歩くたび、身を飾る宝石が音を立てた。
兵士と、腕と首に縄をかけられた盗賊は、歩く。
向かう先は王の寝所。
全ての視線が、今、盗賊に集まっていた。
広間で盗賊を見たはずの側近たちも、息を呑んだ。
あまりにも、印象が違いすぎた。
誰もが目を疑う中、盗賊は一人静かに静かに殺意を胸で膨らませる。
もうすぐだと、小さく笑んだ。
今まで、王を殺すためだけに生きてきた。
それが、もうすぐ叶う。
盗賊を突き動かすものは復讐だった。
遠い過去に、奪われたもの。殺されていったもの。その全てへの復讐。
本当は、この場にいる全員を殺してしまったが、盗賊は自分の限界を知っている。
だから、王にした。
狂おしく愛しい恋人を求めるような視線で、盗賊は王の扉の前に立つ。
その向こうに、殺すべき存在が居る。
鼓動が早まった。微かに震える指を押さえ、扉を開く。
甘い香の匂いが鼻腔をくすぐった。
暗い部屋の中、寝台に王は座って盗賊を見ている。
じっと、広間にたときと同じように。
「化けたな」
ただ、一つだけ微妙に違っていたのは、王の声に少しつまらなそうな色が含まれていたことだ。
「あんたのためにな」
「そうか」
近づく盗賊を見据え、王は動かない。
そして、すぐ目の前にたった盗賊を見上げ、呟いた。
「やっぱり」
盗賊の指が、王の顔に伸びた。
「似合わないな」
「そうか? 女官たちは大絶賛だったぜ。あんたの側近も」
「前の服の方がいい、返させる」
「そりゃ、助かるぜ」
王の手が、目の前の盗賊の腰を引き寄せる。
ゆるやかだが、力強い動き。盗賊は抵抗することなくその膝に乗った。
王は胸元の紐を口で外すと、盗賊と目を合わせる。
「抵抗は?」
「やめた。どうせ捕まった身だ、好きにしろよ王様」
しなだれかかり、胸を押し付ける。
そっと、その首に腕を絡ませ、見上げた。
王はその瞼に口付け、笑う。
大胆なスリットに手をいれ、撫でれば盗賊の体はびくりと反応した。
そのまま、唇を重ね舌を絡めあう。
最初はおずおずと躊躇っているようだったが、王の舌に合わせ少しづつ大胆になっていく。
「ん……ふ……っ」
息も忘れるような口付けに、盗賊の瞳が潤み、声が漏れる。
その間も、王と盗賊は目を閉じず、見詰め合う。
どちらともなく唇が離され、王は盗賊の唇を軽く噛む。
「それで?」
王は、今度は耳に口付けながら聞いた。
「それで、お前はどうやって俺を殺す?」
目を見開く。
「それだけ、殺意を撒き散らしておいて諦めたなんてありえないぜ」
するりと背中を撫でればぞくぞくと言い知れぬ感覚が走る。
ぱさりと上着を脱がされ、胸に触れられた。
手つきは、ゆっくりだったが、王が触るごとに、不思議な痺れが盗賊の体に走る。
「いくらなんでも、刃物は隠せない……ということは、絞殺だろうな……」
「別に、俺様は……」
胸を持ち上げるようにもみながら、王は髪をほどく。しゃらんっと紐を放り投げ、髪を撫で付けるように弄ぶ。
初めての感覚に戸惑う盗賊をゆっくりと寝台に押し倒した。
「いきなり首を絞めるなんてしないだろうから……終って俺が安心して寝た後が狙いか?」
腰布の紐をほどき、鎖骨へ唇を落とす。
すべすべと内ももを撫でながら柔らかく胸を揉み、舌を這わせた。
甘いというよりは、少し怯えたような声が盗賊の口から漏れた。
咄嗟に塞ぐが、感覚は逃せない。
巧みな舌使いで王は盗賊の熱をあげていく。
足を撫でていた手が、その下へと降り、そこをなぞった。
「!」
激しい反応。
それに対し、王は少し真剣な顔をした。
訳のわからない盗賊が見上げると、王は考えるように口を開く。
「もしかして、初めてか?」
「………」
「どうも、反応が初々しいというか、指つきもたどたどしいから、まさかと思ったが……」
嬉しそうに、嬉しそうに唇が歪む。
「そうか、初めてか」
ぎっと盗賊は王を睨んだ。
悪いかと言いたげな視線に、王は益々楽しそうに笑った。
「大丈夫だ、優しく、ゆっくりするぜ」
まだ他人に一度も触られたことのないそこに指を這わされ、盗賊は身を縮める。
知識はあったが、経験のない盗賊は、身を縮めた。
それをほぐすように王は胸に舌を這わせ、腰や腹の部分を何度も撫でる。
もぞもぞとくすぐったいのか身を捩りながら、追い詰められていく。はあっと、吐いた息が熱く頬を火照らせた。
すると、王はどこから出したのか、小さな小瓶の蓋を開け、中身を盗賊の腹に落とす。
「ひっ!」
「香油だ、安心しろ」
冷たさに震えた盗賊に、大丈夫だと王は香油を指で伸ばした。
ぬるぬるとした感触に盗賊は思わず逃げる。
だが、王はそれを許さず追いかけた。
もどかしい感覚が腹部からせり上がり、脳へと届く。それだけで、盗賊はなにがなんだかわからなくなっていった。
それを快感というには、あまりにも盗賊は経験不足だった。
ぬるぬるとした王の指が再びそこをなぞり、濡らしていく。
「あ、」
滑りのよい指は、盗賊を翻弄した。
まだ指を一本もいれられていないというのに、香油以外の液体がそこから溢れ混ざっていく。
思わず、盗賊は王の体を腕でつっぱね、離れようとした。
「う、ぁ、へ、ん……」
くちゅくちゅとあからさまな水音が盗賊の耳に飛び込む。
思わず耳を塞ぐが、そうすれば口を塞ぐことができず、口からは高い声が断続的に漏れた。
その間に、王は何度も盗賊の顔に口付け、その目を両断するような傷痕を舐めあげる。
そして、その入口に指を一本、入れてみる。
「ひゃ!」
異物感に中が収縮し、引きつったように震えた。
「い、いた……」
「かなり、きついな……」
少し困ったように呟きながら、王は指を動かす。たった一本でこれならば、もしかしたら自分は無理か。そんな風に考えながらも締め付けてくる中に指が馴染むように最初は小さく、ゆっくりと。
盗賊は未知の感覚に不安を隠せないものの、吐息は熱い。
香油と最初に少し濡らしておいたせいか、痛みはいれた瞬間だけだったらしく、擦れた甘い声がすぐに聞こえてきた。
円を描くように指を回し、唇をもう一度重ねた。
今度は、思考を奪うように激しいものだった。
その間に、2本目の指が入り、中を広げていく。
これほどまでに手をかけたのは初めてだなっと王は心の中で呟いた。
今まで相手にしてきた女たちはすぐに足を広げ、王を求めた。それなりの準備も寝台に入った時点で終っていたし、王の生来の才能というべきかその技術によってすぐに陥落させている。
だが、目の前の相手は違った。王に今回は諦めるべきかと思いつつ更に唇を貪った。さすがの息苦しさに盗賊は王の胸を叩いたが、酸欠のせいでうまく力が入らない。
2本目が馴染みだした頃唇を離せば、息も絶え絶えに窒息死させる気か小さく怒られ、王は苦笑。
「どうせ、殺すなら腹上死もいいな」
っと、からかうように呟く。
今、殺してやると首に手をかけられたが、やはり力はなかった。
中で指を強く突き上げてやるとその腕すらも崩れ、睨む目はどこか誘っているように見える。
そのまま、激しく指を出し入れし、内部を強く突き上げた。
跳ねる体にたまのような汗が浮き、流れていく。
やむことのない高い声は甘いというよりも悲鳴に近い。
腹を撫でただけで強く締め付け、目尻にしがみついていた涙は頬を伝う。
「あ! がっ! いうううう!! へっへん、やめっ!!」
「イきそうか?」
「し、るかあああぁぁ!」
王の体に縋り、その背にそう長くない爪を立てる。
布越しに王の背は傷つかなかったが、それなりの痛みは伝わった。
「なら、一度イっておくべきだ」
にやりと笑うと、王は首を愛撫し、快楽を促す。
初めての強烈な快楽は苦痛にすらつながり、盗賊を蝕む。
白くなる視界、遠くなるのに鋭敏になっていく感覚、自分の体がいじられる水音、香と性が入り混じった匂い。
そして、一点に到達したとき、盗賊は声もなく叫んだ。
内部はしめつけられ、とめどなく液体が溢れる。
何度も電気を流されたかのように痙攣しながら、口を閉じることもできず息を吐き出した。
ぐるぐると血液が逆流し、思考は千切られかき混ぜられる。体中から力が抜け、目を閉じる。
そして、同時に、盗賊は
「……もしかして」
王は、ひどく、ひどく困った顔をした。
「気絶、したのか?」
返事は無かった。
指を抜くと、びくんと反応したが、それ以上は無い。
少し揺さぶっても、声をかけても起きる様子はなく、思わず、王は呆然と見下ろすことしかできなかった。
「……………寝る、か……」
なんだか、どうでもよくなってしまった王はシーツを盗賊にかけ、その隣に寝転んだ。
そっと、盗賊の頭を抱き、身を寄せると奇妙な満足感が溢れる。
頬に口付け、笑う。
もしかしたら、起きたらこの盗賊に首を絞められているかもしれない。
それも、おもしろい。
まだ、時間はあると髪を撫でながら、目を閉じた。
盗賊の低い体温を感じ、王は眠りに落ちていく。
ふと、その途中、忘れていたことに気が付いた。
「名前、聞いてなかったな……」
それと、愛の言葉。
最低王vs寸止め生殺し。
どっちがひどいでしょう。
王バクのエロい人の名にかけて、エロまで書かないとと思い、エロまで書きました。
とりあえず、初心者に王様はレベルが高すぎたと思ってください……。しかし、ノーマルエロはいつものエロより恥ずかしいです。
同じ女というだけで妙に恥ずかしい、ので、描写が控えめです(十分だ)
これより、王と盗賊の愛の攻防戦が色々始まるわけです。
次は食われますね、確実。
ちなみに、王様がつまらなそうだったのでは、あんまりにもバクラが静かだったから。
もっと、広間で見たときのような苛烈で獣のような荒々しさと、自分に反抗する態度を期待していたからです。