわたが煮えくり返りました。
 だから、誓ったのです。



 夜、隣で寝ている天音が泣き出した。
 僕は慰めようとして手を伸ばすけれど、天音はその手をすり抜けて、部屋を出て行ってしまう。
 そっと、隠れて追いかければ、天音は迷わず電話をかけた。
 どこにかけるかなんて知っている。
 だから、僕はあえて声をかけずじっと見ていた。
 天音は受話器を抱えて震えながら小さく何度も呟く。

「はやく、はやく、はやくでて、おうさま、おうさま」

 ひどく切羽詰った、今にも息を止めてしまいそうな声。
 僕は胸を締め付けられるのを覚える。
 小さい頃から、ずっとそう。
 僕はなにもできず、見守ることしかできない。
 泣いている天音を、抱きしめることすらできない。

「おうさま!」

 天音の声が跳ねた。
 泣きながら泣きながら天音は必死に呼ぶ。
 たった一人を、唯一の一人を。

「おうさまが、死んだぁ……」

 ぼろぼろ泣きながら受話器に縋って物騒なことを呟く。
 向こう側の声まではさすがに聞こえないから会話の中身はわからないけれど、僕はそっと、部屋に戻ってコートを取り出す。
 これくらいしか、できない。
 受話器がおろされ、飛び出そうとする天音を呼び止めた。

「天音」

 びくりっと天音が泣き止んだ不安そうな顔で僕を見る。
 僕はできるだけ優しく笑って、コートを差し出した。

「外、冷えるから」

 天音はおずおずとすまなそうにコートを受け取ってはおる。

「いってらっしゃい」
「いってくる……」

 愛しい、愛しい僕の妹。
 世界で一番かわいい妹。
 僕の手から離れていく妹。
 その先には、ずっと待っていた相手がいる。
 彼だけが、天音を泣き止ませられる。彼だけは天音を慰められる。
 その証拠に、天音が夜泣く回数は減っていた。
 今日だって、本当に久しぶりだ。
 一度だけ、天音は振返った。

「了、ごめん、ごめん。俺様も了のこと、好きだけど、好きだけど」

 いいよっと首を振った。
 天音を見送って、僕はそっと台所で温めた牛乳を飲む。
 今頃、天音は彼と会っているのだろうか。
 寂しいなっと、思う。
 けれど、同時に、口元に笑みが浮かんだ。
 喜びの笑みじゃない。
 ただただ、自分でも自覚している歪んだ笑み。



(今日、学校に行ったらどうしてくれよう)



 だから、誓ったのです。
 もしも、いつか、そういうやつが現れたら、とりあえず意地悪してやろうと。
 僕から妹をとっていく復讐と、こうして今現在進行形で妹を悲しませているのに放っておいた罰を与えてやろうと。
 誓ったのです。



 生まれ変わっても、王様よりバクラの方が過去に引き摺られやすいと思います。
 色々なしがらみから抜け出せても、昔の夢をみて泣く天音ちゃんとか萌えます。そして、王様がそれを慰めたら更に萌えます。
 ちなみに、電話での会話は「俺を勝手に殺すなよ」「大丈夫、俺は生きてる」とかです。
 そして、どこかに待ち合わせして今、会いに行きます(違)
 片寄せあって、抱きしめあって、そして、いつか過去を忘れて幸せな日々を……。
 転生は、幸せになってほしいですね(不幸も好きですが)
 でも、とりあえず、目下のところ、お兄ちゃん怖いよ、お兄ちゃん。



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