時々、僕の妹は壊れる。
「殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ」
ぶつぶつと手の中で僕が資料用に買ったナイフを握り締めて天音が呟く。
こういうとき天音に話しかけると、天音が危ないから僕はただ黙っていた。
唇を噛み締め鈍い輝きを見つめて、そして泣く。
天音が時々壊れるのを、父さんも母さんも知らないし、僕は伝えるつもりはない。この症状がカウンセリングや投薬なんかで治るようには見えなかったからだ。
「いやだ」
ぶつんっと、天音の瞳が虚空を見る。
その先に僕はいるけれど、天音が僕なんて見ていないのは一目瞭然。
ぼろぼろ泣きながら天音は愛しそうに、憎憎しげに虚空を睨みつけ、ごろんっと転がった。
手からナイフが転がったから、さっと僕は取り上げる。
別に寝転んでしまった天音はもう危険でもなんでもないけれど、一応。
だらんっと放り出された四肢はぴくりともせず、薄く開かれた唇からは呼吸をしているようにも感じられない。呼吸で上下する胸もあまりにも小さくて。僕はいつも死んでないか確認する。
何の感情もなくなってしまった天音の瞳がぞっとするくらい怖い。でも、まるで人形みたいにキレイだった。
早くいつもの天音に戻って欲しい反面、いつまでも見ていたいと思う。
「天音」
名前を呼んでも反応しない。
けど、こうして呼んでおかないと、天音は絶対に自分が天音と忘れてしまう。
僕の、天音だということを忘れてしまう。
「天音、お兄ちゃんはもう少し、天音には僕のかわいい天音でいてほしいんだ」
返事は無い。
僕はそんな天音が戻ってくるまで待つしかない。
ぼんやりと見つめながら、天音は微かに動いた。
それだけで、みるみる人形から表情が浮き上がり、いきいきとした光が瞳に宿る。
もう、そこに人形の姿は無い。ただの兄の贔屓目をいれて可愛らしい元気で強気な女の子がそこにいるだけ。
そして、しっかりと僕を見ると、笑った。
「あれ、また了の部屋で寝てた?」
「うん」
僕が頷くと天音はいつもどおり笑って謝ってくる。
だから僕はいつもどおり少しがっかりするのを隠しながら、首を振った。
「別にいいよ、ちょっとだけだったから」
「ちょっとって……うわ、こんな時間じゃん!?」
「え、あ、ほんとだ」
「もう、了は鈍いんだから!」
「ごめん、ごめん」
ばたばたと部屋を出て行こうとする背中に、僕はそういえばっと声をかけた。
「今度、友達を紹介しようと思うんだ」
「え、了、転校してもう友達できたの!?」
「天音……僕をなんだと思ってるの……。
できたよ。皆いい人たちばっかりで、とってもおもしろいんだ。特に僕に妹がいるって言ったらぜひ会いたいって言ってさ」
「ふーん……」
あまり興味なさそうに出て行こうとする。
僕はその背中に、もう一度だけ声をかけた。
「ちゃんと会わせてあげるから、もう少しだけ僕のかわいい天音でいて」
振返った天音は、絶対に天音だったらしない笑みを浮かべていた。
唇の端を八重歯が覗くほど吊り上げ、その瞳は濁っていて、それでもぎらぎら光っている。
天音でも人形でも誰でもない、誰か。
僕はその名前を知らないし、聞いたこともない。
ただ、そこにいることは知っていた。
「了解、おにいちゃん」
ばたん。
扉が閉まった。
その向こうで、かわいい天音がなにか叫んでいる。
見たい番組でもあるのかなっと思いながら、初めて誰かに会った日のことを思い出した。
(まだ、終ってねえよ、王様)
っか……。
王様って、誰だろ。
不安定天音ちゃんと、シスコン微狂気了。
確かに、千年宝物からは解放されました。しかし、宿業からはまだまだです。
死んだからって幸せになれると思うなよっという感じでなぜか書きました。なぜって、書きたかったからです!!(衝動だけで生きてる!?)
管理人はハッピーエンドも好きですが、不幸も大好きでしてねえ……(ヤメロ)
お友達は勿論、あの人も混ざってますよ。ああ、あの人も(伏せなくてもわかる!!)
題名のわりに続きません。すみません。
でも、この天音ちゃん会ったら即、王様刺し殺しそうで怖いですね。
微、蛇足
「獏良天音は、バクラは、王様のことが、アテムのことは好きです」
「今も、昔も、ずっとずっと好きでした」
「私はまだわかりませんが、バクラは愛してすらいます」
「でも、ごめんなさい」
「でも、無理なんです」
「王様、ゲームをしましょう」
「闇のゲームをしましょう」
「((私・俺様))と」
少女は目を伏せて笑った。
彼とも彼女ともつかないその笑みで、王を見つめ、開始を告げる。
「さあ、3回戦を始めようぜ」