※とんでもない捏造をしています。
 殺伐・暴力表現があります。






















































 私は人形だということを知っています。
 私は駒だということを知りません。
 全て知っている私と。
 全て忘れている私。
 どちらが幸せなのでしょうか。

 ただ、一つ言えるのは、私は私を羨みます。

 どうせなら、私も何も知らずにいたかった。
 私の代用品でしかない人形だなんて、知りたくもなかった。










 眠たげな眼を開いた男は、闇の中、白く浮き上がる人形を見つけた。
 白い、目を閉じているせいで瞳の色まではなわからないが、肌も髪も白い人形だった。
 打ち捨てられたように四肢は投げ出され、転がっている。
 男の目に、その白は珍しく、とても美しく見えた。
 美しいものを好む男は立ち上がると、人形に近づく。
 数歩、それだけで人形の傍らにたどり着いた。
 手を、伸ばす。
 そこで、ぴたっと止まった。

 生きている。

 白い人形だと思っていたものは、人間だった。
 近くで見てやっとわかったが、微かに胸が上下し、肌の質感は人形とも死体とも違う微かな艶と柔らかさがあった。
 しかし、それでも見れば見るほど、顔の作りは整って、無気力な様は、人形じみている。
 男はしばらく人形に似た人間を見下ろしていたが、不意に手を伸ばした。
 本能のまま、触れてみたいと思ったのだ。
 遮られるものもなく、指先が、頬に触れた。
 柔らかい、ただ、少し冷たいと感じる。それでもかろうじで人の体温だった。あまり肉がついていないせいで、おもしろいほどの感触はない。

「?」

 急に、すっと、瞼が細く開いた。
 それを、男は不思議そうに、見ている。人間だとわかっていても、瞼が開くなどと、想像できなかった。
 けれど、瞳は開き、青い、空ともオアシスの色とも違う青が、現れる。
 宝石のように美しい青だった。
 瞬間的に、欲しいっと男は思った。同時に、手を伸ばす。
 白い、瞼の上に、褐色の指が覆いかぶさる。指が触れた瞬間、薄い唇を開いた。

「とうぞくおう」

 始め、男は自分が呼ばれたことがわからなかった。
 どころか、瞼が開いた時同様、唇が動き、声を出すことがあまりにも結びつかなかったからだ。
 指先が、瞼を撫でる。少し硬い球体が皮一枚下にある感触に、ゾクゾクと身震いを覚えた。
 人形のような相手は、眉をしかめる。
 たったそれだけの動作ですら、男は不思議でたまらなかった。

「盗賊王、やめろ」

 さっきよりも、はっきりした声音。
 男は、思わず指を遠ざけた。
 人形のような相手が、起き上がる。
 そこでやっと、男は相手が動くものだと認識した。
 青い瞳が不機嫌そうに開き、白い髪を振って、睨みつける。

「ったく……俺様ながら、現金なやつだぜ」

 呆れたような声。
 聞き分けのない子供を叱るような態度で見下ろしてくる男に言う。

「まだてめえが起きる時間じゃねえよ。まだ、準備は終わってない」
「準備……?」

 わけのわからない単語に男は疑問を抱く。
 それと同時に、なぜこんなにも見知らぬ相手に怒ったように言われなければいけないのだと腹がたった。
 襟首の一つでも絞めてやろうかと思ったが、なぜか体が動かない。

「今、表に出られても、宿主様になんか影響を与えるのも与えられるのも困るんだよ」

 言い聞かせるように、強く言う。
 むっとするが、やはり体は動かなかった。
 腕の片方でも動けば、見た目どおり気性の荒く乱暴な男は華奢な相手を殴り飛ばしていただろう。
 だが、先ほどの「やめろ」という言葉に忠実に従っているかのように指先も動かない。
 縛られているような感覚に、微かな不安と恐怖を覚えた。

「あんたの役目はまだ先だ」

 念入りに、それこそ、まるで怯えているようにも見えた。
 その微細な変化を感じ取った男は少し考えて、唯一動く口を動かす。

「てめえ誰だ」 
「は?」

 ぽかんっと、急に表情が間抜けに歪んだ。
 唖然。
 何を言っているんだと口にせず語っている。
 男は、それが不快で苛々とするのを感じた。相手が知っているのに、自分が知らないというのが気に入らない。

「俺様が、誰かわかんねえのか……?」

 失望にも、似た響き。
 わからねえよっと、吐き捨てると、にっと、唇がつりあがった。まるで薄皮一枚剥いだような変化。
 一転した、笑み。嘲笑うような、けれども、どこか泣きそうな。
 そう大きくないはずの口が、ぱくっと、開く。

「ひゃはははは!! おいおいおい、忘却は罪だな! 時間は残酷だ!! まあ、普通の人間じゃ耐えられない年月だからしゃーねえよな!!
 俺様が誰かわかんねーつーことはほとんどわからなくなってんだろ?」

 どこか滑稽な芝居じみた言い回し。
 大げさに悲劇をアピールする劇役者ように手を広げた。

「つーか、マジで反応しただけかよ!! 執着ってこええな!! ひゃはははは!!」

 男は、そんな相手を見ていた。
 なぜだか、静かに。先ほどまでの怒りはない。
 そうして、ただ少しだけ思うのだ。

「ああ、つまんねえ」

 さっきよりも、なぜだか人形じみていると。
 ぴたりと笑うのをやめて、無表情に、虚空を見やる。
 いつの間にか、距離が縮まっていた。
 男は自分が座り込んでいることに気づく。おかげで、相手の青い瞳がよく見えた。
 ずいっと、更に距離を縮めるように顔が近づく。
 白い肌だと思ったけれど、ちょっと黄色いなだとか、整ってはいるが、少し彫りが浅いと、男は関係ないことを考える。
 相手が誰かというよりは、男はその容姿が気になったようだ。なんとなく、中身について、興味がなくなったようにも見える。
 どこかで見たことあるような気がするが、思いだせない。

「どうせ、おいおい思い出すだろうよ」

 白い指が男の褐色の輪郭に触れる。
 すると、色の明暗により、白い指が存在を浮かび上がらせた。
 どくっと、心臓が震える。
 唇から、赤い舌が覗いた。色素の薄さからは想像できない血のような赤。
 湿った柔らかな感触が目の下、傷跡を辿る。
 じわりっと、疼いた。

「時間が忘れさせるけどよ。どうせ時がくれば全部わかるんだ」

 ははっと、口の中で笑う。
 乾いた虚しい笑い声。

「だから、それまで俺様の正体はおあずけな」

 指が男の唇をなぞり、間を置いて、お互いの唇が重なる。
 柔らかく、そして冷たい。
 目はお互い開けたままだった。相手の目に写った自分の瞳の色が同じことをそこで男は理解する。
 顔を洗おうとしたとき、ふと覗き込んだ水面を思い出した。ただ思い出しただけだったが。
 男の無防備な唇を割り、好き勝手に口内で暴れた。まさしく、ただ暴れている。
 相手を思いやることも、自分を思いやることもない、激しく粘膜を絡めているだけ。
 興奮も情愛もない行為だけがそこにある。
 唾液に似たなにかが、じんわりと、男の口に注がれた。
 味はない。でも、落ち着く感覚だった。
 瞼が重い。息をするのを忘れていたせいで、息苦しい。
 ごくりと喉が動くのを見届けた相手は、無理矢理男の舌を自分の口まで引きずると噛み付いた。
 血の味がして、顔を歪める。
 赤い舌を更に赤くして相手はどんっと、男の体を突き飛ばした。
 抵抗することも踏ん張ることもできない体はそのまま床のようなどこかに倒れこむ。
 不思議とどこをぶつけても痛くはなかった。 



「王様見つけただけじゃ、何も始まらないんだよ」
 


 そして、終わらない。
 ざわりっと、男の皮膚の下に巡る血がざわめいた。
 見つけただけじゃ、始まらない、終わらない。
 その引っかかる3つのキーワードではなく、たった一つの四音の言葉に全ての神経が集中する。
 研ぎ澄まされて、鋭く、敏感に。
 ぐらっと、慣れ親しんだ感情が、荒れ狂って煮えたぎる。
 男の瞳に宿る色に、相手は笑った。

「お、」

 夢遊病のように、唇が音を紡いだ。

「おうさま」

 何もわからなかった。
 何かを思い出したわけではなかった。
 相変わらず、相手が誰であるか男は知らないし、その王様が誰をさすかもわからなかった。
 ただ、その単語が、存在が、自分を蘇らせることだけはなによりも深く大きく刻み込まれていることだけは理解できた。
 怒りに似た、違うもの。
 あらゆる感情を越え、男は笑ってみせた。
 牙をむき出しにするような、好戦的で獰猛な笑み。

「その感情だけ、覚えとけ……って言っても、忘れられるわけねえか」

 白い手が男の首に触れた。喉仏を撫で、脈を確かめるように血管を上から撫でる。
 びくっと、いきなり急所に触れられ、男の身体が震えた。

「眠れ、盗賊王。時が来れば嫌でもなんでもわかる……嫌でも、な」

 細く華奢な、男の首にまわしても少し足りない指が首に絡んだ。
 どくどくと、血の通う鼓動が手の中で跳ねる。
 なにをされるのかは、それはたやすく予想できた。
 ゆるく抑えられていた手に力がこもる。ぐっと、首が絞まった。
 徐々に、細腕のどこから出ているかわからないほどの力が首に集中する。
 呼吸が止められ、みしみしと軋んだ。苦しいが、抵抗はできない。
 やはり、指一本動かせず、血の巡りを止められ、自分が死に行く過程をゆっくりと味合わされる。
 口から、音にすらならなかった空気が吐き出され、その吐き出す行為すら行えなくなった。
 あがく事もできない、絶望。
 視界が歪み、白から赤、赤から黒へと視界が切り替わる。
 生々しい死。
 されど、なぜか恐ろしくなかった。
 まるで、はじめてではないかのような、知った感覚。
 死に逝く苦しみは、なぜだか少しだけ甘美で、安らかだった。

 堕ちていく。

 完全に生命を失った男を見下ろして、相手は一息ついた。
 だらんっと、死んだ身体は呼吸もなく冷たい、まるで人形のようである。
 試しに、腕を掴んで持ち上げてみたが、だらんっと力なくゆれるだけだった。絞めている途中で折れてしまったのか、首が奇妙に捻じ曲がっている。
 はっと、笑った。

「人形なのは……俺様だけどな……」

 自嘲。
 深い、深い意味のこもった言葉を聞くものはいない。そして、誰にも聞かせるつもりはなかった。
 
「王様……もうすぐだぜ……」

 もうすぐ。
 そう、繰り返す。

「もうすぐ、全部の決着のつく、ゲームが始まるぜ」

 静かに言い終えると、目を細めた。
 もう一度、その顔に触れた。壊れ物を扱うような繊細な手つきで頬や、首を撫でる。
 すると、急に男の呼吸が戻り、捻じ曲がったはずの首も直っていた。最初っから、そうであったかのように。
 身震い一つで、男は体を丸めて、眠り続ける。
 赤子のように、何も知らず。

「もうすぐ、だからこそ……」

 男の白く柔らかそうなクセ毛に指を絡ませる。

「だからこそ、今はなにもかも忘れて、寝てろ」

 驚くほど、優しい声だった。
 今まで男に向けたどの表情よりも、生きた表情。
 切なげで、焦がれているようにも、焦っているように見えた。

「どうせ、忘れたって、なにも、変わりはしない。逃げられは、しない」
(でも、)



 羨望にも、似た視線。 



「どうせ、あんたは、俺様なんだから」
(それでも、羨ましい)

 だが、その視線もすぐに目を閉じることで遮られる。
 それと同時、体から力が抜け、崩れた。がくりと腕が折れ、投げ出された。
 寄り添うように白い体が男の隣に寝転ぶ。

「本当は、覚えていたくなんか、なかった。
 知って痛くも、なかった」

 瞼の裏に広がる地獄。
 絶望と、耳に木霊す呪詛の声。
 殺される家族。奪われる日常。
 壊され、狂う心。
 現れた闇。
 引き裂かれた――自分。

 盗賊王と、バクラ

 混ぜられた自分。
 そのまま、いつかの為に保存された自分。
 どちらにしろ、別れたまま、闇に操られる。

「………」

 白と黒の男と青年は、ただ、そうして時を待つ。
 過去から、現在まで、そうしていたように。
 恐らく、時がくるまで、これから未来までも同じように。









 そうして、もうじき誰もが真実を知る瞬間がやってくる。
 二つのものが、一つに戻る瞬間が。



 バクラと盗賊王を同じだけど違うものと扱って色々捏造しました……。
 盗賊王=古代の盗賊王。 闇バクラ=盗賊王から引き裂かれて、闇を混ぜられた存在。
 っとしています。
 盗賊王は、眠っている間に王様と同様色々忘れました。でも、古代編に使われる駒なので、何も覚えてなくてもいい。
 バクラは、全て知って、覚えています。
 わかりにくい上に、バク盗になりきれなかったという……しかも、殺伐風味。
 文才が、ありませんでした……素直にエロした方が、よかったかもしれません。



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