※捏造セト母&セトの先生が微妙にでてきます。















































 朝起きたら、バカが横で素っ裸で寝ていた。
 目が合ったら満面の笑みで

「責任取れよ」

 っと言ってきたので、シーツをやって蹴りだしておいた。
 窓の外を見れば不吉な曇天。
 なにか起こらない方がおかしいだろう。
 シーツを体に巻いて柱の陰にバカが走っていく。

「おば様作戦失敗だぜ」
「いいえ、まだ大丈夫よ! 私がついてるから!!
 セト!! セト! ちょっとこっちきなさい!!」 



 ……身内もアレだった。



 母親と彼女を正座させた少年は昨日の残りのスープを火にかけ、かまどのパンを覗き込む。まだ焼けていないのでスープをかき混ぜながら、後ろでものすごくくだらないことを密談する声を聞いた。
 一応、彼女は隠す気はあるようだが、母親の声が大きすぎて小声で話す意味がない。

「だからね、私があの人に迫ったときのスケスケの服を着て……」
「おば様、俺様それはすごく嫌なんですけど……」
「じゃあ、こうしましょう……」
「………いや、それは……」

 少年は聞くのすらうんざりしてきたのでスープに集中することにした。
 3人分にしては少ないかもしれないと思いながら、なぜ彼女の分まで考えなければいけないのかと最近頻繁に起こる頭痛を覚える。 
 いや、そもそもどうしてここに彼女が朝からいて母親と話し合っているか。
 あの日、そう、少年が彼女を助けた日

『貴様の敵になったとしても、俺は神官になる』

 少年は言った。
 いや、誓ったと言ってもいい。
 それはほとんど彼女にとって絶縁を意味する言葉でもあったというのに。
 彼女はそこにいる。しかも、別に朝だけではなく、この頃頻繁に朝も昼も夜も、つまり一日中いるのだ。
 頭痛がひどくなるのを少年は感じる。

『邪魔してやる』

 そう、同じ日に彼女が言った言葉。
 これもまた、少年の言葉と同じように誓いと言ってもいいだろう。
 まさしく、その通り彼女は邪魔をしているのだ。
 初めは、物凄く地味な邪魔だった。いつ作ったのか入口に落とし穴やでかけると不意打ちで水をかける、勉強できないようにひっついて駄々をこねるなどとどこの子どもの悪戯だと苦笑するくらいの余裕はあった。
 しかし、短いとはいえ、それなりに付き合いがあった少年は侮ってはいけなかったと後悔するはめに陥る。いや、恐らく彼女のことだ、最初にそうした幼稚なことをすることで油断を誘ったのだろう。
 借りた本がずたずたにされていたり、服を全部盗まれていたり、母親と結託して外に出さないようにするなどまだかわいい。叱ったらもうやらないといわせることもできた。
 しかし、彼女にとってそれは「じゃあ、自分とバレなければいい」という複雑怪奇な思考へと走らせることになる。
 今にも死にそうな子どもや老人が道の真ん中で倒れていたり、変な刺客が足止めしてきたり、牛の群れが暴走したり、母親がわざと人質になって大騒ぎを起したりとスケールはどんどん巨大になっていった。特に、母親がわざと人質になった件は町中を巻き込んで少年にとって思い出したくも無い事態にまで発展したのだが、ここでは割愛しよう。
 この作戦の恐ろしいところは、彼女しかやる者はいないとはいえ、「違う」っと主張されるとなんの証拠もないことと、少年が絶対に無視できないところだ。
 一見、あまりにも大味で、無意味に被害を拡大し、混乱を撒き散らしているだけのように思えるが、これがまた少年には見逃せない。なぜなら、少年はあまりにも正しかったのだ。正しく、強い。ただそれだけが少年の足枷となる。
 そこに助けを求めるものがいれば助けずにはいられない少年は勿論、勉強をする暇もなく走り回るのは少年を知るものであれはわかりきったことだった。
 一切自分の手を汚さず、周囲を巻き込むことで確実に正義感の強い少年を足止めをした。いっそ見事とも言いたくなる手際である。
 もっとそれを他のことに使えと少年は叫びたくなったが無駄なのでやめた。
 それでも、さすがに母親がわざと人質になった件に反省したのだろう、少し大人しくなり、日々少年の勉強を邪魔する為に家に通うというよりも半分住み突き出している。
 けれど、油断はできない。いつ、何時彼女は突飛な行動に出るかわからないのだ。
 思わずこめかみを抑える少年は背後の密談とも言えない密談が止まっていることに気づいた。
 少年は振り返って背後を見る。いつの間にか彼女はいなくなっていた。
 どこにいったかはわからないが、どうにも朝ごはんはいらないらしい。

「バクラは?」
「バクラちゃんは、なんだか「やっぱり自分に合わないことはできない」とか言って行っちゃった……」
「ああ、ついにやっと諦めましたか」
「私としては、セトがバクラちゃんにメロメロになってくれればいいと思ったのに……。ねえ、バクラちゃんまた遊びにきてくれるかしら」
「知りません。アレは自由な気性ですから」
「ねーねー、神官になんてなるのやめてバクラちゃんお嫁にもらってー、私、バクラちゃんほしいー」

 年よりも幼すぎる仕草に少年はげんなりする。
 生まれたときから一緒にいるというのに、いつまでたっても少年は母親の性格を理解できそうにない。

「それに、神官は大変よ? ね、セトなら別の道もあるわ」

 それは、珍しい否定の言葉。
 どちらかというと肯定することの多い母親が漏らした言葉に、スープを火から遠ざけながら少年は振りかえった。

「貴方が決めたなら、決して曲げることはないってわかってるわ。だって貴方はあの人の子どもだから。けど、お母さんは反対よ。
 あの人の子どもだからこそ、セト、貴方はきっといい神官になるでしょうね。でも、きっといい神官になりすぎる。
 私の育て方も悪かったけれど、貴方はあまりにも前しか見ず、正しく、無欲に育ちすぎた。いつか、貴方は前を見続けるためにたくさんの物を容赦なく切り捨てて、そぎ落とすことになるわ。そして、それを振り返ったりしない。上に立つものにとってそれは理想よ。でも、でも……」

 そこで、母親は言葉を切った。
 言い過ぎたとでも言うように俯く。
 少年は母親の言葉を胸の中で繰り返して黙り込んだ。
 多少の反論もあった。けれど、それを口にする気になれない。
 
「それでね、セト」

 母親は、顔をあげ、滅多にないほど真剣な顔をした。
 さっきの今では、うまく母親の目が見れず少年は耳を傾ける。
 こういうときの母親の言葉はいつだって聞き逃してはいけない気がしたからだ。


「足、痺れたんだけど……」


 少年は、無言でパンが焼けたか確認することにした。

「セト! セト! 本当に痺れたの!! もう正座しなくてもいいでしょ!! ね! ね!」



 その日、町は静かだった。
 別に誰もいなくなったわけではなく、いつも通りの活気があり、いつもどおりのざわめきもある。
 ただ、なにもなかった。
 当たり前ながら老人も子どもも倒れていない。罠もなけれど、謎の集団が絡んでくることも馬が突然暴れだすこともない。
 あまりにも、なにもない。
 それが胸騒ぎとなって少年を襲った。
 胸騒ぎのままに足を進め少年が師事する学者の下へと急ぐ。
 この胸騒ぎが気のせいであれと扉に手をかけた瞬間、中から暴れるような音が響いた。

「きっ貴様なにものじゃ!! ぐお!! なっなにをする!!
 強盗か!? ここには盗るようなものは、うわあ!!」

 がたんどさっと何かが落ちる音。
 悲鳴に近い声が聞こえる中、少年は慌てて扉を開けた。
 声の遠さから恐らく奥まった部屋にいるのだろうと判断し、とにかく叫んだ。

「先生!!」
「セト!? 賊じゃ!! しかも相当の!! 逃げて人を呼べ!!」
「先生を置いてなどいけません!!」

 走り、いつも学者のいる部屋の扉を半分蹴り破るように飛び込んだ。
 そこには、刃物を構える学者がいる。
 ただし、学者だけではなかった。
 ロープを片手に、窓から逃げようとする彼女の姿。まさに、決定的瞬間だった。言い訳のしようもないほど。
 ものすごく、気まずい表情で少年と彼女は目を合わせ、

「バ……」

 クラっと続く前に彼女は軽やかに窓から飛び出した。
 あまりの頭痛に少年は気絶したくなる。

「セト!! 賊じゃ、早く人を!!」
「………すみません、先生、頭痛でそれどころじゃありません……」
「なっなに!? 薬を煎じるぞ!!」
「いえ、いいです……」

 歯軋りをしながら少年は怒りを通りこすといっそ笑いがこみあげると知った。



 セトの邪魔をしまくるバクラが書きたかったので書きました!!(素直)
 しかし、色仕掛けまでたどり着けなかった……!!(泣)
 次は色仕掛けを>< 色仕掛けをするまでは終われねえ……!!(オイ)
 でっでも、後2話くらいで終らせます!! 終らせますよ!?(ほんとかよ……)
 書きたいことを全部詰め込んだら、ほんとにごちゃごちゃになります……。
 ああ、でも、セトを書くのは本当に楽しいです。がんばれセト。負けるなセト。
 ちなみに、バクラはちょっと縛ってどっかに放りだしてやろうと思っただけで、殺そうとは思ってませんでしたよ、たぶん(ぇ)
 まだ、本気でセトに嫌われるのは怖いのですよ。おそらく(ぇー)



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