※二心二体どころか、三心三体の現代パラレルです。
 王様、遊戯の他に、魔王様という鬼畜がいます。
 バクラと獏良が兄弟で、王様と魔王様が兄弟で、遊戯は王様たちの従兄弟です。
 バクラがただひたすら怯えて、虐げられてます。
 なんだか、オリジナル要素いれすぎてわけがわからなくなってます。
 妙にぐだぐだになりました……。
 自慰的な描写があります。
 以上大丈夫な方だけ、注意してどうぞ。

































 彼が覚えている最古の記憶は、落とし穴に蹴り落とされた記憶だ。
 背中に受けた衝撃も、痛みも、落ちていくときの絶望や衝撃、も克明に覚えている。
 忘れたくても忘れられないトラウマという単語を持ってして、彼に刻まれてしまった。
 それこそ、今でも悪夢に見るほどだ。何度も汗と涙で枕を濡らし、目覚めは最悪である。
 なぜ蹴り落とされたかの理由はごく理不尽なもの。

「落とし穴に、ひっかからなかったから」

 の一言に尽きる。
 しかし、それこそが全ての始まりであり、引き金。  
 別に、蹴り落とされたくらいでは、理不尽な理由くらいでは、そこまでいかない。
 子ども時代にはよくあることだ。無邪気に友達をうっかり傷つけてしまったことなどない人間の方が少ないだろう。
 そして、彼の心を傷つけたのは、蹴り落とした後。
 落ちて痛かったし、不快だったため、文句を言おうと穴の底から見上げた、相手。 
 相手は、笑っていた。
 無邪気な、幼い笑みではない。
 自分がなにをしたかわかっていない、考えなしのものでもない。
 そんなものからは、遠すぎた。
 自分がなにをしたのか、理解しきっていた。
 ひどく、ひどく幼さに不釣合いな凶悪で、邪悪で、悪意の込められた楽しげな笑顔。 
 恍惚、にも似た悦びに満ちている。
 獲物をいたぶる獣の表情。
 目覚めたとも、気づいたとも、言える。
 彼は、いたぶられる側を、自覚し、恐怖した。
 喉笛を食い破られる獲物のように、まな板の上でこれから切り刻まれる魚のように、屠殺されるのを知った家畜のように。 
 それからのことは、覚えていない。というよりも、思い出さないように封印されているのだ。
 さすがに、心は壊れることをよしとしていないようだ。人間の脳の中でとても素晴らしい機能である。
 悪夢でもそこを見るのだが、起きたら幸運なことに忘れている。ただ、嫌な感じと恐怖と、雨に濡れたかのような大量の汗だけは残っているのが欠点だが。
 だが、問題はある。
 ありすぎるほど。





 なぜなら、今も彼の心は切り刻まれ続けているのだから。





 ダンダーダダンー ダーダダンー ダーダダンー
 ダンーダーダダンー ダーダーダンー ダーダーダン

「ひっ」

 部屋に鳴り響くのは、部屋の主の悲鳴と恐らく、誰もが、一度は耳にしたことがある有名なメロディだった。
 そのメロディが流れる作品を知らないものもまた、少ないだろう。だが、そのメロディ自体は元の作品以外でもどこにでもいくらでも使われている。
 もしかしたら、日本という地域限定では作品よりも有名かもしれない。
 そんなことはおいておいて、部屋の主はシーツから短い悲鳴をあげてベッドから転がり落ちそうになった。
 だらだらと爽やかな朝から冷や汗で全身を濡らし、さあーっと、顔から血の気を失せさせる。
 どう見ても怯えているとしか形容の仕様のない表情で硬直し、その独特のメロディをしばらく響かせてた。
 妙に滑稽な雰囲気だが、なぜか笑えない緊張感が漂っていた。
 ダンダーダダンー ダーダダンー ダーダダンー
 ダンーダーダダンー ダーダーダンー ダーダーダン
 メロディは流れ続ける。

「う、」

 ぶるぶる震える。
 視界には、四角い携帯電話。
 目を離せない、怖い。
 すると、やっと緩慢な動きで、少年が動いた。
 握り締めていた手を、開く。びくびくと、まるで毒蛇でも掴んだかのように顔を引きつらせて携帯触れた。
 メロディは流れ続ける。
 しばらく、その携帯を見つめて少年は泣きそうだった。

「うううううう……」

 だが、とらなければメロディは鳴り止まないだろう。なぜだか、相手が諦めて切ってくれるような気がしなかった。
 本当に、本当に、この世の終わりのスイッチを押すような動作で、携帯をとる。
 どくどくと心臓がうるさい。 
 喉が渇いていた。
 彼がこの着信音を設定している人間は、一人しかいない。
 着信拒否できればいいのにっと、いつも思う。そんなことは許されないのだが。

『バクラ』

 耳元で声が響く。
 恐怖がずるっと、足を掴んだ。
 今すぐ携帯を耳から引き離したかった。そうじゃなければ、耳が腐って落ちてほしいとすら願う。

「う……」

 舌がもつれる。
 だが、相手は彼の言葉など待ってはいない。
 ただ一方的に喋り続ける。
 ただ、一方的に命令するだけ。

『――しろ』
「いっ、嫌に、きまってんだろ……」

 抗えないというのに、口は、必死に誇りを保とうと動く。
 しかし、震え、怯え、引きつった声は少しも力が無く、むしろ、弱弱しさを強調するだけだった。
 くすりっと、嘲笑らわれ、情けなくてたまらない。
 これならば黙っていた方がましだったというのに。

「っ……」

 膝を握り締め、それでも、最後は従わざるをえない。
 なぜなら、そう、それはトラウマだ。
 ここで逆らえば、もっとひどいことになる。
 落とし穴に落ちなかったとき、蹴り落とされたように、その後、起こったことのように、どんどんひどくなっていくのだ。
 それに、彼には弱みがある。無理矢理作られた、強制された弱味。

「すりゃあ、いいんだろ……!」
『ああ、もうすぐ行くから、待っていろ』

 当り散らすように叫び、返答を聞く前に電源ごと切る。
 その瞬間、ベッドに倒れこみ、震えと荒ぐ呼吸を抑えるために身を縮めた。
 我慢していた涙が零れる。
 自分の弱さをまざまさと実感させられ、逃げることも立ち向かうこともできず、ただ待ち続けることしかできなかった。








「バクラ、どうしたんだ?」
「バクラくん、どうしたの?」

 声をかけられ、はっと彼は顔をあげた。
 くらっと、眩暈。
 倒れそうになったところをなんとかふんばって、立つ。

「なにがだよ」
「さっきから、上の空だから、相棒が心配してたんだぜ!」
「先に心配したのは君でしょ?」
「別に、俺はいつもと違う気がするって言っただけだぜ……」
「それが心配って言うんだよ!」

 それでも、眩暈は止まらない。
 彼は、相槌を打つようなフリをしながらちっとも頭に入ってこない声に唇を噛んだ。
 顔をうつむかせ、表情を変えないようにつとめる。
 ぼんやりしていると、本気で心配したのか、声をかけてきた片方がうつむいた顔を覗き込んできた。

「バクラくん……本当に大丈夫?」
「別に……」

 平気だっと、声が引きつりそうになりながらぞんざいに切り捨てる。
 必死に意識を保つことに集中しようとするが、うまくいかない。
 いつものようにそっぽを向いて不機嫌なフリをすれば、もう片方が怒ったように目尻を吊り上げた。

「バクラ、相棒が心配してるのにその態度はないぜ!」
「うるせえんだよ」

 眉をしかめる彼に、ますますもう片方は怒ったように声を荒げた。

「バクラ……!!」
「もう、そんな風に言わないの!!」

 しかし、それはすぐに片方によって止められる。
 力関係がはっきりしているのか、しゅーんっと叱られた犬のようにもう片方はしょげた。

「だけど……」
「ほら、バクラ君本当に顔色悪いし、今日はもう帰った方がいいんじゃない?
 了くん呼ぶ?」
「いらねえ……」

 首を横に振った。
 まだもう片方はなにか言いたげだったが、言われてみれば彼の顔色が優れないことに気づいたのだろう、視線に心配の色が含まれている。
 正直、もう、視線を向けられることも声をかけられることも彼はしてほしくなかった。
 そうではないと、精神がもたない。
 歪んだ視界。
(はやく)
 頭の中で誰かを急かした。
 それは、彼の兄であり、彼の――。

「やっぱり、僕、了くん呼んでくるから動かないでね」

 片方が、決めたという顔で歩き始めた。

「おい……」
「相棒、俺も……」
「だめ、こんな状態のバクラくんを一人で残していけるわけないでしょ」
「う……」
「君がバクラくんを見ててあげて」
「別に、俺はいらねえって……」
「無理する人は、皆そう言うんだよ。ほら、座って」

 有無を言わせる声に、思わず言葉が詰まった。思わず促されるまま近くのベンチに座る。
 それを勝手に肯定ととった片方は、もう片方にしっかりと言いつけて歩き出す。
 気まずい時間の始まりだった。
 なぜなら、彼ともう片方は先ほどの会話を見ればわかるように、それほど仲がよくないのだ。
 会話がないのはいいが、ちらちら様子を見るような視線が、呼吸のしづらい沈黙がきつい。
 しばらく、うろうろ歩いていたもう片方は、少し考えて、隣に座った。

「バクラ」

 声をかけられて、視線を動かす。

「なんだよ」
「大丈夫か……?」
「へっ王様に心配されるほどじゃねえよ」

 嘘だった。
 つうっと、背中には嫌な汗が伝っている。
 強がりと縁起で誤魔化しているが、彼の心も体も、今はぐちゃぐちゃだった。
 まさに、ギリギリの極限状態。これ以上の刺激は、彼を崩す。
 それでも、耐える。
 耐えなければ、いけなかった。

「っ!!」

 びくっと、体が反応した。
 不意に、心配する手が彼の頬に触れたのだ。
 半分なにも考えられない状態の彼は気づくのが遅れ避けられなかった。
 他人の、感触。他人の、熱。近くにある、顔。
(違う、のに)
 予想外の強い震えに触れた方は驚いたように手を引っ込める。
 じわじわと、腰から熱がせりあがる。その熱を逃がそうと手に爪を食い込ませてみるが、うまくいかない。
 ならば、ただ耐えなければと息を大きく吸った。 
 恐らく、唇を噛んでいなければとんでもない声がでたことだろう。
 緩みそうな涙腺を必死に固め、荒い息を隠した。

「さわんな!」
「すっすまない……」

 あまりの剣幕と反応に、思わず謝ってしまった片方は、わけのわからない顔で彼を見ていた。
 彼は顔を隠す様にうつむく。

「んっ……」

 零れそうになる言葉を殺し、目を硬く閉じた。
(はやく、はやくはやくはやく)
 泣きそうになりながら、急かす。
 限界は近い。

「バクラ……?」

 心配を隠さない声。
 しかし、それすら鬱陶しくてならなかった。

「おい、おい、バクラ……顔色真っ青だぜ!
 きゅっ救急車呼ぶか!?」

 虚勢の仮面がはげていく。
 抑え切れない吐息が漏れ、涙が潤む。
 じくじくと、疼いてたまらない。
(熱い……)
 この熱から逃れられるならば、誰に縋ってもいいという思考すら過ぎった。
 そう、隣の、少年にすら。

「ぅ……」

 くらりくらりと意識を失いそうになる。
 手が、無意識に隣の少年の服の裾を掴んだ。

「どうした、バクラ……?」

 困惑した表情を浮かべる少年に、潤み、熱っぽい視線を向ける。
 白く、透けるように青い肌はいつの間にかほんのり赤く、潤んだ瞳は苦しげだった。ちろりと赤い舌が舐めた唇は湿り、荒い吐息はどこか甘さを含んでいるような錯覚を覚える。
 一言で言えば、少年は彼を、色っぽいと思ってしまった。
 いつもとは違う、知らない顔。

「バ……」
「おう、さまぁ……」

 はぁっと、吐息が耳につく。



「大丈夫か?」



 彼の動きが、止まった。
 先ほどまでとは違う、引きつった表情。
 それなのに、少年はひどく安堵した。今の表情はまだ、見知ったものだったからだ。
 上気した頬も、再び真っ青に戻っている。
 その声が耳に響いただけで、メドゥーサに睨まれたかのように、彼は動けない。

「ぁ……お……う、さま……」

 地獄から搾り出したような声で呟く。
 ぶるぶると、震えて、握っていた少年の裾がぱっと離された。
 少年は、視線を声の方向に向ける。

「久しぶりだな、アテム」

 そこには、少年が立っていた。
 いや、よく見るとあちこちが違う。まるで、漫画によく出てくる偽者のように、少しずつ違っていた。
 例えば、肌の色、少年の肌が褐色だというのに相手は白く、また、久しぶりだと言った声もどこか艶めいて大人びている。身長はさほど変わらないが、相手は少年よりも年上に見えた。
 そして、なによりも、まとう雰囲気が、匂いが違った。
 どう違うかと言われれば、やはり、子どもと大人の差のようなものに近いと言える。

「あ、」

 少年の顔が、輝いた。
 それは、喜びだ。
 恐怖に落ち込んだ彼とは、間逆。
 そして、彼と少年が、同時に本名とは違う相手の存在を表す単語を使う。

「魔王様……」
「兄上!!」

 声に呼応して、相手も笑う。
 そう、呼ばれたとおり、兄然とした笑顔と雰囲気で、少年を見ていた。

「元気だったか、アテム?
 そして、まあ、あまり元気そうじゃないな、バクラ」
「っ……」

 猫に睨まれたねずみのように、びくっと、彼は首をすくめる。
 振り返れない。振り返りたくない。
 小さく息を吐きながら、後ろの存在が幻であることを祈っている。
 でなければ、早く、早く、彼の兄と、行ってしまった片方の帰還を願った。

「大丈夫か?」

 再び、相手が問う。
 有無を言わせぬ響き。
 だからこそ、彼は答える。

「だ、だいじょうぶ……」

 すっと、自然に少年から距離をとり、やっと、振り向いた。
 相手の姿を瞳に写し、つばを飲み込む。

「久しぶりだな、バクラ」
「魔王様……久しぶり……死んでてくれりゃあ、よかったのによう」

 必死の憎まれ口は、一瞬で笑われる。
 本来ならばもう少し罵倒を投げかけたかったが、余裕が無い。

「兄上、いつから帰ってきたんだ!」
「ああ、さっきな。
 母さんたちには伝えてあったんだが、びっくりさせようと思ってな」

 相手は笑いながら、自分のカバンを指差す。
 それは、かなり大き目のスーツケースで、どこか国内という言葉が似合わない。
 そう、まとう雰囲気と、匂いに合う、国外の砂の多い国があっている。
 少年――アテムが興奮し、ベンチから立ち上がって兄のもとに行き、質問攻めにした。
 よっぽど嬉しいのか、相手と並んでいると幼く見えるというのに、ますます子どもじみている。
 さっきまで彼の心配をしていたことすら忘れているのだろう、携帯を取り出した。

「すぐに、相棒たちに連絡するぜ!!」
「ああ、一緒なのか?」
「ちょっと、今は獏良くんの迎えに……」

 そう言って振り替えたところで、偶然やってきた二人が相手を目にして驚いている。

「遊戯、獏良くん、久しぶりだな」
「どっどうしているの!? いつ帰ってきたの!?」
「ああ、今さっきな」

 同じ質問を、同じように返す。
 一応、アテムとは違い、すぐさま彼の心配をしたが、やはり、意識はいきなり表れた相手に向いていた。
 片方――遊戯は、喜びを込めて、そして、彼の兄――獏良は、どこか困ったような色を込めて、見ている。

「ちょっと、頭が痛かっただけだ」

 っと、もう大丈夫をアピールするかのように立ち上がれば、遊戯は相手に話しかける。
 すると、ひどく違和感を生じることに、同じ顔が三人になって、彼は別の意味で眩暈を覚えた。
 雰囲気こそは違うが、ドッペルゲンガーのような三人が、一組は兄弟で、もう一人は従兄弟であると誰が見抜けるだろう。 
 彼は悪夢のような光景を睨んでいると、視線に気づいた相手が、笑う。
 ぞくっと、嫌な予感がした。
 いや、嫌なことはもう、起きている。だが、それ以上のなにかが、くるっと確信した。

「バクラ」

 心配そうに、獏良が彼を見る。
 彼は、無理矢理笑った。

「俺様は、大丈夫」
「それならいいけど……」

 しかし、一向に曇った表情は晴れない。
 少し遠慮するように声を小さくした獏良は、そっと、聞く。

「君、昔彼にいじめられてたでしょ?」

 ざあっと、血の気が引く。
 思い出したくもない記憶が再び、彼を捕まえる。
 小さい頃、いじめられていた。控えめな、事実。表向き、ちょっと乱暴な子が、気の弱い子にするような、ありふれたものであるはずの誰もがそう思っている昔話。
(けれど、それは、違う)
 叫びそうになったのを我慢し、ことさらどうでもよさそうに答えた。

「そんなの、ちっちぇえ頃の話だぜ。
 今はいくら魔王様だって、あんな、チビにいじめられるわけねーっつーの」

 心配しすぎだと笑えば、獏良も、「そうだよね」っと控えめに呟いた。

「当たり前だろ?」










 ごめんなさい、兄貴、嘘つきました。
 今も、俺様はバリバリ現在進行形で虐げられているのです。










 彼に魔王様と呼ばれる少年は、武藤アテムの兄であり遊戯の従兄弟である。
 年は、彼らより少し上であるせいか、大人びており、兄弟と従兄弟というと、先ず真っ先にアテムと遊戯が双子で、魔王様こそが従兄弟であると思われる場合が多い。
 現在は、国外で考古学の勉強をしているが、つい数年前までは日本で生まれ育ち、獏良たちとは幼馴染であった。
 肌の色こそ白だが、国外に今は住んでいるせいか、はたまた生まれながらの雰囲気か褐色の肌のアテムよりも砂の匂いが似合っている。

「おい、バクラ」

 そのあだ名の由来は、主に、性格が起因していた。
 王様と呼ばれているアテムは、尊大ながらも少し子どもっぽいのに対し、魔王様は、性格が悪かった。
 ひどく、悪かった。曲がって捩れて捻くれていた。
 他人が嫌がること、弱味を握ることが好きで、とにかく、虐げる隙があれば、無理矢理そこを抉る。真性のサディストなのだ。
 本人は別に好きというほどではないというのだが、あの笑顔は本物だと被害者の彼は断言している。
 しかも、外面がよいのがまたたちが悪い。
 小学生の時こそ、かなりひどかったが、中学生にあがってからは本性を隠すことを覚えたのか、一部の人間にとっては、そりゃ性格は悪いけど、悪いやつじゃない。そんな評判をもたれている。
 特に、弟であるアテムと、かわいがっている遊戯の前などでは良い兄の仮面を決して崩さなかった。
 だが、一転、一部の前では、本当に、鬼、悪魔、魔王様なのである。
 そして、付き合いの長いバクラは、弱味を握られている。どころではない、その魔王様の存在こそ、弱味なのだ。
 びくびく怯えながら、従わなければいけない。
 侵されたままの、心と、体で。

「指が止まってるぜ?」

 ぼろぼろと彼の瞳から涙が零れる。
 それは、悔しさであり、気持ち悪さであり、痛みだった。
 ぬるぬると濡れた指を、動かす。卑猥で耳障りな水音がその度に響き、吐き気を覚えた。
 しかし、手を止めることはできない。

「足も、閉じるな、開け」
 
 ぐっと、足に力を込める。

「ふっぐ……」

 声が漏れる。
 しっかり閉じていても、びくっと、指が一部に当ると開いてしまうのだ。
 ぎゅうっと、指が締め付けられる。
 その反動で、とある部分を無意識に引っ掻き、思わず指が抜けた。

「もう、おしまいか?」
「う、るせ……え……」
「ほら、もっと、ほぐしておかないと……痛いぜ?」

 彼は少し体を起して体勢を直すと、やけくそ気味に足をさっきより勢いよく開いた。
 にっと、笑われる。
 視線が足の間に突き刺さり、閉じたくなったが、それは許されていない。
 彼は指を再び、下肢に、自分の中心より少し下に這わせた。入口に指をあて、力をこめる。
 つぷっと、少し緩んだソコは、狭く、抵抗しながらも指をなんとか受け入れた。

「ふぁ……っひっぃ……」

 指をいれ、動かし、広げ、ほぐす。
 内壁が自分の指を嫌がり、押し出すように締め付けた。
 そのきつさに奥までうまく入らず、浅いところをかきまわすだけだったが、しだいに指が馴染み、少しづつ飲み込んでいく。
 嘔吐感を感じならが、泣きながら、それでもこれ以上の嫌悪感から逃れるために、和らげるために行為を続ける。
 なぜ、こんなことをしなければいけないのか、いっそ死んでしまいたくなりながらも、続ける。
 久しぶりに直接見た相手の顔。
 久しぶりに直接聞いた相手の声。
 笑みが、言葉が、態度が、心を傷つけ、トラウマを抉り出す。
 ずたずたになりながらも、決して、逆らえない。

「ほら、早くしないと弟たちとの約束の時間に遅れるぜ?」
「だ、れのせいだ……ぁ、変態……」
「さっさとしないお前のせいだろ?
 そんなに俺に久しぶりに見られながらするのがイイか? そんなにちまちまやってちゃ、ただ長引くだけだぜ、淫乱」

 かあっと、顔を赤くし、彼は睨みつける。
 ソコをいじる手に覆いかぶさってわかりづらいが、これほど気持ち悪いと拒絶感を持っているに関わらず、硬度を持って勃ちあがっていた。
 とろとろと溢れる透明な液体は、ほとんど調教の賜物である。
 怒りと意地で意識を繋ぎとめながら、ソコからずるりと指を抜いた。

「もういい、早くしやがれ……」

 覇気のない低い声に、相手は笑いながら、わざとらしく聞く。

「もういいのか?」
「約束に、遅れるだろうが」
「ああ、そうだな。俺も早く、弟たちに会いたかったところだ」
「だったら……俺様のとこなんざこず、とっとと王様たちのとこいきゃあいいだろ」
「真っ先に会いにきてやったことを感動してほしいな」
「誰がするか!! 二度と顔なんざ見たくなかったぜ!!」

 指が内部からなくなって、少しプライドを取り戻したのか、叫ぶ。
 まだ、中に違和感があるが、いくら心を折られても、抗わずにはいられない。
 例え、相手にとってそれがおもしろいと思っていると知っていても。

「そうつれないこと言うな。俺が毎週送ってやったメールは気に入らなかったか?」
「てめっ!! そうだ、あれ、消したんじゃねえのか!!」
「携帯からは約束どおり消してやったな。まあ、パソコンにいれてたんだが」
「ペテン野郎!!」

 くすくす笑いながら、ポケットから親指ほどの小さく丸い、物体を取り出す。
 つるりとして、光を反射するそれは、柔らかい色合いに反して硬そうではあった。
 そして、それを軽く彼に投げる。
 空中で受け止めた彼は、丸い物体を厭うような視線で見て躊躇っていたが、一つ息を吸うと、手についていたぬめりを塗りつけた。

「んっ……」

 そして、指をあてがったように、今度は丸い物体をソコにこすり付ける。
 硬く、少し冷たい感触。
 指とは違う硬質に、背筋に嫌な鳥肌が立った。
 だが、ここで止まれない。
 止まれば、もっと、ひどいことをされると骨の髄まで知っていたからだ。
 ぐっと、力をこめると、指を受け入れていたソコは、丸い物体も受け入れた。
 異なる痛み、嫌悪感、再度訪れる嘔吐に妙ながら、すっぽりと全部を入れ終える。

「けほっ!」

 息をつめていたせいか咳き込みながら、どうだといわんばかりの目で相手を見る。
 相手は、やはり笑みを崩さず、満足気に頷いた。
 
「しばらくやってなかったから、小さめにしたんだが……もう少し大きくてもよかったな」
「これ以上でかいのが入るか!!」
「どうせ、自分でやってたんだろ。なら大丈夫だ」
「やってねえよ!! 死ね!! 死ね!!」

 うまく口が回らず、子どもの喧嘩のように喚き散らす。
 なんとか叫べてはいるが、中にある異物に腹が冷え、背筋はひきつっていた。嫌な汗が、手のひらをぬらす。
 だが、これくらいならば、まだ隠せた。
 もっと、もっとひどいことなど、それこそ、相手が近くにいた頃は山のようにされたのだから。
 伊達に演技派を名乗ってはいない。

「じゃあ、バクラ、次ぎ会う時は、久しぶりだな」
「……おうよ、この悪趣味」








「で、バクラ」

 店内に流れるポップな音楽と、筐体から流れる音、そして話し声の響くゲームセンターは、隣の人間の声すら聞こえづらい。
 しかし、なぜだか彼の耳には、いつだって相手の声は嫌なほど響いた。
 なんとなく、Gのつく生き物が、見たくも無いのに見つけてしまうという現象に似ている。

「なんだよ……」

 目はあくまで、少し先で、新型の筐体を覗き込む3人に向いたまま、言葉を交わす。
 彼の兄たる少年が必死にボタンを操り、それを輝く目でみるのは、アテムと遊戯だ。
 そこから二人は少し距離をとっているというのに、3人は特に気にしない。
 昔から、そういう位置関係であることが多いからだ。

「アテムに、なにをしようとした」

 ぎくっと、彼の顔が強張る。
 後ろめたそうに視線をそらせば、いつの間にか相手の手が腰に伸びていた。
 ぎくっと振り払おうとするが、一瞬、服越しにつねられ、反射的に止まる。

「なにを、言おうとしていた」
「別に……」
「随分と、甘い声だったな」
「………てめえ、いつから見てやがった」

 じろりと睨みつけると、肩をすくめて誤魔化した。
 それよりもっと、言うように、腰から下へ手が降りる。

「まさか、アテムにしてもらおうと思ってはないよな」
「なにをだよ」

 噛み付くように言えば、下におりた手が、割れ目に触れる。
 びくっと、体が跳ねた。
 今度こそ払うと、一度は手を引っ込めながら、視線を彼に移す。

「俺にしてみせたように、足を開いておねだりをしようとしたんじゃないか?」
「するか……!」

 控えめだが、声を荒げる。
 一応は、ゲームに集中する3人には聞こえないものの、そのままトーンを落とす。

「俺様は、そんなことしない」
「俺には、お前は我慢の限界に見えたぜ」
「そっそれは、てめえがどっかでアレのスイッチいれやがるから……」
「気づいたらいつの間にか入ってたんだ」
「嘘付け!!」
「もしも、お前がアテムを誘ったら」

 冷ややかな美声で、相手は言う。
 彼に向けられるのは、まさに、魔王然とした笑顔。
 ぞくっと、恐怖した。
 この笑顔が、なにより怖い。他の、恐らく一切合切よりも、怖い。

「おもしろいことになるな。お前にも、アテムにも」

 予言のように、楽しげに。
 人を突き飛ばすように、言ってのける。
 彼は、逃げたくてたまらなかった。もう、何度も抱いた願い。決して叶うことのない、望み。
 例え、相手がどこに行こうと、自分がどこに居ようと、逃げられはしない。
 最初っから、追い詰められているのだから。

「まあ、でも、今日のところは……まだ、だな」
「今日のところは、じゃねえ、一生ねえよ」

 見透かすような瞳で、魔王は彼を見る。
 笑っている。
 いつものように、まったく、目の奥が、心の底が笑っていない笑顔で。
 手が、再びソコに触れる。
 ぐっと、中の存在を確認するように、指を押し付け、彼はそれに耐えた。
 なんとか意識をそらすことで忘れかけていた存在を、思い出す。

「今日は久しぶりだし……優しくしてやるぜ?」

 大嘘つきめ。
 彼は、視線で罵った。


 やっとかきあがった魔王様は、妙にぐだぐだになりました……。
 無理矢理バクラがやらされる、いれたまま、そして、放置プレイ☆羞恥プレイです。
 魔王様の鬼畜度が足りないと思いつつ、結構難産で書き上げました……。
 期待していた方、期待を裏切って申し訳ございません……。
 ちなみに、毎週のメールは、八メ撮り写真です(ぁー!)そして、バクラは色々調教されてます。
 あえて、魔王様とバクラの名前は出しませんでした。
 いつか出すとして、アクティ&終の予定です。
 まあ、続くかはわからないんですが。

魔王様・鬼畜白肌王様。
 無駄に美声(cv初代様)で、謎めいている。王様が比較的無邪気に見えるような、大人びた感じ(に書きたかった)
 けっこうブラコンで、イトコン。しかし、自分の楽しさのためなら、結構弟は色々利用したりする。
 仲良しグループよりは一人だけ年上で、現在は、エジプトで考古学を学んでいる。
 獏良パパの助手みたいなことしてるかもしれません。
 ただの趣味か、あるいは……悠久の彼方に眠る盗賊の亡骸を探しているのかもしれません、ロマンチックですね。
 ちなみに、別に前世の記憶はありません。
 なにか知っているような感じはしますが、何も知らない人です。
 バクラには、愛着はありますが、愛情はほぼ皆無の予定(あくまで予定です)



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