※色々捏造&セト母まで捏造してます。
 それが許せる方、セト母に夢を抱いてない方だけどうぞ。
















































「そういえば、お前はこの辺りでは見かけん顔だな」
「2,3日前にきたばっかだからな」
「親と一緒にか?」

 彼女は、その言葉に一瞬だけ顔を引きつらせた。
 しかし、少年は前を向いていたせいで見ていない。

「ううん、いねえから」
「……死んだのか?」
「ううん」

 少女は、ひどく、ひどく不思議な声音で呟いた。
 それが、いかなる感情のもと発される声なのか、その時の少年には理解できなかっただろう。



「殺された」



 もしも、その時少年が振りむいていれば、何かが少しは違ったかもしれない。
 けれど、少年は降り向かなかった。なぜなら、その時、彼はあまりにも、まっすぐ前しか見ていなかったのだ。
 そうすることで、見落とすものもあることも、知らず。



「セト、助けて」

 そう呟いて飛び込んでくる姿に、すでに少年は呆れていた。
 慣れた手際で隠れるのを見ながら何回目だったか考える。こうして、相手が助けてと言ったのは。そして、いつもかくまってしまうのは。
 確か、両手の指を超えたとき数えるのを放棄したなっと思い出しつつ、やはり少年は匿うのだ。
 なぜ、こうなったのか、少年は無意味なことを考える。最初に会ったとき助けたせいだろうか、それともはたまた最初に飛び込んできたとき少々、信用されすぎていることを見せ付けたせいか。
 溜息。
 それから一瞬おいて、荒くれ然とした男たちが2人ほど飛び込んでくる。息を整え、頭に被った頭巾を整え、背筋を伸ばす。

「申し訳ございません!! ここにガ……子どもは飛び込んできませんでしたでしょうか!!」

 明らかに荒くれという顔の兵士があまりにも丁寧な口調で家の奥にいた女性に声をかける。すると、女はおっとりと、その気品と家柄を感じさせる動きで振り返った。

「まあ、子どもですか?」

 かなりの美女と評してもいいだろう。年相応に年はとっているがその美しさにはあまり陰りは無い。しかし、年寄りも愛らしい仕草で頬に手を当てる。
 それだけでその場の雰囲気が一気に和んでいく。考え込むようにちらりと少年を見た。少年は横に首を振る。

「申し訳ありませんけど、うちには子どもはセトしかいないんです……セトがなにか?」
「いっいえ!! ご子息様がまさか!!」
「そう? ねえ、セト、あなたなにかやった?」
「……母上、私はここで貴方が作るスープのためにマメの筋をとっていたのですが?」
「あら、そうだったわね」

 ごめんなさいねっと、兵士に頭を下げると、兵士二人は手と首をぶんぶんっと激しく振りまわす。

「いえ、お手間をおかけしました!!」
「申し訳ございません!!」

 二人の兵士は逃げるように飛びだしていく。
 それもそのはず、今でこそこうやって下町で暮らしているが、少年の母は貴族だった。性格には彼女の父が貴族なのだがその権力は今も生きている。そう、その気になればあんな兵士の二人ほど、首を簡単に物理的に飛ばしてしまうほど。だからこそ、ここはたいがいのものにとって鬼門である。
 少年はその足音が聞こえなくなるまで聞くと、キラキラとした目で自分を見る母にうんざりともう一度溜息をついた。
 コンコンっと、軽く壁を叩けば、そこからがばっと追われていた子どもが出てくる。

「セト、ありがとさん」
「まったく貴様は「きゃー!! バクラちゃーん!!」

 あまりにも、あまりにも黄色い喜びの声。
 これにはさすがに子どもも顔をひきつらざるをえない。思わずちょっと逃げ腰に頭を下げた。
 少年が逃げるなよっという視線を向けると、わかってるよっと、乱れた服を調える。
 
「お久しぶりです、おば様」

 子どもの外見からは想像できないほど丁寧な声。
 対して、女はさっきのおっとり具合はどこへやら部屋の奥から一気に飛び出すと、子どもを抱きしめる。

「久しぶりね!! もう、セトったらちっともバクラちゃんつれてきてくれないから私寂しかったの!!」
「……!!」

 無言で助けを求める視線を、少年は無視。匿った礼に付き合ってやれと視線で促す。

「ほんとにね、セトは気は利かないの。この前もね!! やっぱり、男の子はだめだわ……ねえ、バクラちゃんうちの子にならない? 女の子がほしかったの!!
 ああ、それから、バクラちゃんに着てほしい服もあるの!! 私が若い頃の服なんだけど、いいえ、先にご飯食べていってもらおうかしら、今日はお豆のスープで……」
「はっはい……」

 完全に押され気味の少女を見ながら少年は豆の筋とり作業に戻る。
 何も聞こえていないという表情を少女は睨みつけるが、やはりこれも無視。観念して相槌を打ち出す姿を見ていると、少年はなにか勘違いしてしまいそうだった。
(まさか……2週間でこの町の半分を牛耳った窃盗団の親分には見えないだろう……)
 少女、バクラは見かけどおりの年齢、いや、年齢よりも小柄で華奢な子どもだ。しかし、なにをやったのか、たった1週間でこの町の行き場のない子どもや元々そういうことを生業にしていた子どもをまとめて本格的な窃盗団を作り上げ、その親分に納まった。最初は子どもがやることと笑ってい街の人間も更に1週間すれば目を見開くことになる。
 なぜなら、先住のいくつかあった悪党共と手を組んだかと思えば、バクラは彼らを逆に食う、つまり傘下においてしまったのだ。しかもそれだけに止まらず、手を組まぬものを打ち倒し、吸収してみせた。なにが起きたかはまったくわからないが、今や、この少女の顔は知らずとも、名前を知らないものはこの街、どころか、かなり離れている隣街にすらいない。
 名前が一人歩きしているという面もあるが、その勢力は今もまだこの街の半分を牛耳る兵士たちの方にも届いているらしい。
 本来ならば、そんなバクラを庇う義理は少年に存在しないはずだった。最初は、あまりにもまっすぐで正しい少年だったが、この世の道理くらいわかっている。盗まなければいけないとき、なにか犯罪を起さないと生きていけないときはある。それを理解しているからこそ、助けた。
 だが、すでにバクラは一線を明らかに逸脱している。けれど、「助けて」と、その4文字を呟いただけで助けてしまうのだ。どれだけ、バクラが少年の見えていないところで陰惨で残虐な行為を繰り返しているとしても。
 そんな、恐怖すら覚える天才的な手腕を見せた少女は、今、少年の母に好き勝手にいじくりまわされている。

「しかもね、セト、最近家にいてくれないの!! ひどいでしょ」
「そっそうですね……」
「ほら!! ひどいって!!」
「はいはい、私が悪かったです。母上」

 豆の筋をとり終えた少年は立ち上がると、母親を宥めてバクラから引き剥がす。
 ああっと残念そうな母の顔と、心底安堵したバクラの表情にまた大きく溜息をついた。これほど自分は昔から溜息をついていただろうかと少年は考えてしまう。

「母上、確か足りないものがたくさんあったはずなので買い足してきます」
「いってらっしゃい、私はバクラちゃんと遊んで待ってるわ」
「いえ、ちょっと荷物が多いので、手伝ってもらいます」

 むーっと、母親はまったく年とあっていないように頬を膨らませる。
 けれど、少年にしがみつくバクラの姿に諦めたように方を落とした。

「いってらっしゃい……」



「……大丈夫か?」

 よろよろと歩くバクラを見ながら少年は問いかける。
 すると、微かに横に首を振った。

「……10人のバカに囲まれるより果てしなく怖ええ上に疲れた……」
「囲まれたのか?」
「そりゃ、セト様と違って俺様は危ない橋をわたらせていただいてますからね」

 そう皮肉りながら、だいぶ精神的に回復したのだろう、掴んでいた腕を離し、近場にあった小さな石造りの囲いに飛び乗った。

「それより、最近どっか出かけてんのか?」
「?」
「さっき、言ってただろ」
「ああ、少々先生にな」

 先生とは、少年が色々を習っている学者のことだ。
 バクラも知っている、かなり真面目で硬すぎるせいで、先生という単語に顔をしかめた。

「でもよ、前はもっと、たまにだったじゃねえか」

 つまらなそうに、唇を尖らせる。
 そう、少女の言うとおり、少年がその先生のところに行くのは一週間に一度程度。しかし、ここ数日は2,3日、あるいは1日おきには通っている。

「……そんなに、勉強してどうすんだ?」
「……」

 少年は、思わず口を閉じる。
 言うべきか、言わざるべきか迷う。
 これが、バクラが相手でなければあっさりと口にするというのに。

「別段、なにも」
「ふーん」

 そこから、なぜか会話はなかった。
 バクラがなにを考えているかは少年にはわからない。
 ただ、ちらりと見た横顔は、ひどく機嫌がよく、幼い。誰が、こんな少年とも見間違える少女を聞くだけで悪党すら震え上がる名を持っているように見るか。
 唯一らしいというながら、その顔の目の下にある大きな傷跡だけだろう。
 傷跡。
 そこから、少年は思い出す。


(なあ、セト)
(セト、秘密にしといてくれよ、俺が女だってこと)
(セトなら、秘密にしてくれるよな?)


 それは、夜のこと。
 まだその傷跡が傷であった頃、血まみれのバクラは、笑いながらそう聞いた。
 右手には、やはり血まみれのぎらりと鈍く光る刃。左手には、見覚えのある男の首を持って。
 笑いながらも、その瞳に狂気と憎悪、そして微かな悲しみを宿したまま、繰り返す。

(なあ、セト?)

 別に、そんなこという気もなかった。
 どうでもいいはずだった。
 たった一回きり助けた少女のはずなのに、少女はわざわざやってきてそう脅したのだ。

「なぜ」

 っと思わず少年は聞いてしまった。
 聞かなければ、よいことを。

「……俺様、復讐しなきゃいけないから」

 なぜ、その時少女が質問に答えたかはわからない。
 気まぐれか、はたまた、



「王家の奴らを、皆殺しにしねえと、いけないんだ。
 王家の奴らに、俺様は皆、皆、家族も友人も知り合いも夢も希望も未来もなにもかも、奪われたから。
 俺様の耳元で、皆言うんだぜ? 復讐しろって、殺せって、報いを与えろってよ!」



 共犯者にしたかったのか。
 
「だから、俺様はもっと力をつけなきゃいけねえんだ。
 女って知られたら、舐められる。舐められたら、終わりだ」
「……別に、しゃべる気は無い」
「セトなら、そう言うと思った」

 少女は満足そうに頷く。
 少年は何も言わなかった。
 ただ、それだけの出来事。
 それだけの出来事があった。

「……セト?」

 声をかけられ、はっとする。
 バクラは市場についたと告げ、なにを買うのか聞いてきた。少年が口にした量と種類にげえっと呻いたが、それでも、ついてくる。
 あのときの、狂気と憎悪、そして悲しみを含んだ姿とは、本当に、結びつきもしない。


(それでも、あの夜はあった)


 だからこそ、少年は言い出せないでいる。



(もしも、俺が王に仕える神官になると言えば、こいつはどうなるんだ)



 想像も出来ない。
 もしかしたら、怒り狂うかもしれない。悲しむかもしれない。憎悪するかもしれない。あるいは、あまりにも、あっさりと受け入れるかもしれない。

「おい、セト、これいいんじゃねえか?」
「ああ」

 それをバクラが知る日が、少しでも遠いといい。
 なぜか、少年はそう思った。



 設定を一気に詰め込みすぎたと反省。
 でも、書きたいことが多すぎてついつい……!!
 バクラは、セトに何を望んでいたのか、そして、セトとバクラはなんだったのか。
 そんなことを考えながら過去編は書いてます。
 できるだけ、長引かせないようにしたいとは思っています!! できれば、5話くらいで決着がつけられるように……。
 ちなみに、セトは正義の味方ですが、しかたないこと、どうしようもないことを受け入れていて、多少の柔軟性があります。
 そして、セト母は、勝手に捏造しましたが、原作ではテラ美人でしたね。あれでこんな性格だったら、私だけが萌えます。
 たぶん、仮にも王に仕える神官だったアクナディンですから、結婚するなら貴族かなっと思って貴族にしました。でも、この人おっとりしているようで狡猾です。色々と。

 しかし、セトとセト母だけが、バクラをただの子どもにしてあげていることは、確かかもしれません。



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