血まみれの自分を見下ろした。
 その手には鋭く光る刃。
 少し視線を下にすれば、そこに王はあった。
 いるのではない、あった。

「っ」

 自分は、それを見て、思わず息を漏らす。
 それだけなのに、自分の呼吸音がうるさい。
 心臓がまるで何かで殴られているように痛かった。
 何度も呼吸を繰り返し、やっと落ち着いたとき、妙に馴染んだ鉄錆びのような匂いが鼻につく。
 ゆっくりと、立ち上がった。
 王との距離はたった数歩。
 ぺたりっとふわふわとじっとしていない地面を進む。
 転びそうになりながらも、腕を伸ばした。
 座り込み、王を、王だったソレを抱き上げる。
 未だ乾かない血が腕を汚す。
 けれど、笑った。
 自分は、まるで子どものように、頬を緩めて笑った。
 抱きしめ、笑う。
 頬をすり寄せ、愛しげに何度もその輪郭をなぞった。

「ああ、やっと」

 声が空気を震わせる。
 嬉しくて、嬉しくてたまらない、そんな感情がまったく隠せない声。
 ぞくぞくと背筋になにかが走った。

「やっと、手に入れた、王様」

 それは、狂わんばかりの喜び。
 頬を火照らせ、静かに、深く、狂っていた。
 ソレを――王の首を、その両腕を高く掲げる。
 そして、唇を合わせた。
 触れるだけのキス。

「やっと、王様を愛せる」

 首を抱きしめ、笑う姿。
 それは、ひどく狂った光景。
 けれど、どうしようもなく、どうしようもなく美しかった。
 一枚の絵のように狂っていながら神聖で、あまりにも完成されている。
 なにも、そこには介在できない。
 何一つ縛るものも、隔てるものも、入り込む余地もない。
 余分なものは、全て、排除されていた。

「安心して、王様を愛せる」

 もう一度口付け、そして、うっとりと目を細めた。 
 そんな自分を見下ろし、彼もまた、目を細める。
 羨ましそうに、切なげに。
 その隣で、少年は泣いた。
 その光景を見て、悲しげに、悲しげに涙を零す。


「これが、君の望み?」


 彼は、少年に視線を移し頷いた。
 何一つ嘘のない、偽りのない自然な頷き。
 そうでなければ、愛することができないとごく当たり前のように。 

「こんなの、ないよ」

 ぽろぽろと涙を拭わずに、その歪で幸せな光景を見守った。

「こんなの、幸せじゃない……」

 それでも、ただ二人の視線を、愛しげな視線を否定することだけはできなかった。



 一つの幸せの究極形態です。
 サイト名のわりにサロメ度が低い(なんだサロメ度って)ので、サロメ分(なんだダロメ分って)をいれてみました。
 盗賊王は、王様が死んでからじゃないと安心して王様を愛せません。色々な物に邪魔されて、隔たれて、縛られて、引きずられて本当に純粋に愛することができない。
 連載気味の盗賊王も、こうなることを望み、夢見て王様と勝負してます。
 サウンドノベルの鬱ENDみたいですね……。
 ちなみに、宿主は起きたら忘れてます。



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