王は微笑を持って告げた。


「一目惚れだ」


 誰もが、困った。
 否、王以外の人間が困った。
 なんと言っても、前代未聞。
 命を狙った相手にいきなりキスをし、しかも王妃になれと告げるなど、長いエジプトの歴史にも存在しない。
 今まで、王を型破りだ、型破りだと思っていた側近たちは、頭を抱えてその認識を改めた。
 型破りなど、まだぬるい。
 王は型を粉々に壊して砕いて粉にしてしまったのだ。
 とりあえず、捕らえた盗賊は縛って牢屋ではなく、空いていた部屋に放り込み、王はなにをするかわからないので厳格な神官を二人つけて見張っている。
 側近たちは集まり、会議を開いた。
 会議は、三日三晩不眠不休、食事もろくにとらず続けられた。
 あらゆる強攻策、妥協策、奇策、最後の方になるとあまりの眠気と疲労によくわからない妄想を口走るものもいたが、会議の終わりは、最も高位な側近の決定によって終わりを告げる。
 
「とりあえず、その場しのぎに側室にしよう」

 ただの延命策にしかすぎないが、どうしようもない。
 王が気に入ってるからには簡単に処刑はできず、かといって放逐や、ましてや王妃などもってのほか。
 ならば、王にはとりあえず、盗賊を与える形で、飼い殺す。
 勿論、盗賊の意思など一切ない。
 その決定が下ったとき、盗賊はなんで自分が処刑されないか不思議がっていた。
 王の命を狙っておいて、とりあえず、食事や排泄の世話もされ、縛られて見張られていなければ快適ともいえる空間におかれる理由がわからない。
 天国から地獄へと叩き落すつもりかと最初はいぶかしんだが、3日目となると困惑だけが先に立つ。
 そんな盗賊の前に現れたのは、数人の女官だった。
 リーダーらしき貫禄のある女官は、じっと縛られたままの盗賊を嘗め回すように見、そして、笑った。

「つれていきなさい」
「はい!!」
「うおおお!? なっなんだ!!」

 縛られたままの盗賊は、状況もわからないまま女官に担がれると運ばれる。
 処刑かなにかにしても女官というのがおかしい。
 暴れるが、縛られていてうまく動けない上に、女官たちは思ったよりも怪力だった。
 押さえつけられた盗賊は、ある部屋につれていかれると、縄を解かれた。そして、同時に神業とも言えるほどの速さで服を全て奪い取られ、裸体を晒す。
 それ自体はまったく恥ずかしいものではなかったが、リーダーらしき女官はしっかりと盗賊を押さえつけると、体中を開いたり、触ったり見たりし始めたのだ。
 手からはみ出すほどの豊満な胸を痛いほど強く揉まれた。すらりと標準より長く伸びた足を扉のように大雑把に開かれた。肌や髪を無遠慮に撫で回され、絞め殺すのかという勢いでウェストを締め付けられる。
 何の拷問だと叫んだが、無視された。

「女官長!! 肌がガサガサです!!」
「髪もぼさぼさでぱさぱさです!!」
「こんなにいい体してるのに勿体ない!!」
「元はいいのに、これじゃあ台無しです!!」

 女官たちが口々に悲劇を語るように叫ぶ。
 余計な世話だと反抗する盗賊に、女官長と呼ばれた女は、強く、深々とうなづいた。

「最高の手入れをしてやりなさい」
『はい!!』

 盗賊は恐怖を感じた。
 一斉にこちらを見る女官たちの顔がぎらぎらと光り、嬉々とした表情で自分をどうしようか考えているのだ。
 そして、今まで生きてきて、盗賊は初めて甲高い女性の悲鳴をあげた。
 女官たちは、言葉通り最高の手入れを盗賊に施した。あまりにも凄まじいその光景はまさに筆舌に尽くしがたい。
 ただ、言えるのは、終った後、盗賊はただの乙女のようにはらはら泣いたということだ。

「うっ、くっ……こぇぇ、ここは地獄か……新手の拷問か……あいつら、マジで人間なのか……」
「あら、これで終わりだと思ったの?」

 しかし、まだ盗賊の悪夢は終っていなかった。
 その場に寝かされると、まるで料理のようにたっぷりと香油を塗りこまれた。もしかしたら、自分の行く先は会食のテーブルに並べられた皿の上ではないかと確信したほどだ。
 今で言う、注文の多い料理店な気分だが、この時代のエジプトにそんな話はないので、盗賊は知るよしはない。 
 そして、解放された先に渡されたのは、服だった。
 ただし、やはりただの服ではない。
 光に当てれば反対側が透けるほど薄く胸部分しか隠さない、と言っても透けているのだからそれすらも隠さない上着と、足首まであるものの、腰まで豪快にスリットの入った腰布、その下につけるのだろう下着のような役割を持つソレは、布ではなく、一言で言えば紐だった。
 それらは本物の宝石で飾られ、シンプルさを補っている。
 肌触りから、どちらも極上の一品で、売れば一年は庶民が遊んで暮らせるものだと盗賊の審美眼が告げた。
 ただ、盗賊の不幸はそれを売る方ではなく、着る方だということだ。
 恐らく、現代の人間が着るとなると裸よりも恥ずかしいと思うだろうが、これくらいの露出は当たり前だが、盗賊の懸念は違う。
 盗賊は、こういった女性の身にまとう衣装を嫌っているのだ。
 最初に着ていた服も全て男物である。
 うげえっと睨みつけ、着ようとしない盗賊を抑え付け、着せ始める。

「やっぱり、紐はほどけやすいようにしないと」
「こっちはもっとゆったりして……」
「もう少し胸元に香油を塗って」
「脱がせやすいようにね」
「ちょっと待て!! ほどくとか、脱がすとか……どういう意味だ……!」

 今まで、怖くて聞けなかったことを盗賊は口にする。
 実は、この状況までもってこられれば、薄々というよりはかなり濃く疑いというよりは確信になっているのだが、認めたくない。

「王の寝所に侍るためよ」

 盗賊は、舌を噛みたくなってきた。
 言葉も、涙も出なかった。
 ただただ、目の前が真っ暗になっていく。
 この瞬間に世界が崩壊すればしあわせだと思ったほどだ。

「ちょ、ちょっと待て……俺様は……」
「王に選ばれたなんて光栄よ」
「羨ましいわ」

 てきぱきと今度は盗賊の髪を梳かし、高く結い上げられた。
 これまたじゃらじゃらと飾りのついた紐でまとめられる。
 呆然とする盗賊は、考えた。
 できるだけ、ポジティブに考えた。
 これは、チャンスではないかと。
 いくら相手が盗賊といえども、王の寝台にまで兵を配備するわけにはいかない。すなわち、無防備な王を殺すなら簡単なのではないかと。
 自分にそう言い聞かせ、盗賊は体から力を抜いた。
 ただ、思わず抜けてしまった殺意をみなぎらせる。

 王を、殺す。

 それだけを考えて、今まで生きてきたのだから。


「初めてだから、優しくしてもらうように言うのよ」


 がくりっと、肩から力が抜けるのを感じた。

「それにしても、この体とその顔で初めてなんて、珍しいわね」
「ほんとほんと、こう、男を食い物にしてそうなのに!」
「あら、男に抱かれてたらこれは維持できないわね。よくも悪くも抱かれると変わるもの」
「意外と純情なのかしら」
「王様が初めてなんて最高よ、国中の憧れの的だわ」
「噂ではすごく上手らしいわ、キスだけでもすごいって!」
「大丈夫、上目遣いでこう見てね、優しくしてって……」
「黙れ!!」

 涙が出そうになるのを抑え、叫ぶ。
(ちくしょう!! なんだこいつら!! なんだこいつら!! 処女でわりぃか!! すげえ必死に守ってきたんだぞ!!)
 歯噛みしながら盗賊は思い出したくもない過去に手を伸ばした。
 すうっと、心が冷えていく。
 女官たちの声も聞こえない。
 静かに、深く、深く堕ちる感覚。
 絶望と憎悪と殺意が互いに絡み合い、感覚を高めていく。

「ころす」

 小さく、小さく口の中で呟いた。
 騒いでいる女官たちは自分たちの声のせいでまったく聞こえていない。
 目を細め、盗賊は背筋を伸ばした。
 それだけで、空気が変わる。
 ぴんっと、女官たちが口を止め、盗賊を見た。
 そして、美しいと素直に感動した。
 そこに立っているのは、先ほどまで玩具にしていた盗賊ではない。
 たった一匹で立つ、気高き孤高の獣。鮮烈なまでに美しく、しなやかでありながら荒々しい。その身を飾る全ては、彼女の引き立て役でしかなく、その強さは、今にも折れそうな儚さと悲しさを纏い凛っと涼やかだ。

「………」

 女官長は感嘆の溜息を吐く。
 自分が磨いた盗賊が、どれだけの原石だったか、今まさに思い知らされた瞬間だった。



 この話を嬉々として書く歪んだ萌を持つ管理人です。
 弄り回される盗賊王萌え!!

 で、女盗賊王はすげえ美人だと思うのですが。
 だって、アニメでも原作でも、盗賊王はかわいくてかっこよくてバリバリ美形ですよ!!
 それが女性になったらどうなることか……!!
 とりあえず、管理人のボキャブラリー不足でなんだか安っぽいです……。
 まあ、すごい美人だと思ってください!!(思い込んで!)
 服装は趣味+とある漫画を参考に。
 胸をばんばん出してて、すげえミニスカで下着抜きでもよかったんですが、きわどいけど、着てるって服が好きなので。
 エロ親父か!!



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