「王様、あんたの命もらいにきたぜ」

 神にも等しき王を前に、盗賊は堂々と両腕を広げて見せた。
 たった一人、敵陣のど真ん中で、何一つ臆することも躊躇うこともなく神官団を見ても一歩も引かない。
 挑発的に妖しく笑った盗賊を見て、王はただただ目を奪われることしかできなかった。
 瞬きする間すら惜しいとばかりに、盗賊を見つめる。
 芝居じみた動きで剣を構え、軽業師のように変則的な身のこなしで側近たちを避け、王に迫ってくるのを見ていた。
 まっすぐな殺意と憎悪に染まった瞳が、ただただ王を睨みつけるのを一つ残らず網膜に焼き付ける。
 その凶刃が、眼前に迫った時ですら、逸らさなかった。

「ファラオ!!」

 鈍い、金属同士がぶつかり合う甲高い音が広間に響く。
 王は、盗賊を見ていた。
 盗賊も、王を見ていた。

「やるじゃねえか」

 王の腕輪に、盗賊の持つ刃が食い込んでいた。
 それでも、王は目を逸らさない。
 じっと、間近で見るぎらぎらと笑う盗賊の顔を見つめ続けた。
 その、少し異様な様子に盗賊が距離をとろうとした瞬間、服の裾が強く引かれる。気づかなかったが、いつの間にか王は盗賊の服の裾を掴んでいたのだ。
 おおっと、側近たちの声が響く。
 焦る盗賊とは裏腹に、王は盗賊をそのまま引き寄せた。

「………っ!?」

 ひどい、ひどい沈黙が流れた。
 誰もが、ぽかんっと立ち尽くし、動けない。
 ただ、その中で王だけが何にも関知していなかった。
 そう、悠々と、嬉々として、王は盗賊の唇を奪ったのだ。
 柔らかな唇の感触を味わい、舌をねじりこむ。
 驚きに咄嗟に対処できない盗賊を置いてけぼりに体を引き寄せ、膝の上に座らせるような体勢をとらせる。
 そして、貪欲にその口内を荒らし、舌を翻弄する。
 あまりにも巧みなその動きに、盗賊は酸素を奪われ、体から力が抜けるのを覚えた。
 舌を噛み切ってやろうと歯を立てた瞬間に舌に逃げられる。
 それでも、王はとまらなかった。
 挑発するように唇を舐め、笑いながらその腰のラインを撫で上げる。
 思わずあっと呟いたその口をもう一度塞いで舌を絡めた。
 お互いの唾液が混じりあい、ぐちゃぐちゃになっていく。
 カランっと盗賊の持っていた刃がその指から落ちた。力がうまく入らない盗賊の足がかくんっと折れ、完全に王にもたれるような体勢へと変わった。
 けれど、王は止まらない。更に激しく酸素の全てを奪うように貪っていく。
 盗賊の目尻に息苦しさから涙が溢れるのまで一つ残らず、王は見つめていた。
 衆人環視の中、そのひどく長い口付けは続く。

「ふっ……」

 そして、それは盗賊の漏らした声とともに終わりを迎えた。
 腰も砕け、考える隙間すらなくなった盗賊は王の胸へと顔を埋め、動かない。
 やっと、正気に戻った側近たちもいたが、こういうとき何を言っていいかわからず王の行動を見守っている。
 王は、自分にもたれる盗賊を優しげな目で見つめ、その髪をいじりながら、囁く。



「王妃になれ」



 その一言は、先ほどの沈黙よりも長く、重苦しい沈黙を生んだ。
 まさに、時が止まったというにふさわしい時間。

「ふ、」

 止まったときを動かしたのは、最も意外な人物だった。


「ふざけんなあああぁぁぁぁぁぁ!!」


 思わず拍手を送りたくなるほど見事なアッパーが、王の顎に決まったという……。



 すらりとしなやかな長身と、よく言えば涼やかな、悪く言えば悪人面、そして、二つの豊満な胸と引き締まったくびれ、極上のまろやかなラインを持つ女盗賊は、この日、王に捕まった。  



 さっそくレッツセクハラ&ぷろぽおず。
 なんという自重しない王様でしょうか。管理人はもうだめです。
 だってさー!! にょたが萌えるんですよー!!
 あっ続きます。



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